Electronics

2009.03.10

Klutzが "BristleBots" を無断出版? その顛末記

Text by kanai

アメリカで人気の子供向け科学本などを出しているKlutzが、Evil Mad ScientistsのBristlebot(歯ブラシの頭にマイクロモーターを付けて振動させて走らせるアレ)を無断で本にして発売していたことがわかりました。問題発覚から解決まで、数日にわたってリアルライムで追いかけた、Phillip Torroneの3つの記事を要約してお届けします(訳者)。
2007年にMakeで紹介した BristleBotsを覚えてる? あれはMakeテクニカルアドバイザリボードのメンバー、Evil Mad Scientistsの記事だった。WindellとLenoreは、次から次へと楽しい物を作っては公開してくれるが、悲しいことに、KlutzとScholasticは彼らの作品とアイデアを無断で使ってしまったようなのだ。ボクはKlutz(およびScholastic)からのコメントを待っていた。彼らから何かあれば、記事を更新しようと考えていたのだけど、1日経っても返事がない。その間に、他のサイトにもこんな記事(DVICE)が出始めてしまった。ボクとMarcがニューヨークのトイフェアーで見つけたのは、この本だ。
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ちなみに、ボクがKlutz、著者のPat Murphy、彼らの法律事務所、広報グループScholasticの広報に送ったメールの内容は以下のとおりだ。送ってから24時間経過している。電話もかけてメッセージを残している。

今年も、Klutzの素晴らしい展示ブースと素晴らしい新刊の数々を見てうれしく思っております。しかし、Pat MurphyおよびKlutz Labsの科学者による”Invasion of the Bristlebots”という本を見たときは、いささか驚きました。
貴社ブースで広報担当者に詳しい話を伺ったところ、この新刊は「Pat MurphyとKlutzによって製作されたもの」とのことでした。見本を開き、奥付や謝辞などにその他の名前を探しましたが、ひとつも見あたりませんでした。そこに私が探したのは、”Evil Mad Scientists”、Windell Oskay、Lenore Edmanといった名前です。Bristlebotは、2007年に彼らが考案したプロジェクトです。オンラインをはじめ、その他のいかなる場所にも、彼らが作り出すまで、先行事例はありません。
私は事務所に戻り、WindellとLenoreに電子メールを送り、何らかの形でKlutzと仕事をしたか、または、Klutzからの申し出があったかと尋ねましたが、そういった事実はないとの答えでした。他の企業の場合、彼らと共同の仕事を行った際には、彼らのアイデアをライセンスする形で行ってきました。または少なくともクレジットを入れてもらっています。2007年以降の彼らの仕事を下に示します。
Bristlebot:一方向に進む小さなVibrobot
http://www.evilmadscientist.com/article.php/bristlebot
Googleでの最初のリンクは、すべて “the bristlebot” という名前の、Evil Mad Scientistsのプロジェクトです。
http://www.google.com/search?complete=1&hl=en&q=bristlebot
最初に掲載されたのは2007年12月19日でした。1年以上も前のことです。私たちは、このプロジェクトをMakeにも載せています。私は、WindellとLenoreにKlutzにコメントを求める旨を知らせました。今回の件につきましては、Makeに記事として掲載する予定です。つきましては関係の方に、以下の質問にお答え願いたく存じます。

  1. KlutzまたはPatは、Evil Mad Scientistsのこのプロジェクトを知っていたか? 名前も内容も、まったく同一です。—-独自に開発されたものとは、とうてい考えられません。
  2. KlutzまたはPatは、この本が出版させる前に、Evil Mad Scientistsへの連絡、または協力要請を検討したか?
  3. 通常、Klutzが本や製品を作るとき、そのアイデアを最初に考案した原作者と、どのように話を進めているか?

私は、YouTubeにて、Klutz関係者が、オリジナルのビデオに対する”動画レスポンス”をアップしているのを見ました。”これは、次の動画への動画レスポンスです:How to make a BristleBot – Evil Mad Scientist Laboratories”http://www.youtube.com/watch?v=q2Ps95xuAp4
これは、Klutzの関係者がオリジナルのプロジェクトの存在を知っていたことを示しています。しかし、今回の件を記事に書くまえに、私が今求めているのは、明確な説明であります。電子メールでのご返答をお待ちしています。

WindellとLenoreの反応は次のとおり。

「初耳だよ。率直に言って、ちょっと気を悪くした。Klutzはいいものを作る会社なのに、ボクたちに一言もなかったとは驚きだ。使用許可の依頼も、クレジットもなしとは(ブラシを使った移動運動のアイデアは、ちっとも新しいものじゃない。誰でも考えつくものだ。しかし、Bristlebotという名前は明らかに我々が考えたものだ。歯ブラシから自然にそれを連想するとは、とうてい思えない)」

トイフェアの映像。BristleBotsの本が映っている。

そしてこれが、2007年に Evil Mad Scientists が発表したビデオ。200万ビュー以上を記録している。


Evil Mad ScientistsのサイトにLenoreが載せた記事

Klutz製のBristlebots?我々の仲間がニューヨーク・トイフェア (Makeの取材記事を参照—-すっごく楽しそうだった!)を訪れたとき、Klutzの新刊本を見つけた。”Invasion of the Bristlebots” だ。Klutz(あるいはScholastic)からの話は一切なかった。ブラシで走るVibrobot運動の扇動者として、また、Bristlebotという名前の考案者として、びっくりした。2007年に公開した我々のオリジナルの記事はこれ。Bristlebot: A tiny directional vibrobotそしてここに、トイフェアでの今回の一件に対するDIYコミュニティーの反応をまとめてみた。

みなさん、ご支援ありがとう! この件にどう対処すべきか、現在検討中。KlutzとScholasticからの見解も待っているところなので、新しい動きがあったら、なるべく更新していきます。


Scholasticのブログに掲載された見解

Klutzは当社の新刊本に対するこうした反応に、心底驚いております。”Invasion of the Bristlebots” の製作は、Klutzの創作チームが少なくとも2007年初頭に、Klutzの他の製品と同様、内部で行われました。今回の件は誤解に基づくものと考え、私たちは Evil Mad Scientist Laboratoriesと接触し、本件の問題解決に努めたいと考えています。

KlutzとScholasticの見解を見る限りでは、彼らは2007年の始めにBristleBotsを100%内部で考案し、(同じ2007年に)Evil Mad Scientistsも、まったく同じものを、まったく同じ名前で考案したということだ。しかし、KlutzとScholasticは、Evil Mad ScientistsのBristleBotがインターネットでセンセーションを巻き起こしたとき、彼らに何も言ってこなかったというのも、”心底驚く”ことだ。
Klutzは、自社開発したたくさんの言葉や名前を登録商標にしているのに、BristleBotsはしていない。これからするつもりなのか? KlutzとScholasticはEvil Mad Scientistsに対して、Klutzの本より前に存在していた彼らのプロジェクトを引っ込めるように要請する気でいるのか?
Klutzのマーケティング用資料には、「YouTubeでは、熱心な物作り愛好家たちがモーターを載せた歯ブラシを見せ合っているが、とてもかわいらしく感銘を受ける」と書かれている。このメッセージに従えば、KlutzはBristleBotを誰よりも早く考案したが、同時に、まったくの偶然によって、まったく同じプロジェクトが同じ名前で登場したことになる。しかも、YouTubeでは、Klutsとその創作チームが、秘密裏に、同じ名前の同じデザインの何もかも同じのプロジェクトを開発していた同じときに、多くの人たちがそれを自作して見せ合っていたということだ。しかし、この奇妙な偶然に対して、Klutzは誰にも何も訴えていない。


この問題がわかってから4日後、ようやくScholasticから返答があった。

From: “Good, Kyle”
Date: February 20, 2009 11:21:40 AM EST
Subject: RE: “bristlebots” book from klutz
かねてから申し上げているとおり、私たちは偶然という観点からこの問題の解決を求め、Evil Mad Scientist Laboratoriesに連絡をとっています。しばらくお待ちください。…. Kyle

ボクはここで著作権とか登録商標とか特許とか、そんな話をしているのではない。 KlutzとScholasticが、Makerの世界でどんな企業になりたいか、という話だ。
ScholasticとKlutzのマーケティング担当は、YouTubeのEvil Mad Scientistsのページに、まったく同じ名前と同じデザインの本とプロジェクトの宣伝として、ビデオを追加している。


この本の著者、Pat MurphyがBoingBoingにコメントを載せた。

私たち(私とKlutzのスタッフ)は、なるべく早く(できれば今日中に)Lenoreと話し合いの場を持ちたいと考えています。


Evil Mad ScientistsのLenoreからの報告。

(Feb. 20, 12:53pm PST): 今、Klutzと電話でよい話し合いができた。これから、Evil Mad Scientist Laboratoriesの謝辞をどのような形で入れるかを決めることになります。


そしてこれが、今回の騒動の最後の締めくくり。- Evil Mad ScientistのLenoreより

KlutzのPat Murphyが覚書を送ってくれることになりました。“Invasion of the BristleBots”の次の刷から、そしてKlutzのウェブサイトに Evil Mad Scientist Laboratoriesへの謝辞を入れるという内容です。これは私たちにとって、いいニュースです。Klutzも、今回の経験からMakerのコミュニティでやっていく方法を学んでくれたと思います。今回の騒動に対するオンラインの反応はすごいものがありました。大変に活発な議論ができてうれしかった。そして、私たちに対する多大な支援に感動しました。心より感謝します。

訳者から:丸く収まってよかった。Makerのコミュニティは寛大だね。みんな仲間だもんね。オープンソースハードウェアの時代になると、他人のアイデアを自由に利用できるようになる反面、作者への尊敬や礼儀が今より大切になるよね。互いを思いやって共に発展するコミュニティを目指しましょう。
原文1原文2原文3]