Science

2016.09.21

生きた細胞でプロトタイピング

Text by kanai

これはバイオハッキングに関する2回目の記事だ。最初の記事は「バイオハッカーの冒険」で読むことができる。また、今後の記事にも注目していただきたい。

バイオプリントは新しいプリント

Makerとバイオハッカーをつなぐ最大の橋は、強力な3Dプリンターだろう。プラスティックの代わりに生物素材を使って三次元構造体が作れたら、特殊なインク(バイオインク)や生きた細胞を使ってメッセージや模様が描けたら、どうだろうか。

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BioCuriousがバイオプリントを始めた

2014年にParis Biohackerspaceがスポンサーを務めたSafariで、私たちはBioCuriousと出会った。これは北アメリカでバイオハッカー・コミュ二ティを探せば、最初に見つかるところだ。ここがバイオハッカースペースを開設し、多くの人を集めてDIバイオプリンタープロジェクトを進めてきた。彼らの研究は2012年に始まり、その年に最初のミートアップを開いている。現在、Maria ChavezとともにプロジェクトリーダーとなっているPatrik D’haesellerは、彼らの研究について詳しく話してくれた。

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その当時、新しい人たちを集めて、今すぐにでも始められるコミュニティ向けのプロジェクトを探していた。彼らは、とくにバイオプリントに興味があったわけでも、そうしたプリンターに関する知識があったわけではない。だが、それは手の届く範囲の技術であり、多くの人が遊ぶことができるものに見えていた。それを開始するにあたって、生物学専用の研究所は必要なかった。これは誰にでも参加できるプロジェクトであり、3Dプリント、インクジェットプリント、3Dデザイン、電子工作、Arduino、細胞培養など、あらゆる分野からの参加が可能だった。誰もがそこで学び、そこで教えることができる。

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試行錯誤のプリント(または実験でうまくいかないことを表明する大切さ)

「普通の市販のプリンターが使えます。市販のカートリッジの一部を切り落としてインクを出し、別のものを入れるのです。こうすれば、それでプリントができます」とPatrickは説明してくれた。

こうしてBioCuriousが始まった。彼らは、生物学研究室でよく使われる「E. Coli(大腸菌)」と呼ばれるバクテリアを使用し、その遺伝子を改造して緑色の蛍光タンパク質を作り出した。それがインクとなった。プリンターの仕様のために、それは紙に印刷することしかできなかった。大きなコーヒーフィルターを使い、出来上がったプリントを寒天を張ったシャーレに入れて培養した。この技術には、不完全ではあったが、見込みがあった。紫外線を当てると「I ♥ BIOCURIOUS」というメッセージが浮かび上がった。

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しかし、市販のプリンターでは制約が多すぎた。「プリンタードライバーをリバースエンジニアリングしなければならず、給紙メカニズムを分解するなどしなければ目的が達成できませんでした」とPatrick。そこでBioCuriousは、バイオプリンターを一から作ることを決めた。この第二バージョンはInstructablesで見ることができる。

Hackteria collectiveとGaudiLabsのお陰で、私たちは2Dプラットフォームを作るためのCDドライバーからステッパーモーターを取り出すというアイデアを得た。市販のカートリッジには、プリンターヘッドとインターフェイスが付いていて、それがオープンソースのArduinoシールドと接続できた。これにより、わずか150ドルでDIYバイオプリンターが作れるようになった。

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次なるチャレンジは、現在も格闘中だが、インクの保存性だ。市販のインクカートリッジは、水に近いインクを使うようになっている。しかしバイオインクはもっと粘度が高い。DIYバイオプリンターのグループは、それとは異なる、プリントヘッドから少量の液体を押し出せる注射器型のポンプを開発した。

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そして3Dへ

今ある3Dプラットフォームからスタートするのが、2Dパターンから脱するための最良の方法とわかった。DIYグループは、まず既存の3Dプリンターにバイオプリント用ヘッドを組み込むことでバイオプリンターに改造しようと試みた。しかし、市販の3Dプリンターでは、困難なリバースエンジニアリングやソフトウェアの改造などを必要とした。そして数カ月後、このアイデアは頓挫した。

RepRapは、もっとも大きな3Dプリンターのオープンソースファミリーだが、もっとも有望で価格の手頃なキットを購入したときは、プラスチック用のエクストルーダーをニードルに交換するだけで済んだ。バイオプリントヘッドは、固定されている注射器ポンプと柔軟なチューブでつながれた。

「RepRapコミュニティは3Dプリント革命を可能にした団体です」とPatrick。

するとすぐに、3Dバイオプリントの周囲に、自宅やBioCurious、BUGSS、Hackteriaといったバイオハッカースペースにコミュニティが出来上がり、それぞれの研究結果を交換するようになった。

生命を扱う

バイオプリントの究極の目的は、移植用の臓器を3Dプリントすることだ(これについては次回の記事に書く)。人間は哺乳類の細胞は大変に複雑だ。研究室には誰かを常駐させて、細胞をできる限り無菌状態に保たなければならない。そのため、現在のグループによる長期プロジェクトは、植物の組織をプリントして光合成が可能であることを証明ことにある。人工の葉だ。

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植物の細胞に関しては、まだそれほど進んでいない。そのため、オープンサイエンスから多くの質問が湧き上がっている。どのようなタイプの細胞を使えばよいか、どう結合させたらよいか、三次元の葉の構造はどうなっているのか、などだ。Patrickによると、植物の細胞を使った3Dプリントの研究は、人工臓器の研究よりもDIYコミュニティ研究室に向いているという。

可能か否かに関わらず、ここでは何かを試して、どう成長するかを見ることが面白い。この研究は、一部の研究者にとって非常に大きな可能性のあるものだが、バイオハッカーの目標は研究の製品化だけではない。

「私たちにとってゴールは重要ではないのです。バイオプリントのスタートアップを興して製品を売って大金を儲けようというのではありません。緊急に葉の移植を必要としている植物はありません。私たちは、楽しいからこのプロジェクトに参加しているのです。毎週、なんらかの進展があります」とPatrickは話す。

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植物細胞の3Dバイオプリントがチャレンジを招く

最初のステップは、細胞が再懸濁するための素材を見つけ出すことです。基質物質は、細胞が成長して結合し合うようになるまで、その場に細胞を保持できる。BioCuriousでの最近の実験では、アルギン酸というゲル状の素材を使っている。これにはとても面白い性質がある。アルギン酸塩は水に溶けるが、アルギン酸カルシウムは即座に凝固する。これは、液体を含む硬い球体を作る食品科学の球状化の技術を連想させる。

現在はいくつかの注射器ポンプを試しているところだが、ぞれぞれ同じ素材で比較している。ひとつのポンプにはアルギン酸塩と細胞を混ぜたものを入れ、もうひとつには塩化カルシウムを入れる。この2つの素材が接触すると、構造が凝固する。これにより、細胞を含む構造体をプリントできる。その最適化が進んでいる。

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2つ目のチャレンジは、必要な細胞の種類に関することだ。「最初に細胞を分化して、それぞれ適切な場所にプリントするか、分化しないでプリントして、あとは細胞の成長によって自分で本来の適切な場所に分化させるのか?」という疑問は今でもPatrickに付きまとっている。DIYグループはさまざまな細胞を使って実験をしてるが、よく使われる人参の細胞は推奨していない。その幹細胞は未分化で、適切な条件下で異なる細胞に分化するが、汚染されていることが多いのだ。

そのやり方を見てみよう。「葉を用意し、細胞がばらばらになるまで潰す。アルギン酸の中に再懸濁させる。この溶液と植物が必要とする媒体を塩化カルシウムの中に抽出する。最初の数週間は細胞は白くなるが、やがて緑色になる。これは細胞が一時的に脱分化し、やがて葉の状態に戻るためだと説明できる」タバコの葉は丈夫で再生が早いため、研究に向いている。

BioCurious以外での研究:その他のアイデア

BUGSS – バルチモア

Baltimore Underground Science Spaceは現在、3DP.BIOというプラットフォームを開発している。これは、科学者、エンジニア、デザイナーを結び、研究開発を加速させるためのものだ。彼らはレジンのプリンターを使っている。制御プログラムと生体適合性のあるレジンを開発し、細胞が成長できる三次元の足場を作ろうとしている。

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MITメディアラボの媒介物質

MITメディアラボも生体材料とプリント技術を研究している。Mediated Matter研究室のMarkus Kayserは、海の生物でティンカリングを行っている。乾燥させたカニの殻を薄くはがして、それを混合して生体材料による構造体を作る。

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また彼の研究室では、カイコを使った構造体の3Dプリントも行っている。

下のビデオは、Neri OxmanによるSunanda Sharmaのインタビューだ。Mediated Matter研究所のメンバーでキチンを生体材料としたプロジェクトとその方向性について解説している。

London BiohackspaceのJUICY PRINT

これも生体材料を使ったプリントの例だが、材料は遺伝子をプリント用に改造してある。「JuicyPrintは、フルーツジュースでプリントする3Dプリンターのようなものです。頑丈で非常に汎用性の高いバイオポリマーであるバクテリア・セルロースで作られた形状を利用してプリントします」グルコンアセトバクター・ハンセニというバクテリアは、フルーツジュースを食料とする。明るいところではセルロースを生成しないように遺伝子を改造した。なので、光をマスクした場所にだけセルロースが作られる。構造体に光を当てることで形状を調整できるのだ。

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組織や臓器を作る新しい方法は、既存の三次元形状の足場に細胞をプリントすることだ。

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PELLING Lab:リンゴから耳を作る

これはAndrew Pellingが教えてくれた方法だ。「リンゴを薄切りにして、石けんと水で洗い、消毒する。すると細かい網目状のセルロースが残るので、そこに人間の細胞を注入し、成長させる」

Counter Culture 研究室

すでに形状があるのに、なぜ3Dプリンターを使う必要があるのか? 下の写真は、オークランドのバイオハッカースペース、Counter Culture研究室が作った豚の心臓だ。

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ここでは、ドナー(豚)の臓器からすべての細胞を取り除き、結合した組織だけを残して幽霊組織を作る。そこに人の細胞を注入するという考え方だ。

次回は、よりバイオデザイン化された素材と構造について解説する。

もうひとつ、3Dバイオプリントと生体材料を作る方法は、自然の成長に任せるというものだ。下の写真は何か、どこで行われている研究か、わかるかな?

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原文