Electronics

2018.02.13

新刊『エレクトロニクスをはじめよう』は2/24発売!(なぜ、どのようにして、35年前の技術書の日本語版を出版したのか)

Text by editor

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書籍紹介

本書は、エレクトロニクス(電子工作、電子工学)初学者のための入門書です。電気の基礎から、スイッチ、抵抗、コンデンサーなどの基本的な電子部品、ダイオード、トランジスターなどの半導体、そしてデジタルICなどについて、その原理と基本的な使い方を紹介しています。原書は1983年に出版、手書きの文字とイラストの親しみやすいスタイルで、今でも変わらないエレクトロニクスの基本原則が丁寧に語られ、130万部を売り上げました。そして現在でも多くの読者に愛用されています。最終章にはシンプルで理解しやすい100の電子回路を掲載しました。

書籍概要

Forrest M. Mims III 著、斉田 一樹 監訳、鈴木 英倫子 訳
2018年02月24日 発売予定
A5判/192ページ
ISBN978-4-87311-827-7
定価2,160円

編集担当者から

本書の原書『Getting Started In Electronics』は、今を遡ること35年前、1983年に初版が発行されました。その際のエピソードは、『Getting Started in Electronics』誕生物語として、「Make:」創刊編集長のMark Frauenfelderによって綴られています。


今、私(編注:Mark Frauenfelder)が執筆中のDIYムーブメントに関する本の取材でForrest Mimsにインタビューする機会に恵まれた。Forrestは著名なアマチュア科学者で、ホビー用のエレクトロニクス本を30冊以上書いている。「Make:」ではCountry Scientistのコラムニストとしても知られている。彼の名著 『Getting Started in Electronics』の誕生秘話を聞いたときのインタビューの一部を紹介しよう。

この本は、『Engineer’s Notebooks』という本から発展したものだ。RadioShackの担当編集者は、Dave Gunzel。その当時、私はすでにRadio Shack Booksから16~17冊の本を出していた。我々がRadioShackで打ち合わせしていたとき、Daveは私の研究ノートに目をとめて、こう提案した。「おお! こういう本を出しましょうよ!」。私は、すべてにちょっとした図を付けてノートに記していたのだ。「次の本は、ぜひこれで行きましょう」と彼は言った。

(中略)

それから『Getting Started in Electronics』の構想が浮かび、Dave Gunzelに会った。もちろん、この本も手書きだ。彼はクレヨンを使ってはどうかと提案してくれたが、私はこう反論した。「クレヨンでは本は作れない。ペンか鉛筆だ。だけど、もうインクはゴメンだ。辛すぎる」。私たちは5Hの鉛筆で描くことで合意した。いや、私は納得したわけではない。鉛筆で描くとどうなるか、彼に見せてやったのだが。そうして本の執筆が始まり、たしか54日間で書き上げたと思う。1日2ぺージのペースだ。『Getting Started in Electronics』は130万部以上を売り上げた。最初の10万部(定価$2.49)は瞬く間に売り切れてしまった。


このようにして、ノートで鉛筆による手書きで本書は執筆され、これまでに全世界で130万部を売り上げ、現在のオープンソースハードウェア、Makerムーブメントに関わる多くのエンジニアやアーティストに大きな影響を与えています。主要な「はじめよう」シリーズ(『Arduinoをはじめよう』など)の表紙に手書きのイラストが採用されているのは、この本の影響もあるのです。

また、「Star Simpsonの “エレクトロニクスな人生” をはじめるために必要な5つのこと」という記事で紹介されたStar Simpsonという女性エンジニアが、O’Reilly Mediaが主催する招待者のみ参加できるカンファレンス「Foo Camp(Foo = Friends Of O’Reilly)」のセッションで「自分の人生を変えた書籍」としてこの本を紹介していることについて、Tim O’ReillyもTwitterにて以下のように紹介しています。

さて、ここで話は日本語版の制作へと話が変わります。通常、イラストや写真の入った翻訳書を出版する場合には、原書の出版社から必要なイラストや写真データが送られてくるのですが、この本は、手書きノートの1ページ全体を写真製版して印刷用の版を作るという、DTP(デスクトップパブリッシング)以前の手法で印刷が行われているため、個別のイラストデータは存在していません。

そこで原書をスキャンして、そこからイラストデータを作成するという方法を選択したのですが、単にスキャンしただけでは、ノートの罫線もイラストと一緒になってしまうことから、使用されている392点のイラストについて、ページ全体をスキャンした後で個別のイラストに分割し、その上で背景の罫線を取り除き、さらにかすれてしまっているイラストはかすれを修正するという、本を作っているのか、発掘した遺跡の遺物を復元しているのか、なんだかよくわからなくなってくるような作業が行われました(スキャンと罫線の削除は印刷会社、イラストの復元はデザイナーが担当)。その後、できあがった翻訳原稿とイラストをデザインして日本語版のページはできあがっています。

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1983年に出版された初版(左)と35年後に出版される日本語版(右)。原書初版のデザインも本当にいいですね

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トランジスターについて書かれたページの見開き(上)と冒頭部分のクローズアップ(下)。イラストの背景にノートの罫線が入っているのがわかります

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日本語版はこうなりました(原書と同じ箇所を見ていただくために、見開きが逆になっているのはご容赦を)

どんな本にも、それぞれに原稿執筆、翻訳、制作の各プロセスで苦労する点はありますし、今回の日本語版の制作において一番苦労されたのは、原文のニュアンスを生かしながら、現在の日本の読者が読んでも違和感がない日本語に翻訳を行った訳者、監訳者のお二人です(ありがとうございます!)。制作のエピソードを苦労話的に語りたいわけでは決してないのですが、担当者にとっても珍しい体験だったので、紹介したいと思った次第です。

と、余談が長くなってしまって申し訳ありません。担当者がこの本の日本語化を思いついたのは、7、8年前のことで、当時は日本語版も誰かに手書きにしてもらおうかなどと考えたこともあったのですが(やらなくて正解でした)、ようやくこの本を日本の読者にお届けすることができて、とてもうれしく思っています。

電子工作をはじめる時には、書籍やオンラインに掲載されている回路図を参考に、まずは回路を組んでみるということが多いと思いますが、使われている部品の役割やその原理などへの理解は「少しあやしいかも…」という方もいるのでは、と思います。そんな方にぴったりのエレクトロニクスの基本原則を深く理解することができるコンパクトでよい本です。ぜひ一度手にとっていただければと思います。

O’Reilly Japan – エレクトロニクスをはじめよう
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