Science

2013.08.06

高解像度3D画像がパーキンソン病患者の治療の役に立つ

Text by kanai

先週末、私はワイオミング州ジャクソンホールのYuvalとIdithのAlmog夫妻が所有する牧場で開かれた、Yossi Vardi主催によるCowboys Un-Conference(ICUC)に参加した。こんな美しい場所で、素晴らしい人たちと出会えて本当にうれしかった。そのなかのひとつのハイライトは、デューク大学のGuillermo Sapiroとミネソタ大学のNoam Harelによる脳の3D画像化に関するプレゼンテーションだった。高磁場(7テスラ)を使った新しいMRI技術で脳の高解像度3D画像を作り出し、パーキンソン病患者の脳に電極を埋め込む神経外科手術に役立てるというものだ。この技術は脳深部電気刺激法(DBS)と呼ばれている。このプレゼンテーションでは、科学における技術の役割は大きく、パーキンソン病のような難病に苦しむ人たちの命を救うことができるという意見が示された。

上は、DBS処置を受けた患者の脳の映像だ。脳の特定の部位に電気を流すという治療法だ。手術医は、患者の脳に電極を埋め込む。電極から伸びた電線は、患者の胸に埋め込まれた、心臓のペースメーカーとよく似たコントローラーにつながっている。手術は5〜6時間かかる。その間、患者には意識がある。その後、ビデオでもわかるとおり、患者はパーキンソン病の症状から解放される。刺激のオンオフや、強度の調整など、患者は完全にコントロールが可能で、パーキンソンによる体の震えが制御される。

新しい高解像度MRIを使うと、患者の脳の特定の部分のモデルを作ることができる。そのため、手術医は電極を埋め込む場所を正確に知ることができる。手術時間の大半は、その場所の特定に費やされていた。電極の位置がほんの1ミリか2ミリずれただけで、効果が薄れたり、思わぬ副作用が現れたりするのだ。正しい位置を特定するのが、とても難しかった。

A 3-dimensional model of the mesencephalon, thalamus, and surrounding regions. Volume renderings of the globus pallidus (green), red nucleus (red), subthalamic nucleus (yellow), and substantia nigra (blue) fused with a T2-weighted image.
中脳、視床とその周囲の部分の3Dモデル。淡蒼球(緑)、赤核(赤)、視床下核(黄)、黒質(青)がレンダリングされ、T2強調画像と合成されている。

[画像提供: “An Assessment of Current Brain Targets for Deep Brain Stimulation Surgery With Susceptibility Weighted Imaging at 7 Tesla”, Aviva Abosch et al, Neurosurgery, December 2010.]

一般に外科医が使う脳のモデルは、何年も前にある患者から提供された脳をもとにした参照モデルだ。電極を入れる場所は、目標の部位の一般的な位置から推測する。しかし、この新しい技術を使えば、患者当人の脳の構造から場所を特定できる。参照マップではなく、当人の正確な詳細マップだ。最終的にこうしたMRIは、手術中にリアルタイムで使ようになる。今は手術の前に撮影する形になっているが、その低解像度のMRIが術中の電極の位置の把握に大いに役立っている。

この3D画像化技術を開発したSapiro教授とHarel医師は、DBSがなぜ効くのかを科学者はよくわかっていないと話している。しかし実際に効いている。そこがなんとも面白い。

脳に電極を埋め込むと聞くと、電気ショックを思い浮かべる人がいるかもしれない。電気ショックは、ほとんど否定的な結果しか生まない野蛮な方法だ。DBSはそれとはまったく違う。DBSは非常に正確に特定された脳の位置に電流を流す。これがパーキンソン病患者に有効なのだ。しかし、パーキンソン病患者の15パーセントほどしか、この手術を受けようとしていない。手術時間が長いことを恐れる人が多いようだ。DBSをアルツハイマーが原因で起きる慢性鬱症や記憶喪失に使う実験も行われている。

Harel医師は私に、新しい手法と新しい技術は「新しい利用先を探している」と話してくれた。今はイノベーションの新しい機会を生み出すという、とてもエキサイティングなときだ。技術の非常に小さな応用や平凡と思えるイノベーションの話は山ほど聞く。しかしこれは、ほとんどのMakerに馴染みの深い3Dスキャンやモデリングや電子回路といった要素を含むものでありながら、技術が人の人生を変えるという医学の話だ。「手術中と手術後に、震えから解放されたことを感じた患者の表情が見えるんです」と Harel医師はメールに書いていた。「プライスレスです! この驚きの作業に携わったことが感じられて、最高にいい気分です」

原文