Science

2020.08.14

パーソナル・バイオテクノロジーの実践者と今日の状況を考える「YCAM オープンラボ 2020 続・ナマモノのあつかいかた」レポート#2

Text by editor

編集部から:本記事は、津田和俊さん(YCAMインターラボ)に寄稿していただきました。
#1はこちらです。


このCOVID-19感染拡大の状況下において、DIYバイオやバイオハッキング、バイオアート、シビックテック・コミュニティ、美術館に関わる実践者はどのような取り組みをおこなっているでしょうか。

山口情報芸術センター[YCAM]では、2020年6月7日(日)から8月2日(日)まで、9週間にわたって日曜の朝11時から、オンライン・トークイベント「YCAM オープンラボ 2020:続・ナマモノのあつかいかた」を配信しました。この企画では、世界各地から毎週ひとりずつゲストをお迎えし、各国の状況や、ゲストの実践や考えていることについて伺ってきました。

前回のレポートでは、前半の第1回〜第5回の内容を紹介しました。今回は、後半の第6回〜第9回の中から、以下の実践を中心にレポートしたいと思います。

・バイオアートの役割や可能性を再考する
・周りのウイルスや微生物について調査する
・市民参加を促す情報プラットフォームをつくる
・国際的なネットワークで連帯して協働する

バイオアートの役割や可能性を再考する

第6回の配信では、オーストリアに一時帰国中のゲオルク・トレメルさんをゲストに迎えました。アーティスティック・リサーチ・フレームワーク「BCL」の共同設立者であり、15年以上にわたってアートとバイオを結びつける活動をしている彼からは、COVID-19拡大の状況下でできることは、アーティストとしてではなく、バイオの世界にいる人間として、わかっている事実を皆で共有すること、という話がありました。また、彼にとってバイオアートの役割は、新しい技術で何ができるかを問いかけ、可能性のある未来を創造することであるといいます。トークでは、今日の状況とも関連する作品として、自分たちでDNA配列を合成できるDIY装置のプロトタイプ作品「ブラックリスト・プリンター BLP-2000」も紹介されました。

周りのウイルスや微生物について調査する

ゲオルクさんの紹介により、第7回は、米国シアトルからバイオハッカーでアーティストのJ.J.ヘイスティングスさんをお迎えしました。今年2月に彼女は模擬火星滞在実験や南極での調査のため外部から情報を遮断された中にあり、COVID-19の感染拡大を知らなかったそうです。帰国途中に状況を知った彼女は、帰国後すぐニューヨークでの新型コロナウイルスの分布調査に参加しました。また、6月にシアトルで都市の微生物群集を調査するためのMetaSUBの世界同時サンプリングに参加した際の話として、そこに暮らす方々が周りの微生物環境やバイオポリティクスとの関係を知る機会になったこと、周囲の環境を自分たちの手で調査する動きが広がっていることを伺いました。

市民参加を促す情報プラットフォームをつくる

第8回の配信では、情報の透明性を追求する台湾のシビックテック・コミュニティ「
g0v
」から、ベス・リーさんをゲストに迎えました。g0vでは、公共・社会問題への市民参加を促すためのオープンな情報プラットフォームやツールの共同開発のプロジェクトが、ハッカソンなどを通じて数多く立ち上げられています。今回、新型コロナウイルスに関する情報が大量に氾濫し、「インフォデミック(InformationとEpidemic(流行)からなる造語)」ともいわれる状況の中で、COVID-19関連の情報発信を目的とした共同執筆ページが立ち上げられたことや、フェイクニュースの拡散を防ぐためにSNS上で問い合わせた情報の真偽を確認してボット機能が教えてくれるサイト「Cofacts」がうまく機能していることを教えていただきました。

国際的なネットワークで連帯して協働する

最終回となる第9回の配信では、アートと文化施設の役割に焦点をあてて、スロベニアのリュブリャナ近代美術館とメテルコヴァ現代美術館でシニア・キュレーターを務めるボヤナ・ピシュクルさんをゲストにお迎えしました。コロナ禍で活動が制限された中での美術館の取り組みとして、オンラインでの展覧会(現在「Viral Self-Portraits」が開催中)や野外イベントの企画、パンデミックの時代に関わる論考や収蔵作品・アーカイブの公開、リュブリャナに11ある全ての美術館に1枚のチケットで入場できるようにする「1 ticket to 11 museums」といった試みを紹介していただきました。また、こういう状況下では、国を越えた国際的なネットワークで連帯して協働することが重要であるとして、「L’Internationale」の事例が紹介されました。


以上、前半と後半に分けて、全9回にわたるオンライン・トークイベントの配信内容を、各ゲストの実践を中心にレポートしました。今回の企画では、インドネシア、ガーナ、オーストラリア、日本、オーストリア、米国、台湾、スロベニアから、友人をゲストに迎えました。メディアで耳にすることの少ない各国や各都市の現状や、COVID-19感染拡大下におけるバイオやアートを取り巻く多様な実践事例や考え方を伺い、意見交換し、配信してきました。これまで配信された全ての収録映像は、YCAMのポータルサイトの本企画のページ「
YCAMオープンラボ2020
」でアーカイヴ公開しています。言語は、英語音声・日本語字幕(第1回と第5回は現在は日本語音声のみ、後日英語字幕版を公開予定)です。このレポートを読んで関心を持ってくださった方は、ぜひご覧いただき、SNSなどで #YCAMOpenLab2020 を付けて、ご意見・ご感想をお寄せいただければ幸いです。引き続き、この状況の中で、YCAMとして何ができるか模索していきたいと思います。