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2024.03.26

Maker Faire Bay Area 2023:ベイエリアに甦った魔法 — 作ることで、私たちは自分自身を創造する

Text by Dale Dougherty
Translated by kanai

「最高(Fantastic)」と誰かが叫ぶのが聞こえた。「Maker Faire Bay Area 2023」6日目の最終日、メイカーたちが作品を片付けて撤収を始めていたときだ。キース・ジョンソンは、ジョン・サリュガートの緑色の目映い光に包まれた巨大な宇宙船「Project Empire」によじ登っていた。私が近づくと、キースは「Maker Faireは最高だよ」と興奮気味に声をあげた。それを聞いてホッとした。メア・アイランドで再開されたMaker Faireで、みんなが新しいウォーターフロント会場に満足してくれたことを知って安心した。以前から、Maker Faireに来てくれていた大勢の人たちが戻ってきてくれたことに加え、初めて参加した人たちも多く、本当にうれしく思った。

Maker Faireがサンマテオで開催されていた初期のころにカップケーキ・カーで参加したキース・ジョンソンとメリリー・プロフィットは、今回、自作の大型四輪車「Electric Wrecker」を披露していた。ジョンとキアステンのメイト夫妻は、第1回Maker FaireにNASAの宇宙探査車両をイメージした「SS Alpha Fox」を、数年後には巨大なカタツムリ型車両「The Golden Mean」を出展してくれたが、今回は「Project Empire」をひっさげての参加だった。25人のクルーが8年間かけて完成させた作品だ(「Make:英語版」Volume87を参照)。第1回Maker Faireの当時、キアステンのお腹には娘のゾリーがいた。その子が今やティーンエイジャーに成長し、キースとメリリーの娘さんといっしょにクルーとして活躍していた。

4年間の休止期間を経て、Maker Faire Bay Areaは2023年10月に再開された。カリフォルニア州バレーホのウォーターフロント、海軍造船所跡地メア・アイランドで、2回の週末に分けて開催された。

Maker Faire Bay Areaの再開が受け入れられるかどうか、私は少し心配だった。リスクがあった。大勢のMakerたちが作品を出展してくれるだろうか? 以前のMaker Faireを楽しんでくれた人たちが、どんな感じになるかがわからないまま、大勢戻ってきてくれるのだろうか? 以前のように、思いっきりオープンで創造性にあふれ、光輝くイベントになるのだろうか? Maker Faireは、初めて開催したときとはまったく別の世界に戻ってくることになるからだ。

だがそれは余計な心配だった。


人々を魅了したアーマ・ハリスのロボティック鳥人「ValkyIrma」(Photo by Stephen Jacobsen)


Acme Muffineeringの「Cupcake Car」(Photo by Mark Madeo)


カリフォルニア大学バークレー校のテイラー・ワデルが披露した高速3Dプリンター「Computed Axial Lithography」(CAL)


センターステージで開催されたEepyBirdの「ダイエットコーク&メントス」ショー


ダークルームに出現したアートカー「Sepia Lux」


体験ワークショップも数多く開かれた(Photo by Mark Madeo)


彫刻家ピエール・リシェが製作した高さ約3メートルの金属の馬「Golden Possibilities」(Photo by Mark Madeo)


「Obtanium Works」の変テコなロボット (Photo by Stephen Jacobsen)


Hack Clubのクリス・ウォーカーはバウンスハウス船「Castle Bravo」でナパ川に漕ぎ出した(Photo by Stephen Jacobsen)


ファンドリーに鎮座したジェシカ・ウェルツの「Celestial Mechanica」(Photo by Mark Madeo)

生粋のメイカーたち

Maker Faireの魔法は、魅力的で多種多様なメイカーたちと、復活を心待ちにしてくれていた熱烈な来場者たちの手で甦った。それは空気のなかに感じられた。みんなの笑顔にそれが表れている。駐車場から会場入口までの送迎バスでは期待で会話がはずみ、駐車場に帰るバスのなかでも興奮冷めやらず、同じようにざわめきが収まらなかった。

恒例の人気企画だったEepyBirds[訳注:サイエンス系エンターテインメントYouTubeチャンネル]の「ダイエットコーク&メントス」ショーに集まった観客は、その多くが子どもたちだったこともあるが、最初のころと同じ新鮮な興奮に包まれた。アーマ・ハリスのロボティック鳥人「ValkyIrma」、カリフォルニア大学バークレー校の研究者テイラー・ワデルがデモった即座に光造形プリントができる新方式の3Dプリンター「Computed Axial Lithography」(CAL)など、Maker Faireの大半は未知との遭遇だ。


海軍造船所跡のメア・アイランドを悠然と歩く電気キリン「Russell」(Photo by Mark Madeo)


パレードに加わる足こぎ式キネティック・スカルプチャー「Trashlantis」


「Holy Bike」にまたがるキース・ヤング(Photo by Mark Madeo)


Obtainium Worksの走る魔法のランプ「Genie Lamp」(Photo by Mark Madeo)


「Berbawy Makerspace」の高校生たちが「Nerdy Derby」を開催(Photo by Mark Madeo)


4足歩行の犬型ロボットの周りに集まる小学生たち。


光るクラゲ「Jellyfish Grotto」の下を歩くMakeFashionのエリン・セント=ブレイン(Photo by Mark Madeo)


ダークルームで音に反応して光る、クレイグ・ニューズワンガーの「RayLights」(Photo by Mark Madeo)

毎日、パレードも行われた。あらかじめ予定されていたものではなく、動くものならなんにでも反応するメイカーたちによって自然発生したものだ。電気キリンの「Russell」が動き始めると、カラフルなマフィン型の電動カートがそれに続き、凧型パペット、サメ型バイク、Trashlantisをテーマにしたペダル式のキネティック・スカルプチャー、爆音のHoly Bike、ジニーが乗った火を噴く魔法のランプなどのObtainium Worksの作品、赤、白、黒のユニフォームをまとったマーチングバンド、大きなスピーカーを載せた赤いロボットカート、そして最終日にはKinetic Steamの巨大な蒸気自動車も大通り「エスプラナード」を練り歩いた。人々は、街のパレードを見るときと同じように沿道に並び、写真を撮ったり手を振ったりしていた。最高の光景だった。

今回のMaker Faireは、このコミュニティだからこそ実現できた。そしてMaker Faireだからこそ、それを体験できる。新しいMaker Faire Bay Areaは、第1回を除き、過去のバージョンに比べて規模は小さくなったものの、ハンダ付け教室や数多くのワークショップなど、その本質はひとつも欠けていない。あの空っぽの造船所跡を埋めるには十分すぎる精神があふれていた。そのエネルギーと気迫はじつに新鮮だった。みんなが離ればなれになってしまったコロナ禍とそれ以後にも失われていたものだ。この10年間、私たちの生活様式は暗くきびしいものへと変化した。しかしMaker Faireは、希望の光を届けるLEDストリングライトのように、大勢の人たちのクリエイティブな気持ちを照らし出し、何ができるかを考えさせてくれた。再びみんなで集まれたことは、この上ない喜びだ。

人々の人生に、Maker Faireはどれほどの影響を与えたのか? 私は会場を訪れた人たち、そして毎年来てくれる人たちに、Maker Faireが意味するところを尋ねた。現在はエンジニアとして働いているという人は、子どものころにMaker Faireで初めてティンカリングに接して刺激を受けたと話した。あるメイカーの息子は、少数ロットでレコードを作る技術を学び、レコードの注文生産を行う会社を運営しているという。アービントン高校のメイカースペース「Berbawy Makerspace」の面々は、6日間、「Nerdy Derby」を開催していたが、1人の女子生徒は、Maker Faireに来るまでそれが何かを知らなかったが、人生で最高の経験をしたと話してくれた。

もちろんMaker Faireには、ロボット、ロケット、ドローン、LED、溶接、ハンダ付け、編み物、吹きガラス、金属加工などが山ほど展示された。最初の週末には、ダークルームにてMakeFashion Collectiveによる「Hack the Runway」ショーが開催された。エリン・セント=ブレインは、光るクラゲが吊されたランウェイをLEDドレスをまとって歩いていた。壁に埋め込まれたクレイグ・ニューズワンガーの「RayLights」は環境音に合わせて曼荼羅のようなカラーパターンを描き出していた。翌週末には、イカの形のアニマトロニック・アートカー「Sepia Lux」など、光る作品がたくさん登場した。スプラナードの向こう側にある3階建てのガランとした鉄骨むき出しの工場建屋「ファンドリー」では、Celestial Mechanicaによる巨大な電動式太陽系儀が動いていた。

作ることで、私たちは自分自身を創造する

最初の日曜日、アダム・サベージによる恒例の日曜説教があった。彼は電気キリン、Russellの上に乗り、列になって座り彼の登場を待っていた聴衆の背後から現れた。みんなは、その懐かしい顔を見ようと振り返った。アダムは、このメア・アイランドでは何十本もの『怪しい伝説』を収録した思い出を語り、話の口火を切った。

アダムは、「自己改善のためのメイキング」について話そうと考えていた。彼が伝えたかったのは「メチャクチャ深い個人的な」内容なので、聴衆に「気を確かに保つ」よう促した。ちょっとメモに目をやると、彼はこう始めた。「最初にお伝えしたいのは、私が孤独な少年だったということです。友だちの作り方を知らず、周囲の子どもたちとの接し方がわからず、本当に寂しかった。しかし、それで個性的な、特別な子どもになれたわけではありません」

突破口を探るうちに、彼はモノを作り始めた。際限なくレゴやペーパークラフトの緻密な作品に取り組むことで、自意識と孤独との間に城壁を築いていったのだ。


日曜説教を聞かせるアダム・サベージ(Photo by Mark Madeo)

「人間の驚くべき点は、すべての対処メカニズムには、その引き金になった辛い体験のほかに、スーパーパワーも内包されていることです。幼かった私は、小さなモノに神経を集中させることで自分を癒やしていました。徹底的に緻密さにこだわり、その世界に没頭しました。そのうち、それらの周囲に物語が生まれてくるのです。私はその作業を、友だちが作れないという悩みの払拭に利用したのですが、同時に、コンセプトを具体化し、作り、遊ぶという作業の繰り返しから、自分にとって非常に大切なものが生み出されていきました。私という人間が、頭から追い出せない観念やアイデアの周りに形成されていったのです。作ることが上達するにつれ、私の自信と自己肯定感も強くなっていきました……

私がモノを作る理由の中心には、それがあります。作ることで、そして自分の作品に集中することで、自分にとって重要なこと、よりよい人間になる方法を学んでいます。だからこそ、みんなも作るのだと、私は信じています」

— アダム・サベージ、Maker Faire Bay Area 2023

その孤独な少年は、どんなに忙しく、どんなに人気者になっても、今もずっと自分の中にいるとアダムは言っている。モノを作ることで彼はよりよい人間になった。我を忘れて作業台に向かい、大勢の人たちと密接につながり自分の話ができる立派な人間になった。これには、多くのメイカーが共感するはずだ。彼の、そして私たちの葛藤は続く。そして私たちは前進を続け、よりよい人間になっていく。

錆びた大きなクレーンが私たちの頭上にそびえている。それは、このメア・アイランドの海軍造船所で作られたビッグな建造物だ。大勢のメイカーたちが結集したMaker Faire Bay Areaもまた、ビッグな存在だ。Maker Faireに参加した人たち全員が再び創造的な波動を感じ、作ることは自分にとっても他人にとっても重要なのだと改めて感じた。Make: YouTubeチャンネルでは、@rikaika4178がアダムの日曜説教にこうコメントしている。「Maker Faireほど新しいスキルを学び、新しい課題に挑戦し、頭の中にポツンと灯った小さな火花に生命を与える方法を探したいと私を駆り立てるものは、ほかにありません」。これぞ魔法。最高だ。

原文