2013.02.21
3Dプリント可能な銃器の開発者、Cody Wilsonへのインタビュー
オースティン在住24歳、法律学校の学生で、3Dプリントで実際に撃てる銃のデザインを開発し無料公開する非営利団体、Defense DistributedのパートタイムディレクターであるCody Wilsonに関して、数ヶ月間にわたって議論が続いている。
“WikiWeapon”プロジェクトが話題になったSandy Hookより前に、彼らのグループは当時沸き上がったクラウドファンドと3Dプリントの使用と悪用に関する論議の中心に堂々と立っていた。あの悲惨な事件(日本語版編注:2012年12月14日にコネチカット州のサンディフック小学校で発生した銃乱射事件)のあと、その論争はにわかに全米を巻き込んだ緊急の話題となり、Wilsonはメディアの注目を集めることになった。6月以降、彼はNPR、BBC、AP、The National Review、The Guardian、Forbes、Popular Science、PC Magazine、さらにその他5社ほどからインタビューを受けた。街では有名人になった。そして個人的に脅迫も受けるようになった。なかでも彼が「本当に怖い」と感じたものもある。Defense Distributedのウェブサイトなどでは、公に激しい非難も受けた。
お前は世の間違ったものすべてを代表している。人の気持ちを持たず、命より金を欲しがる。最低最悪の野郎だ。卑劣極まりない地球のゴミだ。もし神がいたなら、お前はまっすぐ地獄に落とされるだろう。お前の f***ingな武器でいっぱいのところだ。人類の恥さらしであるだけじゃない。お前の母親の顔にも泥を塗っている。
12月、Blink誌は、Wilsonにアメリカ政府から干渉されるとしたらどんなことが考えられるかと尋ねた。彼はこう答えている。
あらゆる過剰反応、非難、いやがらせを覚悟しています。大きなものを背負い、問題に巻き込まれ、脅迫されることも覚悟しています。しかし私は、彼らのささいなルールにも従います。私は彼らの司法権と暴力による脅しを受ける側にあります。彼らがもう私を保護してくれないと言うのなら、保護してくれるところに移ります。
オバマ大統領がこの数十年間でもっとも広範な銃規制法案を発表した1月16日、Wilsonと最後の連絡をとった。このインタビューにはどこか切迫したものがあった。なぜならWilsonはこうメールしてきたからだ。「ヨーロッパに経つので今日しか時間がない」
彼が教えてくれた番号に電話をかけてメッセージを残した。すると1分後に彼は電話をくれた。
まず聞きたいんだけど、帰って来る予定は?
「いい質問だね」と彼は笑った。「有名な最後の言葉だけど、うん、戻ってくるよ」
私が「国から逃げるのか」と冗談を言うと、彼はまた笑って答えた。「いや、彼らこそボクから逃げる必要があるんだよ」
Wilsonは、人当たりが良く、温和で、はきはきと物を言う。アーカンサス生まれで、慎重に言葉を選んで話すが、興奮すると口調が早くなる。私が聞いたかぎりでは言葉に訛りはなく、私が思い描く「銃オタク」のイメージには当てはまらない。オタクではないのだろう。
その連中をどこで見つけたかはわからない。少し前にドイツのビデオクルーが来て、私たちの誰かにインタビューをしたいと申し込んできた。しかし、彼らはどこかの誰かを見つけて、彼がこう言うところを撮影していったんだ。「オレから銃を奪いたければ、死んで冷たくなったオレの手からもぎ取ることだな」
私はWilsonの生い立ちが気になった。なぜこれほどまでに銃所持の権利にこだわるようになったのか。
「軍隊にいたことは?」
Wilson:「いや」
「狩りはする?」
Wilson:「いや、狩りはしたことがない。とくに反対しているわけではなくて、なんというか、自分には無理っていう感じなんだ」
「銃を撃つのは好き?」
Wilson:「最近はそうだね。たくさん撃っているので、だんだんうまくなってきたよ」
「どちらかと言えば政治好き?」
Wilson:「ああ、そうかも。それって実際の政治という意味だよね? 人に影響を与える。ボクは政治が手続きだとは思っていない。もっと大きなものだ」
それ以前
7月1日、Michael “HaveBlue” Guslickは、余っていた部品と3Dプリントしたプラスティック製銃床下部で実射可能なAR-15を作ったと報告した。銃床下部は、一般的なAR-15では、唯一、登録番号を持ち規制されている部品なので、Guslickのデザインなら、店頭販売されている部品、つまり登録の必要がなく、追跡もされず、年齢は経歴を問わず法的に自由に販売できるものを使って銃が作れることになる。1968年のアメリカ合衆国銃規制法によれば、つまり国の視点からすれば、銃床下部が銃そのものなのだ。
Guslickは、AR-15の銃床下部の高品質なCADモデルから始めた。ソフトウェア上であちらこちらを補強し、中古のFDM 1600でABS樹脂を使ってプリントした。それを、補修部品屋で買ったコンバージョンキットとともにライフルに組み上げた。これは、「ピストル長」に縮めた銃身から威力の低い.22LR弾を撃ち出すことができる。Guslickの報告では、これで機構的な不発もなく、100発ほど撃つことができたという。
Wilsonは、Guslickの結果を約1カ月後に知った。
HaveBlueとturomarと名乗る男性は、夏から10月ごろまでにかけて、それに.22弾を込めて好きなだけ撃てることを証明してみせた。その知らせは、ボクたちが発足した週末に聞いた。ボクたちがビデオを公開したほんの数日後だ。
このビデオは、7月の終わりにIndiegogoで行ったDefense Distributedのクラウドファンドキャンペーンのために作ったものだ。始まってから5分ぐらいのところで、Willsonは、ストラタシスの業務用3Dプリンター、Mojoを使ってプロトタイプを作るという計画を話している。プリンターの価格は1万ドル弱だ。
[Mojo]はホビー向けのプリンターではない。業務用のマシンだ。しかし、すごく高価な業務用マシンに比べて、価格的に十分「入門レベル」と言える。リースもある。これなら、どちらの世界にも属することができる。ここから、デザインをRepRapやMakerBot向けにポートする。
キャンペーンは9月の末まで続く予定だったが、8月21日の夜、Indiegogoはキャンペーンを中止し、資金を返金してしまった。理由は利用規約違反だ。2万ドルのゴールに対して1万8000ドル不足しているところで時計の針が止まった。
「シャットダウンされるまで、22日か23日しかなかった」とWilson。「幸い、これがForbes の記事になったので、ボクたちのサイトへはたくさんの人が見に来てくれるようになり、ゴールを達成できたんだ」
今は目標の資金を得て、ストラタシスのリース契約が結べるようになった。結局、Mojoではなく、さらに高価でプリント範囲の大きいFDM(熱溶解積層法)プリンター、uPrint SEを選択した。
9月の終わりに、プリンターがオースティンのWilsonのアパートに届けられた。しかし、その箱を開ける前に電話が鳴った。
先方はそれを送ってきてくれた。届いてから1日か2日あと、販売店から電話があった。返せって。ボクは、本社から電話をしてこいと伝えた。返さなければならない理由なんてないから、ボクは返さずにいましたよ。
その後、ストラタシスの弁護士たちとの間で緊迫した電子メールのやりとりが続いた。Wilsonは連邦銃器免許証を持っていないことを認めたが、Defense Distributedの活動は、銃砲規制法の「許可証を持たない個人も、販売または配布を行わない個人の使用に限り、銃砲規制法が定義する銃器を作ることができる」という有名な規定に基づき合法であると確信していた。
ストラタシスは取り合わなかった。
彼らの弁護士はこう聞いてきた。それで何をするのだと。ボクは法律に準拠していると答えた。彼らは、そのことについて話し合う気はないと言った。最初から結論ありきなのだと感じたよ。
翌9月27日、ストラタシスはWilsonの家からマシンを撤収するためのチームを送り込んできた。彼はそのときの様子をあきれたようにこう話した。
そう、やつらはたいそうな特殊部隊をよこしたよ。ただ機械の部品を取ってこいと言われて来た連中って感じ。彼らは何もわかってなかった。ボクもトラックに積み込むのを手伝ってやったよ。
“Come and take it”(欲しければ取りに来い)だねと皮肉を込めて言うと、Wilsonは少し笑ってくれた。
実際、ボクたちもそれを使っていたんだよ! そう言っていたんだけど、もう使えない。本当に来て持って行っちゃったからね。しかも速攻で。
Defense Distributedのことを話すとき、Wilsonは第一人称をいろいろに変えて話す。ここを突っ込んでみた。それは「我々」なのか、それともただ「私」なのか。
銃の組み立て、プリント、それいろいろなことを手伝ってくれる人たちがいる。彼らは友だちだけど、Defense Distributedかどうかはちょっと微妙だな。現在このプロジェクトには、多くのエンジニアも関わっている。数ヶ月前に会っていたら近寄りがたく感じたかもしれない人たちもいる。すごく優秀な人たちだよ。
Wilsonの静かなるパートナーたちが誰であろうと、12月の頭に、あることがハッキリとした。それは、彼らの中には、最上級の3Dプリント機器をいつでも使える人や組織が含まれているということだ。12月2日、Defense Distributedは、3Dプリントした銃床下部を使ったAR-15で、壊れるまでの間、FN 5.7×28mm弾を6発撃つことができたときのデモビデオを公開した。「ファイブセブン」弾は、.22LR弾の2倍の薬室圧力を生む。しかしそれでも、AR-15が通常使用するように想定されている.223レミントン弾よりも10%ほど低い。銃床下部はGuslickのオリジナルモデルを使用している。それは、Objetのフォトポリマー材料のジェット処理を経て、Objetのハイエンド機、Connexシリーズのみに備わっている複合材料プリント機能により、「ABSライク」なフォトポリマーブレンドで作られている。
これに関連するブログ記事に、Wilsonは、プリントには7時間を要したこと、試射のプロセスと銃床下部の事実上の失敗モデルについて言及し、次世代モデルの改良アイデアのリストも載せている。疲れたけれど、満足しているというのが Wilsonの結論のようだ。
彼は、「今はそんなところだ。試験が終わったらまた話そう」と書いている。
12日後の12月14日、テキサス大学法科校2012年秋試験が最高潮となる。
その間、コネチカットではAdam Lanzaが大暴れしていた。
その後
ニュータウンでの乱射事件が起こった週に、3Dモデルの共有サイト、Thingiverseは、利用規約の「武器の製造に寄与する」コンテンツの禁止という条項を持ち出して銃器関連のモデルをサイトから削除してしまった。これにはGuslickの強化型、AR-15銃床下部も含まれていた。
これに反応してDefense Distributedは、削除されたファイルのネット上の保管場所としてDEFCADを立ち上げた。これは、冷戦時代にアメリカ軍が使っていた防衛体制のレベルを示す略語、DEFCONをもじったものだ。
みんなに協力してもらって、消される前のファイルすべてを緊急に集めるまでに12時間しかなかった。あのことを快く思っていなかった他の人たちが作っていた GrabCADなどからもファイルを集めた。今では、銃器関連のファイルが30以上ある。ボクたちはPirate Bayの公式アカウントも取ったけど、まだ実際には使っていない。でも、他の人たちは狂ったようにボクたちのファイルをシードしまくってるよ。
12月の残りの日々で、WilsonとDefense Distributedは銃床下部のデザインの改良を続けた。クリスマスの日には、フォトポリマージェット法、光造形法、熱融解積層法という3つの異なる技術を使って、6種類の銃床下部をプリントした。これらのデザインの性能は劇的に向上した。光造形法で作ったもののひとつは、強力な.223レミントン弾を80発以上撃つことができた。
今のところ、2013年のDefense Distributedの公的な活動は、弾倉の3Dプリントにシフトしている。1月12日、彼らは、3Dプリントした本体、3Dプリントした送り板、市販のバネで構成されたAR-15用のDIY大容量弾倉のデモビデオを公開した。
「輪ゴムを使った実際に使える弾倉も開発した」とWilsonは話してくれた。「誰かが余計なことをしてバネまでが規制の対象になったときの備えだよ」
16日の午後、私がWilsonと電話で話す数分前、下院議員Steve Israel(民主党ニューヨーク州3区選出)が、12月に期限が切れる1988年の「検知されない銃器法」を、とくに3Dプリントした大容量弾倉を禁止する条項を盛り込んで改正するよう求めた。彼の広報資料では、Defense Distributedを名指ししてこう言っている。
犯罪者が大容量弾倉を家でプリントできるようになれば、経歴調査や銃規制は効力をほとんど失う。3Dプリントは大変に有望な新技術であるが、新しいガイドラインも必要だ。法執行機関は、グーグル検索による大容量弾倉の大増殖を抑える力を持つべきだ。
Wilsonの公的返答はこうだ。「Good f***ing luck」
その日の午後以来、Wilsonは汚い言葉を控えるようになったが、私が彼と話したときは、まだ少し興奮気味だった。
Israelは、ボクが思うに、ただ話題に乗りたかっただけだ。本気で取り組もうとはしないだろう。彼がずっと関わっていたいと思っているのか、それともただ重大な仕事をやっていそうに、または関わっていそうに見せるための絶好の機会だと思っているだけなのか、それはわからない。議員という生き物はよく理解できないよ。
「議員という生き物」というところで私は吹き出し、彼を遮った。そして、その言い方は彼が自由主義者であるように聞こえると教えた。実際にそうなのか? 彼は左派なのか右派なのか中道なのか?
左とか右とかという考え方はあまり好きではないけど、そうだね、ポスト・マルクス主義からフランス社会主義を通ってリバティ運動まできたし。でも、右寄りの人とも、アナキストとも付き合ってる。ボクはどちらかと言えば左寄りだと思うけど、それは後ろ向きな意味でね。
これから
WilsonとDefense Distributedの周囲ではいろいろなことが言われているが、彼らはまだ、オリジナルのWikiWeaponのデザインを実際にプリントして試射してはない。まだやっていないのだ。
アメリカの法律では、銃器はタイトルIとタイトルIIに分類されている。タイトルIIには、マシンガン、銃身の短い、または切り詰めたライフルおよびショットガン、グレネードおよびロケットランチャー、大口径銃、消音器が含まれる。これらは連邦政府に登録しなければならず、連邦銃器許可証と納税印紙がなければ合法的に製造できない。また、包括的な「それ以外」のカテゴリーもあり、ここには他の物に似せた銃器や隠し持つための銃器も含まれる。この分野に関して、特殊な事例はアルコール・たばこ・銃器・爆発物取締局(ATF)が法的な権限を持つため、話はやっかいになる。
タイトルIIに関わる問題では、ボクたちと一緒に考えてくれて、書面で意見を出してくれる弁護士を使っています。それ以外のすべては、自分の個人的な弁護士に頼んでいます。学生アカウントでLexisNexisデータベースにアクセスできるので、法的な調べものはタダでできる。図書館で長い時間調べましたよ。
ストラタシスとの一件以来、Defense Distributedは銃の3Dプリントに関する法的な問題には、より慎重に対処するようになった。
ボクたちは、付き合いのある頭のいい人たちから意見を聞いているんだ。実際にプリントできる銃、とくにプラスティック製銃床下部は「その他の武器」に分類される。これは、銃規制法ではなく、連邦火器法の管轄で、理論上はタイトルIIとなり、製造許可証とクラス2の納税印紙がなければ製造は非合法となる。ATFの銃器技術科にお願いするのは避けたかった。彼らは規制しようとするだろうし、不満も起きるだろうし、そうなると銃の3Dプリントというイノベーション全体が萎縮してしまうから。
Defense Distributedは連邦銃器許可証を正式に申請した。しかし、それを邪魔するものがあった。
そう、今は保留中。自分としてはすべてクリアになってるんだけど、リースの問題を解決しないとならなくて、2月まで保留状態なんだ。このダウンタウンの倉庫を借りて、この住所で許可証に申請しているんだけど、転貸人が出ていってしまうので今は何も決められない状態で、許可が下りるまでの間に、すべての書類関係を片付けないと何もできない。それが終わったら、あとは15日か20日ぐらいだと思う。2月か3月だと言われたから。わかんないけど。しかしそれから特殊職業納税者印紙も取得しなければならない。3週間ぐらいかかると聞いてる。それまで下院で法律が通ってしまわないかと不安だよ。そうなったらすべて違法になってしまう。どうなるかわからないけど、心配だ。
そうなったらまたWilsonと話ができるいい機会になる。
「個人的には、将来どんな計画がある?」
Wilson:「よくわからない。法律学校は卒業するだろうけど、弁護士になろうとは思ったことはない。今は2年次だから、あとまる1年ある。この夏もいくつかクラスと取らないとならないかも」
「Defense Distributedでの公的役割について、学校の仲間から何か言われたりしない? どんな気分?」
WilsonII「ああ、嫌だね。『自分を抑えてる』みたいに思われてたりして。でも、友だちもいるよ。彼らはよくわかってくれる。クラスで取り上げてくれる先生もいる」
「個人的にこの問題を解決していくためには、ずいぶんお金がかかるのでは?」
Wilson:「そうでもない。個人的に失うものがあまりなかったということもあるけど。基本的に、背の高い草から頭を出しているようなものだよ。わかります? 誰だって、隠れて何かをするのって楽しいでしょ」
訳者から:“Come and take it”についてはこちらを見てください。あのポスターの意味もわかります。
[原文]