Fabrication

2013.04.24

Makerとマラソンランナー

Text by kanai

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今日は愛国者の日で第117回のボストンマラソンの日だ(日本語版編注:原文は4月15日に掲載されました。筆者により爆発事件に関するコメントが文末に追加されています)。2万7000人以上の人が参加する。ボストンマラソンは、アメリカで最初の、そしてもっとも権威あるマラソン大会だ。しかし、今ではこうしたマラソン大会が世界中で3000回ほど開かれている。今ほど多くの人がマラソンに参加するときはなかった。私は、マラソンと、成長するMakerムーブメントとの関係を研究している。すべての人がマラソンランナーでありMakerであるわけではないが、個人的な達成感を求めて困難に挑戦しようという人はどんどん増えている。

ボストンマラソンは、オリンピックのマラソンの影響を受けて1896年に始まった。最初の100年間は、参加者は数百人程度だった。彼らは大変に真剣なアマチュアたちだったが、フィールドは狭かった。それが、6年前から参加者が一気に増え始め、100周年記念大会にピークを迎えた。非常に多くの人が参加を希望したので、大会事務局は参加人数を制限しなければならなかった。

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これはキツイ

マラソンの面白いところは、一度もマラソンをしたことがなくて、それをやり遂げた自信をほんのわずかでも持ったことのない人間として言うのだが、マラソンはキツイということだ。以前に比べてマラソンが楽になったわけではないのに、それをやろうという人が増えている。

今はもちろん、マラソンの参加者は、健康とフィットネス、ジョギングやジャザサイズを流行らせたムーブメントと並行して増えている。しかし、ジョギングは簡単であり、ジョガーがそのままマラソンランナーになるわけでもない。

テクノロジーが簡単に使えるようになったが、ユーザーはジョガーのようなものだ。使うことに比べて、作るほうは難しい。チャレンジングだ。そこが、マラソンのほうがジョギングよりも面白いと思わせるところだ。困難であればあるほど、達成感は大きいからだ。

アマチュアの勃興

マラソンの参加人数の増大は、アマチュアによるものだ。彼らは賞金を目当てにしているわけではない。完走することだけを目標にしている。自分でゴールを設定する人もいる。クラブやグループの活動として走る人もいる。

レースには、だいたい同数の一流選手が走る。しかし、賞金が出るようになったのは1985年からだ。ボストンマラソンは、ずっとアマチュアの大会だったのだ。

Makerムーブメントもアマチュアに先導されている。つまり参加者は、個人や社会的グループだ。みながそれぞれ、マラソンを走る理由、ホビーを始める理由、意欲的なプロジェクトに取り組む理由を持っている。

市場の出現

Runner’s Worldは1966年に雑誌としてスタートし、1970年代から1980年代に「ランナーブーム」を引き起こした。これには2,500万人の人が参加した。最初のランニングシューズは1938年に登場した。そのずっと後、Blue Ribbon Sportsが1964年に創業し、ワッフルトレーナー(同社の歴史そのもの)が1974年に発売される。そして1978年に社名をNIKEに変更した。

マラソンは、ひとりの人やひとつの目的によって動かされたものではなく、社会的な現象であると言える。それはアマチュアの精鋭グループによって始められ、そのうちの何人かはプロになり、さらに多くのアマチュアが走るようになった。そしてマラソンは産業を生んだ。NIKEのような巨大産業だ。

何人もの人や社会的な目標がひとつに収斂して、マラソンの成長に拍車をかけた。そして私はそれを通して、Makerムーブメントの今と未来を理解したいと思う。私は、数年間にわたる重要なイベントを記したタイムラインを作ってみた。何か似ていると感じられるところがあるだろう。

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マラソンの人気の元はなんだろう?

ひとつめは、マラソン大会はいろいろな場所で行われるようになっているということ。ボストンへ行く必要すらない。大会はさまざまな場所にコピーされているからだ。今日、フルマラソン大会は世界で1,200も開かれている。

サンフランシスコ湾岸地区でスタートしたMaker Faireは、Makerのマラソン大会だ。昨年は世界で60ものMaker Faireが開かれた。今年は100を超える予定だ。イベントには参加者の締め切りがあり、達成感が得られる。

ふたつめは、マラソンがどんどんオープンに、いろいろ受け入れるものになっていること。1972年には女性の参加が認められ、2009年には1万人の女性がレースに参加した。物作りにおいては、女性が排除されたことはないが、もっと多くの女性が参加しやすくするべきだろう。参加者の層の広さが、Makerムーブメントの継続的な成長にとって重要だ。

結論として、多くの人がマラソンに参加しやすくなったの理由には、よりよい、よりやりやすいトレーニングの環境にある。ランニングクラブは、こんなプログラムを提供するようになった。その気があれば、マラソンが走れるように指導しますと。生まれつきの「ランナー」である必要はない。トレーニングを受ける意志さえあればいい。ひとりでトレーニングする必要もない。あなたと同じようにトレーニングをしたい人たちのグループがあり、そこにはトレーナーやコーチがいる。優れたコーチがいて、適切な準備ができて、より多くの人がチャレンジできるようになったのだ。

Makerムーブメントがこのまま成長するためには、意欲のあるMakerたちに優れたトレーニングを提供する環境が必要だ。Makerスペースは、これからのMakerムーブメントの発展に重要な役割を果たすだろう。Makerスペースは、トレーニングへの参加のしやすさと親切な環境を整えることで新人たちを呼び込むことができる。そこでは、より多くの人が、それまでは自分でやるには難しすぎて不可能だと思っていたようなことが学べるのだ。Maker自身も成長する。作る能力を高め、同じ興味を共有するMakerたちと共同で何かを作ることもできる。Makerスペースにはツールがあり、材料があり、専門家がいる。それだけではない。そこにはMakerが成長し発展するための、重要な場があるのだ。

今大会の勝者におめでとう。そしてすべての参加者におめでとう。

この記事を書きながら、私はマサチューセッツ州ケンブリッジで、ボストンマラソンをテレビで見ていた。そしてこの記事を公開した後、あの忌まわしいゴール地点の爆弾事件のことを知った。大変なショックを受けた。この事件で亡くなられた方々、そして数多くの怪我をされた方々を思うと心が痛む。犠牲者のすべての家族のみなさま、そして大会運営者、参加者のみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。

– Dale Dougherty

原文