2020.08.17
作って食べよう #1|自作タコスを簡単に食べるために木工で作る「トルティーヤプレス」
ごあいさつ
全国老若男女紳士淑女のメイカーの皆さんこんにちは! FabLabSENDAI – FLAT(以下、FLAT)です。
FLATは、仙台駅前のメイカースペースであり、“作りたいと思い立った時に、作れる”を目標に東北のメイカーさんたちを応援しています。技術力や得意分野のわけへだてなく、自分にとって価値のあるものが作れる、そんな場所になればよいなと思いながら、オープンしてから早7年たちました。
FabLabSENDAI – FLAT。週3日、誰もが使える工房としてオープンしています
とはいえ、休みなくコンスタントに何かを作り続けるのって大変ですよね。何か一作品作り上げたら、次の物に取り掛かるまではちょっと間を置きたいって人、多いと思います。短期間でガッと作り上げると、完成した後に“燃え尽き症候群”というか、エネルギー補充の時間が必要なんだろうと思います。
短い時間で情熱を燃やしながらバーンと作り上げるのも、それ特有の楽しさがあります。その一方で、じっくり長い時間をかけながら小さいことでも良いからコツコツ作っていくのも味があります。たとえば、なにか生きていく中で、毎日やらなきゃいけないこととものづくりを結び付ければ、どうでしょう? 日々の日課というと、そうですね、「食事」なんていいんじゃないでしょうか。生きるために食べる、そこに自分の作ったツールで、ひとエッセンス加えることができれば、生活も楽しくなるし、たとえ作ったものが使いずらかったとしても、ちょっとづつ改造していって、気づいたら愛着なんか湧いちゃったりして、一生物の道具になったりしたら素敵だと思いませんか?
この「作って食べよう」では、毎回そんな小さいけども、コツコツつづけるものづくりの出発点となるような、食べる(時々、飲む)ための道具を自分たちで作ってみるコーナーです。
タコスからはじめます
Wikipediaにあった本場タコスの画像。(photo by Pedro Sanchez)
タコス、大好きなんです。お店で食べるのも良いけど、もっぱら夕飯として自分で作って食べてます。慣れてくると、手巻き寿司くらいの手軽さで、アレンジとかも簡単なんです。ただ、唯一時間かかるのがトルティーヤ(生地のこと)を伸ばす作業。慎重にやってると、皆が食べ始めてるのに自分は食べれなかったり、かといって急ぐと丸くキレイに伸ばせなかったりで、ちょっと大変。
トルティーヤプレス
そこで見つけたのが、このトルティーヤプレスなる道具。本場メキシコでは、当たり前のように流通している調理器具で、最近日本でも金属製のものがちょこちょこ買えるようになってきました。これがあれば、トルティーヤを丸く一瞬でのばすことができる! 以前からやってみたかった木工の工法もあるので、今回はこれを木で作ってみたいと思います。
材料
今回使った材料はこちら! 工房にあった端材を中心に使いました。
珠玉の無垢端材コレクションから引っ張り出してきました。
これに加えて、金具や接着剤など細々したものがこちら↓
・ステンレスパイプ(直径10ミリ、長さ15センチ)
・MDF 5.5ミリ厚(300ミリ×300ミリ)
・Osmoカラー(ノーマルクリア:入手先)
・木工用ボンド(タイトボンド3:入手先)
・木ネジ38ミリ(クロメート)
・丁番(入手先)
道具
道具はこんな感じです。まったく同じでなくても、デザインを変えたり、自分の持ってる素材に合わせて、使う道具を変更してももちろんOKですよ。問題は、プレスのハンドルを押したときに2つのプレートがピッタリくっつくかどうかです。
・電動インパクトドリル
・木工用ドリル
・のこぎり
モデリング
まずは、プレスの形を3Dで起こしていきます。丸い形にしたいのと、使う素材で本当に足りるかどうかチェックしたいので、事前に形状確認用に3Dモデリングしていきます。ちなみに、僕の愛用ソフトウェアはRhinocerosです。毎度お世話になってます。また、作成したデータをご覧になりたい方は、GitHubにアップしておきましたので、チェックしてみてくださいー。
左:3Dビュー、パーツは分かりやすいよう色分けしてます。右:実際にレーザーカッターで切り出すテンプレートの図面
レーザーカット
3Dで形状が確認できたら、各パーツの型をレーザーカッタ―で切り出します。この型は、このままプレスのパーツになるのではなく、パーツを作るためのテンプレート(型紙)として使います(カットデータはこちら)。
左:レーザー加工中。右:切り出したテンプレートを実際に素材に載せてみました
一般的なCO2レーザーカッターで、今回使うような厚さが2センチもする無垢材をカットするのは困難です。では、どうするかというと、後で説明するトリマーという電動工具でカットします。
ノコギリでざっくり切る
まずは、テンプレートを素材の上に載せて各パーツの形を鉛筆でなぞります。
左:テンプレートに沿ってマーキング。右:鉛筆の線は、加工後に消しゴムかければ消えます
そしたら、ノコギリで材料を大まかに切っていきます。手ノコでも可能ですが、今回はスライド丸ノコを使用してサクッと終わらせました。
手ノコでも可能な量でしたが、レーザーポインター付きのスライド丸ノコを使ってみたかったんです……
ざっくりとカットしたパーツに、レーザーカッターで作ったテンプレートを両面テープで貼り付けたら、トリマーでの作業準備完了!
左:幅広の粘着度が強くない両面テープを使用。 右:鉛筆のマーキングに合わせてテンプレートをペタリ
トリマーカット
いよいよ、先ほど名前をあげた“トリマー”を使って、パーツをテンプレートの形に近づけていきます。このマシンは、高速回転するビット(トリマーの刃のこと)で木材をバリバリ削っていける道具なのですが、今回は作業テーブルの裏側に固定し、テーブルの穴から表に出たビットで素材を削っていけるようセッティングしました。専用のテーブルもあるのですが、今回は合板にネジでそのまま止めてあります。
左:今回は使用したトリマーはRYOBI MTR-42。右:テーブルの裏側から固定します
とはいえ設計した形にカットするためには、フリーハンドだと難しく、先ほどレーザーカッターで作ったテンプレートが必要なのです。ビットにはいろいろ形があるのですが、中でも「目地払いビット」というものにはベアリングがついていて、これがテンプレートに沿って動いてくれるガイドになるため、素材がテンプレートとまったく同じ形に削れるというわけです。
今回使った目地払いビットの刃の長さは22ミリ、ちょうど素材を貫通する長さでした
ざっくり仕組みを説明したところで、各パーツをルーターで削っていきます。高速回転する刃に、慎重に素材を当てて行くのですが、ここで木目を読み間違えると大変危険です!
木目を読む—順目と逆目—
なんて言うと熟達した職人さんみたいですが、トリマーでの加工時には板の木目方向を気にしてないと大けがします(事故で、指が飛んでしまうことも……)。基本的に、回転しているビットに対して刃が切り込むように、刃の回転方向へ逆らうように素材を動かしていきます。
この時に、木目がビットの進行方向に向いていると、順目(じゅんめ)といって木の繊維をなでるように刃が切り込むので、うまく切削できます。
それと反対に、ビットの進行方向に逆らうような木目のことを逆目(さかめ)といいます。この状態で削ろうとすると、ビットの刃が木の繊維に引っかかって、当たった部分がめくりあがります。針葉樹合板のような柔らかい素材ならまだしも、今回削っていたのはオニグルミやケヤキといった固い木材だったので、逆目で刃が当たると、“バンッ!”と音がして素材が弾き飛ばされることも。これがトリマーを使う時の一番怖いケースです。
じゃあ、どうするか? 解決方法としては、逆目になりそうなところの加工は後回しにして、順目の部分だけ全部削ります。そしたら、素材をひっくり返して、テンプレートもいったんはがして裏側につけ直します。素材を反転させることで、さっき逆目だった部分が順目方向でビットに当てられるようになるのです。ちょっと手間がかかりますが、安全のために逆目回避は絶対にやった方が良いです。
テンプレートを表から裏に貼り替えているところ。左右対称なパーツ形状だったので、やりやすかった
ひっくり返して、残りの順目(元逆目)を削り切ったらトリマー加工完了。テンプレートの形ピッタリに素材を削ることができました!
逆目で弾き飛ばされたりした時は、どうしようかと思いましたが、ちゃんと木目を意識してからはキレイに削れるように
一般的なCO2レーザーカッターだけだと、どうしても切り抜ける材の厚みに制限があるのですが、トリマーを組み合わせると、厚みのある素材も狙ったとおりの形に加工できますね。ただ、トリマーは便利な道具ですが、扱い方を間違えると大怪我につながるマシンなので、しっかりと安全対策をする必要があります(ゴーグルの装着はもちろんのこと、今回のようにテーブルにつける場合にはガッチリとマシンを固定するのは必須です)。
トリマーでパーツの形を整えた後は、ハンドルとU字型の土台パーツに、ステンレスパイプを通すための直径10mmの穴をボール盤で開けました。
左:垂直に穴を開けたいのでボール盤を使用。右:パーツの切り出し完了!
仕上げ
塗装前に、バリ取りのために紙やすり(240番)でやすりがけしていきます。平らな面は、紙やすりを板に張り付けたもので、やすってあげるとムラなく均一な平面になるのでおすすめです。
左:曲面は紙やすりのみで。右:平面出したいとこは板に張り付けた紙やすりで
そのままだと角が痛いので、紙やすりを当ててピン角を削ります。角が少し丸みを帯びるだけでも、手触りが良くなり、使い心地がグッと変わりますよ。この角をとる作業を“面取り”と言います。
左:面取り前の鋭い角。右:紙やすりだけでも丸角になって柔らかな印象に。もちろん手触りもGOOD!
とりあえず塗装前のやすりがけ終了! あとで接着する部分には、塗料がついて接着力が落ちるのを防ぐためにマスキングテープを貼っておきます。
愛用のマスキングはKAMOIのミントテープです。粘着力が絶妙で跡が残りにくいのが最高!
つづけて、塗装を行っていきます。今回使う塗料はOsmoのノーマルクリア。最終的にプレスは生地に直接触れることはないのですが、食器にも使用できる塗料を選んでみました。
左:塗料というよりワックスのようなOsmoノーマルクリア。右:V字にテープを張ると変なところに塗料がこぼれずキレイに使えます
パーツに塗料を刷毛で塗り、20分置いたあと、余分な塗料をウエスで拭きとったら、乾くまで1日置いておきます。
左:刷毛で塗料を配って。右:ウエスで余分を拭き取っていくイメージ
猫よけ用マットを小さく切ったものは、物を点で支えてくれるので、一度に両面塗装したパーツでも、きれいに乾かしてくれるのでおススメです! 知り合いの大工さんに教えてもらったテクニックなのですが、片面ずつ塗装しては乾かすという手間を省くことができるのでホントに効率が上がりました。
左:猫よけマットをこういう形に切っておきます。右:土台として使うと接地面の跡が残るのを防ぎます
これで、塗装完了! としても良いのですが、一晩乾かしたら、ホントにかるく、1000〜800番くらいの紙やすりを全体にかけて、もう一回ノーマルクリアを塗ってあげるとスッベスベになりツヤもでます! もちろん二度塗りするとまた乾燥させなければならないので、塗装に丸2日かかるのですが、手間暇かけて育てていくのもまた楽しいものです。
左:#1000でホントにかるくやすりがけ。右:二度目の塗装を終えたパーツ。一回目よりもツヤが出ます
乾燥を待っている間に、ハンドル部分の軸になるステンレスパイプをパイプカッターでカットしておきました。今回の設計では8センチの長さに切ると、ちょうどハンドルとそれを支える土台部分に収まります。
左:なにかと便利なパイプカッター。右:切断面が鋭利なので、金属用棒やすりで滑らかにしておきます
組み立て
塗装が乾いたら、組み立て開始です! 塗料から保護する目的で貼っていたマスキングテープをパーツからはがしておきます。接着に使ったのは、食器にも使用可能で耐水性のあるタイトボンド3。
木工作家さんご用達のタイトボンドシリーズ。今回は耐水&食品安全性◎な“3”を使用
まずは、ハンドルを受けるパーツをプレスの上側部分に接着します。接着する時は、できるだけクランプではさみ、圧力をかけながらボンドの硬化を待ちます。もしボンドがはみ出したら、乾かないうちに、水に浸して固く絞ったウエスやキッチンペーパーで拭いてあげるとキレイに取れます。
左:マスキングをはがして接着。右:クランプで圧力をかけながら固めていきましょう
次に、ハンドルの台座部分を作っていきます。こちらも貼り付けた後にクランプで固定。クランプの跡がつかないか不安だったので、端材を間にはさんでいます。
左:ボンドの量は、足りないよりはハミ出たのを後で拭き取るくらいがベター。右:こちらもクランプで固定!
ハンドルを押す力を受け止める箇所なので、ネジを打ち込んで更に強化しておきます。しっかりと予備穴を空けた後に、ネジで締めていきます。
左:予備穴をドリルであける。。右:しっかりと木ネジで固定していきます
ここまでできたら、プレスする部分の上側と下側を丁番で合体させます。丁番の位置を決めたら、マスキングテープで仮固定して、鉛筆でネジを打ち込む位置に印をつけて、丁番を外して、細いドリルで予備穴を開けていきます。
左:マスキングテープで仮固定。右:細い木工用ドリルで下穴をつけていきます
予備穴に丁番を重ねてネジ止めしていきますが、まずは片方だけを軽く仮締めします。その後、もう片方も仮締めしておきます。丁番の角度がズレすぎると、プレス部分の開閉が固くなるので、途中ですこし開け閉めして具合を見ながら、各ネジを増し締めして行きましょう。
左:片側だけネジで仮締め。右:途中ちょっと角度つけたりして、固くなっていないか確かめながら増し締めしました
あと、もう一息です! ハンドルを台座の間に通し、横からアルミパイプを通して、ハンドル部分を設置します!通した後に台座とアルミパイプとの間に瞬間接着剤をしみこませておくと、使っていくうちにズレるのを防ぎます。しかし、軸を通すときに接着剤が付着して動いてほしいところも固めないように、手順や場所を考えながら塗ってくださいね。
左:いよいよすべてのパーツが1つに。右:軸の固定には、頼れる接着剤“SUPER SU”を使いました
接着剤が硬化したら、トルティーヤプレスの完成! 本場のアミーゴさながらのタコス人生の始まりです。
やっとこさ完成!ハンドルの持ち手部分のくびれはベルトサンダーでつけました
いざ、タコス
散らかった作業空間を片づけ、完成したプレスを固く絞ったふきんでさっと拭いたら、早速タコス作り!
トルティーヤは、小麦粉からつくるものと、トウモロコシ粉から作るものがあります。特にトウモロコシ粉で作った生地は、粘りが少ないのでめん棒で伸ばそうとすると割れやすいのです。そこで、トルティーヤプレスの登場というわけです。
トルティーヤプレス動画:
動画のようにジップロックを切って開いたものに、生地をはさんでプレスすると、伸ばした後にはがれやすくて、調子がいいです!
今回は、メキシコ食材輸入店から購入した、イエローコーンフラワーを使用したトルティーヤをつくりました。
次回も、つくって楽しい、食べておいしい何かをご紹介する予定です。ではでは、良い自作&食生活をお送りください。
おまけ:餃子もできるかな?
もう1つ、プレスでやってみたかった餃子の皮づくりをやってみました。強力粉を使用したのですが、皮の弾力が強くて、トルティーヤほど薄くできず、かなり厚手のもっちりとした生地に仕上がりました、個人的には好みの仕上がりでうれしいのですが、薄い皮が好きな派はめん棒で伸ばした方が良いかもです。
左:餃子の皮の時はジップロックじゃなくて、クッキングシートの方が良いです。右:皮しっかり餃子の誕生
—— 作業スペース提供 & 製作協力:tHiN’nk.