2013.10.01
NASAはMakerと飛び立つ
PhoneSat 1.0
高高度気球でのテストを行うPhoneSat 1.0。
Xaero launch vehicle
再使用可能ロケット、Xaeroのフリーフライトテスト。カリフォルニア州モハベのMastenの施設にて。
Commercial Space Suit
Final Frontierの創設者、Ted Southern(右)とNikolay Mosieev(左)が商用宇宙服を披露。
Flagsuit gloves
Flagsuitの手袋は、柔軟で動きやすく、間接の抵抗が少ない。
“Made in Space” 3D Printer
微重力飛行は、NASAのマーシャル宇宙飛行センターに向かう重要な一歩となる。
先日私は、アラバマ州ハンツビルにあるNASAのマーシャル宇宙飛行センターで、Centennial Challenges Program(100周年チャレンジプログラム)の主任を務めるSam Ortegaに会い、このプログラムについて、そして、技術コンテストに参加したMakerたちのこと、これから参加するであろうMakerたちのことについて話を聞いた。このコンテストは、NASAで役に立ちそうな画期的な技術革新を促すために2005年に開始されたものだ。
The Centennial Challengesではすごい賞品が出るけど、小さなアマチュアのチームや個人のMakerが勝てる見込みはありますか?
もちろん。事実、市民発明家、ホビイスト、Maker、肩書きはなんであれ、そうした人たちがコンテスト参加者と受賞者の大半を占めています。コンテストに出展した技術を売るための会社を作る人もいます。宇宙服の手袋チャレンジで一等賞を取ったのは、メーン州の自宅のダイニングテーブルで作ってひとりで参加したPeter Homerです。二等賞を取ったTed SouthernとNikolay Moiseevは、商用宇宙服の会社を立ち上げました。
2007年のコンテストで優勝した宇宙服の手袋。
今回のコンテストの目玉は月着陸船チャレンジだと思いますが、NASAはそこから何を学びましたか?
月着陸船チャレンジは、最新技術のいろいろな応用方法を引き出すという、私たちのチャレンジの作り方を示すよい例です。これには宇宙の技術と地上の技術の両方が必要です。2005年、月着陸船チャレンジの開発が始まったとき、我々の探査の目標は月でした。そのゴールが変更になった今も、その技術は大変に有用です。
月着陸船チャレンジ表彰式。
優勝した2つのチームは、商業宇宙サプライヤーとして追加契約され。低軌道飛行研究のための宇宙船開発を進めることになった。Masten Space Systemsは、今も高軌道に宇宙船を飛ばして、実験用プラットフォームを提供している。
チャレンジのその後 — NASA Centennial Challengeに参加する意味とは?
月着陸船チャレンジやその他のチャレンジで披露された技術は、NASAの日々のオペレーションに利用されているのですか?
チャレンジの多くは、将来のプログラムで利用できる技術的ソリューションが得られるように設定されています。月着陸船や宇宙服の手袋のようにチャレンジのすぐ後にNASAに採用される技術もあれば、パワービーム・チャレンジのように、民間セクターに技術を売り込んだり、国防総省にサービスを提供する者もあります。
宇宙へ行ったものはありますか?
今のところはまだ、優勝した技術のなかで宇宙に飛んだものはありませんが、記録を残したものはあります。グリーンフライト・チャレンジは、2名の人間を乗せて時速160キロ以上で320キロメートルを、ガソリンに換算して1ガロン相当の燃料で飛べる飛行機を開発するものです。1ガロン「相当」とは、電動飛行機もあるので、そういう計算になるのです。それは、航空技術全般に新しい分野を切り開くものでした。航空業界の人間は、誰もが、このチャレンジの条件をクリアできる飛行機はないと考えていました。チャレンジ2年目にして、それが間違いであったことが証明されたばかりでなく、165万ドルの賞金を得るための条件の2倍の効率を示したのです。
現在は3つのチャレンジがありますが、その中で、個人のMakerに適したものはありますか?
2つは、とくにMaker向けでしょう。Worcester Polytechnic Instituteが実施する サンプル回収ロボット・チャレンジと、Development Projects Inc.が実施する無人飛行システムによる航空オペレーション・チャレンジです。サンプル回収ロボットは、フィールドに置かれたサンプルを回収して、障害物に当たったりフィールドから出たりせずにスタート地点に戻ってくるロボットを作るものです。難しいのは、GPSや磁気コンパスを使ってはいけないという条件です。LIDARと赤外線センサーを使ったものは、Kinectのカメラで障害物を認識するものなど、非常にユニークなデザインが見られました。無人飛行システム・チャレンジも同様です。他の飛行機の飛行パターンと干渉することなく、安全に飛行するための障害物を認識して回避する技術が必要です。
DIYドローンの大きなコミュニティがありますが、その多くはArdupilot愛用者の集まりです。無人飛行システム・チャレンジは、彼らの関心を引きましたか? また、そこからの参加者はありましたか?
先日、このチャレンジのルールを一般公開したのですが、数多くの趣味のグループからの反響がありました。DIYコミュニティでも大きな話題になったはずです。チャレンジは9月末まで、広く一般からの申し込みを受け付けています。申し込みの結果を見て初めて、どんなチームが参加するかがわかるわけですが、大勢のMakerが参加してくれると、私は大いに楽観的に期待しています。
現在のCentennial Challengesが終わったあとは何を目指しますか? 地平線の向こうに、何がありますか?
たくさんのものがあります。高度な製造技術から、金星に送り込んでも大丈夫なように、極限的な環境を生き抜くシステムの開発などです。金星は大変に過酷な惑星です。気温は500度に達し、気圧は90気圧にもなります。加えて、大気には塩素が含まれています。いちばん長く持った科学探査パッケージで2時間でした。私たちは、地表で10時間以上作動できるための技術を探しています。
NASAは3Dプリントの調査を、地上用と軌道上での建設用の両方で行っていますね。どの程度進んでいますか?
私たちは積層造形のチャレンジを作っています。成功するコンセプトを作る過程は、それ事態がチャレンジングです。複雑過ぎたり、限定的なルールにはしたくありません。単純明解で、フェアな競争ができるように客観的なルールにしたいと思っています。また、すべての参加者が、賞金を獲得できた人もできなかった人も、チャレンジの後で、そこで使った技術を別の場所で確実に活かせるバックエンド・ビジネスモデルも作っておきたいのです。積層造形チャレンジのアイデアに関するパブリックコメントの募集を2014年中に開始したいと考えています。Makerのみなさんには、その分野の技術を磨いていただくだけの十分な時間があります。私たちのウェブサイトから目を離さないでください。
そのほかに、Makerの世界からNASAにもたらされた技術はありますか? たとえば、ArduinoはNASAで使われていますか?
Makerの世界からもたらされたものに、無重力で使える3DプリンターとArduinoの2つがあげられます。地表を離れる最初の3Dプリンターは、低軌道を超えるために重要な役割を果たします。
Made in Space製の3Dプリンターが2014年にISSへ打ち上げられる。
人工衛星の小型化に向けての努力が盛んに行われています。cubesatの区分は、1Uが10センチ四方、2Uが10×10×20センチ、3Uが 10×10×30センチという具合になっています。コントロールシステム、電源システム、推進システムなど、すべてを詰め込むための十分なスペースはありません。もちろん、実験用ペイロードのためのスペースも忘れてはいけません。そこで、Arduinoと携帯電話と目的に合わせて小型化されたシステムが求められるようになります。うれしいのは、それによって人工衛星を作るためのコストが劇的に縮小されたことです。大学では、卒業製作に人工衛星が作られるようになりました。あとは打ち上げコストが下がって、独自の科学実験装置を積んだ人工衛星を打ち上げられる機会が増えることを祈るばかりです。
なぜ NASA はチャレンジを行うのですか? コンペや内部でプロジェクトを立ち上げるのではダメなのですか?
チャレンジ形式を採用することで、NASAはひとつの問題に対して、いくつものソリューションを得ることができます。技術や知識や興味や想像力の異なるいろいろな人のソリューションを見ることで、昔ながらのNASAのコンペや内部研究からは得られない、思いも寄らぬ考え方に出会えるのです。解決しなければならない技術的問題は常にあります。そして、機会さえ与えれば、それに対する革命的な答を出してくれる人が、外には大勢いるのだと私たちは信じています。
– Alasdair Allan
[原文]