2014.05.02
電気のキリン、Russelと育った日々
Russell the Electric Giraffeは、Maker Faire Bay Areaを象徴する存在だ。2006年に初登場して以来、毎回、会場に現れている。多くの人に愛され、記事になったり、ムービーになったり(下)、インタビューを受けたりもしている。
去年のMaker Faireで、私が友だちのZolie(上の写真の8歳の女の子)とRussellといっしょに遊んでいたとき、ZolieはずっとRussellに会いたかったのだと話していた。私も同じだ。本気でそう思った。ZolieはMaker Faire Bay Areaに毎回参加している(彼女の両親、JonとKyrstenはSerpent Twinsなどの作品で知られる素晴らしいMakerだ)。毎年、Russellが成長する様子を見てきた。彼女も私も、身長5メートルのロボットキリンの友だちができてうれしく思っている。
まだRussellに会ったことのない人は(またはもう一度会いたいという人は)、ぜひMaker Faire Bay Areaに来て彼と友だちになってほしい。今年は5月17日と18日にサンマテオで開かれる。私はRussellを作ったLindsay Lawlorに会い、彼の成長の歴史を振り返ってもらった。以下は彼の追想だ。
2005
Burning ManでのRussell。
Burning Manの外の世界で初めてRussellを披露したのは、2005年にSan Jose Convention Centerで開かれたRobonexusというイベントでのことだった。そのころ、Russellはまだ非常にシンプルで、Russellという名前すらなかった。驚いたのは、イベントを見学に来ていた学校の生徒たちの人気の的になってしまったことだ。それまで、Russellが子どもたちの興味を惹くとは思ってもみなかったからだ。このキリンの将来を決定する新しいアイデアがどんどん浮かぶようになったのは、それがきっかけだったと言っていいだろう。
彼にとって、それは運命の転機だった。年に1度、Burning Manに参加するだけで、あとは庭に放置され錆びているだけの物だったかもしれない。会場を走り回る単なるクールなアート車両という以上に発展していなかったかもしれない。Sherry HussとDale Doughertyの目にとまったのも、そのイベントだったと思う。Daleもいたはずだ。よく覚えていないが。そのイベントのすぐあと、Maker Faireからの出展の誘いがあったのだ。
2006
これはRussellが初めてMaker Faireに参加したときの写真だ。ああ、いろいろ思い出してきた! Russellにはまだ、ほとんどエレクトロニクスが積まれていなかった。方向転換もできなかった。真っ直ぐ前進と後進をするだけだ。それでも人々は、このでっかい四つ足で歩くマシンをなんとか操っている無謀な男に驚きの目を向けてくれた。私はすぐに、ここがRussellの新しい居場所であり、進むべき道なのだと感じた。年に1度、砂漠の真ん中でお披露目するだけだったので、本当にうれしかった。砂漠の塩を含んだ砂埃はRussellを少しずつ蝕んでいく。修理する手が追いつかないぐらいの速度で破壊されていくのだ。Maker Faireでは、『怪しい伝説』の連中が来てくれて、Russellに乗ってもくれた。そのときの写真はほとんど残っていないのだが、どこかにあるはずだ。
2006年のいつだったか、最初にRussellを作っている間から写真を撮り続けてくれている親しいカメラマンが撮ってくれた、Russellと私のスナップだ。この写真がどれほど重要な意味を持つか、言葉では言い表せない。このロボットキリンとの間に友情関係が芽生え始めたときだ。Burning Manに2回、Maker Faireに1回の参加を果たしたあと、暗闇で彼と座る私。私が作ったこのすごいヤツは、私をどこへ連れて行ってくれるのだろうと胸を躍らせていた。
2007
2007年のMaker FaireでのRussellだ。舵は切れるようになったが、推進システムはまだ歩くだけしかできない。大きく変わったのは、MAKE Controllerの追加だ。その年の初めに発売されたばかりのもので、Russellの初めての頭脳として宣伝に使ってもらった。おでこに搭載されているので、すぐにわかるはずだ。子どもが手を伸ばして触ろうとしているセンサーの後ろだ。私は、子どもが一生懸命にRussellを撫でようとしているこの写真が大好きだ。
私の相棒のプログラマー、Russell Pinningtonが、自分の名前がこのロボットに付けられていることを知ったのは、このMaker Faireのときだ。私はGood Morning Americaの取材を受けていた。インタビュアーが私に、このロボットの名前は何かと尋ねたのだ。私は、コントロールシステムが飛んだり燃えたりしたときにRussellがよく呼んでいた名前「このク○の塊め!」は使いたくなかった。そこで慌てて、「Russellです!」と答えたのだ。それで、彼の名前が決まった。そして本物のRussellは、永遠に気恥ずかしい思いをすることになった。
2008
Maker Faire 2008にて、RussellとRussellのツーショット。RussellはMaker Faireの魅力に負けてイギリスから飛んできていた。このころ、彼は正式に私のパートナーとなっていた。この写真がその証拠だ。高いところにあるオイルタンクにMicroChipのステッカーが貼られているのがわかるだろうか。私たちが開発中だった新しいコントロールシステムに使ってくれと、MicroChipがマイクロコントローラーを一箱提供してくれたのだ。Russellと私は、キリンの背中に乗って、刷新されたコントローラーを使ってメインの広場を練り歩いた。会場のみんなは驚きの表情を浮かべていた。RussellはMaker Faireの顔として定着しつつあった(その証拠に、このころから、ちょっと検索するだけでRussellの写真がたくさんウェブで見られるようになった)。
2008年の6月、私は考えていた。どんな色に塗り替えようか。どんな新機能を加えようか。一度完全に分解してしまったら、もう組み直すことはできないのではないか、といった考えに不安を覚えていた。うまくまとめ上げて、期限までに準備できるだろうか。それは、Burning Manへの参加を止めることを意味していた。だが、そうと決めたくはなかった。Burning Manでも彼のファンはたくさんいる。そもそも、彼はBurning Manのために作られたのだ。
しかしある日の夕方、私は家の屋根に座り、ビールを飲みながらRussellを見下ろしてくつろいでいたときだ。日が沈みかけて、空の色が明るいオレンジ色に変わった。私はRussellを見た。そして屋根から降りてカメラを取ってきて、また屋根に上り、もう誰も見ることがない白いRussellの最後の写真を撮った。そのとき、私は心を決めた。あの夕日の色にしようと。パールサンセットオレンジだ。彼を分解し始める前に、すでに私の心の目にはその姿が見えていた。だがその数週間後、Russellはばらばらになって庭に散乱していた。プログラマーのRussellは興奮すると同時に怖じ気づいていた。どうなるんだろう。このまま興味を失ってしまうのだろうか。何か運命的なことが起きて、再び組み立てることができなくなるのではないか。
2009
さて、これは2009年。Russellは完全に分解して作り直された。それに、彼を牽引するためのトレーラーも買った。この改装には1万6000ドルかかった。新しく生まれ変わったRussellだ。名前も、公式に “The Electric Giraffe Project” とした。かっこいいTシャツも作った。これが大人気となった。今でもびっくりするぐらいだ。私の祖母は、私のことをクレイジーだと思っていたのだが、私がニュースによく登場するようになってからは、少しトーンが柔らかくなってきた。やったね! そうして、ピカピカに新しくなったRussellが2009年にお披露目されたのだ。
2010–2013
見た目には、それほど大きく変わったように見えないRussellだが、じつは目に見えない部分にいろいろな変更が加えられている。とりわけ、LEDスポット、コントロールシステム、タッチシステム、スピーチモジュールなどだ。2009年からほとんど同じことしか言わないのだが、もっといろいろなことが話せるように、また会話ができるように開発を進めている。この開発の遅れは、おもに経済的な理由によるものだ。不景気に加えて、離婚の費用が大きくのしかかっているため、なかなか先へ進めないのだ。
Russell(プログラマーのほう)もこの2年間ほど忙しくてプロジェクトに関われず、そのため2011年と2012年のMaker Faireには新しい機能を披露することができなかった。それでも、素晴らしいショーを見せられたし、みんなは私たちに会えたことを喜んでくれた。「来てくれてありがとう! 子どもたちがずーっとキリンのことを話していたものだから、これでやっと静かになるよ」といったことをあちこちの親御さんから聞かされた。また、子どもたちが近づいてきて、これがMaker Faireの中でいちばん好きだと教えてくれることもしょっちゅうだった。ショーをやるごとに、称賛の嵐だった。
2014
Russellは今年もMaker Faireに登場する。今年はFiesta Hallの暗室でみんなの心をめろめろにする予定だ。コンピューター制御の六角形の模様が体に浮かび上がる。暗闇を最大限に活かして、時間をかけて歩き回り、デモンストレーションを存分にご覧に入れる。日に1回か2回は外にも出ようと思う。しかし、Russellの本当の色の美しさを楽しんでもらえるのは暗室だ。
子どもたちがいちばん好きなことをご存知だろうか? 突き詰めて言えば、触れ合いだ。Russellは、最初から、子どもも大人も問わず、触られることを想定して作られている。遠くから眺めるものではない。説明しなければならないものでもない。私は、このマシンについて説明をするときは、近くで見て触ってもらうようにしている。動物の形をしているので、それも意味をわかってもらう上で二重に役立っている。子どもたちは Russell を怖がらない。それに触ることで、一体感を覚えている。
小さな子どもたち(2歳から8歳)は、ロボティクスやエレクトロニクスが何なのかよくわかっていないと思うが、触って感じれば、それが心地良いものだとわかる。それで彼らの興味はうんと大きくなる。本を読んだり考えたりして理解できるようになる前は、子どもは手の感触で学ぶものだからだ。そして、見学者ではなく、仲間となるのだ。
なかでもいちばん好きなのは? 尻尾を三つ編みすることだ。これには私も驚いた。先日、学校でRussellを披露したとき、誰が、馬の尻尾のようにRussellの尻尾を三つ編みするかで、子どもたちがケンカしそうになったほどだ。そんなことがよくあったので、今では「彼は尻尾を編んでもらうのが大好きなんだよ」と話すことにしている。鼻を撫でたり会話をしたあとにこれを言うと、子どもたちの興味が再び爆発するのだ。
これが、誰もが感じることのできる本当の恩恵だ。私はRussellを柵で囲ったりはしない。自分のことを自分で紹介できるようにしたいのだ。
– Goli Mohammadi
[原文]