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2018.01.10

Maker Faire Rome 2017 #3:いかにイタリアは教育と産業を支援しているか

Text by Toshinao Ruike

日本でもプログラミング教育への関心の高まりもありMaker Faireに来る親子連れが年々増えているが、Maker Faire Romeはいつも子どもの参加者でいっぱいだ。今回はその教育関係への充実ぶりを通してMaker Faire Rome 2017をレポートしよう。

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上は2015年の時点での画像だが、毎年開催初日である金曜日の午前中は「Educational Day」として開放され、どこを見ても引率の先生に連れられた子どもだらけ。2017年は小・中・高合わせて2万7千人ほどの学生・生徒が集まったという。日本の遠足をイメージしてもらうとわかりやすいと思うが、ローマだけでなく近隣からバスに乗ってかなりの数の学校がMaker Faireを観にやってくる。2017年は会場の都合で12月の開催になったが、例年は10月ごろ、金曜日から日曜日まで3日間行われている。

ローマのMaker Faireは初回からArduinoのMassimo Banziがキュレーターを務めていて、彼自身が今も教壇に立っている教育者であることも大きいが、教育プログラムが充実している。Maker Faire Romeは小学校・中学校・高校・大学・理数系学校それぞれに担当窓口があって、学校関係者との連絡を密にしているという。そのため、高校や大学からの出展も多い。また今回は教育機関の出展に対して助成を行なう制度があり、助成を受けることが認められた場合は最大で1,500ユーロほどが援助されているということだった。

●教育プログラム

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さらに今回は「Young Makers」と名付けられたエリアがこのホール全体に設けられ、18才より下の若いメイカーたちの展示や子ども向けの教育プログラムがこのスペースで行われていた。ちなみにMaker Faire Rome全体でこのサイズのホールを合計7ホール使っている。

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教育プログラムは必ずしも電子工作の要素があるわけではなく、ブロックを組み立てたり、プラスチックの素材を組み合わせたりする工作教室も含まれていた。

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毎回、Maker Faire Romeで行われている教育プログラムをコーディネートしているのはCodemotion社。元々は開発者向けにハッカソンのイベントを行っていた同社だが、それに加えて教育プログラムを事業として展開した。もちろん慈善事業ではなくビジネスとして行っているため、プログラムの参加費は決して安くはないが、顧客からは評価を受けていて、リピーターになる子どももいる。指導しているのはボランティアではなく、多くのインストラクターが同社に雇用されている。現在もさらに教育者を育て続けていて、最初はエンジニアリングの知識がほとんどゼロの者もいるが、教育への情熱があるかを重視して育てていると教育プログラムのディレクターは語っていた。

●子どもたちの出展

パックマンとモンスターをコントローラーで動かしてプレイヤーが戦う「3D Pac Robot Man」。ローマでデジタル・ファブリケーションを学ぶことができる教育機関Fundazione Mondo Digitaleに通っている子どもたちが作った作品だが、子どもたち自ら出展して場を取り仕切っていて、勝ったプレーヤーにはレーザーカッターで切り出した木のモンスター型コインが与えられていた。多くの来場者がこのゲームを楽しんでいて「ハッシュタグはこちらまで」「写真とビデオはこちらのメールアドレスまで送ってください、自分たちのサイトで使います」といった大人顔負けの掲示もあり、何とも頼もしい。大人が難しいところは助けている可能性もあるし、大人を真似ているのかもしれないが、こんな成功体験をこの歳でできることはあまりないことだろう。

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物理を教えるためにパチンコ球がどういった確率でどこに落ちていくかを検証する装置などSTEM教育に役立つツールの展示を学生自らが行っていた(左)学生が開発した幼児向けに言葉を覚えるためにRFIDタグの入った絵を配置してクイズに答えるツール(右上・右下)以前取材したArduinoの教育プログラムもそうだったが、子どもたちが作った作品を一般の来場者に自ら説明する機会を設けている。こういった活動もものづくりそのものとは別に重要な教育機会になっていると思う。スキルを身に付けたり、プログラミングの考え方を学ぶだけでなく、その先で何をするのか、どういったコミュニケーションの仕方をするべきかを考えることも大切だからだ。

●教育機関へのサポート

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Rural Hackはナポリ近郊で行われている農業の研究プロジェクト。現在は地元の大学からのサポートを受けて研究活動を行っているが、元々はさまざまなバックグラウンドを持つ地元の有志がナポリ郊外に集まって草の根活動として始まった。30メートル四方ほどのスペースに芝や藁が敷かれ、まるで田舎のような牧歌的な雰囲気の中、IoTを使って土の温度や湿度、空気や光の状態などをモニターする方法を学ぶワークショップが催されていた。

会期中ずっとレイブ風に年配のDJがプレイしていた(若いイタリア人たちの反応は意外にも素っ気なく、平静を保っていた)。

イタリア国内には地域によって経済格差があり、Rural Hackが拠点としているナポリのようなイタリア南部の地域は第二次産業があまりないため、すでにある農業分野での新しいアプローチが期待されている。Rural Hackのような大掛かりな展示も含め、今回イタリア各地の大学と国外の大学合わせて60ほどの出展があり、前述した補助金がそのいくつかの出展に対して出ている。

●国や地方自治体による支援

Massimo BanziにMaker Faire Romeがどうしてこのように厚いサポートを行政から受けているのか質問したところ、次のように実情を語ってくれた。「ローマ商工会議所のサポートを受けていて、多額の支援もMaker Faireに受けている。ローマは政治的な首都だが、産業が不足している。産業大臣も昨日Maker Faireに来て言っていたが、イタリアでは産業が北部に集中して(ローマより北に位置する)フィレンツェから南に産業が中々来ない。そのため(ローマが属しイタリア中部に位置する)ラツィオ州も応援してくれている」

Maker Faireがものづくりを通して経済を支援するためのものなのか教育のためののものなのか、イベントの趣旨や方向性で混乱が生じてはいけないと思うが、Maker Faire Romeはローマの商工会議所が主催していて、しかも学校方面からの参加は他のどのMaker Faireより多く、イベントとして教育と強く結びついている。

そして今回は鉄道会社や郵便や放送局、そしてイタリアの省庁関係なども協賛として名を連ね、さらに出展も行っていて、国ぐるみでMaker Faireを支援している様子がわかった。前年まで協賛にはIntelのようなアメリカのIT企業が名を連ねていたが、Arduinoの国際的な知名度を生かして多方面から協力を仰げる強みがMaker Faire Romeにはあると言えよう。

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イタリアの産業大臣も今回はMaker Faireを訪れていたが、経済方面だけではなく国防省からは軍、内務省からは警察が出展していた。警察の科学捜査班が試薬を使って違法薬物を検出する方法を説明したり、トレイラーの中で来場者の写真と指紋を記録した文書を発行していた。

●2017年、各地のMaker Faireを振り返って

2017年は世界各地でMaker Faireや教育プログラムを観る機会に恵まれた。ベイエリア(サンフランシスコ)、バルセロナ、東京、ニューヨーク、ローマのMaker Faireを観たが、各都市違ったいいところがある。その中でもローマはデザインセンスや食へのこだわりといった点で特に気に入ってはいるが、久しぶりに訪れてみた東京のレベルの高さが目を引いた。しかし現状日本の場合(過去には大垣でも開催されたが)東京に一極集中していて、東京のレベルの高さを考えると、まだまだ東京に来ていない地方でよいものを作りながらも埋もれているメイカーもいるのではないだろうか。人口規模で他国と比較して考えても、もっと地方都市でMaker Faireのようなイベントを行なった方がいいのではないかと思えた。

イタリアほど極端ではないにしろ、日本でも地方間の経済格差は進んでいる。今回のイタリアのケースのように、地域の産業を盛んにするために各地域の教育関係機関や商工会議所などの協力を得ることができれば理想的だと思うが、「地域おこしバブル」と呼ばれる一部の人々が利益を得る目的で地域おこしのための予算が使われるような実態が見受けられたり、地方では「IoTやものづくりの重要性を理解できていないため難しい」という問題があると日本にいて実際に聞くこともあった。各国・各地域それぞれの抱える問題があって、それぞれの実情に合わせる形でMaker Faireのようなイベントも開催せざるを得ないのだと思う。

世界のものづくりの様々な状況をオンラインでレポートしているが、やはり実際に会って作品に触れて作者が自らが作品をアピールできる場所があるということは、ウェブで色々な情報に触れられる今の時代においても特別なことだと感じる。そのため東京だけでなくさまざまな国や地域の状況も見て、地方でのMaker Faire開催の参考にしてもらいたい。おそらくは自分は今日本人としてヨーロッパやアメリカを中心に国内外のMaker Faireに一番多く訪れている一人なので、質問などあればぜひMake: Japan編集部を通じて連絡してほしい。