Electronics

2015.12.11

新しいタグとiPhoneアプリで便利になった「MESH」(前編)—「これまで」と「これから」を開発者に聞く

Text by Noriko Matsushita

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MESHの新しいセンサータグ。左から「Motion」、「Brightness」、「Temperature & Humidity」

MESHは、ボタンやセンサーなどのさまざまな機能をもつブロック形状の電子タグ。iOS向けのMESHアプリとBluetooth LEでワイヤレス接続して、マイクやスピーカー、カメラ、タイマーなどのiOSの機能やソフトウェアタグと連携させて、さまざまなことが実現できるツールだ。2015年1月よりクラウドファンディング「Indiegogo」で支援募集を開始し、5月より出荷を開始。現在は、Amazonやスイッチサイエンスなどのネット販売のほか、店頭販売も行われている。

当初のMESHは、Move(動き)タグ、Button(ボタン)タグ、LEDタグ、GPIOタグの4種類。10月22日には、新たに温度湿度の変化を検知する「Temperature & Humidity」、人の動きを検知する「Motion」、明るさを検知する「Brightness」の3つのセンサータグが追加された。また、待望のiPhone/iPod touch版アプリをリリース。MESH SDKのβ版も公開され、ユーザーがオリジナルのソフトウェアタグを開発できる環境が整いつつある。MESHの最初の出荷から半年。現時点はどういう形で使われ、これからどのようにMESHの世界が発展していくのだろうか。プロジェクトリーダーの萩原丈博さん(ソニー 新規事業創出部)にお話を伺った。

ユーザーがMESHで作るのはコミュニケーションのツール

MESHがクラウドファンディングの購入者さんに出荷を開始したのが2015年の5月。その翌月にはフェイスブック上でユーザーグループ『MESHで作ってみた!友の会』が生まれ、お互いに作品をシェアしているという。ページを見ると、子供と一緒に遊ぶおもちゃをはじめ、ロボットや鉄道模型の制御、キッチンでの応用、犬の無駄吠え防止などさまざまだ。「こちらでは想定していない使い方ばかり。夏に開催した『MESH IDEA AWARD』では、こんなこともできるんだ!というアイデアの数々に驚かされました」

kufabstudioさんの「リアルばくだんゲーム」は、3Dプリンターで作った爆弾の中にMoveタグを入れ、MESHアプリ上のカウンターと組み合わせたおもちゃだ。Moveタグが振動を検知し、カウンターが上限に達すると爆発音が鳴る。シンプルだが、ロシアンルーレットのようなおもしろさがある。またabirdさんの「オフィス×IoT×Happy ~お土産・差し入れへのお礼からはじまるコミュニケーション」は、お土産や差し入れのお菓子にButtonタグを置いておき、ボタンが10回押されると、メールでお礼が届くというもの。

「プロダクトをつくる、という発想よりも、コミュニケーションのツールにしたい、おもしろい体験をつくりたい、というアイデアが多いのが、今の時代を反映している気がします。最近のワークショップで、人感センサーでコーヒーの香りを出す、という作品もありました。扇風機でコーヒーを扇ぐだけの単純なものだけれど、おもしろい」

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MESH IDEA AWRDの作品部門を受賞したabirdさんの作品。オフィスへのお土産や差し入れのお礼をメールで伝えられる

子ども向けの電子工作教室やFab系のコミュニティばかりではなく、3Dプリンターで鉄道模型を作るコミュニティ「CAD鉄」の方が鉄道模型をMESHで制御したり、女性向けのIT勉強会グループ「Windows女子部」が親子で楽しめる電子工作のおもちゃ作りワークショップを開催するなど、ほかのホビーやIT系コミュニティでもMESHが活用されている。「MESHは、大人が真剣に楽しめるおもちゃ。お子さんがいれば、いっしょに作って遊ぶことができる。美大では学生と一緒にプロトタイプ作りに役立てたり、MESH SDKを使って業務利用している企業もある。使う人、世代、職業はバラバラ。共通点があるとすれば、既存のモノよりも自分で工夫して楽しみを見つけたい、好奇心の強い方ですね」

MESHには品モノラボで学んだことが生かされている

ごく普通の生活の中で、いろんなシーンで使える手軽さがMESHの醍醐味だ。今までは、何かを自分で作ってみたいと思っても、電子工作はハードルが高い。アイデアを形にするには時間がかかり、なかなか手が出せなかった。MESHがあれば、今まであきらめていたことが簡単に実現できる。バッテリーを内蔵しているので、コンセントもいらない。ひとつのタグでできることは限られているけれど、組み合わせによっていろいろなことができる。

家電のようにシンプルでありつつ、工作パーツのような自由度もある。誰が何に使うのかを想定していないのは、ハードウェア製品としてはかなり異例だ。MESHは、どのようなきっかけで生まれたのだろうか。「もともとはソフトウェアのエンジニアで、ユーザーの好みを学習し、最適なサービスを提供するためのアルゴリズムを研究していました。ユーザーはそれぞれ好みが違う。ソフトはカスタマイズできるのに、ハードは変えられないのが不便だな、と日ごろから感じていました」

その後、萩原さんが1年間のシリコンバレーのスタンフォード留学という機会を得て 、オープンな環境で学ぶうちに、MESHのもとになるアイデアが生まれた。当初はプログラマブルな環境は考えておらず、最初のプロトタイプは紙。アイコンを印刷した紙を家の中のドアや冷蔵庫などに貼り、どんな機能があったら便利かをシミュレーションしたという。「例えば、出張で留守にするとき、家族が元気かどうかを知りたい。そこで、トイレのドアや冷蔵庫にセンサーを貼っておくと、開閉していることがわかります。こうしたシンプルな使い方をいろんな方にヒアリングすることから始めました」

目指したのは、文房具に近い感覚で使えるツール。裏にはスゴイ技術が詰まっているけれど、それを感じさせないデザイン。ただし、すべてをブラックボックスにするのではなく、ユーザーがイメージする概念の中で、ある程度のカスタマイズができる柔軟性は残したい。その落とし込みのバランスが難しかったという。例えば、デベロッパーであれば、加速度センサーは生データがわかるほうがいい、と考える。しかし、一般のユーザーには、動いたかどうか、向きが変わったかどうか、というのがわかれば十分だ。

形状は、貼る・置く・組み込む、といった扱いを想定して、シンプルな直方体に決まった。2色なのは、アプリのUIを考えた場合、アイコン色で識別しやすくするためだ。無線接続のため、同じ機能のタグが2つある場合は対応付けがわかりづらい。そこで、アプリ側のアイコンをタップすると連動してタグが光る仕組みだ。タグを押すと、対応するアイコンがハイライトする。

放課後コミュニティ「品モノラボ」の発足時から関わっていた萩原さん。MESHの開発も品モノラボで相談しながら進めていったという。「品モノラボで、コミュニティ運営とプレイヤーとしての感覚のどちらも体験しながら学ぶことができたことがMESHに生かされています。MESHプロジェクトと品モノラボは、すべて密接に絡み合って、総合的にリンクしているのです」
 
MESH SDKのβ版も公開、JavaScriptで自作のソフトウェアタグを追加できる

「最初に4つのタグを出して、ユーザーの使い方や展示会でのフィードバックから、直接触って操作するものより、人が前を通る、明るさが変わる、といった“周囲の変化”を捉えられるセンサーが良いのではないかと考えました。Brightnessタグは、明るさだけでなく、近接もとらえることができます」iPhoneアプリもリリースされ、タグをスマホとともに持ち歩いて、よりカジュアルな使い方が楽しめそうだ。

ソフトウェアタグもアプリのアップデートで追加される予定。12月3日に公開された最新版のMESHアプリは、「IFTTT」へ対応し、TwitterやFacebookなどのSNSや、さまざまなアプリと連携する仕組みがつくれようになった。例えば、Motionタグが人の動きを検出するとスマートフォンへ通知したり、SNSへメッセージが届いたらLEDタグが点灯する、といったことが簡単に実現できる。

また、MESH SDKのβ版がウェブサイトで公開されており、JavaScriptでプログラミングすれば自作のソフトウェアタグを自由に追加できる。現在は自作のタグを配布することはできないが、ユーザーグループなどを通してソースコードでの共有は可能。また、将来的には、専用サイトを設置して、ユーザーが作ったタグを配布する仕組みも検討しているとのこと。

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MESH SDK β版をウェブアプリケーション形式で公開。作成したタグはMESHアプリからダウンロードして追加できる