Electronics

2013.06.22

[NUC HACK]メカエンジニア岩崎修の人形劇場『森のオルゴール』

Text by pr

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2013年6月15日に開催されたMaker Conference Tokyo 2013(MCT2013)では、Makerたちのものづくりを支援するインテルが、「NUC HACK」と題して、手のひらサイズで驚異的なビジュアルと高性能を実現するPC、インテル(R) NUC を使ったアーティストたちのバラエティー豊かな作品を公開しました。本ブログ記事では、Makerたちの創造力をかきたてるアーティストたちがつくった作品を紹介していきます。[登場アーティスト]Rhizomatiks/高橋隆雄/岩崎修/森翔太

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ある夜のこと、月が森の中にそっとオルゴールを置いていった。森のみんながオルゴールを見つけてハンドルを回すと、きれいな音が流れ出て、みんな喜んで踊りだす……。

愛らしい動物たちが動き、子どもも大人も楽しめるこの電動人形劇場『森のオルゴール』は、メカエンジニアの岩崎修さんと、雑貨・イラスト作家の*mahoさんのジョイントによって誕生した。ふたりは子どもが同じ保育園に通っていることから知り合ったという。

*mahoさんは、紙に描いた人形を子どもが小おどりして喜ぶのを見て、人形劇場なら他の子どもたちにも喜んでもらえるのではないかと考えた。一方岩崎さんには、自分が機械を作っている過程を子どもたちに見せたい、人形が動くしくみを見せたいという思いがあった。そう、劇場は、裏や脇から中をのぞきこむと、人形が動くしくみを観察することができるようになっている。

この人形劇場は、作る過程や、子どもの「どうやって動いているのか?」という疑問に大人が説明することも、作品の一部なのである。

NUCは舞台監督

ストーリーと美術を担当した*mahoさんは、この作品を絵本のような感じにしたかったという。登場する人形には、あえて立体ではなく切り抜いた段ボールを使用している。両面に下地を塗り、絵具を重ねて彩色。平面の人形なのに存在感があるのは、手間をかけて作られた衣装の魅力によるものが大だ。

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人形劇場は、人形の下に回転機構が、舞台の両袖には人形の送り出し機構が取り付けられている。動物たちは、舞台下に配置されたレールに沿って劇中に送り出され、演技する。

回転機構と送り出し機構はArduinoが制御しているが、そのArduinoに指令を送り、演技を制御しているのが、手のひらサイズのPC・インテル(R) NUCだ。NUCにはディスプレイやキーボードは接続せず、Windowsのリモートデスクトップ機能を使用して、使い慣れているPCから設定・操作できるようになっている。

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動物たちの振る舞いは、NUCにインストールされた舞台演出用のアプリケーションVenueMagicで動きのデータを作成し、再生してArduinoなどに指令する。VenueMagicは舞台のライティングと背景の特殊効果のプロジェクション制御も担っているので、NUCはさしずめ総合舞台監督といった役どころだろう。

もっと気軽にメカ工作を

かつてロボットやメカの世界では、制御用に専用の産業用コンピューターや自作のコンピューターしか選択肢のない時代があった。ハードウェアの人、ソフトウェアの人、メカの人というように、知識をもった専門家の領域だったのだ。しかしいまは、NUCのように小型で手軽な値段のPCを使えるようになり、モーターを動かすためにArduinoなどと組み合わせ、ソフトウェアを用意すれば、人形劇場のような作品を一人でひととおり制作できる。

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作品の制作には、岩崎さんのアトリエのCNCミリングマシン(削り出し機)、3Dプリンターなどのパーソナルファブリケーション機器が活躍した。メカの部品は専門商社からしか入手できないものも多く、受注生産で入手に時間がかかる場合もある。

この作品では、人形の回転・移動機構を支えるアタッチメントやベースには自作パーツ(写真中の赤色の部品)が使われている。意外なことに、これらの機器を置く工房スペースにもNUCの活躍場所があった。小型で場所をとらず、工作機器の切りくずが入り込みやすいキーボードを交換しやすいなどのメリットがあるという。キーボードやディスプレイを付けずにリモートから運用することも可能だ。

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ところで、パーソナルファブリケーションというとコンピューターで作ったデータでものづくりができる点ばかりが強調されがちだが、アナログ的な試行錯誤が消えてなくなるわけではない。人形劇場の初期の設計では、岩崎さんのアトリエで*mahoさんがどんどん動物を描き、絵コンテを拡大・縮小しながら全体の構成とサイズを決めていった。こんな「現物合わせ」による直観的なプロトタイピングも必要なのだという。

岩崎さんはこの作品の制作にあたって、ほとんどの材料はDIYショップやネットで入手しやすいものにした。やむなく自作したパーツのデータも含めて、設計データすべてを公開していく予定だ。

岩崎さんは、メカもの工作で子どもたちを喜ばせようというMakerが増えていき、工作の連鎖が起きることを願っている。

 

【DATA】岩崎 修:恐竜ロボット制作会社勤務を経て、工房/アトリエMechaRoboShop主宰。エンターテインメント施設や博物館などの「動く展示」のエレクトロニクスやメカ制作を手がける。玉川大学芸術学部メディアアーツ学科非常勤講師。『森のオルゴール』の企画、設計、メカ制作を担当。http://www.osamuiwasaki.com/

*maho:イラスト・雑貨の作家。お絵かき、デザイン、工作、手芸、料理と、「作ること」が主体の生活を送る。『森のオルゴール』のシナリオ、美術制作を担当。

【制作メモ】電動人形劇場の構造にはアルミ製のフレーム、壁面にはMDFボードを使用。NUCは、人形の演技や効果演出のデータを基に、人形の回転・送り出しのモーターを制御しているArduinoや調光器などに指令を送る。

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