2010.06.16
インタビュー:オープンソースのレーザーカッター、LasersaurのAddie Wagenknecht
Lasersaur(訳者から:Lasersaurは「レイザーソアー」と読みます)は、NORTD LabsがKickstarterで資金を集めて開発を進めているオープンソースのレーザーカッター。締め切りまでにまだ20日間ほどあるが、すでに約200人から15,000ドルを超える資金が集まっている。1万ドルの目標を超えたので、確実に事業が進むわけだ。先日、NORTDの創設者のひとり、Addie Wagenknechtに会って話を聞くことができた。
John Baichtal(以下、JB):まず、あなたたちについて話してください。チームは、あなたともうひとりの2人だけなんですよね。
Addie Wagenknecht(以下、AW):チームは私とStefan Hechenbergerの2人です。私たちはNORTDという名前でいっしょにやってます。
いっしょにやるようになったのは、2006年にニューヨーク大学のITPの修士課程にいたときです。ITPではCUBIT(オープンソースのマルチタッチシステム)を卒業製作として作りました。私たちは、3カ月の期間と1000ドルの予算を決めて(割り勘ですが)、プラットフォームと、ドキュメントを含むソフトウェアを製作しました。卒業後の1年間、私たちはニューヨーク市のEyebeam Technology Centerに特別研究員として招かれ、そこでTouchKitとVirtualAwesomeフレームワークを開発しました。マルチタッチの「神秘性」を取り除き、15,000ドル以上もしていたシステムの世界にオープンソースの選択肢を加えたことで、私たちは瞬く間に世界の注目を集めました。私たちは3,000ドル以下で実現したのです。
JB:なぜレーザーカッターを?
AW:私たちは、パソコンやデスクトップ・プリンターやホームビデオカメラや CDレコーダーなどに人々が熱狂したのと同じ理由で、個人向けの製作機械を開発しようと考えました。これらの機械はどれも、文化生産の手段を民主化してきました。私たちが思いついたアイデアは、スーパーコンピューターや印刷機やCD録音機を持つ一部の人に依頼することなく、実現できるようでなければなりません。パーソナルな生産手段があれば、消費と消費者主義の力学を、よい方向に大変換できるはずです。それに、より多くのものがその場で作られるようになったら、世の中はどう変わるだろうかと想像すると、わくわくします。
DIY/Maker/ハッカーといったムーブメントは、将来、社会の機能に好ましいインパクトを与えるものとなります。レーザーカッターは、こうしたコミュニティーにとって、鍵となるツールなのだと私たちは信じています。
JB:価格の件を別にして、市販のレーザーカッターではなく、Lasersaurを買う理由は何だと思いますか?
AW:多くの市販システムが私にはブラックホールに見えますが、Lasersaurは違います。市販システムは、ベンダーに依存する仕掛けになっています。故障すると、技術者が見に来てくれるのを待たなければなりません。そこから部品を注文して、さらにそれを取り付けに来てもらうのを待つ必要があります。何週間も生産をストップしなければなりません。
私たちは、マシンをオープンソース化して、みんながクールなものを作れるようにするというだけでなく、パーソナルファブリケーション(個人生産)の教育、同好のコミュニティー、ソフト(めちゃくちゃクールです)、カッティングファイルの宝庫を提供したいと考えています。
単に、もっとも安いマシンを作ることだけが目的ではありません。それよりむしろ、世界中どこでも手に入る材料で作れるプラットフォームを提供することに興味があります。このプラットフォームは安全であり、製作、変更、複製が簡単にできる、わかりやすいものにしたいと思っています。みんなに実際に所有してもらい、その設計や構造をよく見てほしいのです。私たちは、ソフトウェアやプラグインも土台から作っています。オープンソースか否かに関わらず、今までにないようなことができます。
JB:すでにほかにもDIY のオープンソースレーザーカッタープロジェクトがありますが、それを参考にしていますか? それとも完全にスクラッチで?
AW:レーザーカッターの基本的原理はすでに確立されています。まったく新しいテクノロジーというわけではありませんからね。
私たちにとって大きな挑戦は、今あるすべての情報をシンプルにして、新しいアイデアを少し加えて、DIY/Maker/ハッカーのコミュニティーに最良の手段で提供することです。これは、リファレンス設計付きの文書化プロジェクトだと考えています。リファレンス設計によって、みんなが同じページを見て、コミュニティーとして参加できるようになります。
私たちは一から設計をしていますが、すでに確立された技術を再発明するのは簡単なことではありません。buildlog.net、reprap.org、cnczone.comなどの人たちこそ本当のパイオニアです。
JB:Lasersaurにあって、ほかのオープンソースのレーザーカッターにはできない、またはないものは?
AW:ほかのオープンソースのカッターは、私たちの技術の上に作られたり、またその反対もありえるので、将来はどのように展開するかはわかりません。私たちがLasersaurで貢献できること、私たちの目指すところは……。パーソナルファブリケーションはまだ生まれたばかりです。3DプリンターやCNCミルがかなり先行しているのに対して、レーザーカッターはまだ初期の段階です。この状況を改善するためにできることは山ほどあると思います。ひとつ、非常に重要だと感じていることは、再現性です。今はまだ、自分でレーザーカッターを作るのはとても困難です。私たちがそこを変えないかぎり、大きな前進はないでしょう。
そのほかに、喫緊の課題としては、ソフトウェアの統合があります。中身の見えない独占的アプリケーションを使わなければならないとか、二度も三度もファイルを変換しなければカッターにフィードできないなんていう事態は避けなければなりません。マシンは、シンプルなオープン・プロトコル(Ethernetを介したOSCなど)で直接コントロールできて、オープンなファイル形式(SVGなど)を認識できるようにしたいと、私たちは頑張っています。
細かい予定では、プッシュスルー式のカッティングエリアを特別に長い素材に対応できるようにすることと、アメリカとヨーロッパ(事実上全世界)に販売店を充実させることです。
JB:5週間前に、すでに目標の資金を確保しましたね。これからさらに出資金が増えると思いますが、その余ったお金をどう使いますか?
AW:オープンソースのプロジェクトは、ほとんどが情熱で支えられています。毎日ホットタブに使ってシャンパンを飲むためのものではありません(そんな生活も楽しいとは思いますが)。1万ドルは大金に聞こえますが、実際は、私たちがすでに研究開発に費やした金額や時間をぎりぎりカバーできる程度です。とにかく私たちは、情熱と、小さな同好のコミュニティーが大きなことを成し遂げるという信念を原動力としてこのプロジェクトを進めています。レーザーカッターが、CD-ROMやデスクトッププリンターのような主流の技術になることを願っています。しかし、国中の家庭に個人生産が行き渡るためには、大きな動きを起こす必要があります(私たちは、それは今だと思っています)。
なので、予定を超えた資金は、さらなる開発に注ぎ込みます。コミュニティーをもっと大きくして、誰もが同じに作れるプラットフォームを開発します(たとえば、バージョンやオペレーティングシステムの違いで互換性が失われるなどの問題をなくします)。私たちには大きな計画があります。もっと多くの資金が得られれば、もっと時間をかけてこのプロジェクトを本当にビッグな方法で成長させていくことになります。私たちが今すごくやりたいことは、ワコムやiPadなどのタブレットを使って、ペンや指で描いた線をリアルタイムでカットする、リアルタイム生産ソフトウェアの開発です。
JB:Kickstarterから小切手が送られてきたら、まず何をしますか?
AW:さらなる研究開発です! 私たちは何カ月間もレーザーカッター製造の実現性について考えてきました。kickstarterが、それを支えてくれました。これからは、Lasersaurの試作品の製造に専念できます。
JB:Lasersaurの価格はいくらになる予定?
AW:1.2×0.7メートルまでのベッドサイズで3,000から5,000ドルを目指しています。少し改良して安い部品を調達すれば、もっと安く作れるかもしれません。正式なキットでは、世界中どこでも簡単に手に入る部品を使うことにしています。5,000ドルが無難な線でしょう。
JB:安全性はどうでしょう。ユーザーが目を痛めたり、家を燃やしてしまわないために、どんな対策を?
AW:扱いやすいレーザーから始めるというところが鍵になります。私たちは100ワットまで対応するシステムを目指しています。このことは説明書にもハッキリ書くつもりですが、まずは低出力のレーザーダイオードから始めて、次の段階で15ワットのレーザー管にアップグレードするという風にしていけるとよいと思います。
いちばん難しいのは、作る前、そして作っている最中も、ユーザーには責任ある技術者になってもらって、このシステムの危険性を理解してもらうことです。危険因子を含むキットは、これまでにもいろいろありました。自分で作れば、システムを熟知でき、安全に操作できるようにもなります。
技術的な安全機能としては、時間をかけて詳細を詰めていきたいと思っています。作動中に蓋を開けたときにスイッチが切れるかって? それは当然でしょう。
– John Baichtal
[原文]