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2017.07.07

オープンソースハードウェアの旗手、Adafruitは会社の運営もオープンソース化している

Text by Gareth BranwynTranslated by kanai

世の中には、見事な直感が働き、先陣を切る勇気と信念を持ち、大胆な行動が次々に良い結果を生むという、まるで魔法にかけられたかのような企業がある。Adafruit Industries(エイダフルーツ・インダストリーズ)はそんな企業だ。2005年、MITで工学を学んでいたLimor“Ladyada”Friedは、学生寮の一室で、オンライン教材とDIYエレクトロニクスのためのオンラインショップ、Adafruitを立ち上げた。現在は、エレクトロニクス製品と教材を提供するコミュニティ主導の企業として、またマンハッタンのソーホー地区ではMakerコミュニティとして大成功を収めている。

企業を成功に導く鍵として、次の3つがあるとLimorは言う。「他の人たちを重視すること」「自分には大義があり、よい会社になると無条件に確信すること」「冒険を友だちと思い、自分自身と同じ、唯一の本当の競争相手だと思うこと」

そうした、高いこころざしがAdafruitを特別なものにしている。成長する過程で、オープンソース企業の文化を周囲に広めつつ、その価値観を持ち続けたことは称賛に値する。

Limorは、大勢のMakerたちが彼女に触発されて同じ道をたどりプロになる以前から、オープンソースを重視していた。「ボストンとMITには、オープンソース文化が強く根付いていたんです」と彼女は話す。「若いころ、私はGNU(フリーソフトウェア財団)やオープンソースコミュニティの人たちとよく遊び回っていました。私はオープンソースソフトウェアでコーディングを学んだので、私が立ち上げたハードウェアのビジネスにも、同じ考え方を採り入れるべきだと当然のように考えていました」

「儲かるとは予想していませんでした。でも、私はそれに強い信念を抱いていて、もし成功して利益が出れば御の字ぐらいに思っていました」

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Adafruitは、最初の製品であるMiniPOV(persistence of vision:残像)、SpokePOV(自転車の車輪に取り付けるPOV装置)、MintyBoost(世界初のオープンソースの充電器)といったキットやコンポーネントから、完成度の高い、ユーザーに親切な設計を心がけ、インターネットでは丁寧なチュートリアルや作り方の動画を公開してきた。現在取り扱っている商品は3,500種類あるが、そのうち400点以上がオリジナルの製品だ。こうした企業努力に加えて、Adafruit Learning Systemのような学習素材も提供しつつ、Adafruitは、他のどの組織にも増して、エレクトロニクスを人間味のある楽しいものにした。そしてそれを、機械いじりを趣味とする大勢の人たちの手が届きやすい、便利なものにしてきた。

情熱のプロジェクト

Limorと、彼女の悪友、Phillip Torrone(ミスター・エイダとも呼ばれている)を知る人たちはみな、彼らがAdafruitに魂を吹き込んでいることを知っている。この企業、このコミュニティ、この使命は、情熱的な週7日の24時間体制で支えられている。Limorは、どのようにしてAdafruitのCEOを務め、数多くのAdafruitのYouTube番組を始めとするインターネット用のコンテンツの主役(レディーエイダとして)と製作者を兼ね、製品の開発を行っているのだろうか。考えるだけでも息が切れる。

「仕事の優先順位を決めて、自分の時間を効率的に使う方法がわかれば、たいていのことには対応できます」と彼女は言う。「これからの計画を立てるとき、私はよく、いちばん多くスタッフを惹きつけるものは何かを基準に決めます。それにより、仕事のパワーが最強になります。グループを引っ張るときには、NP(Nondeterministic polynomial time:非決定性多項式時間)課題と私たちが呼んでいるものを特定することが重要です。これは、完了するまでに時間と手間がかかるけど、検証はすぐにできる作業のことです。NP課題は、すぐに手を付けられるよう、そしてそれに取り組む過程で新しいスキルを経験し学ぶことができるよう、グループに投げてやります。その後、みんなで集まって、最終的な結果を私がチェックするのです」

Limorは、動画をライブで発信することで、つまり編集にかかる時間を節約することで、番組製作の時間を最大限に活用している。「開発中の製品の仕上げの段階を動画にしたり、プリント基板のデザインをライブで中継することで、時間を2倍に使うことができます」

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「きつきつの時間と自由な時間とのスケジュールのバランスです」と彼女は毎日の時間の使い方について語る。「たとえば、ライブ番組は毎週水曜日の夜と決まっていて、グループや個人との毎週のミーティングの時間も動かせません。その合間に自由な時間があります。そこで、細かい仕事や急に湧いて出た仕事を片付けます。難しいのは、その自由時間にうまくフィットする仕事を割り当てることです。その決められた時間内に実際に何ができるかを判断するには、経験と訓練が必要です」

大成功を収めた後でも、Limorはエンジニアとしての活躍を続けている。「今でもすべてのハードウェアのデザインと検査、そして取り扱い製品のサンプルの承認を私が行っています。私たちが誇る無線と埋め込みシステムのエンジニア、KTOWN(Kevin Townsend)が、複雑で高価値なハードウェアプロジェクトのファームウェアやデザインをしてくれています」。Limorは、ほとんどの時間をテスト工程とデザインの修正に費やしている。ほぼすべてを一人でやっているという。「私がテスターを作ると、社内の製作チームが、そのプロトタイプからテスターをいくつも作り出してくれます」。入念なテストと品質の確認工程は外せないとLimorは言う。製品のテスト、プログラム、検査の段階で、大変な時間とコストがかかる。「なので、その最適化に力を注いでいます。自社開発のデザインを何度も使い回しています。たとえば、自社製の開発ボードはすべて、OpenOCD(オープンソースのオンチップデバッガー)を走らせるRaspberry Pi 3とPiTFTディスプレイ(Adafruit製のRPI互換のタッチスクリーン)で行っています。それで、素晴らしいスタンドアローンの小型テスターが作れます。簡単に量産できて、しかも安いんです」

どのように生まれるのか

「私は、コミュニティの人たちの意見を参考に製品を開発しています。Maker Faireや技術系イベントや、私たちが主催するShow and Tellなどの会場で、人々が何を作ろうとしているのか、どんなプロジェクトが人気なのか、どんな問題に取り組んでいるのかを調べます。そして私が、その解決方法を考えるのです」とLimorは話す。

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「そうしたいくつもの問題を頭の中でよく煮込んでおいて、新しいチップが登場したり、デザインのアイデアを思いついたときに、頭の中のひとつの問題をテストしてみるんです」と彼女は話す。「すでにある解決方法を、新しい問題に応用してみることもあります。たとえば、PCA9685はLEDのドライバーチップですが、そのデータシートを見ると、レートの調整が可能なPWM(パルス幅変調)と高ビットタイマーは、サーボやロボットの制御に最適であることがわかりました。そうした利用方法はデータシートには書かれていませんが、今ではそれが、このチップの一番の利用目的になっています」

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AdafruitのCircuit Playgroundは、センサーやLEDが埋め込まれたオールインワンのボード(ベストセラーのひとつ)だが、子どもに教えるのにちょうどいいシステムが欲しいという教師や親の意見から生まれた。「ウェアラブルやArduinoは大好きだけど、教室でパソコンの設定をして、ブレッドボードの使い方を教えて、基本を教えるのに45分の授業時間では足りないのだと、私は何度も聞かされました。ハンダ付けもブレッドボードも必要ない何かを求めていたんです。しかも価格は20ドルで。エンジニアならわかると思いますが、制約が大きいほど腕が鳴るものです」

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しかし、そこは新製品デザインでもっとも時間を費やす部分ではないとLimorは言う。「ハードウェアは、間違いなく、このパズルの中ではもっとも簡単な部分です。大変なのはファームウェアとソフトウェアとサポートです。たとえば現在は、MicroPython(CircuitPython)に私たちの労力の多くが注がれています。責任者はTony DiColaとScott Shawcroft す。ハードウェアにかかる時間はわずか2〜3日ですが、Pythonのコアをマイクロプロセッサーに移植するには、何カ月もかかります」

とは言え、Limorは不眠症ではない。「私は1日に10〜12時間寝ています。すごく寝るんです」と彼女は言う。また、会社で飼われているネコのMOSFETと遊ぶのも大好きだという。だが、そんなときも、ネコをプログラミングの一部として使い、ネットで放送している。彼女と少し付き合えばわかるが、彼女の仕事の時間とプライベートな時間との間には、あまり大きな境目がない。休みのときで、MOSFETと遊んでいない間は何をしているのかと聞くと、彼女はこう答えた。「ハッキングよ」

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オープンソース・ビジネス

企業として、コミュニティとして、オープンソースのハードウェアとソフトウェアの旗手となったAdafruitは、会社の運営自体もオープンソース化し、Maker Proやスモールビジネスのコミュニティに向けて公開している。毎週、#MakerBusinessという記事をAdafruitブログに掲載し、また、オープンソース製造業者としての日々の成功体験や課題について、AdafruitDaily.comで毎日ニュースレターを配信している。「私たちはなんでも話し合って決めています。出荷するパッケージの個数とか、会社の商標登録の方法など、Makerが頭を悩ませる問題に助言をしています。この活動は公共サービスだと考えています。こうした情報は、私が会社を立ち上げたころには、ごくわずかしかありませんでした。これは私たちの恩返しなんです」とLimorは話す。

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Adafruit TVガイド

Adafruitは、評判の高いYouTube番組(youtube.com/user/adafruit)を製作しているが、なかでも「Make:」で人気なのは次の番組だ。

Electronics Show and Tell(毎週水曜日、米東部時間午後7時30分、Google+ Hangout On Air) – 子どもから熟練のエンジニアまで、いろいろな人がAdafruitの製品を使った作品を発表する。この番組から、Limorは多くのアイデアをもらっている。

Ask an Engineer(水曜日、米東部時間午後8時) – Ladyadaが、視聴者からの質問に、わかりやすく丁寧に答えたり、製品のデモを行ったり、エンジニアやMakerをゲストに呼んで話を聞いたりするライブ番組。いちばんの長寿番組だ。

Live from the Desk of Ladyada(番組時間表を確認のこと) – 仕事中のLadyadaの手元を、彼女の肩越しに眺めるという番組。エレクトロニクス、回路設計、トラブルシューティング、コーディングなど勉強に大変に役立つ。

3D Hangouts(木曜日、米東部時間午後3時) – NoeとPedroのRuiz兄弟が送る3D Thursdayの3D Hangouts。3Dプリントやデスクトップファブリケーションに関する話に参加できる。

Collin’s Lab(番組時間表を確認のこと) – 奇抜で頭が良くて面白いCollin Cunninghamが、電子部品の役割、回路の組み方、電子ツールの使い方など、エレクトロニクスの基本を、小洒落たスーツ姿で解説する。

John Park’s Workshop(番組時間表を確認のこと) – あの有名な天才Maker、Edgar Parkが、イリュージョン、コスチュームの小道具、ロボットなど、テクノロジーを使った奇妙で創造的なものを作る。作りながら彼は、各プロジェクトに必要なスキルを解説してくれる。

フルーツの状態

Adafruitは、従業員同士の協調的な文化に誇りを持っている。従業員が成長して前進してゆく様子を見るのが大好きだとLimorは言う。また、充実した福利厚生を提供できていることに大変に満足している。さらにLimorは、Adafruitがアメリカ、おもにニューヨーク市内にエレクトロニクスの製造業をもたらしたことを強調する。Adafruitが生み出した建設的なオープンソース文化は、Adafruitに関わりたく、コミュニティ主導の製品や文化をサポートして、いっしょに働きたいと願う世界中の優秀なエンジニアやMakerを数多く惹きつけた。

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毎週、全員参加の「State of the Fruit」という会議が開かれる。その週に行われていることを評価したり、アイデアを出し合ったり、新製品や新しいイニシアチブについて話し合ったりして、互いに連絡を取り合う。会議の最後には「ハグ・レポート」と呼ばれるものが行われる。

「ハグ・レポートはバグ・レポートの反対です。全員に、誰かに礼を言うチャンスが与えられます。小さなことが重要なんです。お互いを尊重し合うことができれば、仕事がしやすくなり、私たちの価値が高まります。私たちのコミュニティや顧客たちは、私たちのやり方から、そうしたものを感じているんです」とLimorは言う。ハグ・レポートでは、従業員が、特別なこと、称賛すべきこと、求められた以上の仕事をしたことなどを褒めたい相手を一人指名する。それは、「強力な女性が率いる多様性の高い会社に」というキット部門のBiniam Tekolaのような大きな感謝であったり、製造部門のDano Wallが同僚のVance Lewisに贈った「山ほどのボードのやり直しと修理を、愛情を込めてやってくれた」ことへの小さな感謝であったりもする。

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Adafruit Learning System

起業当初から、エレクトロニクスとハイテクなメイキングに興味を持つ、さまざまなスキルレベルの人たちへの教育を最優先事項としてきたAdafruitは、2012年、Adafruit Learning System(Adafruit学習システム)を立ち上げた。インターネットで利用できる無料のエレクトロニクス学習素材だ。よく考えて作られた、管理の行き届いたシステムで、現在は、エレクトロニクス、Raspberry Pi、Arduino、Flora(ウェアラブル・コンピューティング)、IoT、NeoPixel、3Dプリント、LED、その他DIYとMakerのコミュニティが喜びそうなわかりやすいチュートリアルを1000種類以上揃えている。

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Ask an Engineerでの素晴らしい瞬間

7年前に始まり、毎週ライブ配信されてきたAdafruitのYouTube番組「Ask an Engineer」は、さまざまな分野のMaker、ハッカー、エンジニア、ナードといった人々に視聴されてきた。この番組では、Ladyadaが工学的な質問にライブで答えたり、新製品を紹介したり、いろいろなエレクトロニクスの実演などを行っている。これを含め、Show and Tellやその他のAdafruitの番組では、エレクトロニクスという複雑なものを親しみやすいものにしようと工夫を凝らすLadyadaの姿勢と、視聴者の幅の広さに目が惹かれる。年代、経歴、男性、女性、少年、少女、さらに技術レベルもばらばらだ。Ladyadaは、Ask an Engineerの中で、いちばんのお気に入りの回について話してくれた。

「番組にはよく、友人のAmanda(‘w0z’ Wozniak)を招いています。彼女もエンジニアです。あるとき、彼女はこんな話をしてくれました。11歳の女の子の親からメールをもらったのですが、その女の子は、Ask an Engineerを見ていて、こう聞いたそうです。男の子もエンジニアリングをするの? って」。Limorも、去年のHOPE(Hackers on Planet Earth)カンファレンスで、小さな女の子から同じ質問をされたという。「この子たちは、女性がエンジニアリングをしない世界を知らずに育つんですね」とLimorは言っていた。

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オープンソースハードウェア、ソフトウェアを情熱を持って献身的に牽引する人たちや、Limor FriedとAdafruitのような実力のあるMakerビジネスがあればこそ、私たちはそうした未来を、さらによりよい未来を期待できる。

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Adafruit

部品番号:2005

概要

DIYエレクトロニクスのためのオンライン学習素材、ネットショップ、Makerコミュニティ

仕様

・従業員数105名、マンハッタンに1,400坪の工場を構える。
・100パーセントを女性が所有。借り入れ金なし。ベンチャー投資なし。
・2016年に4,500万ドルの利益を記録。
・2016年1月に受注数100万件を記録。
・一月に1,400万ページビュー、200万ユニークユーザー。
・3,400万のYouTube視聴者、登録者は207,000を超える。
・ソーシャルメディアのリーチ数:Twitterフォロワー119,000以上、Google+フォロワー210万(うちLadyadaが400万)、Facebook登録者77,000、Instagramフォロワー51,000。
・Limor Friedは「Wired」誌2011年4月号の表紙を飾り、2012年「Entrepreneur」誌の今年の起業家に選ばれる。
・LimorはNYC Industrial Business Advisory Council(ニューヨーク市工業諮問委員会)の創設メンバー。
・Adafruitは「Inc」誌が選定した全米の製造業上位20社の中の11位に入り、ニューヨーク市では1位となった。また「Inc」誌のもっとも成長の早い民間企業5,000社のひとつに含まれている。
・2016年、Limorはホワイトハウスが選ぶ「Champions of Change(変革の旗手)」のひとりに加えられた。

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特性

Adafruitの人気製品トップ10

1. Adafruit Ultimate GPS Breakout — 66チャンネル、10Hz更新
2. Adafruit Motor/Stepper/Servoシールド・キット(Arduino v2用)
3. PowerBoost 1000 Charger — 充電可能な5V Lipo USB Boost @ 1A
4. Circuit Playground — マイクロコントローラーとセンサーを搭載したボード
5. PiTFT Plus 480×320 3.5″ TFT+Touchscreen(Raspberry Pi用)
6. Adafruit 9-DOF Absolute Orientation IMU Fusion Breakout — BNO055
7. Adafruit Feather HUZZAH with ESP8266 WiFi
8. Adafruit Feather 32u4 Basic Proto
9. Adafruit Feather 32u4 Bluefruit LE
10. Adafruit Pro Trinket — 5V 16 MHz

[*出典:Adafruit製品情報(2017年2月18日現在)]

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応用

Ladyadaのオープン文化企業を立ち上げるための10箇条

・よい会社を作って、よい仕事ができるようになれると信じること。
・オープンソースはビジネスでもマーケティングの戦略でもない。それは、私たちの会社のDNAだ。私たちの行動の一部なのだ。
・指標 — 測ることができなければ、改善もできない。
・私たちは、毎週、全従業員が参加するState of the Fruitという会議を開いている。仕事のあらゆる部分を、できるだけ早く、頻繁に透明化することが大切だ。
・スキルは教えることができる。優れた人間は優れた判断をする。そこに焦点を当てるべきであり、そこを讃えることだ。
・自分や自社の製品だけでなく、他者を尊重すること。
・出張は時間を食う。インターネットのパワーを活用しよう。動画やブログで頻繁に情報を発信する。
・ノーと言おう。何ができるかより、何をしないかのほうが大切だ。
・商標が得意な弁護士を雇おう。オープンソースで行くなら、すべてを手放すことになる。残るのは商標だけだ。だから商標は大切に。
・いい仕事をするために、お洒落なオフィスや建物はいらない。いい仕事はどこででもできる。アパートの一室でもいい。

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原文