Electronics

2013.05.10

エレクトロニクスのUXをデザインする

Text by kanai

2月にPinoccioの共同創設者、Eric Jenningsのインタビュー(リンク先は日本語記事)を掲載した。Pinoccioは、新しいオープンソースハードウェアのメーカーだ。「完璧なもののインターネットのためのエコシステム」を作っている。Pinoccioは、ポケットサイズのマイクロコントローラーボードで、無線ネットワーク、充電式LiPoバッテリー、センサーを搭載し、Arduinoのようにシールドでの機能拡張が可能。 Atmelの新しいATmega256RFR2、シングルチップのAVR 8ビットプロセッサーIEEE 802.15.4対応の低電力2.4GHzトランシーバーが使われている。

Eric Jenningsは、パートナーのSally Carsonと共同でPinoccioを立ち上げた。Ericとのインタビューで彼はこう話していた。

Sally Carson、Pinoccioのもうひとりの創設者は、人間とテクノロジーの交わりに関する専門家です。つまり彼女は、人間がコンピューターと関わるときの心理を、深く慎重に考えるのです。人間とコンピューターのインタラクション、ユーザーエクスペリエンス、使い勝手など、すべてが彼女の守備範囲です。Pinoccioの目標にとって、彼女は秘密兵器なんです。

秘密兵器とは!? Ericが言った意味を確かめないといけない。Pinoccioの秘密兵器とはいったいどういうことなのか。私はSally Carsonに会い、エレクトロニクスとユーザーエクスペリエンス(UX)の交わりについて、そしてPinoccioのデザインについて話を聞いた。そのなかで私は、このような小さなエレクトロニクス機器においても、なぜデザインが重要なのかを学んだ。

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Sally Carson

Eric Weddington(EW):会社を共同設立したいと思わせたPinoccioの魅力とは?
Sally Carson(SC):そうね、私はずっとクリエイティブな子供でした。いつも絵を描いたり何かを作っていた。それに、ガジェットやエレクトロニクスをいじるのが大好きだった。高校では、オーディオとビデオのオタクになりました。スケートボードに乗ったり友だちとバンドを組んだりもしたけど、趣味の大部分はA/Vが占めていました。だから、たとえば友だちや私がスケートボードに乗っているビデオを山ほど撮影しました。撮りためたビデオを2台のビデオデッキを使って編集したんです。オーディオは4トラックでミックスしたり、「ティーンエイジミュータントニンジャタートルズ」とか、古いファミコンゲームのサウンドをつなぎあわせました。そして、オーリーやトリックを決めたときに、タートルがジャンプするときの「びよん」という音をかぶせたりして。だから私は、ハンダごてにはまるという感じではなく、身の回りにあったエレクトロニクスを別の形で接続する方法をいつも考えていました。

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その後、私はウェブデザイナーになりました。そしてその途端、私のすべてのアウトプットはバーチャルになり、すべてをコンピューターで行うようになりました。自分の手で触ってものを作る実際の感触が恋しく思われました。私はTim O’Reillyに大きな影響を受け、O’Reilly Mediaから発せられるものはすべて取り込もうとしました。私はNutshell Book(編注:日本では「クイックリファレンス」シリーズ)でウェブデザインを勉強しました。ETechWeb 2.0 Conferenceのポッドキャストも聞きました。

2004年あたりに、私は「インタラクション」の専門家を目指すようになり、Massimo Banziが教鞭をとり、Arduinoが開発されていたイブレア(イタリアの都市)のInteraction Design Instituteにすごく興味を惹かれました。そこでは、素早く実際のプロトタイプを作って製品のアイデアをテストするというインタラクションデザインを教えていました。私にはとても魅力的でした。技術系オタクでいながら、自分の手でものが作れる。このフィジカルとバーチャルのブレンドが最高に感動的でした。それまで、私はつねにどちらかを選ばなければならなかったからです。

やがて私はMAKEの創刊号を手にしました。そして完全に魅了されました。MAKEには、技術オタクでありながら自分の手でものを作る方法を知っている素晴らしい人たちが集まっていました。私のスケッチブックは、自分で作りたいDIYプロジェクトのアイデアで埋まっていました。しかし、私はまだ壁を感じていました。私を助けてくれるMakerのコミュニティを見つけられずにいたのです。私がやりたいと思っていたプロジェクトは、どれも無線が必要でウェブをベースにしていました。そこまで深い技術的な知識のない私には、手が出せません。

私のような人は大勢いると思います。ちょっとギークで、でもバリバリの「ディープギーク」じゃない。無線でウェブに対応したプロジェクトを作りたいけど、どうしたらできるかわからない。それが可能なのかすらわからない。Pinoccioは、そんな人たちのための足場になります。箱から出して、ほんの数分で無線でウェブにつながります。数週間から数カ月持つ充電式バッテリーが内蔵されています。あとは、あなたがこのプラットフォームの可能性を引き出すだけです。あらゆる部分に労力を費やすことなく、あなたのプロジェクトの特別な部分にだけ集中してほしいんです。

Pinoccioを使えば、私が長年夢見てきたようなクールなプロジェクトが、誰にでも作れるようになると考えると興奮します。クリエティブで才能ある人たちの助けになるツールを作ることには、本当に魔法を感じます。そこには物事を倍増させる驚きの効果があります。

EW:Pinoccioは大きなシステムの中のひとつの電子部品と見ることができます。単なる内蔵型の機能のセットというふうに。あなたとEric Jenningsは、Pinoccioのこの問題に対して別の方向からアプローチする必要があると見ています。何がそうさせたのですか?

SC:製品をデザインするとき、私は2つの基本的な質問を自分に問いかけます。「これは便利なのか?」と「これは望まれているか?」です。私はこのどちらにもイエスの答が欲しいんです。

もし私たちが、Pinoccioを「単なる内蔵機能」と考えていたなら、もっと便利で、しかし望まれないものを作っていたでしょう。そして、コモディティ化のリスクを冒すことになります。顧客は私たちに特別な忠誠心を持たず、店で似たような機能の製品を比較して、価格で選ぶようになります。これが市場に出た最初の製品であったとしても、いずれは安い模倣品に負けてしまいます。

なので、私たちは便利であって、しかも、望まれていることを大切に考えます。それはどんなものか。Sugruを例に説明しましょう。Sugruはこの魔法です。自分で固まるゴムで、工具、エレクトロニクス、家の中の日用品など、実質的になんでも直せて、改造もできます。私はサンプルのパッケージを数カ月放置していました。それが何かを私はわかっていたし、便利であることもわかっていた。でも、私の中に、それを望む気持ちがなかったのです。

秋になって、私は自転車で通勤していたのですが、新しいヘッドライトにイライラしていました。オンオフのスイッチが凹んだところにあり、厚い手袋をはめた手では操作できません。そこでSugruを使ってボタンを大きくして、背を高くしました。翌日、Sugruが固まると、手袋をはめてスイッチを操作してみました。ずっとよくなりました。自分がすごく頭のいい人間になったような気がしました。その瞬間、私はSugruに恋をしました。私をとてもいい気分にさせてくれたからです。自分が賢く、有能で、勤勉であることを感じさせてくれたからです。

こうして、Sugruは私にとって便利であり望まれるものとなりました。賢くて有能な気分になりたいので、また使いたい。私は、私が作ったものを友人に自慢したくなります。重要なのは、Sugruそのものより、それが私をいい気分にさせてくれたことです。そのとき、Pinoccioで私たちが目指すべき方向について、「アハ!」と気づきました。使う人が賢くなって、いい気分になれる便利なツールを作りたいと考えたのです。プロジェクトのモチベーションが下がらないように、入口の障壁を取り除きたい。そして、作ったものを公開してほしい。インターネットで見せびらかしてほしい。同じようなプロジェクトを作ってる人たちと力を合わせてほしい。

EW:Pinoccioのユーザーエクスペリエンスのデザインは、どのように行うのですか? 他の製品と違う点は?

SC:ウェブのデザインをするときは、機能するプロトタイプをできるだけ早く組み上げます。スケッチで構成されるクリック可能なシミュレーションの段階であってもです。それから、実際のユーザーとテストを行います。しかし、ハードウェアではこれが簡単ではありません。機能するプロトタイプを作るまでに、もっと長い時間が必要です。

そこで私たちは、Open Source Hardware Summitなどのカンファレンスを利用して、潜在的顧客から、過去に何をしたかを聞いて回ります。ウェブに接続できるプロジェクトに挑戦したことはあるか、そのプロジェクトをどう実現させたか、どんなツールを使ったか、どこにイライラしたか、うまくいったものはあるか、などです。これは、Pinoccioを使いたいかと聞くのとは、または、どんな機能に期待するかと聞くのとは、まったく違います。私たちは、ターゲットとする人たちの過去の実体験を元に、今ある困難な部分を割り出して、そこから機能を形作っていくのです。

EW:Pinoccioのデザインプロセスでびっくりした点は?

SC:まさに驚いたことがあります。そしてそれは今でもずっと驚きなのですが、コミュニティの素晴らしさです。みんな非常に頭がよくて、創造的で、しっかりとした意見を持っています。驚くほど寛容で、彼らと考えを分かち合って協力し合うのが最高に楽しいのです。コミュニティのメンバー同士で、ものすごい数のアイデア交換がすでに行われていたことに、私は驚いたのだと思います。これは本当に実りあるものです。そして、オープンソースハードウェアの会社だからこそ、それが可能だったのです。

EW:Pinoccioのデザインプロセスで最大の難題はなんでしたか? それをどう克服しましたか?

SC:ウェブベースの製品の場合、なんとか「実用最小限の製品」を作って、いち早くユーザーの手に届け、彼らがどう反応するかを見て、そこから有機的に製品を作り直していくことが大切です。ソフトウェアなら、もっと安く早く実用最小限の製品が作れるのでずっと楽です。

ハードウェアは遅い。お金もかかる。そして本質的に「ウォーターフォール型プロセス」です。つまり、直線的な依存関係が連続していて、ひとつの段階が完成しないと先に進めません。それぞれの段階で、ボードのデザイン変更、部品の注文、プリント基板の注文、ボードの組み立て、テスト、リンス、これを繰り替えさなければなりません。ひとつのサイクルで数週間から数カ月かかります。ウェブ開発なら、このサイクルは数時間か数日で楽しくできます。

私たちがこれに取り組む方法は、社内で組み立てることだと思います。それにより、私たちが慣れ親しんだアジャイル方式、つまり、素早く繰り返し洗練させていく方式の利点を採り入れることができます。繰り返しのサイクルを引き締めることができるのです。

EW:ユーザーエクスペアエンスではあまり問題とされない、よくある失敗にはどんなものがありますか?

SC:ハードウェア、ソフトウェアに限らず、すべての技術系製品で、最初に機能を考える傾向があります。出発点として、技術的要件をリストアップするのです。

それに対して私たちは、私たちのお客さんは誰なのかをじっくり考えます。私たちは、Peter Merholzが提唱する「情緒的要件」を考えます。彼らのニーズ、モチベーション、ゴールは何か? 何が彼らを興奮させるか。何が彼らを怒らせるか。どうしたらPinoccioが彼らの生活にフィットするか。どうしたら日常にフィットするか。私たちは、これらの疑問に、民族誌学や面接を加えたさまざまな定性調査で答えていきます。特定の製品や機能を気に入るかどうかをターゲットの人々に聞くだけでは十分ではありません。よく知られているように、人は自分のことをうまく表現できないのです。彼らがどうするか、何を好むかを直接聞くよりも、彼らが実際にどうしているかを観察するほうが得策です。

自転車のライトの話に戻りましょう。デザイナーは、ライトをデザインしていることを理解していました。彼らはいくつかの機能について決断をしました。どんな機能がほしいかを顧客に聞くこともできたはずです。そしてライトには、点滅(視認性を高め電池を長持ちさせる)、点灯ロービーム、点灯ハイビームの3つのモードを持たせることにしました。インターフェイスについても考えました。どうしたらひとつのボタンでオンオフとモードの切り替えができるか。ボタンひとつというのは、コストの制約から決まったことです。フラットなゴムのボタンは、雨にも耐えられる防水仕様になります。しかし、実際にその製品を人に使ってもらったでしょうか。研究室の中だけでなく、現実の世界で、普通の日に。アメリカでは、秋の終わりにサマータイムが終わると、途端に暗い道を自転車で帰ることになります。私が自転車のライトを使い始めるのもこの時期です。気温も低くなるので、手袋をします。私のような人間を、日々のいろいろな条件で観察していれば、手袋をした手でボタンを押すのがどれだけ大変かがわかったはずです。私が小さく悪態をつき、もう二度とこのメーカーの製品は買わないと誓う声が聞こえたはずです。

すぐれた製品は、使う人間に頭がよくなったように感じさせると私は思います。複雑な技術系の製品を作ったとき、ユーザーエクスペリエンスで失敗したら、利用者はこう思うでしょう。「コンピューターは苦手だ」と。しかし、それは彼らの責任ではありません。作り手の責任です。自分が馬鹿になったように感じさせるような製品を、使い続けたいとは誰も思いません。フラストレーション、我慢、問題の対処などは、非常に貴重な情報です。ニーズに対応していないというサインです。私がSugruを使ってボタンを押しやすくしたのも、問題の対処です。ニーズに対応していないというサインでした。

鍵となるのは、誰がお客さんになるかということです。そして、彼らにどれだけ気持ちを近づけるかです。そこから製品を形作るのです。

EW:現在開発中のPinoccioシールドには、ユーザーエクスペリエンスをどう拡大していますか?

SC:私たちはお客さんと話をして、彼らが体験した既存のツールの問題点を割り出しました。また、Pinoccioで何を作ろうとしているのかも聞きました。私たちは、IndieGogoキャンペーンの支援者たちを対象に、Pinoccioを使った最初のプロジェクトはどのようなものになるかを調査しました。その答えから、最初にどのようなシールドを作ればよいかがわかります。いくつかのシールドができたら定性調査を行います。実際の利用者が、典型的な一日に典型的な設定で使う様子を観察するのです。たとえば、Pinoccioで何かを作っている人がいるMakerスペースを訪れ、プロジェクトの様子をこっそり見させてもらうこともあるでしょう。どこで行き詰まるか、どこでイライラするか、助けが必要か、などを見ます。それが次のサイクルでエクスペアリエンスの改良に役立ちます。

EW:無線の世界には、また、無線を使ったもののネットワークの世界には、数多くのソリューションがあります。この分野でのユーザーエクスペリエンスにおける難題とはなんでしょう? そこでPinoccioはユーザーをどう助けるのでしょう?

SC:今のところ、そうしたソリューションの大半は、(1)ディープなギークにしか扱えない技術的に難しいものか、(2)ホームオートメーションのように、ユーザーフレンドリーだけど特定の利用に限定されたもののいずれかです。

私たちの課題は、さまざまな利用に対応する十分に拡張可能なシステムを作ることです。ディープなギークたちの興味を失うことのない十分に頑強なシステムであり、それでいて、あまり技術に詳しくない人にも理解できて使えるものです。最終的には、あまり技術的でな人たちが簡単に素早く使えるようになるウェブベースのツールを揃えます。

EW:あなたとEric Jenningsは離れた場所に住んでいますね。それでもいっしょに会社を立ち上げた。いっしょに仕事をするためには、どんなツールを使っていますか?

SC:ええ、Ericはリノにいて、私はアンアーバーにいます。Ericと私はいろいろなツールを使っていて、自分たちにとってうまく機能する設定にしてあります。通常はIMをバックグラウンドで走らせていて、1日中、互いにPingを送っています。また、毎日、Googleハングアウトも使っています。基本的にはScrum用語で言うスタンドアップミーティングをしています。まだ若い会社なので、話が長くなっても困りません。製品に関する細かい決断から、長期的なロードマップに長々と話が及ぶこともあります。

コードの共同作業にはGitを使っています。非同期のコミュニケーションができる社内のドキュメンテーションサイトもあります。WordPressでP2テーマを使っているだけです。これは、短いアップデートから、有機的に長い討論に発展するような話に向いています。常に新鮮な情報を含むページのアーカイブもできます。簡単に検索ができて、参照が可能です。

EW:Pinoccioの将来のゴールは?

SC:Pinoccioを、普通の人の工房やMakerスペースやアートスタジオにある、なんでもないツールにしたいんです。ダクトテープの横に転がってるような。アイデアが湧いたら、Pinoccioをひとつかふたつ取り上げて、さっとプロトタイプを作る。これがまったく特別なことでなくなることを望んでいます。Pinoccioはただの道具です。惜しげもなく使えて、可能性を拡大する。もの(ボードそのもの)は重要ではありません。重要なのは、作りたいものが作れるようにするということです。そして使った人に、スマートで、勤勉で、賢くなったような感覚を与えることです(実際にそうなんですけど)。

– Eric Weddington

Eric WeddingtonはAtmelのオープンソースとコミュニティ担当のマーケティングマネージャー。

原文