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2014.11.14

電気自動車になったスポーツクーペ、トレノ「ハチロク」がやって来る!―九州工業大学・学生プロジェクト「e-car」[MFT2014出展者紹介]

Text by guest

学生のサークル活動として、コンバート電気自動車を作っている九州工業大学の学生プロジェクト「e-car」。今回、Maker Fair Tokyo 2014に九州から出展してくれる。そんな彼らに、話を聞いた。

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トヨタのスプリンター・トレノAE86型

きっかけはお豆腐屋さん

プロジェクトの始まりは4年前。近所のお豆腐屋さんに「トレノAE86型(通称:トレノ86)」をもらったことから、電気自動車にコンバートしようというチャレンジが始まる。
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もともとこのサークルは、みんなで楽しく何かを作ることができればいいな、というサークルだったんです。トレノ86をもらったことで、何か新しいものを作れたらいいな、となりました。当時は電気自動車がブームでもあったので、じゃあ自分たちで作ってみよう、大学生でもできるんだと。モーターを取り付けて、電池を積んで、走れるようにしたことが始まりです。(部長の森崎さん)

情報工学部の学生であり、自動車のコンバート方は知らなかった。まずエンジンを取り外し、それから実際にモーターを動かしてみるまでに、約1年かかったという。モーターは海外から取り寄せたものだったので、それがどうやって動くのかを調べる必要があった。前例も少なかったので、その調査に時間がかかったのだ。

また、ただモーターを載せればいいというわけではなかった。車のエンジンから動力を伝えていた軸と、モーターの軸を合わせることが難しかったという。どうしたらモーターの軸をミッションボックスに一直線につなぐことができるかというところが、まず1つ目の課題。次に、モーターに供給する電力を送る際にどういう回路を組めばいいのか。そして、モーターをどうやってアクセルで制御するのか。モーターをコントロールするものに関して調べる必要があった。海外には自動車を電気自動車にコンバートするという先人の試みがネットに上がっていたりするので、そういう情報を参考にしながら進めていったのだという。

モーターが動くようになると、次は公道を走れるようにするための配線保護やブレーカーなどの安全対策に取りかかった。公道で開催される電気自動車レース「四国EVラリー」に出場することが目標だったから、ナンバープレートの取得が必要だったのだ。回路が暴走したときの安全策として、ブレーカーを取り付けないとまず車検には通らない。配線も、外側に高電圧の電線が通っている目印としてオレンジ色のコルゲートチューブが必要だったりする。「まず車検には何が必要なのか」を調べ、1つずつ実装していくという作業だ。

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86の内部。軽量化のためにクーラーやステレオ機材、不要な配線を取った

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実際の車検の様子。通常のレーンに並んで、性能チェックを受ける。改造した部分を書類として提示して、1つ1つ目視しながら証明していく

2012年、トレノ86をコンバートした電気自動車で「四国EVラリー」に参加。そして見事に、普通自動車カテゴリー部門で優勝を飾った。

ちなみに、完成までに、2年の月日がかかったのは、予算の関係もあったという。

トレノ86の改良とジャイロキャノピーの電気トライク化

現在、「e-car」の現役メンバーは、院生が4名、学部生が4年生3名、3年生4名、2年生2名、1年生3名。今年度からは、トレノ86のさらなる改良、3輪バイクの「ジャイロキャノピー」(ピザの配達でよく見かけるバイクだ)の電気自動車(電気トライク)化、自動運転制御の3班に分かれて活動している。今年の「四国EVラリー 2014」では、改良を重ねたトレノ86が優勝、電気トライク化したジャイロキャノピーも優勝と、W優勝を果たした。

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「四国EVラリー」で走行するトレノ86

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86とゆかいな仲間たち

トレノ86のバッテリーは、鉛蓄電池を使っている。予算と性能を考えての選択だが、現状の86の走行距離は、およそ50km。充電は家庭用コンセントからできるが、空になった状態からフルに充電するのには4時間くらいかかる。

企業が使うようなバッテリーは種類からまず違っていて、リチウムバッテリーなどが使われます。ただ、それは1つが何百万という値段になります。私たちの場合は、限られた予算の中でどううまく作っていくかということに1番の課題になります。今回は、バッテリーの性能を上げるのはもちろん、バッテリーではないところでどうにか長い距離が走れないかということで、ボディを軽くする、軽量化に力を入れました。(森崎さん)

具体的には、ボンネットを軽いFRP樹脂系のものに変えたり、リアハッチ、リアウィンドウのガラスの部分を強度があるプラスチックに変えたりと、車検に通る範囲で部品の軽量化をはかっている。こうした部品は、大きさや強度の面から現在はレース用の車の部品を作っている会社に製造を頼んでいるが、将来的には自分たちで作ることを目指している。実際、ジャイロキャノピーのほうは、自分たちでFRPカバーを製作している。ちなみに、FRPはガラス繊維の布を樹脂の液に浸して硬化させたもの。段ボールなどで型を作り、3回ほど型取りの工程を繰り返して、徐々に形を整えていく。こうした素材や製造工程も独学で、ネットなどで情報を調べ、自分たちで試しているのだ。FRPは大きさにもよるが、ボンネットくらいの大きさであれば材料費は3万円ほどだそうだ。

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ジャイロキャノピー(右上)では、三輪バイクの動力をタイヤに伝達する部分の軸を3Dプリンタで製作している(右下)。左下は3Dプリンタで製作した軸の寸法をチェックしているところ

走行中の「音」だが、エンジンに比べてモーターは全然音がない状態。しかし安全面を考えて、モーターを低速時のみキーンという高い音が鳴るようにパルスの周波数を制御しているという。

新しいチャレンジ、自動運転制御

「e-car」では、昨年度末から自動運転制御にも挑戦している。このチャレンジにも、「企業も各社、人間の補助として自動運転の機能をつけようとしていると思いますが、その企業がやっている自動運転と僕らがやっている自動運転のどこが違うかと。大学生レベルでもがんばればできるというのを示したい」(副部長の富永さん)というのが根底にある。

現在は、ラジコンにカメラ、コンピュータやセンサ類を取り付け、道を辿って自動で進む、障害物にぶつかりそうになったら止まる・曲がる、というところを目指している。メインはカメラになるが、障害物を見つけるための赤外線センサ、のちのちは86にこのシステムを載せるため、電気自動車には必要なバッテリーの残量表示のための、電圧を調べるための測定センサ、電流を調べるための電流センサを載せる。

8月のEVカーの大会が終わるまではなかなか動けない状態だったが、今年度中には必要な機能をラジコンに搭載してテストの段階へ持っていきたいという。86に載せるのはまだまだあと5年、6年先の予定だ。ラジコン上でうまく動作していても、大きなものにシステムを持っていくには、どうしても回路の見直しが出てくる。大きくなるとやはり電圧が高くなるので回路をどうするかという問題がある。安全に実験を行うための状況の確保も必要だ。

ここからここまで運転してくださいと設定したら安全なルート・走法で運転するというのは大きな夢ですが、そこまでには10年くらいかかりそうなので…。車庫から自動で出てくる、自動で駐車してくれるだけでもいい。それだけでもいい、いまは小さいことを積み重ねていこうと思っています。(富永さん)

大学のサークル活動としての「e-car」

サークル活動として「e-car」は、平日は授業があるため各自が自分でできること、調査であったり、部品購入の手続きなど進めて、土日や長期休暇に集中して実作業を行っている。普段はWebサービスのサイボウズを使ってメンバー間の連絡、ドキュメントを管理しているそう。また、地域の方とのつながりも活発だ。前述の86の軽量化や車の整備に関しても、いろいろ教えてもらっているという。

サークル活動として進めるうえで一番大変なのは、やはり予算とスケジュール管理になってくる。「作るだけなら、みんなでそれなりに協力してやっていけば、電気自動車を作るという面に関してはそんなにすごい大変さを感じたことはないです。いつも楽しく、みんなでワイワイやっています。ただ、やはり団体として動くための予算とスケジューリングのほうがネックでしたね…」(富永さん)

また、予算をとるためにプレゼンの場では相手に伝える必要がある。「ただものを作るのが楽しいから、思ったこと、考えたことをこれやってみようというだけではなく、そこに意味を見い出し、これをすることでこういう意味があるよということを表していかないといけない。そういうところが難しい」(森崎さん)

このあたりは、ものを作っている人、技術を元に何らかのサービスを広く提供しようという人であれば抱えている命題と同じなのかもしれない。

今回、彼らは、九州から東京・有明のビックサイトまで、「コンバート電気自動車(トレノAE86改造)」、「ラジコンカーによる自動運転システムモデル」を運んできてくれる。Make Faire Tokyo 2014への出展を考えたのは、「昨年見に行ったときに、作ったものを見せるだけの場ではなくて、出展者の方、来場者の方と情報を共有できたり、自分たちの勉強になる部分がある」と感じたから。また、「実際に86を見てもらうことで、よりよいアドバイスがいただける機会にもなりそう」と。

ちなみに、トレノ86は九州から積載車で運ぶ予定だ。会場のスペースなどの都合で走行はできないが、じっくりと実物を見て、彼らの話を聞くことができる。

[今回取材に協力していただいたe-carメンバーのみなさん]
部長・森崎萌子さん(機械情報工学科4年)「e-carを続けたいので大学院に進学の予定です。次の代には、自分たちがそうだったように、やりたいことができる環境で受け継げたらいいなと思っています。いつまでに何をするというのではなく、毎年いるメンバーで何かできることないのかなっていうような活動をしてほしいなと思っています」

副部長・富永歩さん(機械情報工学科4年)「自動制御を担当しています。自分もe-carを続けたいので大学院に進学です。自動制御をいろいろ考えて作り上げてきたので、やはりのちのちは86を自動で走行してくれるようになってほしいと思います。自分も好きにやってきたので、後輩たちも好きにやってくれればいいかなと思っています」

松本崇紀さん(機械情報工学科4年)「3輪のバイク、ジャイロキャノピーの設計・開発をやっています。進路に関しては就職先が決まっています。ジャイロキャノピーに関しては、今年4月から改造に着手して、8月の大会に間に合わせるように、製作期間4ヶ月とかなり短い期間で走らせるところまで行きました。ただ、駆動部分の問題もあるし走行距離もまだ短い。これから、もっと効率よく走らせるよう改良していくという段階ですね」

川越孔志さん(電子情報工学科3年)「自動運転に関わっているので、86にそれができたら。あとは回生ブレーキ。車が走っていて、ブレーキとか坂道で動く動力をそのままバッテリーに戻すというのを来年つけたいです」

宮川伸男さん(機械情報工学科3年)「今年編入で入ってきたばかりで、e-carの中では86の改良を行っています。86自体がもう古いものなので、メーターとか機器が古い。これをデジタル化したい。タブレットで見ることができる仕様にするとか、そういうのができたらいいなと思っています。今回、MFT出展のとりまとめをしています」

矢野春花さん(機械情報工学科3年)「ジャイロキャノピーを担当しています。(今後の目標は)ジャイロキャノピーをもっと改良していくことですね」

河村純吉さん(機械情報子学科2年)「自動制御班です。自動運転でいつかは86に乗って公道を走れたらいいなと思います」

– 大内 孝子


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