Electronics

2013.05.17

Fab Lab Manchester訪問

Text by kanai

Future Everything summitに参加するためにマンチェスターを訪れたのだが、イギリス初のFab Labを見るというチャンスを見逃すことはできなかった。Fab Lab Manchesterは、イギリス有数の工業地帯の川沿いにある衝撃的なスラブ張りのような建物の中にあった。

私はEddie Kirkby(Manufacturing Institute)とHaydn Insley(Fab Labマネージャー)に会い、イギリスでのFab Labムーブメントの広がりについて話を聞いた。

Photo by Urban Splash
写真提供:Urban Splash

マンチェスターのFab Labは、イギリスの製造業を支援するチャリティー団体、Manufacturing Instituteが所有し運営している。オープンしたのは2010年。団体の役員の一人がアメリカを訪問した際に Fab LabのパイオニアであるNeil Gershenfeldに会い、そのアイデアを持ち帰ったのだ。

この記事を読まれているみなさんは、Fab Labについてご存じだという前提で話をしたい。ご存じない方のために、MITのCenter for Bits and Atoms FAQ に書かれている内容を抜粋しよう。

Fab Labは現代の発明のために広く開かれた場所です。もともと、MITのCenter for Bits and Atoms(CBA)の社会奉仕プロジェクトとして始まりました。CBAでは、デジタル製造の研究のための機材に数百万ドルを費やしてきました。究極の目標は、ほぼあらゆるものが製造可能な、プログラム式の分子組み立て装置の開発です。Fab Labはその両極端の中間に位置します。およそ5万ドル分の今日使用可能な機材と素材を使って、明日のパーソナルファブリケーションで何ができるかを考えます。

Fab Labはボストン市内からインドの郊外に、南アフリカからノルウェーの北部まで広がっていきました。Fab Labでの活動は、ピアツーピアのプロジェクトを基本にした技術トレーニングによる技術的エンパワーメントから、地場の問題解決、小規模ハイテクビジネスの育成、草の根の研究などです。Fab Labで開発されプロデュースされているプロジェクトには、太陽光発電、風車、小型軽量クライアントコンピューター、無線データネットワーク、農業と健康管理のための分析機器の使用、カスタムハウジング、高速プロトタイピングマシンの高速プロトタイピングなどがあります。

未来の製造業

イギリスの工業は、長期にわたってゆっくりと下降線を辿っている。かつては北部でもっとも栄えた工業地帯であったこの場所では、とくに影響が大きい。

活力と関係性が失われたことも(一時的なものだと証明されたとしても)、若者や投資家の製造業への興味を少なくさせている。もしあなたが、この20年ほどの間に、どのような教育を受けるか、またはどこでビジネスをスタートさせるかを決断していたとしたら、製造業はほとんど候補に入らなかったはずだ。

製造業はそこを変えたいと思っている。そして、Fab Labがそれを終わらせてくれると期待している。ラピッドプロトタイピングや小規模生産のためのツールを使えるようにすることで、また利用者と、供給者、発明家、専門的知識を持つ仲間のグローバルなネットワークを作ることで、新しい感覚の機会が生まれる。

「私たちは、ただ店に行って物を買うのではなく、物を作ることを真剣に考える人たちの文化を作りたいのです」とEddieは語る。「問題を抱えた人が、物を買ってきて解決するのではなく、自分の力で解決したいと考える文化を作れば、それがイノベーションの文化の始まりになります」

「人がうんと小さいころから登るためのハシゴを作ろうとしています。つねに関わりを持ち、若い起業家を育てて、ビジネスをスタートさせます」

こうしたチャンスは、(既存の)製造業からはやって来ないと多くの人は感じている。彼らはMakerだ。クリエイティブな人々だ。痒いところは自分で掻く人たちだ。Fab Labは、新しい人々を、こっそり、製造の世界へ引き込む。Manufacturing Instituteは、こうした関わりが、習慣を変化させる鍵になると見ている。これはマンチェスターだけに限ったことではない。

「ここには年間で2,500人が訪れます」とEddie。「この2,500人は製造業と関わっています。製造業とポジティブに関わっています。そこで私たちは、イギリスに30カ所のFab Labがあれば、7万から8万人の人が製造業に関われると考えています」

Fab Labで生まれたイノベーションの完璧な例に、Nifty MiniDriveがある。シンプルながら独創的なデバイスだ。MacBookのSDカードスロットに装着できるのだが、中にMini SDカードを入れられる。これで、外からはわからないが、64GBまでストレージを拡張できるのだ。

このプロジェクトはKickstarterで成功を収めた。目標金額の1万1000ドルをあっという間に越して、38万ドルを集めた。プロジェクトチームは現在、Kickstarter成功後の対処に追われているが、この開発とプロトタイピングはマンチェスターのFab Labで行われた。

「こういうことがFab Labで起きてほしいと思っていました。自分の問題を自分で解決しようとここを訪れ、それが製品化できると気づき、Fab Labの外へ持ち出してビジネスを立ち上げ富を得る。それが私たちが期待するリアルなサクセスストーリーです」とEddieは話していた。

利用しやすさ

Fab Labを立ち上げるとき、いろいろ考えた。とくに、人々に挑戦を諦めさせてしまうような、物理的、感覚的な障害を取り除くことだ。そのひとつに、工作機械の操作が難しいという印象がある。この恐怖感に対処することは、Fab Labの精神の核心でもある。

「Fab Labが広がるにつれて、機材は頑丈で使いやすいものになっていきました。よく考えた上で、最新式ではない、ローテクなものにしているのです。大学や高校にも置かれているようなものです。障壁を低くするために、あえてそうしています」

「おそらく、我々が持っているなかでいちばん難しい機械は、大型のCNCフライス盤でしょう。これが使えるようになるまで教えるのに、2時間かかります。そのほかの機材は、1時間以内で自分で習得できるものです」とEddie。

Haydnがこう付け加えた。「レーザーカッターは2,000から3,000ポンドでも買えますが、ここにあるのは1万5000ポンドのものです。しかし、このほうが頑丈で、より使いやすく、ウォータークーラーもいらないなど利点があります。私たちがこれらの機材を選んだのは、とても頑丈だからであり、理に適っていて、面倒が少ないからです。つまり、習得するのにいいマシンだということです」

正規の教育とは対称的に、Fab Labでの学習は、可能な限りもっとも小さい部分にまで細分化されます。次の作業には何が必要かを学ぶ。それが高速プロトタイプの精神にも合致する、適時的なアプローチだ。

「私たちはこの考えを小さく砕いて、個別の課題に対処できるようにしています。それを学べば(そこですべてを学ぶということは、それについて知るということ)、誰もが工学エンジニアやクリエイティブなアーティストなどになれます。私たちは、みんなが、必要に応じて全体の中の必要な部分だけを学べるように手助けをしています。なので、ひとつの課題について4年間のフルコースで教育を受けて、製造業を開始して、習った10パーセントほどの知識しか使わない、などということにならないよう、こう尋ねます。「今、何が作りたい?」そして、その作り方を教えます。「次に何を作りたい?」そしてまた、その作り方を教えます。こうして、みんなはゆっくりと知識を蓄積していき、その知識は定着します。実際に行動するときは、これがとても便利な方法なのです」と Eddie。

グローバルなネットワーク

イギリスでの先駆者である一方、マンチェスターのFab Labは、2003年、アメリカのボストンに最初に登場した前哨基地から始まったグローバルな運動の一部を担っている。Eddieは、このFab Lab のグローバルなネットワークに参加することで得られる好機をいち早く感じていた。

「Fab Labは単独でも素晴らしいのですが、それではあまりインパクトがありません。もし、イギリス中に30のFab Labがあって、それらが密接に協力し合えたなら、集団でことを起こすことができ、大きなインパクトを与えられます。世界中に150のFab Labがあったなら、私たちは世界的に巨大なインパクトを与えられる潜在力を持ちます。私たちは、Fab Labを中心にした、まったく新しいエコシステムを作ろうとしているのです。そして、まったく新しい商業モデルを作ろうとしています」

「歴史的に、アイデアはローカルに生まれ、製造はグローバルに行われてきました。しかし現在は違う方向に動いています。アイデアはインターネットによってグローバルになり、製造がローカルでも可能になっています」と彼は言う。

デザイナーが製品やデザインのファイルをインターネットにアップすれば、世界中のどこからでもそれが買えるようになる。その購入の形も、Fab Labにいるオリジナルのデザイナーから委託されて製造された製品を買うというものから、近所のFab Labで利用者や地元の業者が製造した製品を買うというものまでいろいろだ。

「あなたがデザイナーか製品開発者なら、購入者のためのグローバルな市場にすぐにアクセスできます。あなたが購入者なら、物を買って、お望みなら自分でそれを作るか、または誰かに作ってもらうことができますが、それはあなたの地元で行われます」

「あなたは、地元に社会的な持続可能なインパクトを与えるのです。地元の材料を使い、地元の業者や人を使う。環境的インパクトもあります。遠い国に出荷する必要がないからです。それを望めば自分で作ることもできるという、社会的インパクトもあります」と彼は付け加えた。

アイデアはグローバル、製造はローカルという原則は、ローカルな創意と制約によって突き動かされるイノベーションの可能性を開くものでもある。

「オープンデーにFab Labに来て、無料で使ってみて、Fab Labコミュニティにあなたがやっていることを話す。これがオープンデザイン、オープンイノベーションの原則です。文書化したあなたのデザイン、あなたのマシンの設定、あなたが使っている材料などが、それがコミュニティへの貢献になります。たとえば、ガーナのFab Labにいる誰かのアイデアが、あなたのプロジェクトの役に立つのです。同じマシン、同じ工具、同じ材料を使うことで、同じものが作れます。改良もできます。そしてそれをまた公開するのです」とEddieは話してくれた。

– Andrew Sleigh


Fab Lab Manchesterは、マンチェスター、ニューイズリントンのChips Buildingにある。金曜日または土曜日がオープンデー。だれでも無料で利用できる。Twitterアカウントは@fablabmcr


Andrew Sleighは、イギリスのブライトンに住むMakerで研究者で作家。イギリスで最初に開かれたMini Maker FaireであったBrighton Mini Maker Faireの主催者の一人。Twitterも使っている。

原文