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2018.06.08

「人は何かを作ることに飢えている」— 紙飛行機一本で生計を立てるプロの紙飛行機野郎、John Collinsインタビュー

Text by Grėtė Kaulinytė
Translated by kanai

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紙飛行機野郎のJohn Collinsは、折り紙と航空力学を学んで、長年、紙飛行機のデザインを進化させてきた。彼の奥さんの名前をとった「Suzanne」は、2012年、226フィート10インチ(約69メートル)という距離を飛行してギネスの世界記録を更新した。

Maker Faire Bay Areaの翌週、JohnはMini Maker Faireと教育フォーラムに参加するためにリトアニアのヴァルニアスに飛んだ。科学はすべてを包み込み、挑戦しがいがあって、同時に楽しいものだということを世界中のたくさんの人たちに証明してきた、このひたむきなMakerのインタビューをお届けできることを、Mini Maker Faireの主催者としてうれしく思う。

30年間の大きな夢

紙飛行機を思い浮かべたとき、紙飛行機をフルタイムの仕事にしているMakerというのは、ちょっとピンと来ないのですが、なぜ紙飛行機に人生を捧げようと思ったのですか? どこがそんなに魅力的なのですか?

突然そうなったわけじゃないよ。最初の本が出たのが1989年だから、そこから踏み出したのだとするなら、30年間、なんだかんだでプロとしてやって来た。私の本が書店に並ぶようになると、書店や図書館でささやかな実演会を行った。そうした活動は、ほとんど金にならなかったけど。

本を宣伝できるだけでうれしかった。最初の本は最初の子どもと同じ。大いに注目されて、大きな夢が見られる。しかし紙飛行機の本で金持ちになった人間はいない。必然的に、がっかりする結果となる。しかし私は進み続けた。紙飛行機が大好きだからね。

プロになってから3年と半年。それは、文字通りアクシデント(事故)だったんだ。デジタルファイルの扱いを間違えるという事故を起こして、会社をクビになってしまってね。ファイルを間違えて削除してしまった。最後にはなんとか復旧できたんだけど、時すでに遅し。自分は本当は何がしたいのか、何ができるのかを考え直させてくれた、完璧な事故だった。それで、フルタイムの紙飛行機野郎(paper airplane guy)になろうと決意した。冷静に考えれば、リスクはものすごく高いし、その可能性を測るための対象が何もない。信じて飛ぶしかなかった。私は数十年間、マーケティングとテレビ制作の仕事をしてきたのだけど、そこでは製品を売り込むのにお金はまったく使わなかった。だから、自分でもがんばれば行けると思ったんだ。

お金は、クリエイティブ・サービス部門を運営するような感じには動かなかったが、見返りはずっと大きかった。幼稚園から大学院生までの学生たちと行った活動は、驚きの体験だった。私の45分のショーは、24台の飛行マシンがひとつのキューで完璧に動作しなければならないライブパフォーマンスなので、毎回、きちんとやるために数多くの困難に直面する。でも、生でお客さんと接するのは楽しい。何がウケて、何がダメかが一瞬でわかる。このところ、本の売れ行きも伸びてるし、今はとても順調に進んでるよ。

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プロの紙飛行機師になる前は、どんな仕事を?

私は教養学部の出身で、テレビ業界にいた。ライブのニュース番組のディレクターを20年間以上やって、それらかコマーシャルのプロダクションに入った。そこでは、制作、原稿執筆、監督、編集、テレビCMのナレーターもやった。本当にいい時間を過ごせたと思う。本当に楽しくて、チャレンジングだったよ。

その間に、私は紙飛行機の本を書きながら、折り紙を研究していた。4冊目の本が出たばかりだが、これは自費出版にした。本当に出したい本を出せるからだ。Amazonを利用すれば自費出版本の配本も、昔よりずっと簡単にできるしね。

紙飛行機でイノベーションを起こせると感じたきっかけは?

簡単なことだった。9歳か10歳のときだったかな。私は他の兄弟よりも正確に折ることができたんだ。何かを飛ばすことに関して、自分でも天性のものがあるとも感じていた。しかし、実際に紙飛行機が特別なものになったのは、偉大な折り紙アーティストたちの影響を受けるようになってからだよ。折り紙で何かをしたいとは思っていた。だから、そこで学んだ折り紙のテクニックは、とても役に立った。折り紙を学びつつ、10年間をかけて、少しずつそのテクニックが紙飛行機に活かされるようになっていった。誰かに教わりながら折るのは比較的簡単だけど、なぜ、彼らがそれを決められた順番で折ってゆくのか、その意味を突き止めるのが楽しいところさ。それには時間もかかるし、研究して何度も繰り返す必要もある。

メディアで仕事をするには、その作業が第二の天性になるまでに1万時間かかると、専門家は言っている。すると、手順というものが消えてなくなり、考えや感情が、意識せずとも、絵筆や楽器や、私の場合は折り紙で表現されるようになるんだ。

失敗したと思った紙飛行機のデザインが成功に転じて、面白い飛行機が完成したことなどは、ありましたか?

いろんな意味でよい質問だね。まず、失敗という考え方は、全体的に面白い。結果からすれば、成功も失敗もないと私は考えている。科学的な実験ではみなそうだが、悪い結果などは存在しない。それはすべてがデータになる。前に進むための情報になるんだ。飛行距離の世界記録更新に初めて挑戦したとき、すぐに墜落してしまった。スポンサーたちに電話して、失敗したと告げなければならなかった。その電話をかけるのが怖くて、夜も眠れなかった。カメラや会場や食べ物や審査員などの費用をすべて出してくれた人たちと話すのが恐ろしかったんだ。しかし、どのスポンサーも、最後にはこう聞いてくれた。このまま続けるんだろ? って。

その一件は私に、ビジネス界の人たちや人生に関して大きな教訓を与えてくれた。ビジネスマンたちは、敗北を予期している。勝つのは簡単だ。勝ったことは一目でわかる。しかし、失敗はもっと複雑だ。誰かが失敗したと宣言しなければならない。自分は失敗したのだと、認めなければならない。

こう飛ぶだろうと予測して作ったいくつかの飛行機には、ぜんぜん違う飛び方をする飛行機となったものがある。Bat Plane(コウモリ飛行機)は、Sea Gull(カモメ)にするつもりで作り始めた。きれな形に翼を折ったのだけど、飛ばすと翼が変なふうにブルブル震えたんだ。なぜ震えるのかを考えたとき、もっと薄い紙で折って、その震えを大きくしてみようと考えた。そうしたらそれが、コウモリが羽ばたいているように見えたんだ。そうしてコウモリ飛行機ができた。

Boomerang II(ブーメランII)は、Boomerang I(ブーメランI)に着陸脚を付けたものだ。着陸脚のためのレイヤーをなんとか作り出したのだけど、重心が後ろに下がりすぎた。だから、たちまち失速して無残に墜落してしまった。何度か飛ばすうちに、くるっとひっくり返って、こちらに帰ってくることがあった。自分に戻ってくる飛行機を頭で考えて作るなんて、自分には複雑すぎる仕事だ。しかし、数週間もかけて、微調整と試験飛行を繰り返したところ、それは私のショーのスター飛行機となった。前方に飛んでいって、くるっと反転して上下逆さまの格好で戻ってくる。昔から、発明とは、そういうものなのだと私は思ったよ。あるゴールを目指して開始して、着実にゴールに向けてステップを重ね、その結果を評価する。最初のゴールはあまり問題じゃない。全体的な有効性だ。それから、最初のゴールを目指すか、意外な結果のほうを追いかけるかだ。

紙飛行機に飽きたり、嫌になったりして、人生に疑問を感じたり、すべてを投げ出したくなったりしたことは?

私は紙飛行機を作るプロセスを、ずっと愛している。正確さ、紙を折るという行為、空気への挑戦……、そこにはある種の魔法が潜んでいるんだ。瞑想のようなものかな。ある企業のイベントのために1,500機の飛行機を折ったときは、早く終わらないかと思ったこともあったけど、自分の実演ショーのための飛行機作りに飽きたことはないし、紙飛行機自体に飽きたことは一度もないよ。いつだって、改良して磨きをかけることを考えてる。ひとつひとつの紙飛行機がチャンスなんだ。フルタイムの紙飛行機野郎になってまだ4年も経ってないから、その質問はあと何年か経ってから聞いてくれるといいかも知れない。今のところ、紙飛行機は常に新鮮で楽しいよ。

世界でいちばん遠くまで飛んだ紙飛行機のデザインを考えて作って改良するのに、何年かかったのですか?

全部で3年かかった。投げる人や場所を探して、デザインに取りかかった。思っていたより難しかったよ。面白いのは、その飛行機のデザインは、私がA4の紙で最初に折った紙飛行機と、折り方がまったく同じだったということさ。もちろん、いろいろいじくり回して、翼を大きくして、あちらこちらに補強のための折り目を入れて、上反角もあれこれ試した(かなりの角度になった)。だけど、折り方は最初の紙飛行機のままだ。私の最初の挑戦は、正しかったのだと思うと、なんだか奇妙でもあり驚きでもある。もちろん、そこに気づくまでには、いろんな挑戦を重ねる必要があるんだけどね。

現在、いちばん好きな紙飛行機のデザインはどれ?

それはズルい質問だな。どの子どもがいちばん好きかと聞くのと同じだ。好きな子はいるかも知れないけど、それは絶対に口に出してはいけないことだ。

人は何かを作ることに飢えている

これまでに何冊も紙飛行機の本を出していますが、読者層は? 子ども、それとも大人?

私の本に関しては、面白いことに、あらゆる人が読んでくれてる。あらゆる年齢層の人たちが買ってくれてるんだ。何かを作ることに、人は飢えているんだと思う。紙飛行機のような単純なものでもいいんだ。だからMaker Faireがあんなに世界的な現象になっているんだと思うよ。

人は生まれながらにMakerなんだ。私たちは、自分に言い聞かせるための物語も、現実の瞬間瞬間に発明してる。だから「話し合い療法」が効くんだ。幻肢痛の患者に鏡を使った治療が効くのも同じだ(健全な側の体を鏡に映して動くところを見ることで、両方とも健全であると脳が思い込み、失われた腕や脚からの幻のメッセージを無視することができる)。つまりそれらの話は、私たちの脳が「現実の物語」を作り出してることを示してる。その気になれば、自分の物語を書き換えることもできるんだ。私たちは物理的な物を作ることが好きだけど、日常的な出来事から物語を作ったり、祝いごとを作ったり、食事を作ったり、飲み物を作ったり、服を作ったりすることも大好きだ。メイキングが大好きなんだよ。楽しいからね。Maker Faireはそれを引っ張り出してくれる。病みつきになる感覚だよ。フィードバックの好循環さ。

あなたは、紙飛行機が、航空力学と幾何学のための素晴らしい教材になると言っていますね。紙飛行機を使って授業をしたいと考える教師たちに、何か助言は?

とにかくやること。実際に手を使う作業は、活動の循環という科学的な手法を生み出す。紙飛行機なら、よりよく飛ぶ形を考えて折る。そして実験する(挑戦への順応だ)。調整を行い、試してみる(飛ばす)。データを得る(うまく飛んだか?)。なぜかを分析して新しい仮説を立てる。すべての飛行が試験飛行だ。紙飛行機は、細かい運動協調、目的に向かうこと、三次元の視覚化(二次元の紙から三次元のオブジェクトを作り出す)、基本的な幾何学図形の認識などなど、そうしたものを改善させる。飛行機の両側で同じことをするという考え方に、代数の基本がある。均衡化の操作だよ。初等教育から中等教育までの中に、紙飛行機を活用できる場所がある。わからないことがあったら、いつでも私にメールして欲しい。

あなたはプロの紙飛行機師となり、ギネス世界記録を更新し、テレビにも出演して、本を出して、世界中を飛び回って、おおぜいの観客の前で話をしている。これ以上、何かしたいことは? 新しい世界記録に挑戦するとか?

記録はどんどん塗り替えられるものだ。誘惑的なゴールという姿で、継続がそこにある。去年は嵐のようだったよ。だから、やりたいことをやる時間があまり取れなかった。私は本を書くのが好きなので、動力付き紙飛行機の本を書きたいと思ってる。私が気に入っている動力の搭載方法はいくつかあるのだけど、彼らが使ってる飛行機が気に入らない。そこに食い込めたらいいと思ってるんだ。

他に趣味はありますか?

ウインドサーフィンだよ。サーフボードの上に翼がついたものだ。航空力学、体と風と水とのバランスを同時に直感的に楽しむことができる。常に自分自身の存在を意識していないといけない。集中力を失うと、泳ぐハメになる。いい気分転換になるよ。妻のSuzanneとダンスも踊る。どちらもうまくないが、とても楽しい。

カントリーフェアとバーニングマンを掛け合わせたもの

あなたはMakerムーブメントと密接に活動しているMakerですが、Makerムーブメントを知らない一般の人たちに、それをどう説明しますか?

Makerは特別な存在のように見られるが、本当は違う。みんなMakerなんだ。家で発明をする人、ガレージでティンカリングをする人、真剣なホビイスト、溶接が好きな人、ドレスを作る人、3Dプリンターを使う人、木工、自動車いじり、金属の搾り加工、編み物、ビーズクラフト、模型作り、料理、折り紙が好きな人たち、みんながMakerという傘の中で共通の動機を持っている。大規模なMaker Faireは、カントリーフェアとバーニングマンを掛け合わせたようなものだ。裸がなくても楽しい火を吐く彫刻だ。Makerは、自分が学んだことを他人に教えたいという衝動に駆られている。そして、自分のメイキングの分野での大使を務めている。自分の趣味のごく一部を極限までに高めるMakerもいる。結果は奇妙でも、論理的な極地まで到達した結果だ。Maker Faireに行くと、自分が昔からやってみたいと思っていたものをたくさん見つけることができる。そして、その機会にも恵まれる。何かを作り始めること。それがMaker Faireの最大の利点だ。そこから離れることはできない。私は人を笑顔にすることが好きだ。それが最良のスタート地点だ。

ヴァルニアスのMini Maker Faireと教育フォーラムでは、何をする予定ですか?

楽しいことを山ほど持ってきてるんだ。これまでに披露したことのあるすべての飛行機を持ってきた。ブーメラン、フラッパー、タンブラー、スピンナー、上下逆さまになって戻ってくる飛行機、永遠に飛んでいるのかと思えるような飛行機(永遠という意味は変わることがあるが)。もちろん、世界記録を更新した飛行機の折り方も教える。「タンブリング・ウィング」を作るという新しいワークショップも行う。このプロジェクトを行うのはヴァルニアスで3回目だけど、英語が通じない人たちとどんなことになるか、今から楽しみだよ。折り方のダイアグラムはとても強力だから、どこにギャップがあるのか、すぐにわかると思う。目に見えない空気の波に乗る飛行機のバランスの取り方を人々が学ぶ様子を見るのは、きっと最高に楽しい時間になるだろうね。これは決して古くならない遊びだ。私が世界で最高の仕事に就いているということを、話したっけ?

写真:John Collinの個人アーカイブより

原文