これまで都市のインフラを改良するスマートシティのようなプロジェクトのためにIoTは活用される場面が多かったが、OSBeehivesは蜜蜂の巣箱をスマート化して蜜蜂の生態をモニタリングするオープンソースプロジェクトだ。巣箱内の温度や湿度、そして音声データをクラウドに送信し、人工知能を用いて巣箱の状態を「健康」「休眠」「女王蜂の行方不明」「分巣中」「崩壊中」といった種類に分け診断する(または学習データとして、人工知能の機能の改善を行なうこともできる)。それによって、ユーザーは蜜蜂の異変を知ることができる。
大量の蜜蜂が突然失踪する、近年世界中で発生している「蜂群崩壊症候群」については、まだその詳細なメカニズムについてはわかっていない。一部の農薬との関連が疑われ、先日EUではネオニコチノイド系の農薬の使用が禁止されたが、それが本当に農薬によって起きたものか、寄生虫によるものか、病気によるものか、幅広い地域で起こっている大量失踪の原因を特定するためには世界規模での研究データが必要だ。巣箱の中で何か異変が起こった際に、OSBeehivesは環境に何が起こっているのか判断するデータを提供し、またその予兆を捉え近くの巣箱で養蜂家が対策を行なうためのツールにもなり得る。
太陽電池駆動のBuzzBoxは、WifiまたはGSM方式の携帯電話サービスを利用して、温度・湿度・音声のデータをやり取りする。BuzzBox用のスマートフォンのアプリケーションも用意されていて、データをモニタリングすることもできれば、アプリ単体で巣箱の音声データをスマホで録音してクラウドに送ることもできる。BuzzBoxはサイトから199ドルで販売されているが、巣箱はCNCマシン用のオープンソースのファイル一式がサイト上で提供され、ダウンロードして各自で組み立てることができる(投げ銭形式だが、無償でダウンロード可能)。現在は蜜蜂同士がコミュニケーションする際に発生する微小振動も拾うために、特殊で高価なセンサーを使う以外の方法を探しているという。
上の動画で組み立てられている巣箱のデザインは以前レポートしたスペイン・バルセロナのGreen Fab LabのディレクターJonathan Minchinが行った。このプロジェクトは数年前からエコロジーに関した研究が行われている米国・コロラド州のOpen Source EcologyとバルセロナのGreen Fab Labの間で進められ、昨年KickstarterでBuzzBoxのためのファンディングが行われた。現在BuzzBoxが出荷され、世界各地にいる250名ほどのユーザーがフォーラムで盛んに情報交換を行っている。
しかし一方で、昔ながらの養蜂家には、養蜂の過程を機械化されることを恐れたり、こういったIoTも含めテクノロジーの活用を警戒する向きも少なくないそうだ。人と蜜蜂の間を邪魔立てしようとしているわけではなく、実際に蜜蜂に関する研究を行なう中で世界中の養蜂家たちを結びつけたいと願っている、とOSBeehivesのコミュニケーション・マネージャーのTristanは語る。
最近の研究では、都市部よりも農薬が使用されている可能性がある郊外に生息する蜜蜂の方が健康状態が悪いというケースもあるという。OSBeehivesは蜜蜂の世界的な減少を食い止めるだけでなく、蜜蜂の生態を通して我々の環境の中でどんな変化が起こっているのか知る手がかりになるかもしれない。温度や湿度、近接センサーのデータをクラウドで収集して天気の状態や交通量などを計測するなど、IoTを活用したさまざまなプロジェクトが世界各地で進められているが、自然と人間との関わりを考える上でも、このプロジェクトは役に立ちそうだ。