Electronics

2019.07.12

僕らが分解する理由 — 分解ワークショップから学んだこと

Text by editor

編集部から:この記事は、大網 拓真さん(FabLab SENDAI-FLAT)に執筆していただきました。


身の回りにある電化製品や文房具、家具が壊れたら、そのまま捨てるのはもったいない! どうせなら分解してみてはどうだろう?

私は、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作マシンを備えたメイカースペースを運営している。ここでは、誰もが自由にものづくりにチャレンジすることが可能だ。通常こういった場所は、アイデアを生み出す方法やそれを形にする技術を学ぶことといった、何かを“作る”ことにフォーカスされていることが多い。しかしながら、“分解”ほど、ものづくりスキルの向上に役立つことはないと私は思う。形のある物を丁寧に分解することで、それがどのような部品で構成されており、どんな動きをするのかなど、多くのことを学ぶことができる。私自身がこれまでに行ったワークショップの経験から、ものを分解する楽しさやメリットについて順を追って紹介していこう。

分解ワークショップを行うときは、いつもこの3つのルールを参加者と共有している。

1. 後で元に戻せるように分解する
物のしくみを観察することもワークショップの目的のひとつであるため、できるかぎり部品を傷つけないよう、バラバラにすることが大切。部品が接着されていたり、ツメをはめ込むようにして組み合わせられている場合などを除き、基本的には切ったり割ったりという手段は用いない(あくまで分解を行うのであって、“破壊”ではない)。分解完了後は、取り出した部品を他の物に再利用するのはもちろん、元通りに組み上げるというのも楽しみのひとつだ。

2. 道具は乱暴に扱わない
道具を使っている時は、よそ見をせずに手元に集中しよう。油断していると、繊細なパーツを壊してしまったり、自分あるいは同じテーブルで作業している人を傷つけてしまうかもしれない。ネジを一本外すのにも慎重になることが、きれいに分解するコツだ。

3. 分解したパーツは分別する
取り出した部品は、分類してトレーに入れておくなどして、作業場所を整頓しながら分解を進めよう。小さな部品を適当な場所に置いておくと、他の部品と混ざったり気づかないうちに壊してしまう可能性がある。作業に夢中になっていくと、ついついテーブルの上が散らかってしまうが、整理整頓も分解の成功率を高めるのに必要不可欠な要素なのだ。

実際のワークショップではこれらのルールを説明した後に、早速分解作業に取り掛かってもらう。しかし、分解に初めてチャレンジする人の場合、どこから手をつけたらいいか分からず手が止まってしまうことがある。そんなときはまず、分解する物をじっくりと観察し、できるだけ多くのネジを見つけることがオススメだ。一部例外もあるが、ネジをゆるめて部品を取り外し、そしてまた現れたネジをゆるめて……という作業を繰り返していくのが分解の基本的な流れ。中にはネジを使わずに部品同士をはめ合わせて組み立てられている物もあり、そういった組み立て方法の違いを推理しながらきれいに分解していく感覚はまさにパズルのよう。複雑な構造の物から部品をきれいに取り出せたときの快感は、一度は体験したらやみつきになること間違いなし!

ちなみに、分解する物の選び方にもポイントがある。使用する物によって得られる部品が異なるのはもちろんだが、分解する手順や方法も違うため、自分の分解スキルレベルに合わせて物を選択するのも良いだろう。比較的入門者向けなのがラジカセだ。ネジがやや多いものの、一番外側のケースさえ取り外してしまえば、電子基板やスピーカーといった大物部品をストレスなく取り出すことができる。インクジェットプリンタも部品の種類が豊富で楽しい。インクが通るチューブだけは注意が必要だが、歯車やバネといった転用のしやすい部品をたくさん見つけることが可能だ。次におすすめなのがミシンで、ケースを取り外してみると複雑なメカニカル機構を見ることができる。きっと、分解はしたいがこの動きもずっと見ていたいし……と葛藤することとなるだろう。そして上級者には、なんといってもApple製品に挑戦してもらいたい。米国最高峰のエンジニアたちが作った製品の分解は凄まじく困難で魔法のようだ(以前、分解に挑戦したときには、ひとつ目の部品を外すのに半日も要してしまった)。

逆に分解を避けてほしい物は、電気ポットや炊飯器などといった白物家電。水アカやカビが付着しており、見るに耐えない状態のものもあるのだ……。また、ブラウン管テレビや冷蔵庫などは取り扱いに注意が必要な部品が使用されているため、絶対に分解をしてはいけない。

ここまで分解の方法について述べてきたが、そもそも分解のいいところは、ものづくりのプロ、アマチュア問わず、誰もが楽しみながらものづくりについて学べることである。例えばネジをゆるめるという行為ひとつをとっても、ドライバーの選び方や力のかけかたなどさまざまな知識を得ることができる。簡単な道具ほど正しい使い方を知らない場合が多いが、黙々と部品を取り外していく作業は、その技術を体得する絶好の機会だ。一方、ある程度のものづくり経験者は、いかに早くきれいに分解するか、もしくは製品の設計をより深く知ることができるという楽しみ方がある。思わぬ設計の妙に驚かされたり、出てきた見たこともないパーツについて、その道に詳しい人に解説してもらい知識を深めたりと、学習の糸口を外から次へと見つけることができる。

また、分解ワークショップをしていて、「ゴールは何ですか?」と聞かれることがたびたびある。端的に言ってしまえば、分解にゴールはない。というのも冒頭に書いた通り、何かを作り上げるわけではないからだ。個人的な意見としては、そもそもゴールがないのが分解の良いところだと思っている。完成形があると、人々はその出来次第で自分にとって向き不向きを判断しがちだが、そもそも分解には最終的に出来上がる作品がないどころか、もともとの形をばらしていくため、自分はおろか他の人から評価が下されることもないし、とても気楽だ。このゴールがないという気楽さは、挑戦するハードルをとても下げ、いったんはじめてみるとその先には、先述したようなプロでもアマチュアでも自分のレベルに合わせて楽しめる奥深さがある。

そして、「分解」という言葉が、「分けて解る」というという文字の並びになっているのに気づいただろうか? これは、まさに文字通りで、分解することでいろいろなことが分かってくる。道具の壊れやすい使い方、もしくは長持ちさせる使い方、それを設計した作り手もしくは会社の考え方、そしてもちろん、現在の産業で使われているテクノロジー、たった1回の分解では全部を知ることはできないが、繰り返しいろんなものを分解することで、気づき分かるようになってくる。分解することで身の回りの世界の見え方が変わってくるのだ。

さて、そんな分解ワークショップだが、Maker Faire Tokyo 2019でも開催されるので、興味を持った方はぜひ参加していただきたい。ジャンルも難易度もさまざまな、分解するのにおすすめなジャンクを用意して待っている!


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