Electronics

2018.07.23

インドネシア生まれの「8bitMixtapeNeo」は遊び心むき出しのArduino互換チップチューンシンセサイザー

Text by Toshinao Ruike

27575981_146822125996189_5568411063310876672_n-1-600x600

日本では猛暑の日々が続いているが、さらに暑いインドネシアから熱波のようにやってきた「8bitMixtapeNeo」を紹介したい。Arduino互換チップのATTiny85を搭載したオープンソースの“ローファイ・8bit・シンセサイザー”だ。

上の動画の通り、期待に違わないチープな出音。2個のノブとスイッチ、そして8個のフルカラーLED。ギラギラしたLEDはシンセサイザーとしての機能には関係なく、純粋にプログラムして光らせるだけのもの。チップへのデータ書き込みはUSB接続ではなく、CV入力端子にケーブルを繋げてオーディオ信号で行われる。

ゲーム音源チップをハックするチップチューンは音源チップによって異なる制約があるためハードウェアの知識が要求される。しかしこちらはArduino互換のチップなので、音声信号処理の知識は若干必要だが、Makerにも手が付けやすい。

8BitMixtapeNEO_PartsPlacement_front_v05

まずボードのデザインからして見た目が相当に暑苦しいが(一応褒め言葉だ)、チュートリアルに従って番号を振られたパーツを上図の所定の場所にハンダづけしていく。カセットテープと同じサイズなので、ボードを組み立てた後にむき出しのままでもいいが、カセットテープのケースに入れて使うこともできる。

Arduino互換なので、ArduinoのIDEなどでもコーディングを行えるが、Scratchライクなブロック型のインターフェースによるアプリケーション(現在アルファ版)も用意されている。

neoblock_shot

公式HPのミックステープのコーナーでは「ダイアルアップ」「ナイトライダーのテーマ」「ファミリーマートのテーマ」といったユーザーが作成したデータが共有されている。C++ソースコード、HEX、Wavファイル形式でダウンロードできるが、PCの音声出力とボードをオーディオケーブルで接続していれば、そのままブラウザ上で音を再生してチップにデータを書き込むことも可能だ。

データの書き込みはUSB接続ではなく、わざわざオーディオ信号で行っている。これはダイアルアップモデムが通信時に音を出したり、カセットテープで音楽を聞いたりデータを記録したりしていたような時代を知らない若い世代にとって、アナログとデジタルをまたいだ仕組みについて知識を深めるきっかけになるかもしれない。

8bitMixtapeNeoは、組み立てキットが65ユーロ(約8,500円)から販売されているが、例えば同じ価格帯の小さなシンセサイザーには、同様にゲーム音源のような音色で遊べるTeenage EngineeringのPocket Operatorシリーズがある。Pocket Operatorシリーズは何通りかあるがどれもスタイリッシュで、小型だが完成度の高いシンセサイザーが含まれているのに対して、8bitMixtapeNeoはオシャレというより暑苦しくぎらついている。そこには汗だくになって組み立ててプログラムを書き込み自分の求める音が出るまでひたすら動かしたくなるような、むき出しな何かがある。遊び心にあふれているという点では共通しているが、それはスマートで洗練されてすまし顔をしたTeenage Engineeringの製品とは対象的だ。

8bitMixtapeNeoはひたすら「遊ぼうよ、遊ぼうよ」と鬱陶しく語りかけてくる子どものようなプロダクトだが(率直な感想であり、一応褒め言葉だ)、遊びの中で知らず知らずのうちに学んで成長していく、そんな期待ができそうなプロダクトではないだろうか。

8bitMixtapeNeoは、インドネシア、スイス、ドイツ、イスラエル、台湾に散らばっているメンバーが連携して開発を行っている。開発チームの一人、Marc Dusseillerはバイオハックの研究者であり、チューリッヒを拠点にしながらインドネシアや各国を忙しく行き来しながら、東京のホテルの一室で最初のプロトタイプを作ったという。今回の記事を執筆するにあたって本人と連絡を取って話を聞いてみたが、ココナッツにMakey Makeyをくっつけてシンセサイザーを作るというCocomakeという教育プロジェクト、さらに研究に用いるツールをオープン化するOpen Science Hardwareなど精力的にさまざまなプロジェクトに関わっている。8bitMixtapeNeoは自分の興味のある分野をひたすら前進していくエナジーにあふれた彼の人柄・個性が反映されているように感じられた。非常に興味深い人物で、また別の機会に彼の活動を紹介したいと思う。