Fabrication

2010.02.19

Maker Business: 冒険に出る前に……

Text by kanai

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Maker Businessシリーズの第一弾を飾るのは、Jeffrey McGrewだ。彼は妻のJillian Northrupと、Frankと名付けた頼もしいCNCマシンと共に、2人(とロボット)だけで設計と製造を行っている。カリフォルニア州オークランドにある彼らの設計製造スタジオでは、注文生産による家具や、Maker Faireにも出展してくれた“Art Golf” コースなどが生み出されている。そんなJeffreyから「Makerのプロ」を目指すみなさんに向けたアドバイスを語ってもらった。– Gareth

冒険に出る前に

Jeffrey McGrew(Because We Can
この仕事をどうやって始めたのか、多くの友人や周囲の人々に聞かれる。また、Maker Faireを通じて知り合った人たちの中には、プロを目指している人が多いことも知った。そこで、こうしたビジネスを始めるにあたり、重要だと私が感じた6つのことを話したいと思う。これがみなさんの役に立てば幸いだ。また、みなさんからの意見も伺いたい。 [コメントをよろしく。-Ed]
1. できるだけ負債を減らし、開業資金は借りない
経済的なことを第一に考えていたら、ロボット(CNCマシン)を買って事業を始めるなんてことは、永遠にできなかっただろう。私たちは、6カ月かけて資金を貯めた。半分払い終えた車のローン以外に借金はない。開業資金として大きな借金をしてしまっては、急いで大きな利益を上げなければならなくなる。試行錯誤でじっくりと学びながら事業を進めることができなくなるのだ。私は、ビジネスを始めたいが、このひとつの問題のために始められないという人たちに大勢会ってきた。どんなにいいアイデアがあっても、重労働に耐える覚悟があっても、幸運に恵まれていたとしても、出だしから財政難ではうまくいかない。さらに、実際の話、事業が動き出せば、これまでの優先順位や、いちばん大切に思ってきたことが、大きく変わってしまうものだ。本当に満足してれば (自分で事業を興せば幸せになれるはずなのだが)、必要最低限のものがあればいい。だから、小銭を貯めて、最高やら最新のものを求めようとせず、ローンやクレジットはきれいに精算して、大きな一歩を踏みだそう。
2. 計画に価値はなく、計画することに意味がある
これはウィンストン・チャーチルの言葉だ。事業を始める際に必要な心構えを的確に言い表している。完璧な計画を立てる必要はない。ステップごとに細かく予定したり、大きな工程表を描いても意味がない。確かに計画は必要だ。ただし、柔軟に計画変更できる機転が重要だ。ビジネスは、ロケットの打ち上げとは違う。むしろ船の航海に似ている。つまり、計画も準備も大切だが、新たな視野が開けたところで針路を再検討する必要がある。それによって大きな変化が生じるかもしれないが、それに応じて、方向性や計画やアイデアも変えていくのだ。あなたの事業を受けて周囲の世界に変化が生じれば、その都度、目指すべき目標を変える。だがその目標に至る途中で、まったく別の方向へ行きたくなることもある。そんなときは、あまり深刻に考えないほうがよい。完璧に計画しようとして考えすぎるのはよくない(だから最初の一歩が踏み出せないのだ)。そうでなければ、計画通りに事が運ばないときにパニックに陥ってしまう。とは言え、無計画に針路変更するのは危険だ。
3. 他人の意見をしっかり聞きつつ、振り回されず我が道を行く
知りすぎるのは、知らなすぎるのと同じぐらいよくない。知りすぎると他人の言葉を聞かなくなる。知らなすぎると、無謀なことをしてしまう。そこで、みんなの意見を聞き、手に入る情報を読むことは重要だが、同じぐらい、誤報や悪い誘惑や不適切な情報を無視することも大切だ。しかし、その情報が有意義か害毒かを見極めるのは難しい。つまり、中道が一番ということだ。他人の意見はよく聞く。しかし自分ひとりでも頑張ってみる。周囲を見る。そして失敗する。それを恐れてはいけない。自分が考えるほど、周囲の人たちは気にしていない。親しい友達や家族までもが、自分が一生懸命に取り組んでいることに、ほとんど興味を持っていないと知ったときは、たしかにショックだ。さらに、それが独創的なことであれば、部外者が理解できなくて当然だ。顧客やクライアントに対しては、自分がどのような価値を提供できるかを理解してもらうのは絶対に必要なことだ。銀行や投資家に自分のビジネスがどのようにして成り立つかを理解してもらうことも大変に重要だ。しかし、母親にわかってもらわなくても、大した問題ではない。まして、批判ばかりする有象無象の理解を求めることに意味はない。事業が続いていて、そこそこ食えていて、あなたが幸せなら、お母さんは満足なのだ。
4. 跳ぶ前に見る(そして学ぶ)
そして、跳んだあともしっかり見て学ぶ。今、どこかに務めていれば、同僚や、特にボスとの会話で、さまざまなレベルの知識や経験を得ることができるが、一人で事業を興したあとは、そうした知識を得るために何千ドルもの費用がかかるようになる。会社の事務作業、経営業務、財政報告といった退屈な仕事もそうだ。自分が会社を興したとき、そうした作業にどれだけの時間とコストとエネルギー(それにくだらないミス)を費やさなければならないかを考えてみよう。だから今のうちに、できるだけ多くの人と話して、得られる知識を得ておくのだ。今の職場が何であり、自分で思っている以上の価値ある情報が得られるはずだ。今の業種とはまったく別の仕事を始めようと考えているなら、なおさらだ。家庭学習も大切だ。Noloなどの情報サイトで必要な知識を学んでおこう。今のうちにしっかりと基礎を固めておくのだ。仕事を始めてしまったら、とてもそんな時間は取れなくなる。今の職場から何も持たずに出てしまうのは、じつにもったいない。
5. いつもしっかりとした第二案を用意しておく
もちろん、私は自分のビジネスが今も将来も、ずっと成功してくれたらいいと願ってる。しかし、とくに起業間もない小さな会社に、襲い来るすべての嵐に耐えられるだけの力はない。私たちの場合は、いざというときのための拠り所がある。Jillianは写真家だ。私はRevitの講師という仕事がある。そして、CNCで素材をカットするという仕事は、いつでもできる。この仕事がうまくいかなくなっても、食っていくことはできる。新しい職業経験を積む必要があると感じたら、手っ取り早くアルバイトという手もある。「自分の会社に人生をかける」というのは聞こえはいいが、いつもお金のことを気にしていては、いい仕事はできない。退路を断ってはいけない。いつもどこかに繋がりを持っておこう。つまるところ、大切なのは人だ。そして、楽しく仕事をすることだ。
6. すでにニッチ市場を見つけていても、気づいていないことがある
私は昔気質のギークだ。D&D、コミック、アニメと、そのときあまりクールじゃないものに凝っていた。また、コンピューターにも精通して、いろんなものを動かして遊んでいた。私には建築業での長い経歴があり、デザイン一般を愛するが、黒いタートルネックを着た、昔ながらのデザイン業界の人たちよりも、アーティスト、エンジニア、職人、プログラマ-との親交が深い。何かニッチなもの、自分が得意なもの、他人に真似のできないものがあれば、ビジネスの強みになる。私たちがこの会社を立ち上げたときは、ゲーム会社やソフトウェア会社の内装をやろうとは考えていなかった。ただ、いいものを作りたかっただけだ。ロボットを使って手頃な価格で、自分たちが作りたいものを作っていたら、それが、ギークな趣味も手伝って、今のクライアントの希望にぴったり合ったというわけだ。私たちは、彼らの世界にうまくハマった。みんなにも、自分がハマる世界があるだろう。それがビジネスにどう活かされるか、まだハッキリ見えてこないかもしれない。しかし、頭を使って考えれば、いつかかならず、それが力になる。
原文