Electronics

2014.01.07

ゲリラ・メイカースペース

Text by kanai

Christan BalchとSaskia Leggettは、意外な場所で創造的な機会を提供するGuerrilla Maker Spaceを立ち上げた。Against Irreverenceで、この2人のデザイナーとMakerたちのポッドキャストが聞ける。

LISA HITON(以下、LH):Guerrilla Maker Space(GMS)について教えてください。

CHRISTAN BALCH(以下、CB):GMSは、意外な場所にポップアップ(即席の)メイカースペースを開設して、人々に作ったりデザインしたり物をいじくりまわしたりといったクリエイティブな活動に参加してもらうことで、どのように創造性が刺激されるかを見るための試みです。

GMS playing and making; Harvard Yard.
ハーバードヤードにて、GMSのプレイング・アンド・メイキング。

Pop-up magnetic poetry with Taylor Morris at Harvard.
Taylor Morrisとポップアップ磁石ポエム。ハーバードにて。

LH:ポップアップスペースという言葉がよく出てきますが、実際にはどんな形で行っているのですか?

SASKIA LEGGETT(以下、SL):すべての材料を小さなプラスティックの箱に入れて持ち歩きます。MaKey MaKeysが3つ、自分たちのノートパソコン、色紙やクレヨンや、導電性の鉛筆など、作ったり色を塗ったりできるものです。あとは、MaKey MaKeyで使う金属製品を少し。すべてをこの箱に入れて人々の前に現れるんです。

GMS supplies at South Station in Boston, MA.
マサチューセッツ州ボストンのサウスステーションでのGMS。

LH:MaKey MaKeyについて教えてください。どうしてそれにこだわるのですか?

CB:MaKey MaKeysは小さな箱に収まります。ボードとワニ口クリップとUSBポートだけ。それだけです。ソフトウェアも必要ないし、ワニ口クリップでMakey Makeyと電気が通るものにつなぐだけで回路が完成して、コンピューターを操作できます。バナナを押したり(バナナは導電性です)、人や粘土や、とにかくなんでも電気が通じれば、スペースバーや右クリックと同じことになるんです。物理的なものとデジタルプラットフォームの両方を使って、人々に電子工作を体験してもらえます。

SL:テクノロジーを身近なものにするんです。キーボードやマウスの仕組みに隠されたミステリーを追いやって、現実の世界で「おお、バナナを押すとスペースバーが動くのか」とわかります。これは、パソコンの中に潜む未知のテクノロジーと現実世界、つまり普通に使ったり遊んだりしているものとを結びつけるための、重要なステップになるのだと思っています。

CB:人は、テクノロジーを手の届かないものと思っているみたいです。外国語のようにね。それを自在に操ったり、それで何かやりたいことをやるためには、訓練が必要だと思われているんです。でも、そうとばかりは言えません。私たちは、人々のそうした考えを変えさせたいのです。

SL:それこそ、私たちがずっと模索してきた部分でもあります。事前になんの準備もなく、無作為な場所でいきなり始める。みんな、電線や電子部品を見て戸惑います。だから私たちが、いっしょに遊びながら作ってみましょうと彼らを誘っても、テクノロジーで遊んだ体験のない人は尻込みします。

Saskia Leggett and Joey Siara at the Queen's Head Pub in Cambridge, MA.
マサチューセッツ州ケンブリッジのクイーンズヘッドパブにて、Saskia LeggettとJoey Siara。

LH:GMSで、あなたたちと遊ぶことで得られる体験を、恐怖心が邪魔をしないのでしょうか。

SL:とてもいい質問ですね。アート系の人間は「自分に才能はあるのか」と悩みますが、テクノロジーの世界では才能は関係なく、知識あるのみです。才能と学ぶこととはまったく別の問題です。だから、私たちはうまくいっているのだと思います。テクノロジーには才能はいらないし、堪能になる必要もない。ただ、恐れずに取りかかることだけです。

CB:一般的に創造性もそうなってしまいましたね。創造性があるのか、ないのか。でも、そこにどんな意味があるでしょうか。創造性って定義できますか? 誰にもできないと思います。

SL:サウスステーションでGMSを行ったとき、ひとりのお客さんが来ました。GMS史上最高の恐がり屋さんでした。彼は弁護士だと自己紹介しました。そして私たちの隣に座ったのですが、何も触ろうとしません。しかしとても興味を持ったみたいで、どうやるのかを聞いてきました。

CB:質問攻めです。

SL:答に困りました(笑)。そして私たちもいろいろ聞き始めました。すると彼はこう言いました。「音楽の才能はないんだ」と。それは子どものころか、あるいは人生の一時期にそうだっただけです。しかし、その恐怖心のために、ずっと音楽を遠ざけてしまったのです。私たちのプロジェクトにすら触ろうとしませんでした。

CB:明らかに、彼は触りたがっていたんです。じーっと見ていたし、どういう仕組みかをずっと聞いていました。しかし、「そう、その粘土を押せばいいのよ」と言っても、彼は決して粘土に触れませんでした。

Christan Balch and a table of makers at South Station in Boston, MA.
マサチューセッツ州ボストンのサウスステーションで、Christan Balchとテーブルを囲むMakerたち。

Setting up a graphite piano at South Station in Boston, MA.
鉛筆ピアノの準備中。マサチューセッツ州ボストンのサウスステーションにて。

LH:活動を通して得られた定性的な情報に対して、何を望みますか。または、それをどう活かそうと思いますか。

SL:大きな目で見て、自分たちがメイカームーブメントの中でどのような立ち位置にはまるのか、少し落ち着いて考えたいと思ってます。また、私たちが本当にやってみたいと思い始めたことを、すでに実行している人たちから話を聞きたいです。型にはまって行き詰まりを感じている教育者たちが、興味を示してくれることがたくさんあると思います。そうした人たちの、型を破る手伝いをしたい。今から目指すのは、その方向ですね。

CB:この活動の一部が、プロフェッショナル用の開発活動になればと思っています。「やったよ、うまくいってる」と言ってもらえるようなオープンフォーラムなど、私たちといっしょに考える教育者のための場です。

Guerrilla Maker Space at South Station in Boston, MA.
マサチューセッツ州ボストンのサウスステーションのGMS。

LH:GMSを体験した人たちは、何を得るのでしょうか。

SL:何か創造的なものと関わると、その後の人生が楽しくなると私は思っています。日々の生活で、創造性を持ち続けるようになれるかもしれません。それを検証する必要があるのかどうかわかりませんが、みんなはハッピーになって帰っていくと信じています。

CB:眉間にしわを寄せて帰っていく人はひとりもいません。受け取るものは、ひとそれぞれだと思います。それが私たちの活動の本質です。もっとやってみたい、知りたいという刺激を与えられればよいと思っています。日常のエレクトロニクス製品をただ漫然と使うのではなく、もっと使い込んでみたいと思うようになってほしいのです。

SL:子どもにMaKey MaKeyを買ってやろうと決める親御さんたちもいます。

CB:ある女性がいました。Makey Makeyのことはまったく知らず、技術的なことにはまったく興味がない人でした。しかし、それに触れてみて、直後に、彼女が務めていたカリフォルニアの学校に電話をして「ぜひこれを入れましょう!」と職員に訴え、私たちの活動について話してくれたのです。そして冬休みに帰省したとき、その学校で、この活動の立ち上げを手伝ったそうです。

Using clay to play; Harvard Yard.
粘土で遊ぶ。ハーバードヤードにて。

LH:なんだか懐かしい感じがします。私は何度かGMSを体験する機会に恵まれましたが、最初はとても楽しくて、それから楽しいことはすぐに終わって、最後には寂しくなる。静かになって、終わったんだと感じる。劇場での体験と似ています。ショーが終わって、あの出演者たちが再び同じ場所に集まって同じことをする機会はもう二度とないのだと思うと、とても悲しくなります。GMSの良さもそこにありますね。終わったとき、すぐには気づかないこともあります。何日か、何週間か、何カ月かして、学生がMakey MakeyやScratchで遊んでいるのを見て気がつくみたいな。

SL:私たちはインパクトを与えていると信じています。少なくとも、返ってきたアンケートの10件の答ではそうでした(笑)。

CB:15はあったわよ。

LH:実際に関わらない人でも、スペースが開催されていることに気がついて、「いっしょに遊ぼう」「いっしょに作ろう」というサインを見て、今していたことを、または退屈している人はその気持ちを、いったん中断させる思考プロセスが働く。とくに退屈している人に対しては、ものすごくワクワクすることだと思います。

GMS at the Queen's Head Pub in Cambridge, MA.
GMS、マサチューセッツ州ケンブリッジのクイーンズヘッドパブにて。

LH:この活動について、何か言いたいことは?

CB:先へ進めたくてワクワクしてます。

SL:ええ、私も。先へ進むというのが、どういうことかよくわからないけど、どこへ向かおうと喜んで進んでいきます。

CB:同感。

LH:次はどこへ向かうのか、とても楽しみにしています。街の中でいい仕事を続けてください。街中でね。

Using ketchup and mustard to make a controller at the Queen's Head Pub.
ケチャップとマスタードでコントロール。クイーンズヘッドパブにて。

訳者から:インタビュアーはドキュメンタリー作家のLisa Hitonです。

– Lisa Hiton

原文