Crafts

2010.01.15

書評:Cory Doctorow著『Makers』

Text by kanai

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Makerの世界に身を置いている我々は、これから先、私たちがどうなっていくのかを心配しないわけにはいかない。ある時点で、ちょっと前までの数十年間のような世界に戻ってしまうのだろうか。あのころ、クラフトはおばあちゃんがするものであり、物作りは中年の技術指導員のすることであり、DIYらしきものと言えば、ビデオの録画設定を自分ですることだった。物は修理せずに捨てる。お金を借りて粗悪なガラクタを買う。まさに暗黒時代だ。
そんな生活にはもう戻らないと誰もが同意するだろうけど、疑問は残る。今のDIYムーブメントはどこへ向かっていくのだろうか。Cory Doctorowの最新刊『Makers』は、そこに焦点を当てて数十年先の未来を描いた小説だ。話の舞台は、従来の経済が完全に落ち込んだ世界だ。そこで立ち上がるのは、そう、ハードウェアハッカーにDIY愛好家にMakerといった面面だ。
物語は、コダセル社の重役、Landon Kettlewellの記者発表から始まる。コダセルは、コダックとデュラセルを合併させるという、突飛な構想から生まれた会社だ。破綻した2つの企業を合併させることに、いったいどんな意味があるのか。Kettlewellの夢は、DIYプロジェクトに資金とノウハウを提供して利益を得ることに特化したMaker企業を作ることにあった。2人組がガレージで事業を立ち上げるためには、5万ドルあれば足りる。コダセルは、そんな人たちに資金と経営マネージメントを提供するかわりに、収益の一部を徴収する。
当初、Kettlewellの革命(作者はこれを “ニューワーク” と名付けている)は、社員の引き抜き横領など、勢いのある企業には付きものの問題はあったものの、成功が運命づけられているように見えた。そこに、PerryとLesterという2人のスターMakerが登場する。山ほどのアイデアを抱える風変わりな物作りの達人だ。Kettlewellは、技術系ブロガーの Suzanne Churchを説き伏せてフロリダに送り、彼らを取材させた。さらに、彼らのアイデアを金にするためのビジネスマネージャーを送り込んだ。この5人が、この物語の中心人物だ。
ニューワーク革命は、卑劣な投資家や、やたら銃を撃ちたがる警官や、Makerたちの商才の欠如といった大きな問題に直面する。彼らは新製品で賭けに出て、成功と失敗を繰り返すが、そこでドクトロウは、オープンソース技術がビジネスの世界でどんな役割を演じるかを探っている。
私はこの主人公たち、とりわけ、Perry、Lester、Suzanneが好きだ。彼らの言動には同意しかねる部分もあり、あまり好きになれないこともあるが、それが単なるステレオタイプではない奥深い人物像の形成に役立っている。
もちろん、悪役も登場する。善良なハッカーやブロガーを脅かす存在だ。たとえば、執念深いブロガーのFreddy、強引なディズニーの重役たちだ。しかし、もっとも大きな問題の元凶となるのが、ナードたちの内部的な摩擦だ。貪欲な背広組みに煽られてアイデアを金にしようとする一方で、努力に見合った報酬を得つつ自尊心や倫理観や尊厳を守り抜こうともがく。
Makerムーブメントに魔法は残っているのか? 背広組みと共存できるのか? PerryとLesterは、己の精神の堕落と何度も何度も戦うことになる。彼らは金持ちになろうとは思っていない。何かを作っていたいだけだ。その意味で『Makers』は、未来予測小説であると当時に、警鐘でもある。
物作りの未来について、楽しみながら考えてみたい方にお勧め。
『Makers』
Cory Doctorow 著
出版社: Tor Books
ISBN: 978-0765312792
ドクトロウは、自身が推し進めるクリエイティブ・コモンズCommunity Commonsの考え方に従い『Makers』を無料ダウンロードできるようにしています。
– John Baichtal
原文