Science

2020.07.16

パーソナル・バイオテクノロジーの実践者と今日の状況を考える「YCAM オープンラボ 2020 続・ナマモノのあつかいかた」レポート#1

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編集部から:本記事は、津田和俊さん(YCAMインターラボ)に寄稿していただきました。編集部の事情によって掲載が遅れたことをお詫びいたします。


現在、毎週日曜の朝11時から、山口情報芸術センター[YCAM]のオンライン・トークイベント「YCAM オープンラボ 2020:続・ナマモノのあつかいかた」を配信中です。この企画では、世界各地から毎週ひとりずつゲストをお迎えし、このCOVID-19感染拡大のパンデミックの状況下における各国の状況、そしてゲストの実践や考えていることを伺い、いま私たちにできることを考えていきます。

6月7日(日)からはじまっている本企画は、7月10日現在、予定している全9回のうち第1〜5回まで配信されています。この状況下において、DIYバイオやバイオテクノロジー、生物学に関わる実践者はどのような取り組みをおこなっているでしょうか。ここでは、これまでのゲストのトークの中から、以下の実践を中心にレポートしたいと思います。

・個人用防護具をつくって届ける
・検査のためのDIYハードウェアを共同開発する
・検査のための試薬の供給体制をつくる
・生物学をもっと広く学び理解する
・身近にある生態系を拡張する

個人用防護具をつくって届ける

ゲストの方をお迎えする前に、第1回の配信では、YCAMのバイオ・リサーチの研究員から、COVID-19パンデミックに対する国内外のオープンソース・DIYコミュニティの対応状況について概説しました。その中では、Make:ブログや、先日オンラインで開催されたVirtually Maker Faireでも紹介された、メイカーやFab Labによる個人用防護具(フェイスシールド、マスクなど)の自作に関する取り組みに着目しました。さらに国内のフェイスシールドにおける展開として、医療の現場などに安全に届けるための製作者・ユーザー向けガイドライン「Fab Safe Hub」の試み、オープンソースで公開されたフェイスシールドのフレームの3Dデータをもとに中小企業協同組合が金型をつくって量産化した事例を紹介しました。

検査のためのDIYハードウェアを共同開発する

続く第2回の配信では、インドネシアのアートコレクティブ「Lifepatch」の共同設立者で研究者のヌル・アクバル・アロファトゥラさんから、COVID-19の検査のためのDIYハードウェアの共同開発の取り組みが紹介されました。検査法として現在最も一般的なのはリアルタイムPCRという手法ですが、より低コストで簡便な手法であるLAMP法に着目し、それを広めるために、反応に必要な一定温度が維持できるオープンソース(GPLv3)のハードウェアを、エンジニアの久川真吾さん達と共同開発しています(Virtually Maker Faireでの紹介ページ)。大学と協力してテストした結果は良好で、これからスタートアップ企業と協働して量産体制を築き、さらに政府の支援を得て、この手法を広く行き渡らせたいとのことでした。

検査のための試薬の供給体制をつくる

ガーナにある「Hive Biolab」共同設立者のハリー・アクリゴさんを、第3回の配信のゲストに迎えました。彼らはウイルスの検査や研究を続け、感染経路や原因の究明に注力しています。第2回は検査のためのハードウェアの話でしたが、この回ではPCR検査法に必要な試薬の方の不足を解消するために、Open Bioeconomy Labという研究所と連携して必要な情報やツール・手順を共有し、試薬を国内で生産するパイプラインの構築を進めているという話がありました。また他にも、正確な科学的知識を広めていくための無料のオープンな場としてアフリカ発信のプラットフォーム「AfricArXiv」がつくられて、COVID-19関連の記事が公開されていることや、OpenCovid19 Initiativeを推進する国際的なプラットフォームとして「Just One Giant Lab」が紹介されました。

生物学をもっと広く学び理解する

第4回は、オーストラリア「SymbioticA」の共同設立者であるオロン・カッツさんをゲストに迎え、生物学の意義や今回の教訓についてお伺いしました。本来、生物学は私たち人間に自然界での在り方を教えてくれるものであり、今回のパンデミックであらためて、私たちは生き物であり、群れであり、そして自然界と切り離せない存在であることに気付けたといいます。また、バイオテクノロジーなどの技術が全てを解決できるわけではなく、この世界で共に生きるために、もっと広い観点で見た生物体系の複雑な相互作用など、生物学をもっと広く学び理解することが大切であると続けます。そして、最も伝えたいのは謙虚さ、生物学から謙虚になることを学ぶべきであり、そのことこそが今回の教訓であるとお話いただきました。

身近にある生態系を拡張する

ワイルド・サイエンティストの片野晃輔さんを、第5回のゲストに迎えて、シチズン・サイエンスやDIYバイオの役割について伺いました。トークでは、今回のCOVID-19感染拡大など、問題が起きてから対処する、緊急性や専門性を要する対応(リアクティブ)だけでなく、まず身近にある生態系や生物学的現象に目を向けて、日頃から予防的に取り組む対応(プロアクティブ)もあるという話がありました。後者の具体例としては、運動や食事などを通じて身体と向き合うことや、家庭菜園などで身近な生態系を構築することなど。さらに、より多様な植物を植えるなど、人間が能動的に介入することで環境の変化に強い生態系を構築し、生物多様性の向上や感染症のリスク低減につなげていく研究についてご紹介いただきました。


以上の通り、各ゲストの実践の概要をレポートしました。今日の状況の中、バイオテクノロジーや生物学に関心が集まり、今まさにオープンソース・コミュニティや国際イニシアチブ、DIYバイオ、バイオアートなどの社会的意義を再確認する機会が訪れていると感じています。また、今回の企画を通して、各国の状況を直接学ぶことの大切さも実感しています。これまでの配信は随時アーカイヴ公開されていきます。また、これからの配信スケジュールは以下のとおりです。このレポートを読んで関心を持ってくださった方は、ぜひご覧いただければ幸いです。

●開催概要

YCAM オープンラボ 2020:続・ナマモノのあつかいかた
2020年6月7日(日)から8月2日(日)までの毎週日曜11時から
ホスト:レオナルド・バルトロメウス、伊藤隆之、高原文江、津田和俊、吉﨑和彦(YCAMインターラボ)、塚原悠也(contact Gonzo)

●今後のスケジュール

7月12日(日)/ゲスト:ゲオルク・トレメル(日本、オーストリア) ※終了
7月19日(日)/ゲスト:J.J.ヘイスティングス(米国)
7月26日(日)/ゲスト:ベス・リー(台湾)
8月2日(日)/ゲスト:ボヤナ・ピシュクル(スロベニア)

●イベントの参加方法

イベント当日にYCAMのウェブサイトからイベントのページにアクセス
https://www.ycam.jp/events/2020/openlab/