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2015.10.27

MakerCon Tokyo 2015 —「単なる活動紹介だけではなく、その先まで見据えた議論ができるメンバーが集まった」小林茂さんインタビュー(後編)

Text by tamura

kobo
IAMASイノベーション工房[f.Labo]

前編に続き、MakerCon Tokyo 2015のプログラムチェア、小林茂さん(情報科学芸術大学院大学[IAMAS]産業文化研究センター 教授)に話を聞きます。

小林さんご自身のメイカームーブメントの定義(意味)を教えて下さい。

小林:Dale Doughertyが述べていたように、すべての人々はメイカーだと思います。しかしながら、電子回路やソフトウェアのようなテクノロジーが入った製品に関しては高度に専門化してしまい、メーカー(企業)だけがつくるもの、と認知されています。メイカームーブメントとは、このようなテクノロジーを料理と同じくらい身近に感じる人々が増え、自ら作品としてつくったり、それを製品として販売したり、自分ではつくらなくとも十分に理解する人々が増えてくることで社会が活性化して新たな産業文化がつくられていくこと、だと考えています。

今年(2015年)の夏のMaker Faire Tokyoに関して、高く評価をされていましたが、具体的にどういったことがその評価につながったのでしょうか。

小林:その直前に開催されたMaker Faire Shenzhenには招待講演で参加していたのですが、来場者数が19万人を超え、中国政府のサポートもかなり手厚く、深圳という「世界の工場」で開催されたこともあってかなりの熱気を感じました。東京の場合には(入場料が有料ということもありますが)来場者数こそ約1万5千人と深圳の10分の1以下の規模でしたが、出展されている作品や製品を見るとそのレベルが非常に高い上に多様で、この数年間で蓄積されてきた層の厚さを感じましたし、その背後にある日本の多様な文化を感じました。くわえて、昨年(2014年)は、東京ビッグサイトという会場で初めての開催ということもあって来場者に対して会場がかなり狭く、ゆっくり見て回ることができませんでしたが、今回は適度な空間でバランスがよかったと思います。

今後日本において、メイカームーブメントが一過性のブームに終わることなく、定着するために必要と考えていることを教えて下さい。

小林:まず、Maker Faireのような場でホビーからメーカーまで、様々な立場で作品や製品をつくっている多様なメイカーがいることを伝え続けていくことがとても重要だと思います。作品にしても、製品にしても、あるレベル以上のものをつくるというのは孤独な作業が必要です。Maker Faireのような場があることで、様々なメイカーがつくることの楽しさを多くの来場者と共有し、そこで刺激を受けた潜在的なメイカーがメイカーに変化したり、メイカーの間でコラボレーションが起きたりといったことが期待できます。

また、メイカーによる作品だけでなく製品がもっと増えていくことも重要です。イベントでしか体験できない作品でなく、イベント以外の時でもお金を出して購入できる製品が増えてくることで、メイカーの活動が広がっていきます。ここで、一口に製品といってもそのレベルは多様でいいと思います。プリント基板に電子部品を載せたものを委託販売してもいいでしょうし、大きなメーカーと同様にオンラインあるいは店頭で販売されるものがあってもいいと思います。いずれにしても、多くの人々が実際に手に取ることができる多様な製品が増えていくことが、Makerムーブメントの持続性を考えたときには重要だと思います。

くわえて、メイカーに向けて素材や部品を提供するメーカーや、それを販売するチャンネル、そして何よりも新たな分野を切り拓こうとするメイカーを、支援するコミュニティなどから構成される生態系が構築されることが必要だと思います。新しいことに取り組むには様々なリスクが伴いますが、それを支えるコミュニティがあることで促進されるからです。

今回のテーマ「”Open Innovation” by Makers」についてお聞かせください。

小林:イノベーションの定義は人によって様々ですが、私は「新しい製品やサービスをつくって世の中に投入し、新しい顧客を生み出していくこと」であると考えています。これは、既存の企業にとっては新規事業を創出するということになると思いますし、ベンチャーやスタートアップを起業して事業に取り組んでいくのもその方法だと思います。そうしたとき、単独の企業だけでは実現できず、他の企業や個人と協力してイノベーションの創出に向けて取り組んでいくことになります。

これは、ヘンリー・チェスブロウがオープンイノベーションと名付けるよりもずっと前から行われてきたことですし、実行しようとすると様々な難しさがあるにも関わらず、最近になって様々な人々が新しいパラダイムであるかのように連呼されています。このカンファレンスでは、そうした流行語ではなく、メイカーとメーカーのよりよい関係とはどんなもので、それによってどんな生態系を作れるのか、そこにはどんな課題があるのかを議論したいと思い、このテーマにしました。

今回のMakerConのセッションの内容や登壇者を検討するにあたって重視したことがあったら教えて下さい。

小林:今回は、「作品」としてではなく「製品」をつくっている、あるいはつくろうとしている人々の中で、単にそれぞれの活動を紹介するだけでなく、その先まで見据えた議論ができる方々に声をかけさせていただきました。ですので、作品としてMaker Faireに出展することや、つくる楽しさに注目されている方にとっては、いきなりビジネス寄りの内容になってしまったという違和感を感じる方が多いかもしれません。

しかしながら、知的財産権や製造物責任は、メーカーの大小にかかわらず考えていかなければならない課題ですし、何らかの経済的な持続性がない限り現在の盛り上がりも続いていきません。そうした意味で、現実の様々な制約や課題を理解しながらも、理想をきちんと持って活動されている方にお話しいただく、ということを大きな前提にしました。

今回のMakerConのセッションなどを通じて、登壇者や参加者の方と議論したいことについて教えて下さい。

小林:可能性と課題についてきちんと議論しつつ、登壇者だけでなく参加者も含めたネットワーキングをしたいと思います。

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MakerCon Tokyo 2015」では、「”Open Innovation” by Makers」をテーマに「メーカーがつくるメイカースペースとメイカーコミュニティのいい関係」「オープンソースハードウェアの可能性と課題—知的財産権と製造物責任から考える」「半導体メーカーとメイカーの新しい生態系」といった多彩なセッションが行われます。チケットはPeatixにて販売中です。みなさまのご来場をお待ちしています!