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2019.10.31

「政治に近づくのが危険? そんなの当然、いつものことだよ!」Massimo Banziが語ったMaker Faire Rome 2019 #2

Text by Toshinao Ruike

2013年から始まったMaker Faire Romeだが、私は今年でレポートするのは4回目(2014年2015年2017年、2019年)になる。今回は2019年の様子に触れながら、これまでの変遷、Massimo Banziとの対話やそこから読み取れるMaker Faireの可能性についてまとめたい。


黒塗りの高級車とダークスーツで身を固めた警備係たち。Maker Faire Rome 2019のオープニングイベントが行われた会場の入り口は物々しい雰囲気をかもしていた

ローマ市の商工会議所が主催するMaker Faire Romeには政府関係者など“お堅い”社会層の人々が集まる。今月開催されたMaker Faireにはネクタイこそ付けていなかったがスーツ姿の人々も目立ち、私も襟のついたシャツを着て会場にいたが、登壇した人々の中でキュレーターのマッシモ・バンジ(Massimo Banzi)だけがジーンズにTシャツ姿だった。少なからず、見た目は浮いていた。

この数年でフォーマルになったMaker Faire Romeと現地メイカーたちの変化

数年前のことになるが、イタリアのメイカーたちがスーツ姿の警備が入ることを以前から嫌っていたことを思い出した。メイカーの自由さとスーツが象徴する権力主義的な雰囲気が相容れないということが理由だった。今スーツに不満を言っていた彼らの大半はMaker Faireには来ていない。数年前100カ所ほどイタリア全土に広がったFab Labは、現在多くがほとんど活動していないという(少なくとも今年のMaker Faireでは2、3の出展しか見かけなかった)。現地のメイカー何名かに質問してみたところ、とりあえずスペースを設けるだけ設けてはみたものの、その後どう活動を続けたらわからなくなったことが主な理由だという。

スーツを着た警備が気に入らないと聞いた当時、私はその話にあまりピンと来なかった。しかし確かに今のMaker Faire Romeについて言えば、大仰な感じは否めない。そういった雰囲気に付いて行けなくなった者もいた可能性もある。

話を今年のMaker Faire Romeに戻そう。「メイカー界のパパ」とも最近は呼ばれているArduinoの共同創設者、Massimo Banziがキュレーターを務め、そしてローマ商工会議所が主催するイタリアの教育と産業へのテコ入れを目的に設計された世界でも最大級のMaker Faireとなった(2017年の記事「いかにイタリアは教育と産業を支援しているか」に書いたが、今も事情はほとんど変わっていないので、そちらを参照してほしい)。


上はMaker Faire内の「教育」をテーマにしたホールで行われていたワークショップで機械で回転している木の棒にノミで溝を入れて、はちみつ用のスプーンを作っている子どもたち

出展内容は別記事で改めて紹介するが、2019年もイベントとしては十分以上に成功していた。初日の「Educational Day」にはローマ近郊の小・中・高校から多くの子どもたちが訪れ、それ以上に一般の来場者が多く訪れ、2日目はランチ時に人が多すぎて売店に並ぶのをあきらめたほどだった。MassimoにMaker Faireの運営について率直に聞いてみた。

政治に近づくことが危険なのはいつものこと、市の商工会議所ががんばってくれている

──アメリカでのMaker Mediaの事業停止の件もあって、日本ではMaker Faireの持続可能性について、11月にカンファレンスが開かれて話し合われる予定です。Maker Faireを続けるためのポイントについて教えて下さい。

Massimo Banzi:ベイエリアは、GoogleとかFacebookとかそういったところの連中で友だち同士のような感覚でやっていて、運営にはお金も出さなかった。ニューヨークもそんな感じだ。ローマの場合は最初からスポンサーを探さなければいけなかったので、ビジネスモデルが違っていたということが言える。今は市の商工会議所が主催になっているから、チケット代もローマでは公式には12ユーロだが、フライヤーなどの割引で8ユーロぐらいまで割引される。

──この数年で、前はあれほどいたイタリアのFab Labからの参加者たちがほとんどいなくなりました。あれは、どうしてだと思いますか。

それは興味深い質問だと思うね。自分も色々提案しているんだけれど、使ってないスペースがあるからとりあえず設けるだけ設けて、どうしたらいいかわからなくなったところが多いんだ。

──最初は大手IT企業などをスポンサーに付けていましたが、ここ数年はローマ市の商工会議所が主催になりました。どういう経緯で商工会議所が主催になったんですか。

商工会議所とよく仕事をしている代理店と、物作りに関係したイベントをそれほど大きなものではないけれど一度やったんだ。それで向こうがこれは面白いと思ってくれて、商工会議所と話してくれたのがきっかけになった。イタリアの製造業に関して言うと中小企業の割合が大きいから、それを応援するイベントとしてMaker Faireはもってこいだったんだ。

──商工会議所や政府関係からの大きな協力を得ていますが、政治に近づくことは危険じゃないですか。

そんなの当然だ、『いつも』のことだよ!

──やはり政府関係の人たちと付き合ったり、交渉するために大きく時間が取られるのではないですか。

そこはね、市の商工会議所がやってくれてるからね。年の最初に話し合いの機会を設けて、その年のMaker Faireの詳細を決めて、後は必要なことはやってくれるんだ。

Maker Faire Romeの現状から読み取れる問題点・可能性

政治に近づく危険性とは具体的に何か突っ込んで質問はしなかったが、Massimoも政治の危険性を知りつつ、Maker Faireについてさまざまな決断を行っているようだ。人間関係や利権が複雑に絡み合うイタリア社会で、政治に首を突っ込むようなことに危険がないわけがない。政治に近づくことを恐れて、まったく近づかないことを決めていたら、今日の広くイタリア全体の教育や産業に影響を与えるようなMaker Faireは成立しなかっただろう。

逆に、政治との関わりのないところで、自由な活動を行おうとするメイカーもいるだろう。そもそも「社会から少しはみ出た」ようなタイプのメイカーも多い。

元々ベイエリアのMaker Faireは、西海岸のヒッピー文化にも影響を受けていたようだが、イタリアにはイタリアの、東京には東京の、各地のメイカーたちの自由さがそれぞれあるように思われる。Maker Faireが発展・拡大していく中で、やはりすべての種類の人々の要望を取り込んでいくことはより困難となる。SNSなどで散見されるが、私が過去に連絡を取っていたイタリアのメイカーたちも地方でまだ活動を続けている者はいて、Maker Faireに来なくなったからといって何かを「作る」という活動を止めたわけではないようだ。Maker Faireからはみ出ていった、そういった者たちの活動についても積極的に取り上げていくべきかもしれない。

Maker Faireはよい教育の場になる。それ自体に疑問はないが、例えば会場の様子を見ていると教育の場には相応しくないと思われる場面も見かけられた。小学生ぐらいまでは引率者が付いているが、中学生以上はグループでの自由行動が多い。7ホールを使って行われる大規模なイベントなので途中休憩は必須だが、床に座ってやる気がなさそうに友人とずっとだべっている子どもたちも多く、本当に展示を見る気はあるのだろうかと心配になるような場面も見受けられた。何にもない通路でサッカースタジアムの興奮状態の歓声のような「ウォー」という声を上げる男子学生たちもいる。近くで会場を監視していた消防の人にあれは何か質問してみたら「ちょっとバカなことやってるのさ」と冷静に状況を眺めていたが、生徒の悪ふざけをいさめる大人がいない。教育に関する考え方の違いもあるが、ほぼ一日授業の時間を割いて観に来ているわけで、こういった点は考慮するべきだろう。仮に日本のMaker Faireでも学校を呼ぶとしたら、さまざまな背景を持った生徒・学校があり、配慮が必要になるかもしれないと思った。

政府関係者が多く関わるだけでなく、教育的になりすぎるとMaker Faireはフォーマルで堅苦しいものになってしまう可能性もある。しかし、メイカームーブメントに元々あった自由奔放さとの間でどのようにバランスを取るかという課題も見えてきた今回のMaker Faire Romeだった。


イタリアの石油・ガス大手ENIの展示。大きな水槽の上にバジリコの苗が大量に植えられている。エコシステムを説明するため、3,000匹の金魚と15,000リットルの水が3日間の展示のために会場に運ばれたという。とても美しい光景ではあったが、エコロジー教育とは一体何か考えさせられた