Electronics

2010.06.04

モバイルラボ・プロジェクト Part. 1

Text by kanai

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nomadhead_2.jpgwhole earth catalogmondo 2000wired、そしてこのmakeでの私の著述を読んでくれている皆さんなら、次のゲストはsteven k. robertsだと察せられていたことだろう。1980年代、私にハードウェアハッキングの楽しさを教えてくれたのは、まさにこの人だ。技術よりもアートに寄った彼は(とは言え科学や技術からの影響も愛着も大きい)、アートと技術の境目をなくす術を教えてくれた。21世紀のmaker諸君なら難なく理解できるであろう方法でだ。昔から隔たてられてきた、まったく別の感性とされてきたふたつのものの境目を、steveはよくこんな言葉を使って見事に言い表している。「エンジニアリングのないアートは夢だ。アートのないエンジニアリングは計算だ」

1980年代に彼が行ってきたハイテク自転車のプロジェクト、WinnebikoとBEHEMOTH、そして、最近取りかかっている水陸両用や水上のハイテクな乗り物は、まったく新しい輸送手段というテーマをじつによくわからせてくれる。Nomadic Research Labsで30年間研究してきた彼は、個人向けの新しい乗り物に関する著書を何冊も出している。Computing Across America や、新刊のReaching Escape Velocity などがそうだ。
Steveはゲスト著者として、自身の素晴らしい業績について書いてくれることになった。まずは、Polaris Projectと呼ばれる彼の新しいモバイルラボの話だ。それでは Make: Onlineをお読みのみなさん、Steve Robertsのご登場です! — Gareth

完全にポータブルなラボ(研究室)は、いろいろな意味で一考に値する。自宅に十分なスペースがない、移動中も仕事を中断したくない、クライアントの近くに道具を持っていきたい、遊牧ハッカースペース・コミュニティーを作ってを作ってプロジェクトを連合させたい、いつでもすぐに退散したい、建築許可などを面倒なこと抜きで自分だけの工房が欲しい……などなど。また、単に効率的でクールで集中できるという理由もある。
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私の場合は、ちょっと馬鹿げていて複雑な事情がある。私は、非常にギークな帆船プロジェクト(Nomadness)を完成させたいと思っている。しかし、私の家にも工房にも係留設備がない。家から4時間もかけて回り道をしなければボートにたどり着けないという、なんともしがたい地理的環境だ。マリーナに行くときは、数日間かけて予定表どおりに準備をしておく。しかし、作業に入るとすぐに足りない部品や工具があることに気づく。それらは家にある。しかたなく、その作業は後回しにして、次の工程にかかろうとすると、同じような問題がまたしても起きる。その繰り返しでイヤになり、他のボート仲間のところへ遊びにいって1日を過ごし、家に帰る。そのとき、予定表は前より長くなっており、フラストレーションも溜まっている。
ほとんど作業が進まないまま1年以上が経過したとき、私はひとつの明快な解決策を思いついた。移動研究室を作ればいいと。家は誰かに貸して、必要なものすべてを車に積むのだ。
こうして、Polarisプロジェクトが始まったのだ。私は、24フィートの汎用トレーラーの中に、こぢんまりと効率的な電子工作の研究室兼工房を作った。無駄に広い 100平米の建物(もともとMicroship labだったところだ)の中身を「蒸留」して押し込んだ。ずっと昔から棚の上で埃をかぶっていたものは、まとめて捨てた。そして、数え切れないほど重複した工具の数々は、長年の工房整理経験を活かし、使われない山ほどの工具を工房中に積み上げる結果となった「いつか使うかもしれない」という考え方と決別し、今取りかかっているプロジェクトに必要なものだけを残すことにした。
新しい移動研究室のほうがずっと使いやすいと気づくまでに時間はかからなかった。さらに、これが単なる旧研究室のミニチュア版ではないこともわかった。ここには展開アンテナ付きのアマチュア無線機がある。セキュリティーは強固だし、ネットワークツールもある。iPodとSirius衛星ラジオが聴ける船舶用ステレオもある。照明もいい。専用のMacに、将来のボートプロジェクトのための部品もすべて揃っている。ハンドツール、パワーツール、旋盤、折りたたみ式テーブルソー、サンダー、グラインダー、エアーツール用コンプレッサー、万力、などを含む道具は、電気溶接機、ガス溶接機、業務用ミシン、そしてもうすぐCNCルーターも来る。メインの作業台には4チャンネルのTektronixオシロスコープ、Metcalハンダステーション、ステレオ顕微鏡、電源、Arduino関連部品のストック、そして普通の検査器具が一式揃っている。そして材料は、小さな部品を入れる壁用の小引き出しを含めた869の引き出しに収められている。これらは、移動中は2.4メートルの折りたたみ式ホワイトボードで固定される。
電源は大きな問題だった。マリーナの駐車場には手軽に使える電源がないからだ。そこで、私が当初考えていたよりも複雑なシステムが必要になった。
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電源装置は、正弦波インバーター充電器、充電管理装置付き240ワット・ソーラーパネル、30アンペア船舶用電源ケーブル、2000ワットのホンダ発電機、AGM蓄電池バンク、並列配線の照明とブレーカ―ボックスにそれぞれ対応する交流用と直流用の配電盤という仕様だ。基本的に標準的な船舶用の電源システムをベースにしている。2~3日は、外部電源なしで作業ができるように考えた結果だ(ヘビーな作業なしないとして)。太陽も出ていなくてコンセントもないという非常事態になったときは、ホンダ発電機を荷台に乗せて、短いピグテール線で繋ぐ。
当然のことながら、移動が前提なので、あらゆるものが振動に耐えられないといけない。そこで、すべての家具(特に古い鉄製のがっしりしたもの)はボルトで固定した。引き出しや棚には鍵が掛かるようになっている。そして、ドアの脇には「飛行前チェックリスト」を貼っておき、がたがた道を数マイル走ったところで机の上の部品が床に飛び散るなんて馬鹿なことにならないよう、チェックするようにしている。
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この記事でゲスト著者としてMakeに招いていただき、非常にうれしく思っています。これから数回にわたって、モバイルラボの(または少なくとも戸外に出る)ために役立つ情報を提供していきたいと思います。
– Steven Roberts
原文