Electronics

2018.02.14

偉大なる小さなチップ「555タイマー」の歴史と入門プロジェクト

Text by Charles Platt
Translated by kanai

1970年、まだシリコンバレーの肥沃な大地に根を下ろした企業が5社にも満たなかったころ、Signeticsという企業がHans Camenzindというエンジニアのアイデアを買い取った。大発明というわけではないが、23個のトランジスターと大量の抵抗を使ったプログラム可能なタイマーだ。その最大の特長は、汎用性と安定性とシンプルさなのだが、これらは最初のセールスポイントの陰で色あせて見えた。同社は、当時最新の集積回路の技術を用いて、すべてをシリコンチップの上で作り直すことにしたのだ。

そこまで手作業を重ねてきたCamenzindは、製図台の前で数週間を過ごし、特別なカッターを使って大きなプラスチック板から回路を切り出した。それを、Signetics社は写真を使って縮小し、小さなウェファー上にエッチングして、1.3センチの四角い黒いプラスティックの中に収め、製品番号を印字した。こうして「555タイマー」が誕生した。

結果としてこれは、歴史上もっともよく売れたチップとなった。売れた個数(何百億を超える)もさることながら、デザインの寿命も長い(約40年間変わっていない)。555は、オモチャから宇宙船まで、あらゆるものに使われている。光を点滅させたり、アラームシステムを起動したり、間を置いてビープ音を鳴らしたり、ビープ音そのものを発生させたりもできる。今では、インターネットで1個25セントほどで買える。

下に紹介した555入門用プロジェクトでは、555CN、FairchildのLM555CNまたはKA555、Texas InstrumentsのNE555P、STMicroelectronicsのNE555Nなどが使える。メーカーは違っても中身は同じ。CMOS(相補型MOS)やデュアルバージョンや表面実装型や、旧来どおりの8本の脚の幅が2.45ミリのチップと形状が違うだけだ。いろいろ理由はあるが、この入門プロジェクトでは、昔ながらのスタイルのチップをお勧めする。

最初に555でLEDを点滅させる方法を紹介しよう。そして、それを音を出す装置に発展させ、最後に555を3つつなげて、チェッカースやスクラブルなどのボードゲームで、プレイヤーの持ち時間の終了を怒ったような音で知らせるタイマーを作る。

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555チップでノイズメイカーを作る

Figure 1(図1)は、上の写真の555チップの脚の配列を表したものだ。本体に刻印された丸い穴は1番ピンの位置を示している。Figure 2(図2)は、555 の「無安定」モードで光を点滅させる基本的な回路だ。電気が流れている間、3番ピンの出力はプラスとマイナスに交互に切り替わる。切り替わる間隔は、コンデンサーと2つの抵抗で決まる。コンデンサーは電気を蓄える部品で、抵抗は電気の流れを抑制する部品だ。1つの抵抗とコンデンサーを直列につなぐと、抵抗によってコンデンサーに電気が溜まる時間が長くなる。これを利用すれば、簡単に時間が測れるわけだ。

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スイッチS1を「閉」にすると、電気はR1とR2を通り、少しずつコンデンサーC1に溜まってゆく。その状況をIC1(555タイマー)は監視している。C1に2/3までプラスの電気が溜まると、555は3番ピンの出力をプラスからマイナスに反転させる。それにより、C1に溜まった電気がR2を通って流れ出す。C1の電気の量が2/3から1/3にまで減ると、555は3番ピンの状態を元に戻し、出力はマイナスからプラスに切り替わる。これを繰り返す。

C1に0.1マイクロファラッド(μF)のコンデンサー、R1に120キロオーム(kΩ)の抵抗、R2に1メガオーム(MΩ)の抵抗を使うと、LEDは1秒間に5回点滅するようになる(回路の中の他の部品は点滅のタイミングには関係がない。R3はLEDに過剰な電気が流れるのを防ぐためのもので、C2は555をランダムな電気ノイズから守るためのものだ)。

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C1のコンデンサーを0.1μFから1μFのものに変更すると、点滅の間隔は10倍に延びる。反対に0.01μFのものに変えると、間隔は1/10になる。抵抗の値を変えても間隔が変わる。R1とR2を足した値は「オン」の長さを、R2単独の値は「オフ」の長さを決める。

抵抗値を高くして、コンデンサーの容量を小さくすると555の切り替わりの間隔が非常に速くなり、スピーカーを繫げば音として聞こえるようになる。Figure 3(図3)は図2の回路を少し変更したものだ。LEDと抵抗は、別の抵抗とコンデンサーC3とRadioShackの小型スピーカーL1に交換されている(アンプを使わないかぎり、555単体では大きなスピーカーは鳴らせない)。R1、R2、C1の値が変わっていることに注目して欲しい。555の切り替えを速くするように設定してある。電気を流すと、低く唸るような音が出るはずだ。

555 を追加して一定の間隔で音を鳴らす

これでノイズメイカーができたわけだが、今度は一定の間隔で音を鳴らすようにしたい。そのためには、もう1つの555タイマーを「単安定」モード、つまり、1つのパルスだけを発生するモードで追加する必要がある。Figure 4(図4)はその回路だ。S2は押しボタン。ここに電気が流れるようにすればよいだけなので、必ずしも押しボタンを使う必要はない。このボタンを押すと、IC2から約1秒間のパルスが1回だけ発生する。それにより、LEDのD2が点灯し、パルスが発生したことが視覚的に示される。このパルスはシグナルダイオードD1を通過し、IC1を起動させる。IC1の働きは以前のとおりだが、音はC4によって引き延ばされ、周波数が変化して唸るような効果が加えられる。

次に進む前に、このバージョンをきちんと完成させておこう。

3つめの555を追加して時間を計る

ここまでで、一定の時間で音が鳴るノイズメイカーができた。次は、音が鳴るまでの時間を設定できるようにしよう。3つめの555と、値の高い抵抗と容量の大きなコンデンサーを使って、その待機時間をコントロールする。

Figure 5(図5)では、可変抵抗P1を通ってきた電気がC7に溜まる。P1を使えば、待機時間が変更できるのだ。C7の容量を大きくすれば、待機時間をより長くできる。待機時間が経過すると、3番ピンの出力がマイナスに反転する。それがIC2のトリガーピンに伝わり短いパルスが発生し、IC1に音を発生させるという仕掛けだ。

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S2はIC3をコントロールするように移動している。ゲームのタイマーに使いたいときは、各プレイヤーのターンが始まるときにS2を押すようにする。

持ち時間内に手が打てれば嫌な音を聞かずに済むよう、リセットボタンとしてS3も追加しておいた。音が鳴る前に、相手プレイヤーがこれを押してターンをスタートさせるのだ。ボタンの脇に「NC」と書かれているが、これは通常は「閉」になっていて、押すと「開」になるボタンのことを意味している。使わないときは電源を切っておきたいので、S1はそのまま残してある。

この先は?

タイミング用のコンデンサーを他の部品と交換することで、555に面白い効果を出させることもできる。たとえば図3の回路では、R2の代わりに温度センサーやフォトレジスターを使えば、温度や光で音の周波数を変えることができる。フォトレジスターと「単安定」モードの555を使えば、動作感知器としても使えるようになる。makezine.com(またはmakezine.jp)で“555”と検索するDoctronicsを見ると、もっといろいろなアイデアが出てくる。

Hans Camenzindは、彼が作ったタイマーがこんなにも広く使われるようになるとは、夢にも思わなかっただろう。彼は何十年か前に、555のデザインはエレガントではないので作り直したいと考えたそうだ。エンジニアにはエレガントさが重要なのかも知れないが、エンドユーザーにとって大切なのは使い勝手の良さだ。555はシンプルで、正確で、頑丈で、いろいろな電源に対応する許容度があり、LEDやスピーカーばかりでなく、リレーや小型モーターもコントロールできる。

25セントという価格を考えれば、これで十分過ぎるぐらいだ。

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