Crafts

2011.10.12

Zero to Maker(ゼロからのMaker):クラフト初体験

Text by kanai


これから1カ月ちょっとの間、ちょっとヤル気のなかったMaker、 David LangがMakerカルチャーに身を沈め、我らの仲間、TechShopの寛大なるご協力のもと、できる限りのDIYスキルを習得していく様子をレポートします。彼は、何を学んだか、誰に会ったか、どんなハードルをクリアしたか(またはしなかったか)など、奮闘努力の過程を定期的に報告します。きっと面白いものになるよ。 – Gareth

Makerのコミュニティに参加してすぐにわかるのは、活動の幅が非常に広いということだ。私は、2009年に初めてMaker Faireに行ったが、それは高校の初登校の日のような雰囲気だった。そこではいろいろな活動が行われていて、全体を理解するまでに時間がかかる。会場を埋め尽くしている人たちは、学食のテーブルごとにできる仲良しグループのように、いたって緩やかな自主的なコミュニティの寄り集まりになっている。ロボットオタクやらスティームパンクやらDIYバイオ愛好家やらバーニングマン系インスタレーションのアーティストなどなど。高校の仲良しグループと違うのは、互いに敵対し合うのではなく、技術や興味の対象があちらこちらで共通しているので、グループ間を自由に渡り歩けるし、みんなが互いを褒め合っているという点だ。ここにいる人たちは好奇心のかたまりであり、他の好奇心のかたまりである人たちから学ぶことが大好きな人たちなのだ。
これまで、私のZero to Makerの旅は、ロボティクスの知識を得ることに重点を置いて、物作りのための技術の習得に費やされてきた。しかしそのために、物作りのなかでも、とても大切な分野を見落とすことになってしまった。クラフトだ。Maker Faireでも、私はクラフト関係の展示を見るのが大好きで、かならずすべてを見て回ることにしているくらいだ。これまでも、いろいろなMakerたちの多様な物作りのプロセスを見ては刺激を受けてきたが、クラフトは、間違いなく驚くべきユニークな才能に出会えるところだ。今回は、クラフトのコミュニティを間近に観察して、私のZero to Makerの糧にしたい。それには大きく3つの理由がある。敷居が低いこと、純粋な創造性が求められること、そしてそれを支えるインフラが見事に充実していることだ。
敷居が低いと言ったが、本当に低い。高価な機械や特別な道具や機械工学の学位がないから物作りができないという言い訳は、Maker Faireに出展していた、紙とハサミとノリだけで作品を生み出すようなクラフト作家たちの技を見れば一切通じないことがわかる。始めない理由はない。私はそう自分に言い聞かせ、Teahouse Studioで午後を過ごす手はずを整えた。そしてそこで、クラフトに憧れる人間から、完璧なクラフト初心者になることを決めた。昼過ぎに、私はCrafty Fannyとして知られるTiffany Mooreに会うことができた。今日はスタンピングにいい日だと、彼女は決めていたようだ。そして、人がスタンプについて学習できる限りのあらゆることを教えてくれた。私の最初のスタンプ体験は悲惨だった。しかし、Tiffanyがいくつか要点を教えてくれたおかげで、私の腕は上がっていった。スタンプは、インクパッドに上から軽く押しあてて使うほうが効率的だという。みんながそうするものと思っているように、ばんばんと叩くように押しつけてはダメなのだ(訳注:stamp にはズシズシと踏みつけるという意味がある)。また彼女は、インクを盛り上がらせる手法も見せてくれた。インクが膨らんで光沢が出る添加剤を入れて熱を加えるというものだ。その日の夕方には、私のノートに何ページにもわたってスタンプの技が記され、びっくりするほど美しいカードを2枚作り上げた。ひとつは私のガールフレンドに渡す用、もうひとつは週末に結婚式をあげる友人カップル用だ。

その午後、敷居が低いという当初からの意識はさらに強まったのだが、それと同時に、私の中に予期しない大きな不安がわき上がってきた。私の頭の中に小さな声が響いてくるのだ。「私はクリエイティブではない」と。これには真剣に落ち込んだ。意のままにあんなに美しいものを次々と作り出せる、みるからにクリエイティブな人たちに囲まれているとなおさらだ。私は、そんな自分の創造性への疑問を振り払いたく、ひきりなしにTiffanyに手伝ってもらい、創造性のハードルを跳び越えるための戦術を片っ端から提供してもらった。その結果、できた作品はたった2枚のカードだったが、私は創造性の悪魔に対して睨みが利くようになった気がした。それは、作ることにも、できた作品にも、特別な満足感が得られる活動だ。
人々の創造性が掛け合わされ、さらに革新的な実験が行われているTeahouse Studiosで、私は3人の女性から膨大な量の啓示を受けたのだが、それは結局、私がクラフトの世界に強く感じている魅力を示すものだった。つまりインフラだ。ここで私が言うインフラとは、めちゃくちゃ便利なツールを気軽に使って、自分の作品を売って、ちょとした小遣い稼ぎから正規のビジネスまでも展開できる環境のことだ。クラフトのグループほど、DIYのビジネスサイドをきっちり固めているMakerグループはないと思う。この便利さの要になっているのは、Etsyと、彼ら自身が育ててきた巨大なコミュニティだ。ウソだと思われるだろうが、私も自分でEtsyに店を開いている(お察しのとおり、ぜんぜん売れてないけど)。Etsyビジネスがすごく便利であることに気づいたのは、私がまだ、コミュニティから資金を集めてスモールビジネスを支援する会社ProFounderで働いていたころだった。手作り職人の集団が常に変化する経済の世界に自然にもたらした優位性に、私は衝撃を受けた。クラフト作家たちは、それが売れることを期待しつつ、作品作りに心を込める。そして実際に売れる! もちろん、現実にはそう簡単ではないが、それができるという点が重要なのだ。ツールは目の前にあり、使おうと思えばいつでも使える。私は、EtsyのKyla FullenwiderとAdam Brownに会うことができた。彼らはこの週末のHello Etsyイベントの準備に忙しかった。このイベントの趣旨は、ギャップを埋めることだと彼らはわかりやすく説明してくれた。個人の小さな事業をコミュニティにまとめること、そして、このビジネスの必要性に関してじっくり話し合いをするというものだ。
World Maker Faireに見学に来られない人でも、Hello Etsyイベントなら参加できる。会議は各地のTechShopで開かれるが、livestreamで中継を見ることができる。
そしてもちろん、みなさんご承知のようにMakeにもCraftサイトを中心としたクラフト愛好家の素晴らしいコミュニティがある。物作りのクラフトサイドを探検してみるには絶好の場所だ(Make: ProjectsのCrafts areaもお忘れなく)。
これまでの話はこちら:Zero to Makerの旅
– David Lang
原文