Other

2017.10.24

Maker Faire New York 2017 #2 匂いのシンセサイザー、Edtechシーンが集中するニューヨーク

Text by Toshinao Ruike

9月下旬のニューヨークは半袖でも汗ばむ温度で、まだ夏の雰囲気が残っていた。雲ひとつない青空の下で開催されたニューヨークのMaker Faireでは屋外のスペースも活用され、たいていはテントを張っていたが、屋根を設けずに完全に野外で(のびのびと?)3Dプリンターを動している豪快なブースもあった。

dscn5150

ブルックリンにある食べ物と飲み物のための博物館、Museum of food and drinkによって作られた「The Smell Synth」はピアノを弾いて音を出すように匂いを出すというコンセプトで制作された匂いのシンセサイザーだ。手前にボタンがあり、食品加工業者から仕入れたさまざまな匂いのエッセンスがエアコンプレッサーでマスクに届けられる。用意された匂いとしては、チーズ、ナッツ類、フルーツ類、乳製品、煙、さらにネイルの除光液までさまざまに揃っている。

dscn5146

例えば、バターの匂いとハチミツを合わせるとホットケーキ、チーズとスモークの匂いでスモークチーズ、調合によってさまざまなメニューが目の前にあるかのように匂いを味わえる。飲食に匂いという要素が重要であることは言うまでもないが、匂いによる刺激だけでどのように飲食物を想起させられるかについて体験することができる。音や映像のシンセサイザーのように電気的に合成するわけではないが、匂いを合成する機器というのはこれまでなかったのではないだろうか。

ニューヨークにいくつかあるFab Labの一つ、Fat Cat Fab Labはピンポン玉を空気で打ち出す射的大会を行っていた。時間内に標的のインベーダーに当てた点数で競うシンプルな自作ゲーム機だ。電光掲示板にはスコアと時間が表示され、打たれた玉は傾斜を転がってもう一度手元に落ちてきて発射される。

dscn5177

特にウェアラブルデバイスの機能が要求される場面はなかったのだが、Fat Cat Fab Labで司会をしていたこの男性はつい数年前まで近未来風に思い描かれていた「メガネ型デバイス+手指センサー」という格好をわざわざしているのが微笑ましかった。こういったデバイスは今後も発展する可能性はあるし、廃れたわけではないが、近未来的な新奇性というものが随分と早く移ろってしまったものだと実感させられた。

img_20170923_144956_1

自分でキーボードを組み立てるキットを提供する1UP Keyboards。好きなキーを交換して取り付けられることができ、キー配置はプログラム可能。市販のキーボードはたいてい取り外せるようにはなっていないし、自分で掃除したり好きなタイプのキーに取り替えられる自由が最初から与えられていることはうれしい。

img_20170923_145224

異なる言語のキーを混ぜ合わせたり、文字ではない記号や絵でも付けたいキーも付けられる。便利さや見た目だけではなく、本当に自分が使いたくなる楽しいキーボードをアレンジすることできそうだ。

img_20170923_145414

同じく1UP KeyboardsによるUSBケーブルの自作キット。1組日本円で1,500円以上なので、買った方がもちろん安いし早いのは明白だが、あまりにも生活の中でありふれたものになっているキーボードやUSBケーブルといった道具をあえて自分で作るという点に趣味としての純粋さが感じられる。また身近なものがどうやって作られているのかを知る機会にもなり、意外と教育的な視点からこういうものを使ってみても面白いかもしれない。すでに用意されたものを使いこなせるようにすることだけが重要ではないという気づきを与えられるからだ。

アメリカの中でもニューヨークには教育向けテクノロジーの企業が集中していて、そういった企業が出展するブースが他都市のMaker Faireと比べて大分目立った。教育産業がすでにMakerムーブメントに着目してビジネスとして積極的に取り組んでいるのだ。

dscn5039

オランダから来た会社だが、Qmodは太陽光や回転・振動などの自然エネルギーを使った発電システムを学習するための組立キットを販売し、またそのキットを使ってワークショップを行っている。上の画像の右側で子どもが持っているエネルギー・ブロックにクリップで太陽電池やモーター、電極などにつないで発電してLEDを光らせることができる。またエネルギー・ブロックには電気の入出力があって蓄電もできるので、電池として外部のLEDやモーターを動かしたりして、このキットで電気のエコシステムを再現することができる。自然エネルギーの活用について座学だけではなく、実際に実際に手を動かして組み立てることで、電気への理解や関心が深まり、エネルギーの有効活用について自発的にさまざまなアイデアを考え試してみることへもつながるだろう。

dscn5044

キットに付属しているカードには材料・部品・課題・テクニックが書かれていて、何をどう使って環境問題を解決するのかカードを引いてゲーム形式で考えさせられるようになっている。クラスで実際に子どもたちからどのようなアイデアが出るのか見てみたいものだ。

dscn4896

ダンボールでピンボールゲーム台を組み立てるキット、PinBox3000。ダンボール製なので色をつけたり切ったり貼ったりして自分のピンボールゲーム台のレイアウトやビジュアルを自由にデザインできる。

dscn4985

真っ白に塗られ白亜の塔のようになったピンボール台。子どもの工作レベルから職人的なペーパークラフトまでさまざまにカスタマイズされたピンボール台が展示されていた。

dscn4904

ゲームデザインを学ぶためのツール、BLOXELS。格子にブロックをはめてドット絵を作り、タブレット上のアプリでゲームのキャラクターや背景を作り上げていく。

dscn4901

タブレットのカメラからブロックを読み込んでアプリ上にドット絵を作り上げる。物理的なブロックでMinecraftのような世界を作り上げていくツールだ。

今回のニューヨーク滞在ではMaker Faireと合わせて現地のさまざまな教育機関やメイカースペースを訪れ取材した。ニューヨークのものづくり系の教育の事情についてはまた後日レポートしたい。