Fabrication

2018.01.30

工業用3Dプリントの現状を知る。その技術はいずれ我々のものになるからだ

Text by Terry Wohlers and Joseph Kowen
Translated by kanai

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特許は、有効期間中、その発明者に独占権を与えるものだ。有効期限が切れれば、誰もがその発明を自由に使えるようになる。現在のデスクトップ型3Dプリンターに見られる熱熔解積層法(FDM)の技術的な原点は、1992年に特許を取得したScott Crumpにさかのぼる。今や世界中で無数の人たちが、Crumpのアイデアを安価に利用できるようになった。

Crumpが創設したStratasys(ストラタシス)は、当初と同じコンセプトの工業向け 3D プリンターを今も作り続けている。現在、最高性能を誇る製品は、さまざまな素材を使って約91×61×91センチのパーツをプリントできる。たとえば、ULTEM 9085は、ボーイングやエアバスの航空機の部品の製造などに使われている。ちなみにお値段はと言うと40万ドルだ。しかし、複雑な部品を特別な素材で製造することが求められる業者にとっては欠かせない機械であるため、高価ではあるが売れ続けている。

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2017年のWohlers Reportによれば、工業用の3Dプリンターの平均小売価格は10万4,222ドル。金属でプリントできる機種になると、平均小売価格は56万6,570ドルにもなる。一方、5,000ドル以下のクラスのデスクトップ型プリンターの平均小売価格は1,094ドルだ。これらハイエンドのマシンもローエンドのマシンも、基本的には同じ積層方式をとっているが、まったくの別物と言ってもいい。

CrumpがFDM方式の開発を行っていたころ、別の3Dプリント方式を研究している人たちもいた。感光性樹脂を部分的に光で硬化させるというステレオリソグラフィー(光造形)方式だ。これも、現在多くの工場で、大小さまざまな部品のプリントに使用されている。この方式の特許も切れたため、シンプルな液槽光重合システムが3,500ドルほどで売られるようになった。この方式を最初に商品化した3D Systemsは、今でも大型の光造形システムを販売している。価格は最高で99万ドルだ。

粉末床溶融結合方式の3Dプリンターは、粉末にレーザーを当てて溶かし、層を重ねてゆくというもので、高性能で機能的な部品のプリントが可能だ。もともとはプラスティック部品を作るために開発されたが、現在ではこれが、付加製造(AM)方式の中でもっとも注目される技術となっている。金属の粉末を使って、実用的な金属部品がプリントできるからだ。

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業界の現状

工業界では、AMが次世代の部品製造技術と目されていて、全世界で12.8兆ドル規模のビジネスになると見込まれている。

素材:今日、3Dプリンターで扱えるプラスティック素材は非常に幅広い。ナイロン、エラストマー、シリコン、ケブラー、カーボンファイバー入りプラスティック、生分解性プラスティックなどが使える。工業用のプリンターでは、ニッケル、チタン、それに、ジェットエンジン、歯冠、自動車部品、ジュエリーなどのための貴金属も扱える。セラミック部品や鋳造用の砂を使った型のプリントなども日常的に行われている。

規模:Cinsinnatiが開発した大規模付加製造(BAAM)システムは、最大で約6.1×2.3×1.8メートルの部品がプリントで、溶けたプラスティックを1時間に約36キログラム押し出す能力がある。1台のBAAMシステムに対抗するなら、Ultimaker 3デスクトップ3Dプリンターが2,725台必要になる計算だ。

プリント速度:現在の工業用3Dプリンターは、短期製造ならば、従来型の製造工程に負けない十分な数を短時間でプリントできるようになっている。Wohlers Associatesは、HP Jet Fusion 4200プリンター1台のプリント能力は、163台分のUltimaker 3に相当すると計算している。カリフォルニアのある事業者は、このHPのプリンターを使って、週に60万個の小さな部品を製造できると報告している。型を作る必要はない。デザインすれば、すぐに製品が出来上がるのだ。

使用例:NASAのマーシャル宇宙飛行センターでは、金属AMを使って、次世代推進システムのための点火装置、燃料噴射装置、燃焼チャンバー、ターボポンプを作っている。GEは、同じ技術を使って、LEAPエンジンの燃料ノズルを作っている。従来のものに比べて25パーセント軽く、5倍長持ちし、簡単に製造できる。GEではこのノズルを、年間に数万個プリントできる能力があるという。GEではまた、CT7ヘリコプターのエンジンの設計を変更し、全体の40パーセントまでを3Dプリントした部品で作れるようにした。さらに、AM技術のおかげで900個あった部品を16個にまで減らし、重量とコストを約35パーセント削減することができた。

Makerにとってうれしいのは、こうした工業用システムのメーカーが開発した技術は、やがて我々のものになるという点だ。特許が切れるや、精力的な起業家は時を待たずして、これらの技術を一般向けに作り直してくれるはずだ。実際、そういう流れはもう出来ている。


業界のバイブル

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工業用3Dプリンターに本気で関心のある人は、Wohlers Reportをお勧めする。最大級のものから、「Make:」にたびたび登場するデスクトップ型まで、AMマシンの現状を網羅した年鑑だ。2017年版には、付加製造に関する詳しい知識や、メーカーが提供しているソフトウェアのオプション、素材の特性なども含め、役に立つ最新情報が343ページにわたって記されている。価格は約500ドルと、趣味で気軽に買って読める本ではないが、デジタルファブリケーションに身を置く者にとって、これ以上の情報源はない。

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