Crafts

2013.12.24

木を使ったiPhoneケースを作る

Text by kanai

iPhone 3がそれ以降のモデルよりもよかった点は、断面が丸くなっていたことだ。だから、ベゼルの上まで飛び出すことなく、ケースを固定できた。Jimmy Direstaのshop-proofed phone case(工房仕様の電話ケース)がいいと思った方は、Ben Saksのアイデアも気に入るだろう。

Kerf case in oak
Ben Saksの新しいケース。オーク製。iPhone 5にきっちりはまる。

建築家で木工職員のBenが今年の始めにAndroidからiPhone 5に乗り換えたとき、スワイプする指に当たらない、フロントパネルの美観を損なわないケースが欲しいと思った。iPhoneをカバーして守りたい。そこで彼は、回収した古い窓枠の硬木を削り出して、iPhoneの側面の途中までの深さでiPhoneをしっかり抱き込むケースを作った。だが最初からうまくはいかない。彼は学習曲線を辿っていくことになった。

機械で木を切り出す。しかし、1.6ミリの厚さに切った木材は、たとえ年季の入った材であっても、切った口から水分が飛んで縮む。それが第一回戦だった。木材とは、薄くすれば強度が得られない素材だ。ノギスを手に持ち、Benは試し切りした木材の収縮率を記録していった。いい締まり具合に収縮するが、割れてしまわない、ちょうどいい厚さを探らなければいけない。

Spalted Kerf Cases
Benは1本の材から切り出した一対の板を見せてくれた。それぞれ別のプロジェクトに使われる運命だ。左はメイプル材で荒削りされたケースを積み上げたもの。仕上げを待っている。

次なるハードルは、道具を使わずに取り出せる方法を探すことだ。Benは、一体型のケースで、iPhoneをきっちりはめ込んで、摩擦で保持するようにしたかった。彼が出した答は、ケースの内側にコルクを貼ることだった。最初の考えは、ケースと電話の間に厚紙を挟むというものだった。Benは、ワインメーカーがなぜ何百年もコルクの栓を使い続けているかを教えてくれた。コルクは絞り込むと適度な反発力で周囲に密着する性質があるのだ。シャンペンのボトルは、コルクで栓をすると何百年も保つ。それを使えば、少なくともiPhoneの寿命が尽きるまでは、しっかりと保持してくれるはずだ。

コルクは、ちょうどいいフィット感をもたらしてくれるだけでなく、すべて天然素材でというBenの基準にも適合する。私が彼に会ったときは、彼はShopBotの脇に立って、美しいスポルテッドメープルの無垢材についた切り屑を掃除していた。彼は、彼の故郷であるペンシルベニア州ピッツバーグで開かれたアートフェア、I Made It Marketに出展して帰ってきたばかりだった。彼は地元産にこだわっている。使用する材料も、地元で手に入る、環境にやさしいものばかりだ。彼が木材を買い付けているUrban Treeという木材店も、そのままでは堆肥にしかならない枯れた広葉樹を再利用している。このメープル材は、切断されてカンナがけされてケースに仕上げられるまで、2年間、Benの工房で眠っていたものだ。

Ben Saks 'displays' his work
ペンシルベニア州ピッツバーグで開かれた、I Made It Marketで、Makerのマスクで顔を隠すBen Saks。

近代的なDIYセットに囲まれたプロジェクトから離れたBenは、知的財産を扱う会社でコンサルタントをしているiPhone愛好家の友人に言われて、特許仮出願のための書類整理に取り組んだ。オープンソース派のみなさんが怒りにまかせてLulzbotを壁に投げつけるまでもなく、Benもそれがオープンソースハードウェアの精神に反することはわかっていた。しかし、彼はこう教えてくれた。自分のデザインは守らなければならないが、誰かが改良を加えれば、それはその人のものになる。そして、さらに別の人がそれを改良できるようになる。それが現実だ。インタラクティブなデザイン。Makerの心の琴線に触れる問題だ。すべての人は、すべてのデザインを無料で使える。しかし特許にはしっかりと記録が書かれ、公開される。改良を加えたい人は、前に改良を行った人のことを知るように要求される。管理の鎖はオープンソースによって断ち切られてしまう。Benは、彼のプロジェクトを商業的に存続できるようにするための、目に見える目印にしようと考えたのだ。しかし、かたくなに知的所有権を独占してしまえば、最後に損をするのは自分だということもわかっている。

摩擦で固定する方式のケースを他の誰かが作ろうとしたとき(特許の許諾を得た場合も違反した場合も)、所定の手続きと書類でそれがわかるようになる。特許がなければ、すべて自分でやらなければならない。それではケースを作ることもできない。となれば、誰も作ることができなくなる。

55ページにおよぶ申請書を書こうが書くまいが、彼の大学の木工科のクラスメートの最初の反応は、「どこで買ったの?」だった。「いいね」という励まされる言葉ではなかった。それを受けて彼は、Kerf Caseという会社を立ち上げて店を開き、作品集にそれを収めた。美しいアッシュやチェリーのケースの他に、木肌を活かしたLive Edgeラインも加わった。ワイルドな生き方をする質実剛健なiPhone愛好家のためのケースだ。Benは、ケースの内側はiPhoneの断面にぴったり合わせることに気を遣っているが、Live Edgeは外側に木の皮が付いている。彼は、動物の組織のプラスティネーションによく似た手法を使っている。真空状態にした素材の内部にレジンを染みこませるという方法だ。そうすることで、Live Edgeはいつまでも新鮮な外観を保てる。

Cherry Kerf Case
チェリーのLive Edge。木肌をそのまま残し、レジンを染み込ませて形を保っている。

Benはケースの改良を続けているが、複合素材の実験も始めている。みんなに聞かれる前に言っておこう。人気の高いAndroid端末用ケースも来年には作るそうだ。そのリストのトップには、サイドが切り立ったHTC Oneが挙げられている。

彼のその他の作品もぜひ見て欲しい。彼は、輪ゴムで飛ばす(オープンソース)屋内飛行機の滞空時間を競う競技にも出場している。どのドキュメンタリー、Floatの制作にも関わっている。

オークのケース、Live Edge、顔を隠したBenの写真はNicole Jarock提供。Kerf Caseより。工房の写真はE. J. Strauss提供。

– E.J. Strauss

原文