2017.10.23
Maker Faire New York 2017 #1 医療の世界へも広がったMakerムーブメント
世界を代表する意味なのだろう、ニューヨークのMaker Faireには“World Maker Faire”と名付けられている。ローマやサンフランシスコのMaker Faireと比べるとやや規模は小さく会期は1日短いが、Arduino社が新しい製品やニュースを発表したり、アメリカ東海岸エリアを代表するMaker Faireとして少々特別な位置づけになっている。そのMaker Faire New Yorkのため、残暑が残る9月下旬のニューヨークを訪れた。
最寄りの鉄道駅を降りると、路上には多数の露店が立ち並び、呼び込みの英語にスペイン語が入り交じる。その一帯はラテンアメリカ系の人々が多く集まるエリアで、これもある種のDIYだろう、ショッピングカートにグリルを括り付けた粗末な屋台でソーセージが焼かれていた。
会場となった科学博物館、Hall of Scienceはニューヨークらしい雑多さに溢れたクイーンズの東の端に位置し、周囲には公園のようなスペースがあり、屋外の敷地にはロケットや飛行機のオブジェが展示されている。
ロケットを背景にして火を吹くドラゴン型のフロート車。サンフランシスコのMaker Faireでも火を吹く金属製の昆虫のオブジェがあったが、アメリカではサイズが大きいとか火を吹くとか非常にわかりやすい力強さを感じさせる作品が時々見受けられる。
一方、科学館の中に入ると麦の穂が人の動きに合わせて揺れる渋めのインスタレーションが展示されていた。
揺れる麦の穂の中央には苔の塊。自然を切り取ってそこに面白さを見出すところはむしろ日本文化のようだ。
天井からはリボンが垂れ下がって、麦の穂の根元部分のコップが制御されていて人の動きに合わせて揺れるその空気の流れでリボンも一緒に揺れる。
会場には愛好家のグループによって作られたR2-D2のレプリカが何体も動き回っていたが、一際目を引いていたのはこのピンクのドロイド、R2-KT。奔放なカスタマイズだが、実は難病で死の床に付いている子どもを見守るために作られたという心温まるストーリーを持っている一台だ。R2-D2自体、映画に初めて登場して既に40年経ち、一般に広く知れ渡っているわけだが、元の濃い青色からカラーリングを変えただけでこんなに違うインパクトを与えられるものかと感心した。
バイオ3Dプリンティングで細胞をプリントしたとか、義肢を3Dプリンターで作ったとか、これまでもデジタルファブリケーションは医療の世界で役に立つということは言われてきた。しかし最近は実用的な理由から地味にしかし確実に医療の現場にもメイカー文化は浸透しているようだ。
ハーバード大学医学大学院内の病院ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターではさまざまなレベルの教育の医療シミュレーションに必要な練習用器具などを安価に自作している。
僧帽弁の手術のための練習キットをレーザーカッターで切り出した木製の台と心臓の弁を模したシリコン製の模型。15ドルで作成でき、この大学病院ではその作り方を学ぶセミナーも行われている。
その他にもさまざまな臓器をシリコンやレジンを使って模型にしている。
こちらはヒューストンにあるテキサス大学の病院、UTMB Healthによる出展だが、CTスキャンの断層画像をレーザーカッターで書き出し、体の断面をわかりやすく見せている。病院内にメイカースペースがあり、大学病院での教育に必要な教材を作ったり、病院の機器の簡単な交換部品を3Dプリンターで作ったりしているそうだ。余談だが、8月末にヒューストンを見舞ったハリケーンの被害の後、病院もずっと大変忙しい状態だったそうで、Maker Faireのためにニューヨークに来れてようやく一息付けた気分になっていると語っていた。
ニューヨーク大学の脳神経科学の研究者、Dr. Wendy Suzukiによる「How to Build a Better Brain(いかによりよい脳を作り上げるか)」というレクチャー。日本で以前流行った脳トレーニングや養老孟司の講話のようなものを想像していたが、そうではなかった。白衣姿で脳の標本を手に脳の機能について説明した後、エアロビクスからの影響があり、実際に大学で講義の前にエクセサイズを行い学生たちの成績に前向きな効果があったことを語った。脳は神経とつながっていて脳を活発化させるためには体全体の神経活動を活発化させることがよいという。
このレクチャーの後半では白衣を脱ぎ、エアロビクスが始まった。「私はエクセサイズをする! 私は脳を変える!」皆で声を上げる。恥ずかしがってやらない人もいるだろうと思ったが、意外にも会場は総立ちになり全員がエクセサイズを喜々として行っていた。体をまったく動かさないと逆に頭の働きが悪くなってリフレッシュが必要になることは誰もが経験としてあると思うが、体を動かさないといけないと頭ではわかっていても、つい忙しさで後回しになってしまいがちだ。それを医学的に説明してライブのような感覚で即座に講義室で実践できることをやってしまう。頭を良くするために、例えば計算をしたり、ゲームをしたり、本を読んだり、食べ物を変えたり、色々試すことはできると思うが、Wendyが講義で行っていることは単なる啓発に留まらず、わかりやすい力強さをいい意味で持っているように思えた。