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2017.08.23

Maker Faire Tokyo 2017レポート:霧のディスプレイ、ぶさかわモンスター、お札を吹き出すATMなど

Text by Toshinao Ruike

「もうMaker Faireは1日じゃ全部回り切れなくなったね」会場が広くなって出展数が増えた今回のMaker Faire Tokyoについてそのように語っている人がいた。私は国外のMaker Faireはここ数年で何か所も取材で訪れていたが、海外在住なので実は東京のMaker Faireに来たのは7年ぶり。

東京工業大学を会場にしていた以前を思い出しても、使われている技術はもちろん出展者や来場者の雰囲気も変わったし、やはり子どもや家族連れがたくさん来場するようになったとも聞く。

量が多かったため実は見逃したことに後から気づいた出展もあり、そのすべてを取り上げることはできないが、2日間見て回っていくつか印象に残ったものを紹介したい。

1台3,000円程度で市販されている家庭用の超音波加湿器を3台使い、布を通って水蒸気を噴出させて3D風のプロジェクションを行っているAiphonyのFLO。3Dのような効果を得ている、というか実際に3Dになっていると思うが、さらにLeap Motionを使って手指の動きでアニメーションや霧が変化させることもできる。霧を使った立体的な映像インスタレーションとしても十分楽しめるが、霧に触れて直に映像を動かしているような感覚もあって面白い。一昨年から出展していて、水蒸気のコントロールにチューブを使ったり人口筋肉を使ったりと毎年変化している。今は腕を入れて動かして箱の中で楽しむだけだが、この原理を応用すれば様々な空間演出などを行うことも可能ではないだろうか。

The BuzzkidsはMashed potatosによる独特な雰囲気を持った作品で、12体のぬいぐるみのモンスターがアクチュエーターで制御されたリコーダーの音に合わせて踊る。Ableton Liveでコントロールされているが、完璧に音と踊りが同期しているわけではなく、遅延があり、どれも微妙にずれている。リコーダーの音も空気を機械的に一定量送り出すようにされているようで、人間が適当に息遣いを考えずに吹いた時のような微妙に間の抜けた音が出る。何とも言えない不思議な空間だが、色とりどりのモンスターなど全てMashed Potatosによってデザインされたもので、意図的に脱力するようなこの雰囲気が計算して作られている。例えばアナログ機器をMIDIで正確に制御するためのdada machinesのようなデバイスも出ているが、あえてちゃんとしない、モンスターの不細工でかわいい姿も表現として面白い。

このThe Buzzkidsのぬいぐるみやリコーダーをコントロールするインターフェースを制作したのは猫とロボット社。下は机を叩いたリズムを合図にフタが開き中からぬいぐるみが飛び出す作品。

元々企業などから依頼を受けてプロトタイピングを制作している会社だが、そこで培った技術で自らの作品だけでなく、Mashed Potatosのようなクリエイターに技術協力をして、日本だけでなくシンガポールのMaker Faireにも参加している。故障のため東京のMaker Faireでは展示できなかったが、シンガポールではバイザー部分にLEDを取り付けた光るヘルメットを出展して、舞台演出の方面の会社にも興味を持ってもらえたと語っていた。仕事でプロトタイピングを行っている人たちがハッカソンのような場で楽しみのために作ったものが目に留まり、イベントに招かれるようなことも実際にある。舞台演出もどんどんハイテク化していっているが、Maker Faireにもそういったポテンシャルを持った出展作品は多いのではないだろうか。

ダンボールを使った創作を行うクリエイター集団テアタマーズはダンボール専用のカッターを使い、折り紙のようにダンボールを折り曲げて作れるものは何でも作ってしまう。上の動画はダンボールを伸縮させたマジックボールだが、ダンボール細工としてはあまり予想のできない意外で柔らかな動きを見せる。Makerムーブメントでダンボールを使った作品というと、大抵レーザーカッターで切って重ねて組み立てる作品がほとんどだが、こういった作品は折り紙文化のある日本だから出てくるようなものかもしれない。

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帽子や眼鏡など遊び心のあるアクセサリーやドライヤーやカメラを模したおもちゃ、ペンスタンドやケースなど実用性のあるものも作れる。廃材としてダンボールをリサイクルするだけでなく、商品が入れられていた元のダンボールの柄もうまく生かしている。展示ブースの横ではワークショップが行われ、親子連れが工作を楽しんでいた。

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今やMaker Faireの常連となったデイリーポータルZチームによるヘボコン。今回は空中戦(といっても高さのある台の上で戦うだけの)エア・ヘボコン。見かけ倒しどころか、見かけよりさらにへぼいロボットたちがリングを蠢いていた。

ヘボコン会場の横にはデイリーポータルZの新作お札を吹き出すATMマンがいた。こちらもダンボールを使った作品だが、今年のMaker Faire Bay Areaに参加した編集長の林さんが「展示物がでかくてシンプルだった」点に着目し、ダンボールで疑似紙幣を飛ばすATMを自作。お金が舞い落ちると子どもが喜んで拾うため、林さんは「罪悪感を感じるので途中で奥に引っ込めた」と語っていた。その他にも、デイリーポータルZの過去記事で作られた作品が出展され、人工知能が入っているのかと錯覚させる紛らわしい牛判別機(実際は人が牛を判別)や写真を撮るとYoutube動画が埋め込まれたように見えるクリアファイルなど販売されていた。

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i-GAMプロジェクトのアイガモロボットは田んぼの泥を攪拌して雑草を生えにくくするための水中ロボット。無農薬農業で使われるアイガモ農法には問題点がいくつかあり(外敵が侵入する、成長になると稲を食べてしまうなど)、それらを補うために開発された。11台のプロトタイプを使い、田んぼでの実証実験を4年間すでに行っている。

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太陽電池で蓄電し、ロボットに充電させるアイガモロボ小屋。100円ショップで調達できる材料を使ったり、安価に導入できるようにこだわったそうだ。

Assistech Design Labによるこめかみの筋肉を使い筋電センサーを通してコントロールする車いす。数年に渡ってMaker Faire Tokyoに出展しているそうなので目新しさはないかもしれないが、この車いすで培った筋電センサーの技術を使って、筋電コントローラーが付いたVRゴーグルを開発したという。

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デモでは簡単なシューティングゲームがプレイできるようになっていたが、こめかみでVR空間において特殊な能力をコントロールできるようになった気分がして、手で操作するコントローラーでは得られない非日常感があり、目とこめかみだけを動かしてVR空間を楽しむ新しい遊びの可能性を感じさせた。さらに小型化してVRゴーグルに標準で実装されるような日が来るのを楽しみにしたい。

EPPという非常に軽い素材で作られた超小型飛行隊研究所による「やわらか飛行隊」。動物の形をしていて、一見飛べそうにないのだが、飛んでしまうそのギャップが面白い。

今年のMaker Faire Bay Areaを取材した際に声をかけて、今回東京まで来てくれたSlaproo percussionのAndy Graham。ステージは大盛況で途中で席を立つ人がほとんどいなかった。2日間でかなりの本数が売れたとのことだったが、ほとんど言葉で説明せずにジェスチャーと楽器の実演だけで来場者とコミュニケーションしていた。直観的にどう演奏すればいいか楽器自体理解しやすかったということもあるが、音楽の力で言語の壁を軽く越えて行く現場を目の当たりにした。

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アメリカからやってきたAirigamiによる風船で作ったMakeyロボット。会場の天井の高さに制約され、これでもMaker Faire Bay Areaに制作されていたものより一回り小さいが、会場で子どもたちに風船で作ったヘッドピースを配ったりして喜ばれていた。

ちなみに来年のMaker Faire Tokyoはさらにスペースが大きくなる予定もあるそうなので、東京特有の会場の制約はあるものの、次回はさらに多様な出展が見られるかもしれない。

実際に訪れる前には凡庸な出展も多いだろうと思っていたが、7年ぶりに訪れた東京のMaker Faireは他国のそれと比べても粒揃いで “はずれ” と思うようなものが少なく、マニアックで十分以上に濃いイベントだと個人的には感じた。もっと規模を大きくしてより多くの出展を集めたり、あるいは東京だけに集中するのではなく分散して、ものづくりの盛んな地域でそれぞれMini Maker Faireを開催したりするのもいいのではないかとも思った。インターネットでもそのレベルの高さは見ていたが、やはり実際に来てみて損はなかったと思える東京のMaker Faireだった。