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2019.10.31

自律走行カーレース、謎のスマートタクシー、体の上を転がる草など、Maker Faire Rome 2019レポート #1

Text by Toshinao Ruike

Maker Faire RomeはFiera di Romaの会場になってから、ホールを7つも使っている。教育などにより力が入った結果だと思うが、子どもたちにとっては広すぎて、おそらく一日ですべて回り切ることは難しいだろう。だとすると逆に子どもたちはどこをよく見ているんだろう、と今回は着目して歩いてみた。人気があったのは、イタリアらしくカーレースやサッカーに関係した展示。どちらもどちらかというと男の子向けのホビーかと思っていたが、女の子も熱狂的に参加していた。年齢性別関係なく愛されているのか、と感心した。

ロボットによるサッカー対戦ではロボットがキックする際に転がってしまったりする。ペナルティキックの場面は会場全体が張り詰めたような空気になるが、シュートのたびに会場から「はー」という大きなため息の音が漏れる。自分の身体を使わないテーブル・フットボールなどでも(私から見たら)異常に盛り上がる国なので、ロボットによる戦いでも大変盛り上がるのは納得がいく。

ローマのサピエンツァ大学の学生チームによる自律走行フォーミュラカー。今年のヨーロッパの学生レースで一位を取ったという。単位などは出ないが、機械工学科だけでなく経済学部など、さまざまな学部から学生が集まって制作したという。

基本的に自律走行車なので、操作する必要はほとんどないため運転席はいたってシンプルだ。バイクも展示してあったので、「これも自走するの?」と質問すると、バイクは予算的に規模が大きくなるから難しいんですよ、と語っていた。資金調達も自分たちでどうするか考えている。

ホールの一角でフットサルに興じている若者たちがいた。よく見ると、首の後ろに黄色いタグ型デバイスが取り付けられている。これはUWB(4GHzの超広帯域無線)によって位置データが送られて、戦術などに活用されるシステム、HI.TRECHで、レシーバーはコーナーに吊るされている。

アプリ上で、各プレイヤーの位置や走行距離、ヒートマップ(ボールの滞留時間を示す)や攻守の範囲が領域分けされて表示され、リアルタイムな分析が可能になる。実際にプロチームでも活用を進めているそうだ。UWBの通信範囲は比較的近距離ということだが、それでもサッカーコート一面ぐらいは問題なくカバーでき、既存のGPSを使ったシステムよりはるかに精度が高い。サッカーだけでなく、テニスやバレーボールや野球などほとんどの競技で活用できるそうだ。

体の上を草の生えたローラーが通過するただそれだけのために長蛇の列ができていた。ニューヨーク在住のイタリア人アーティスト、Mattia Casalegnoによるインスタレーション、Grass Rollerだ。今回のMaker Faireでは“Maker Art”と称し、各ホールのところどころにこういったインスタレーション作品を展示していた。各ホールがロボティクスやAIといったテーマで統一されているが、そこでアート作品があるといい意味で息抜きになる。またアート作品だけ一箇所に固められると身構えてしまうこともあると思うので、こういった展示方法は参考になるだろう。

骸骨が自転車を漕ぐタクシーが会場を通り過ぎる。おじいさんが微笑んでいるが、手にリモコンを持っているわけでもなく、足でペダルを操作したり、運転している様子はない。人が前にいると「はい、タクシーですよ。通ります。」と骸骨が話す。名前が「Smart TAXI」ということで、まるで自動運転車のようだが、話ができすぎていておかしい。制作者がこのおじいさんの息子さんか誰かでおそらく遠隔で操作しているのだろう……、と年齢で勝手に想像して見送ったが、後から調べてみるとこの男性が制作者で、映画の特殊効果の専門家らしい。道理で、仕掛けを感じさせないわけだ(本当に自動運転かは確認中だ。)

会場が広いので、割と地味な展示が集まるエリアは時間帯によってあまり人がいなかったりしたが、内容的に面白くなかったというとそれは別だった。上はLuca Brighentiが高校の卒業プロジェクトで作った水泳トレーニング用のLEDストリップを出展していた。もちろん防水で、モバイルアプリから速さなどコントロールできるという。どのくらいのペースで泳ぐべきかわからなくなることがある。自身も競泳選手で現在大学生だというが、実用的だと考えて、Maker Faireに出展を決めたという。

マイクからの音声入力で映像を生成するシンセサイザーを出展していたのはローマで音楽向けのFab LabをサポートしているサウンドアーティストのEnzo Cimino。ミキサーで調整しながらも、映像が音を反映する。ここまで鮮明ではなかったが、前に同様の展示をニューヨークでのMaker Faireで見たなあと思ったら、そのアーティスト、Jonas Bers氏のシステムを参考に作ったのだそうだ。

イタリアでもついにガンダムを作り始める者が。3Dプリントした1/9サイズのガンダム。イタリア各地から集まった有志により今夏制作された。制作費用は12,000ユーロほどで、時間は「もう何がなんだかよくわからないくらい」にかかったそうだ。日本のメディアの取材で来たと伝えると「許可は取ってないんです、許してくださーい!!」と言われた。商売するつもりではないそうなので、関係者の方々はあまり怒らないであげてください。

ちなみにこのガンダムが制作されたメイカースペース、Fab Factoryだが、元々はローマのFab Labのオーナーによって設立されたスペースで、今回数年ぶりにそのオーナーに会う機会があった。Fab Labの名前から変更されたが、なんと現在ローマ市内にメイカースペースを8カ所も増やしたという。繁盛していて何よりだが、一方で最近のイタリアでは「Fab Lab」の名前を見ない。そこで「Fab Lab」の件も含め、Maker Faireの運営やイタリアのメイカーたちの現状についてMassimo Banziにも聞いてみた。別記事にまとめたので、そちらも読んでいただきたい。