2014.12.02
ABSかPLAか? 正しいフィラメントの選び方
私はフィラメントの販売業者です。なので、しょっちゅうこの質問を受ける。その答は、それらの素材の特性の違いを理解して、プロジェクトのマッチングを知ることにある。
まずは ABS から見てみよう。ABS(本名はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)は、家庭用熱積層用フィラメントのおじいさんだ。
温度:
プリント温度は210〜240ºCで、加熱ベッドの温度は80ºC以上。
ABSのガラス転移点(軟らかくなり始める温度)は105ºC。これが、プリントを車の中で使ったり、熱い飲み物用のコースターに使ったりしたい場合は問題になる。意図せず、プリントが軟らかくなって変形してしまうことがあるからだ。
プリントの性能:
素材の性質上、ABSは、ホットエンドからしてみれば、非常にプリントしやすいプラスティックと言える。どんなエクストルーダーでも滑らかに押し出されて、詰まったり固まったりする心配がない。しかし、押し出された後の扱いは少々難しくなる。冷えると縮む性質があるからだ。これは、ベッドから離れて浮いた部分で問題となる。または、背の高いプリントではレイヤーが剥離してしまうこともある。そのため、ABSのプリントにはヒートベッドが欠かせない。さらに、密閉式のプリンターが推奨される。少なくとも、室温が低すぎない部屋で、冷却を促進して収縮を起こさせるような風の当たらないところでプリントすることだ。
ABSは非常に速くプリントできる。リトラクションの設定も大きく速くできる。糸引きが少ないので、通常、リトラクションはほんのわずかでよい。
強度:
ABSは、適切な温度でプリントし、レイヤーをしっかり密着させれば、大変に強度が高くなる。
ABSには柔軟性があり、圧力をかけても折れることなく曲がってくれる。
匂い:
ABSの最大の欠点はプリント時に発生する強い匂いだ。気にならない人も多いが、通気性の悪い部屋でABSのプリントを行うと気分が悪くなる人もいる。どのような素材を使うにせよ、私は、通気性のよい部屋でプリントすることを勧めている。とくにABSを使う場合はなおさらだ。「わからないときは匂いをかげ!」というのは1930年代の3Dプリンター技術者の格言だ。というのは、私が今でっち上げた言葉だけど。
いつ使うべきか:
落としたりする可能性のあるもの、熱い環境で使うもの、乱暴に扱われるものなどに ABSは向いている。ナイフの柄、車の携帯マウント、携帯ケース、オモチャ、結婚指輪(私のは黒いABS製だ)などが考えられる。要するに、ほとんどのものに適しているということ。
ABSには車の中の高温に耐えることができ、携帯ケースに求められる頑丈さがある。
いつ使うべきではないか:
ヒートベッドがないプリンターではプリントできない。風が当たったり、温度を保つ装備がない状態で大きなものをプリントしたい場合は、レイヤーの剥がれや割れに注意しなければならない。また、部屋の換気が悪い場合もABSは考えたほうがよい。匂いで気分が悪くなるからだ。
PLA(一般的にはポリ乳酸)は、甘い匂いのするABSのヒッピーの従兄弟だ。生分解性でプリントの際にはキャンディーのような匂いがする。それだけでは魅力を感じないという方は、この先を読んでほしい。
温度:
プリント温度は180〜200ºC。ヒートベッドは必ずしも必要ないが、私は60°Cで使用することを勧めている。
PLAのガラス転移点は、この素材の最大の欠点でもあるが、わずか60°C前後だ(そこに科学的な価値がある)。なので、用途は限られる。車のシフトノブなどには向かない。クマさんのグミを握るのが好きなら別だが、実際、いい考えではない。
プリント性能:
ABSとはほぼ真逆で、PLAはホットエンドの詰まりを起こすことが多い(とくに全金属製のホットエンドで)。PLAは溶けるとくっつきやすく、伸びやすい性質があるからだ。だからって、プリントに向いていないわけではない。ロールをセットするときに、ホットエンドに油を1滴垂らしてやるだけで、滑らかに、詰まりもなく、甘い香りで長時間のプリントができる。
PLAの本当の楽しみは、それがプリントベッドに載ってからだ。ほとんど収縮することがなく、開放型のプリンターでも、ベッドから浮いてしまったり、歪んだり、割れたりする心配もなく、大きなプリントができる。公共の場で3Dプリントを実演するときなどにはもってこいの素材だ。
いい匂いもするしね。
強度:
PLAでもかなりの強度のプリントができるが、他のプラスティックと比較すると、やや脆い性質がある。落としたり何かにぶつけたりしたときに、跳ね返るかわりに一部が欠けたり割れたりすることが多い。薄い部分などは、曲がる前に折れてしまう傾向がある。
適切にプリントすれば、レイヤーの結合はかなり強い。
匂い:
PLAから発せられる匂いを故意に吸い込むようなことは推奨しない(そんなことをしたら訴えられるに決まってる)が、たまたまその匂いを嗅いだとき、いい意味で驚くだろう。私のオフィスでPLAを使ってプリントした日は、いい匂いが満ちてお腹が減る。匂いは少ないが、いい匂いだ。
いつ使うべきか:
いつでも使えるときに使うことを推奨する。生分解性なので、リサイクルできるし、朽ちて消えてしまう。箱、贈り物、模型、プロトタイプの部品などに向いている。そうそう、屋外用のものにも使える。生分解性とは言え、熱を加えないと分解しないし、耐水性もある。だから、PLA製のガーデンノームなども大丈夫だ。
いつ使うべきでないか:
60℃以上になるものを入れるような場合にはPLAは向かない。その温度で変形してしまう。また、脆い性質があるので、工具の柄や何度も落としてしまうようなパーツには使えない。また薄いものは、ちょっと曲げただけで折れてしまうので不向きだ。
結論:
ABSもPLAも、どちらにも適した用途があるので、とにかく使って覚えることだ。私は、生分解性であるという理由から、できるかぎりPLAを使うようにしている。プリントも楽だし、匂いもいいからね。しかし、耐衝撃性や耐熱性が求められる場合はABSにかぎる。
読んでくれてありがとう。意見のある人はコメントに書き込んでほしい。
– Isaac Powell
[原文]