2014.11.23
Maker Media創始者デール・ダハティが語るMaker Faireの本質、企業内Makerたちが語る「仕事とMaker活動」の意義[MFT2014レポート]
Maker Faire Tokyo 2014の会場に一角に設けられたステージでは、会期中は絶え間なくプレゼンテーションが行われている。とても”濃い”プログラムながら、座席数が限られていることから、毎回立ち見が出るほどの盛況となった。1日目のプレゼンテーションのなかから、Maker Mediaの創始者であるデール・ダハティさんによる講演と、企業に在籍しながらMakerムーブメントにコミットする方々によるパネルディスカッション『Maker × メーカー 2014』の様子を簡単にお伝えする。
デール・ダハティさんは『Free to Make』と題して、Makerムーブメントが持つ意味と、その本質について語った。冒頭「Makerの定義をよく聞かれるが、型にはめることではないので、それに答えるのは難しい。ひとつ言えるのは『モノを作り、それに関わることを皆と共有する人』だとダハティさんは語った。この「共有」が、この講演でのキーワードだ。
Makerそのものは昔からいて、存在自体は新しいものではない。だが「Make:」誌が創刊されるまでは、「物理的なモノのハッキング」の共有は、あまりなかった。そこに、「Make:」や「Maker Faire」の登場によって、モノづくりを皆で見せ合い、楽しむという、共有を核にしたMakerムーブメントが広がっていった。2014年にはこれまでに世界で137回のMaker Faireが開催され、2013年の100回をすでに上回るほど。
そして、多くのMakerが、自身の活動に見出しているのは「作ることによる自由」だという。Makerの制作するモノの中には、他人には理解できないモノ、何に役立つのか不明なモノもあり、何が出てくるかわからない。しかし、自分だけの考えで自由にモノづくりができることに、意味を見出す人が多いそうだ。
ダハティさんが現在、Maker Faireを通じてやりたいことが、Maker同士をさらに繋げていくことだ。手を動かしてモノを作ることは、実地で技術を学ぶことだ。それを仲間同士で共有し、皆で学んでいく。また、Faireに家族連れが来やすくすることで、子どもがMakerに接して、将来のMakerになることも期待している。より多くの人がMakerになり、自分ひとりだけでなくコミュニティを通じてモノづくりをすることで、自分の人生やコミュニティをよりよくすることができるはずだ、という力強いメッセージで講演を終えた。
パネルディスカッションも熱く盛り上がる
『Maker × メーカー 2014』のパネルディスカッション
続いては、大手のメーカーに在籍しながらMakerムーブメントにコミットする方々によるパネルディスカッション『Maker × メーカー 2014』が行われた。小林茂さん(情報科学芸術院大学[IAMAS]教授)がモデレータとなり、田中章愛さん(VITRO/品モノラボ)、萩原丈博さん(ソニー株式会社、MESH Project)、村松一治さん(ローランドDG株式会社、3D事業部)、そしてデール・ダハティさんらがパネリストを務めた。
モデレータの小林茂さん(情報科学芸術院大学[IAMAS]教授)
田中さんは、品川に本社がある大手メーカーに勤務しながら、個人のMakerとしても活動。モノづくりユニット「VITRO」で超小型Arduino互換機「8pino」を開発したり、品川近辺のモノづくりに係わる人々によるコミュニティ「品モノラボ」を主催したりしている。
田中さんにとって、放課後活動は音楽のバンド活動のようなものだそうだ。気軽に少人数のメンバーと一緒に好きなことに取り組む。だが、そこから得られるものも多く、本業における開発や新規事業創出などの仕事にも役立っているという。とくに8pinoでは、アイデア、開発、製造、販売までをほぼひとりで行ったことで、いかにして素早く、安く、効率よく製品開発をするのか、鍛えられたそうだ。
萩原さんは、ソニー株式会社でMESH Projectに携わっている。MESHはUSBメモリほどの小さな直方体で、センサーやスイッチ、LEDなどを内蔵し、タブレットデバイスから動作をプログラミングできる、フィジカルコンピューティングデバイス。今回のMaker Faire Tokyo 2014にも出展しており、来場者は実際に体験することができる。
実はこのMESH、ソニーの製品だがまだ市販されておらず、今後も販売されるかどうかは未確定だ。ソニーが今年から始めた新規事業創出プログラム「SAP」から生まれたプロジェクトで、現在は商業化に向けたビジネス開発を行っている段階なのだ。
まだ製品ではないプロトタイプをこうしたオープンな場で一般の人に触ってもらうことに対して、当初はびくびくしていたと萩原さんは語る。社内で検証して問題を潰してから表に出すのではなく、いきなりプロトタイプを表に出すことには、やはり企業としては抵抗があるのだそうだ。
だが、実際にはほとんどが好意的な反応で、さまざまなフィードバックが得られたことがうれしかったという。そのフィードバックに基づいて、さらにプロトタイプを改良し、またオープンな場所でデモを繰り返す。このように、実際に販売する前に、いろんなことを学べるというのがとても大きいという。
村松さんは、ローランド ディー.ジー.株式会社の3D事業部の社員だ。同社では今年9月に、新たに「monoFAB」シリーズを立ち上げ、3D切削加工機や光造形式3Dプリンタなどを発売し話題となった。この新型の切削機「SRM-20」は、ユーザー自ら内部にArduinoを装着可能になっており、自分で機能をカスタマイズすることができるのだ。
SRM-20でカスタマイズ可能にした理由を村松さんは「3D切削加工機も3Dプリンタも道具という意味では、ノミやカンナの延長線上にあるもの。ノミやカンナは、使う人が自分に合わせて調整して使ってきた。SRM-20もそうあるべき」だと語った。
これまでにも、同社の切削加工機に対してさまざまなリクエストが届いており、村松さんもそれに応えたいが、コストや特許などの問題で実現できないものも多かった。そこで、ユーザー自身がカスタマイズできる余地として、Arduino搭載という方法を選んだのだという。
ディスカッションの後半で、ダハティさんからパネリストへ「日本でMakerがもっと増えるために、大企業が貢献できることは何か」という質問がでた。
これに対して萩原さんは、「子どもは自由にモノを作る。大人になるとアイデアはあっても、それを実現する技術が難しい。そこを極力簡単にすることで増えるのでは」と回答。
一方、田中さんは、「企業の社員にもMakerはたくさんいる。ただ、仕事で得たスキルを放課後活動で使うことにやましく感じる人が多い。だから放課後活動が仕事にもメリットがあることをもっとアピールしていきたい」と答えた。
さらに村松さんは「Maker自体は増えている印象。ただ、まだ企業からは、Makerは特殊な人だと思われがちなので、社内でもっとアピールすべき。ローランド ディー.ジー.でも社内のモノづくりの部活動があり、折を見てアピールしている」とのこと。
ダハティさんは、子どもへのアピールが重要だと述べ、ベイエリアではMaker Faireに子どもを連れた家族が多く来場しているので、日本のMaker Faireももっと子ども連れが来られるようにしたほうがよい」との意見を披露した。
– 青山 祐輔
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