2021.03.24
おとでん通信 #10|長期ワークショップのデザインは、飽きさせない・忘れさせないためのコミュニケーションが大事
だんだん暖かくなってきて春の匂いもしてきましたが、花粉症に悩まされている方も多いのではないでしょうか? まだまだ外に出にくい日々が続くのでおうちで工作をして癒されましょう。
今回から2回にわたって、2020年1月-2月に札幌で行われた乙女電芸部の個展「乙女電芸部と札幌の冬を考えよう!展」について書いていきます。個展といっても、地元の中高生と半年間のワークショップを通して、一緒につくりあげた展覧会です。今回はその第一弾として長期ワークショップのデザインについてお話ししていきたいと思います。
展示した作品のくわしい紹介は次回「おとでん通信 #11」で紹介します!
長期ワークショップ開催にいたるまで
このワークショップと展覧会は、札幌文化芸術交流センターSCARTS(以下、SCARTS)より依頼を受け、始まったものです。SCARTSの++A&T -SCARTS ART & TECHNOLOGY Project-(プラプラット)というプロジェクトの一貫として、札幌の中高生を対象として募集を行いました。
++A&Tは、アートとテクノロジーの関わりをテーマに、アーティストや研究者とSCARTS、そしてワークショップの参加者が共に創造の「場」をつくっていくプロジェクトです。そのため、乙女電芸部としては展覧会を作りながら、参加してくれた中高生が展示づくりのスキルを身につけて、SCARTSという場を活用し、広めてくれるコミュニケーターになってくれたらいいなという思いを込めてはじめました。
乙女電芸部の普段のワークショップは、小学生以下の子ども向けに数時間や1日だけの単発のものが多く、参加者の方の中で電子工作への興味が少し膨らんだタイミングで終わってしまうことが心残りでした。この展覧会では「中高生の参加者と地域の方々との間でコミュニケーションが生まれる」とか「電子工作が表現の手段になる」というところまで行ければとても面白いな、と思いました。長期間の関わりを通じて、意義深いワークショップをつくることができればと思い、お引受けすることにしました。
「連歌」的なものづくり
今回は、最終的に作品を作って展示するワークショップ。展示期間もあらかじめ決まっていたため、それに向けてどう時間を使っていくかというところを乙女電芸部で考えました。
裏テーマとして、「連歌」みたいなワークショップにしようということを話していました。和歌の連歌のように、一人ではなく複数人が関わり合いながら、何回かのやりとりを通じてひとつのものを完成させてゆくプロセスを目指してワークショップ全体を設計することにしました。
乙女電芸部の活動拠点が中高生たちの住む札幌と離れていることもあり、アイデアを形にするところは遠隔で行うことにしたため、その前の段階である「作りたいものを決める」部分は、一日で明確にしてもらうこととしました。
長期ワークショップのデザインは、飽きさせない・忘れさせないためのコミュニケーションが特に重要だと考えています。時間が長いと色々なことに興味が飛びがちなので、最初のアイデアソンの記録を見返しながら、作品の軸をぶれないようにファシリテートするのも大事です。以下の①〜④の流れでワークショップをデザインしました。
① アイデアソンと1/1プロトタイプ製作
日程:2019年9月23日
時間:10:00〜17:00
場所:SCARTSスタジオ
参加者:乙女電芸部、札幌の中高生、SCARTSスタッフ
札幌の暮らしや雪についてディスカッションして、冬を楽しくするための楽しい道具を考え、ダンボール工作で実物大の試作品をつくる。
② 試作品ブラッシュアップ
時期:2019年9月〜12月
場所:東京(乙女電芸部活動拠点)、札幌
参加者:乙女電芸部、札幌の中高生
コミュニケーションアプリSlackで中高生とやり取りを続けながら、①で作った試作品をもとに、乙女電芸部がプログラミングや電子工作を駆使して実物を制作し、ブラッシュアップする。
③ 作品制作ワークショップと展示づくり
日程:2020年1月6日
時間:10:00〜17:30
場所:SCARTSスタジオ
参加者:乙女電芸部、札幌の中高生、SCARTSスタッフ
乙女電芸部が制作した実物に中高生がさらに手を加え、作品として完成させる。その後、展覧会としてどう見せるかを考えながら、展示作業を行う。
④ 展覧会
会期:2020年1月8日〜2月11日
場所:SCARTSモールC
① アイデアソンと1/1プロトタイプ製作
ブレインストーミング
世界有数の豪雪都市である札幌。雪が楽しかった子供時代もいつしか終わり、だんだんと冬がわずらわしく感じはじめてしまう年代の中高生に「札幌の冬」について見つめ直してもらうところからワークショップはスタートしました。雪についての「人生最高グラフ」を作り、雪にまつわる印象的な出来事を思い出してもらいました。
それを踏まえて冬の「好きなところ」「嫌いなところ」を付箋にたくさん書き出し、それらを掛け合わせたり深めたりしながらアイデアを膨らませていきました。その過程で、同じテーマに興味を持った2〜3名が集まり、チームを作ってもらいました。
アイデアスケッチ
次は、ブレインストーミングで生まれたアイデアをスケッチに起こして、細かい仕様や世界観を作り上げていきます。太い黒、細い黒、影色、ハイライトの4本のペンを使った手法を用いて、アイデアを一枚のスケッチにまとめていきました。(参考書籍:アイデアスケッチ — アイデアを〈醸成〉するためのワークショップ実践ガイド)
1/1プロトタイプ製作
アイデアスケッチをダンボールなどを使い実物大のプロトタイプにして、大きさや使い勝手などを検証します。1/1サイズで実際に体験しながら作ることによって、アイデアがよりリアリティのあるものに落とし込まれていきます。この日の最後には1/1プロトタイプを使ってチームそれぞれがアイデアを発表しました。
② 試作品ブラッシュアップ
次は、中高生が作ったプロトタイプをもとに、乙女電芸部で実現方法を考えるフェーズに移ります。使用するセンサーやマイコンを選定し、材料を集めるプロセスです。手芸材料も型紙を作成して、必要なものを購入しました。
材料の一部は札幌の中高生たちに郵送し、1月のワークショップまでに裁縫などの準備をお願いしました。その際のコミュニケーションは、後からも振り返りやすいよう、Slackで行いました。社会実験のような作品やプロジェクションマッピングなど、実現したいものがチームごとにまったく違っていたので、チームそれぞれのチャンネルを作って、参考になる作品や作り方やツールなどをシェアしながらアイデア交換をしていきました。
上記のとおり、電子工作やプログラミングの部分は、ほとんど乙女電芸部の方で制作しています。ですが、中高生にはセンサーなどの部品が何をやっているかを理解してもらった上で、プログラム上の変数は1月のワークショップで調整し、仕上げの作業をしてもらうことができるように準備をしました。
③ 作品制作ワークショップと展示づくり
1月に再び集まり、中高生とともに作品の仕上げを行いました。4作品中3作品にはArduinoを使用したため、どんな仕組みでできているか簡単なArduino入門ワークショップをして、理解を深めてもらいました。
それぞれのチームに分かれ、映像制作(iMovie)や音響制作(Audacity)、プロジェクション映像と占い制作(Processing)、電子工作(Arduino IDE)とバラバラのツールを使い、仕上げていきました。(中高生は少し教えただけでツールを使いこないしてしまうので、デジタルネイティブ世代はすごいと終始、感動していました!)
プロジェクションマッピングを調整したり、音の波形を編集したり
そうして作品ができあがったら、展示として来場者に伝わるように、キャプションを書いたり有孔ボードにツールを貼ったりしました。中高生の手書きキャプションは、来場者の方にも好評でした。
中高生とのSlackのやりとりでは、作品制作の中で一番やりたい部分を聞き出し、その作業を1月のワークショップで実際にやってもらうことができるようにしました。長期に渡ってやりとりを繰り返すことで、参加者との関係性を築くことができます。どんなものが好きなのか、何に興味があるかといったパーソナルな情報を理解した上でワークショップ内容を用意すると、参加者の体験がより深いものになると考えています。
④ 展覧会
1ヶ月間の展覧会は、多くの方に ご来場いただき、メディアからもたくさん取材をしていただきました。NHK札幌放送「ほっとニュース北海道」内、道央圏情報コーナーや北海道新聞夕刊などでも取り上げられ、特に地元の中高生がアイデアを考案したということに注目が集まりました。
乙女電芸部は、彼らの発想の手助けをして、 そのアイデアが作品として展示できるまでに仕上げられたことをうれしく思っています。
次回はこのワークショップでできあがった作品たちを詳しくご紹介していきます! 中高生のアイデアがつまった素晴らしい作品ばかりです。ご期待ください。
おとでんの日常
なかなか展示などができない昨今ですので、過去作品を少しずつYouTubeにあげています。こちらは地味ですが生活に溶け込むので気に入っている作品です!