これは、バイオハッキングに関する連載の3回目だ。これまでの記事は、第1回目が「バイオハッカーの冒険」、第2回目が「生きた細胞でプロトタイピング」だ。これからも続く予定。
「デザインの未来は、環境に存在する材料を使う未来であり、それがウェアラブルであれ、車であれ、建物であっても、自然の生態系に組み込むことのできる環境の性質や関係性を変化させることでデザインできる世界だ。組み立てる時代から、新しい有機体の時代へとシフトしていくことを望む」–Neri Oxman
カタロニアへようこそ
Valldaura研究所は、IAAC(カタロニア高度建築大学院)によって立ち上げられたプロジェクトで、自給自足の住居の研究拠点。バルセロナ市街の中心地、コルセロラナチュラルパーク内にある。Valldauraは、自給自足を研究する研究所のグループであり、あと数年で自給自足を実現する予定だ。グループは、フードラボ、エネルギーラボ、グリーンファブラボによって構成され、自給自足に欠かせない食品、エネルギー、その他の豊かな生活に必要な品物を作り出す。これらの研究所で働くバイオハッカーたちは、私たちと自然を結びつける古くから伝わる知識と最新のテクノロジーを組み合わせている。
研究所の外側
バルダウラ周辺(月桂樹の谷)をJonathan(悪名高きイギリスのヒヨコトレーナー)と歩くと、周囲の自然を直接的に使ったいろいろな実験に出くわす。そこには、環境、混合デザイン、アート、テクノロジー、科学、生物情報学などの学際的な交流の雰囲気がある。これらすべての分野が、持続性のある生活のための建築と農業のまわりに展開されている。
農地と受粉
オープン巣箱プロジェクトは、ミツバチの保護とその産物である蜂蜜の採取を研究するためのオープンソースプロジェクトだ。ミツバチは、おそらく地球上でもっとも高性能なバイオセンサーだ。受粉を行ってくれるだけでなく、データも示してくれる。蜂蜜には、変化する生物学的多様性に関する情報が詰まっているのだ。JohnとFrediがその建築と工学の結果をガラス越しに見せてくれた。
IoTに関する部分はAdafruitのサイト(Open Source Beehives Incorporate Smart Citizen Platform for #IoT Hive Monitoring)に詳しく書かれている。
ロボットアームで木の構造物を作る
ロボットを使って複雑な建築用構造体を繰り返し作るその美しさと自由さは、将来の家作りの可能性を示している。
IAACでは、チェーンソーとKukaロボットを使って木材から思い通りの形状を作り出している。
IAACの学生が集まって、また別の詩的なシェルタープロジェクトをロボットアームで作っていた。こちらはファイバーを使っている。
伝統から学ぶことはまだまだある
Silvia Brandiがグリーンファブラボの森に手作りしていたVolta catalana(カタロニアの伝統的な家)はロボットは使っていない。羊飼いが使っていた伝統的な建物だ。
研究室の中
生産サイクルの一部としてグリーンファブラボ、またの名を「デジタルファブリケーションラボ」は、天然資源を使い、ボストンのMITやスペインの研究所のネットワーク「プラン・アバンザ」と国際的なファブラボのネットワークを作っている。
彼らの研究方針は、建物やレンガやガラスやレジンなどを木や土や鉱物などの新しい天然素材から開発することを中心としている。それには、素朴な昔ながらの方法と、現代の最新技術とを組み合わせて行っている。
Valldauraでは、持続性を持たせるよう管理された森の木から木材をとり、乾燥させて、デザインして、再生可能エネルギーを使った機械で切断し、家具や構造部材を作るという、物質変換のサイクルを完結させている。
彼らは、Valldauraを自給自足の家とオープンでグローバルなコミュニティにするためのプロトタイプ作りに協力を求めている。そのキャンペーンに関する詳細は、Valldaura.netを見てほしい。
ここに、研究所の概要と、そこで使われているバイオデザインツールやプロトタイプを紹介しよう。
空飛ぶValldaura
オープンソースのドローン… ドローンの作り方を学ぶのだが、それだけではない。4日間のワークショップで、地形視覚化ツールとモデリングラボツールを使った地形の位相的なマップの作り方も教わる。
菌糸体キノコ
キノコの一部である菌糸体を使い、ダンボールの構造体をベースにして家具を作る。キノコが生長する間、それを食べることもできる。
バクテリアで作るバイオ光起電性パネル
「影」からエネルギーを作る。IAACのこのプロジェクトは、バイオ光起電パネルを作ることが目的だ。これは土中のバクテリアが発する電子を集めるバッテリーで構成されている。
バイオ石と汚染
「私たちの目標は、まずBiorockTMの都市での利用を考えた素材の限界を知り、調べることにあります。これは、堆積プロセスをコントロールし、目的に合わせてバイオコンピューター的に操作できる物理システムを考案することで実現します。幾何学的構造におけるバイオコンピューターの研究は、生物的反応を示す素材開発のモデルである骨に行き着きます。骨と同じように、BiorockTMは、機能不全に陥った部分を自分で修復する動的システムです」
微少マシン
#microalgaeを使い尿を濾過するパッシブシステムで生活雑排水を浄化する。
IAAC (Institute for Advanced Architecture of Catalonia) の1日
グリーンファブラボには多くの素晴らしい人たちが集まってくる。BioHacking Safariが開かれたときは、Marcosの「IAACにおける生物受容性の形態学」という講演を聞くことができた。
Marcosは建築家だ。彼の長年にわたる研究は、建築における革新的な環境のデザインと創造に集中してきた。彼はまた、生物を応用した多くの建築プロジェクトを教え、実践している。その多くは、バクテリアと藻類だ。『Syn.de.Bio』の共同著者として、彼はコンピューターのみならず、建築の未来を劇的に変化させるであろうバイオテクノロジーと合成生物学の分野からも影響を受けた斬新なデザインを追求している。
生物学の新しい学習方法
Valldaura研究所では、デザインと生物学を組み合わせている。下のリンクでは、バイオデザインの世界を体験することができる。
HTGAAT(MIT)
Bio Academyは、ボストンにあるハーバード医療学校の教授、George Churchによって率いられた合成生物学プログラムだ。Bio Academyは、ほぼすべての学術分野を含んでいる。下で紹介する他の2つのプログラムと比較しても、レベルがかなり高い。
Biohack Academyシラバス(Waag)
Waag Societyの最初のBiohack Academyは、10週間のバイオハッキングコースで、アムステルダムファブラボにおいて、Pieter Van BohemenとLucas Eversに率いられて行われる。生きた素材のティンカリングやそれに使用するツールの製作など、生物学の入口として最適だ。
これがAmsterdamでの様子だ。
Biology Zero(Valldaura)
IAACの最後のプロジェクトは、生物素材の基礎を学ぶためのワークショップだ。Valldaura研究所で行われている。
生物学に関するその他のワークショップは、間もなく開始される。それには、ラセン藻の小宇宙とその成長パラメーターの入門や、現在の培養器をより高度に使うためのセンサーの製作がある。これらのワークショップの目的は、藻類の科学、その生体、食料としてエネルギーとしてのその素晴らしい可能性について知識を広めることにある。
また、生物学と素材というワークショップもある。資源が豊富にあるCan Valldauraの土地の動植物の生態系を学ぶものだ。その目的は、生物材料を使って、天然の接着剤やバイオプラスティック(たとえば3Dプリンターで使われる)を作ることにある。
最後に:
生物学とは少し離れるが、ValldauraではGuifi DIYインターネット接続の試みがある。スペイン全土がこのネットワークに覆われていて、Valldauraは基地から5キロメートル離れたアンテナからWiFiをストリーミングしている。地元エリアと世界とをつなぐことも、生物学をはじめとする科学の一部だ。新発見を知らせたいと思っているすべての研究者をつなぐことができる。
次回は別の大陸に移動して、遺伝学、生物合成学、分子生物学、CRISPRなど、新しい生態系を紹介したいと思う。お楽しみに。
[原文]