Electronics

2017.07.19

Makerが「ボード」に求めるもの — 小さくてシンプルなツールを開発するべきだ。巨大なモノリスは必要ない

Text by Alasdair AllanTranslated by kanai

ここ数年の間に、マイクロコントローラーボードとシングルボードコンピューターの数と種類が一気に増加した。ちょうど1980年代前半、安い家庭用コンピューターが登場して、その数と種類が爆発的に増えたときと同じように、今日のマイクロコントローラーボードの数の増加は、メーカーによる機能とフォームファクターの実験が繰り返されてきた結果のように思える。

だが今は時代が違う。マイクロコントローラーの数の増加が私たちを導いてゆく方向は、あの時とは異なっている。1980年代、新しいホームコンピューターに出会ったとき、私たちはその光輝く画面ばかり見ていたのではない。いろいろな方法でいじって遊べる箱として見ていた。しかし今日のコンピューターは、スマートフォンやタブレットも、通信のための道具として見られている。今では、マイクロコントローラーばかりでなく、パソコンですら、インターネットに接続できなければレンガと変わらない。

振り返ってみる

今日のマイクロコントローラーの市場は、開発ボードから立ち上がった。実質的には、メーカーが市場に売り込みたい新型チップのブレークアウトボードだった。エンジニアたちに試してもらって、後に製品に埋め込むパーツとして、数千、数万という単位で注文してもらうためのものだ。

ホビイストからすると、そうした業務用に作られた開発ボードは、通常は非常に高価で、便利とは言えないものだった。PICなどは、Makerムーブメントのエレクトロニクス分野の屋台骨を支えてきたマイクロコントローラーなのだが、ほとんどの場合、ボードではなくチップで提供されていた。

Microchip_PIC16F15354

Arduino以降は、マイクロコントローラーは、便利にパッケージされたボードを指すようになった。この頑張り屋さんの「青いちびっこ」は、ホビイストだけでなく、プロの間でも、エレクトロニクスのやり方を大きく変えた。そして、高価で、説明書も不親切な業務用開発ボードは、もっとずっと簡単に使える安価なマイクロコントローラーボードに道を譲ることとなった。それは、プロも含めたあらゆる人にとってよいことであり、Makerに感謝すべきことだ。

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インターネットに接続されたスマートデバイス、いわゆるモノのインターネット(IoT)の普及によって、マイクロコントローラーボードの市場は様相を一変させたと言ってもいいだろう。

今の世代のボードには、無線機能が搭載されている。何種類もの無線が載っているものもある。IoT以前、マイクロコントローラーは、昔のコンピューターのように、何かを自動化したりコントロールするためのものだった。今ではそれも、コミュニケーションのためのツールとしても使われている。

ただし、多くの場合、マイクロコントローラーは、私たちに話しかけるのではなく、マイクロコントローラー同士で話をしている。

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台所の流しに放り込む

マイクロコントローラーボードの市場は変化している。私たちのコンピューターの使い方が変化しているように、私たちがハードウェアを作る方法も変化している。そのため、ボードのメーカーは、それがどのように使われるかをハッキリと知ることができない。パニックに陥った大勢の人たちの要望に応えるために、「もうひとつ無線を載せる」ということになった。

すべての人のすべての要望に応えるために作られたボードを、私は「キッチンシンク」(台所の流し)ボードと呼んでいるが、それがここ2年ばかりのトレンドになっている。その傾向は、Kickstarterでとくに強く現れている。なんとかして他のボードとの差別化を図りたいと思う結果だ。

マイクロコントローラーは、究極的には何かをコントロールするためのもので、単一の目的に使われるわけではない。とは言え、要望されるがままに、あらゆる用途に対応させるべく、あらゆるパワーとあらゆる無線機能を搭載するのは、よい考えとは思われない。典型的なキッチンシンクボードは、複数の無線機能と、組み込みデバイスとして必要になる常識的な範囲を超えた性能のCPUとRAMが搭載されている。そうしたボードは高価になる。「すべてを凌駕するボード」は、決して実用的なボードとは呼べない。UNIXのコマンドラインのように、小さくてシンプルなツールを開発するべきだ。巨大なモノリスは必要ない。

形の問題

昔のホームコンピューターの終焉から起きたひとつの残念なことが、今、明らかになった。あの時代に比べて、家庭用コンピューターのフォームファクターの数も種類も減ってしまったことだ。同じことが、マイクロコントローラーにも起きている。シングルボードコンピューターでも、部分的にそうなっている。

小さくてシンプルなツールを開発するべきだ。巨大なモノリスは必要ない。

初期のArduinoでは、7番ピンと8番ピンとの間だけちょっと空いている。イラつくレイアウトだが、それがほぼデフォルトとして標準化されてしまった。クローンや模造品ばかりではない。Arduinoを中心とした巨大なコミュニティでは、そのレイアウトに合わせてシールドなどのハードウェアを開発している。中身の回路が違っていたとしても、物理的な形状はArduinoと同じということだ。

ArduinoPin7-8offset

他のボードメーカーの製品でも、そのデザインが標準化されつつある。たとえば、AdafruitのFeatherシリーズはレイアウトが共通しているが、それを真似た製品が現れ始めている。

市場の片隅では、ひとつのボードに集積モジュールを搭載するという動きが見え始めている。普通なら別のボードに分けるべきものだが、それを直接扱えるだけのツールやスキルのないコミュニティのために、微少な表面実装パーツを使って盛りに盛ったモジュールを搭載することが今の標準になっているようだ。この傾向は、ESP8266の登場から顕著になってきた。それは、ESP-12のフォームをデフォルトにする動きを見せている。競合ボードであるRTL8710も非常によく似た設定になっている。ピンの配列が同じものまである。

同様に、Raspberry Piのレイアウトも真似されつつある。新型ボードのいくつかは、まったく同じだ。その中のひとつ、AsusのTinkerは、安価なメディアセンターとして急速にニッチ市場を作り上げた。人気のRaspberry Pi Zeroも、無線機能を備えてずっと便利になった新しいタイプも含めて、模造品が出始めている。だが、シングルボードコンピューターのフォームファクターの完全な標準化は、少なくとも現状では、まだなされていない。Arduinoのピンヘッダーのように、Raspberry Piのヘッダーブロックは自然に標準となった。シングルボードコンピューターの市場では、おそらくそれで十分なのだろう。

捨てても惜しくない価格

Wi-Fi機能を搭載した汎用のマイクロコントローラーボードには、2ドル以下のものもある。シングルボードコンピューターも数ドルで買える。ムーアの法則で育ってきた我々ですら、これは想像を超えている。私たちは、コンピューターが安いというより、実質的に無料という世界に向かっている。

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それは、人々のマイクロコントローラーの使い方を変えた。ESP8266は圧倒的な成功を収めたが、それは、市場が明確でないままIoTのソリューションだと息巻く「キッチンシンク」ボードとは、いろいろな意味で逆のものだ。

「まあまあ」の性能で十分。

ESP8266の成功の要因は、コミュニティが急速に発展したことにある。このコミュニティは、ボードが提供する機能によってではなく(他にもフォームファクターが小さい無線対応のボードは存在する)、他のボードにはない特長のために形成された。それは、価格だ。結果として、ESP8266は、Makerのエレクトロニクス分野において、Arduino、Raspberry Piと並ぶ第三のコミュニティを生み出した。たしかに、その要因の一部には、Arduinoとの互換性もあるのだが、このチップのコミュニティが開発した開発環境Luaは、非常に広範に使われている。これは、価格設定がコミュニティ形成にとって非常に重要であることを示している。「まあまあ」の性能で十分ということだろう。

FPGAの登場

フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)は、マイクロコントローラーとはまったく別種のものだ。マイクロコントローラーは、チップに書き込んだソフトウェアで操作することになっているが、FPGAは、最初はまったくの白紙状態だ。回路は自分でデザインする。デザインができるまでは、ソフトウェアを走らせるプロセッサーも存在しない。

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クレイジーに聞こえるかもしれないが、そこには柔軟性がある。しかもすでに、Maker向けのFPGAが、ひっそりと登場している。LatticeのiCE40 FPGAのためのオープンソースのツールチェーンもできていて、AloriumのXLR8のような、Maker市場向けのFPGAボードもいくつか現れ始めている。これらのボードには、ハードウェアレベルでの柔軟性がある。Makerのプロジェクトには長く続くものが多いが、プロジェクトに変更があった場合、ハードウェアを入れ替えることなく、ハードウェアのほうを対応させることが可能になる。

実際の製品にFPGA的なチップが使われ始めていることも興味深い。たとえば、AppleのAirPodには、Cypress PSoCチップが使われている。

CircuitTree

機械学習をパッケージする

Arduino 101が発売になったとき、もっとも興味を惹かれたのが、Intel Curieの中に128ノードのニューラルネットワークが隠れていたことだ。発売から数カ月経つまで、そのネットワークに関する情報はほとんど入手できず、アクセスもできなかった。Intelは、資料提供とライブラリーのサポートを「間もなく行う」と約束していたのだが、General VisionからCurieNeuronsライブラリーが登場して状況が変わった。無料版では制限があるものの、Pro版のライブラリーは完全なサポートが受けられる。価格は19ドル。本体価格の約2/3だ。ほとんどのMakerにとって、十分すぎるほどの内容だ。

IntelがMaker市場に向けて発売した他の製品でも、同じことが起きた。高性能を求めるハイエンドのMakerに向けて出されたGalileo、Joule、Edisonの各ボードは、最近になって、こっそりと市場から退散していった。Maker市場では、ローエンドのボードを使って多くの人々が、日常的に、不可能だと思われていたことを実現させている。そこでは、高価で、資料も不十分なボードは生き残れない。

人々がボードに求めるものは何か?

ほとんどの人、ほとんどのMakerが、問題を解決したいと思っている。なかには、ボードの性能を大変に気にする人もいるが、それは今のところ少数派だ。ほとんどの人は必要以上の性能を求めていない、ということを一部のボードメーカーは理解できずにいる。人々は、不必要なまでに高性能なボードに大金を払うより、ちょうどいい性能のボードを安く買いたいと考えているのだ。結論として、ほとんどの人にとって、「キッチンシンク」は皿を洗う場所でしかない。

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