2015.02.24
切削加工機×Arduino×ユーザーのアイデア ─「monoFabアイデアソンミーティング」レポート
2015年2月7日と8日、浜松町にあるローランド ディー.ジー.の東京クリエイティブセンターにて「monoFabアイデアソンミーティング」が開催された。(写真・文:今村 勇輔)
同社の切削加工機「SRM-20」は背面パネルを外すと(保証対象外となるものの)メインボードにアクセスでき、そこにArduinoを装着できる。ArduinoからSRM-20の状態を取得したり、SRM-20にさまざまな動作をさせたりするためのAPI関数も整備されている。この機能を用いて、「デジタル工作機械のある生活の楽しさを広げるには」というテーマでアイデアソンを行った。初日はアイデア出し、2日目は製作作業となる。
アイデアソンの参加者は20人弱。IAMASの卒業生、日本各地のファブラボの運営者、ローランド ディー.ジー.の既製品のユーザー、メーカーのインハウスデザイナーなどである。3Dプリンタではなく切削加工機を用いること、さらにそれをArduinoでハックするイベントということで、単なる好奇心だけでなく電子工作やプログラミングにある程度以上の知識や経験を持つ参加者がほとんどだった。
本イベントのモデレータを務めたのはIAMAS(情報科学芸術大学院大学)の小林茂教授である。ローランド ディー.ジー.と共同でSRM-20の活用を研究している。
SRM-20のカスタマイズ例の研究成果として紹介されたのは、先日のMaker Faire Tokyo 2014でも展示されていた2モデル。いずれもArduinoが組み込まれている。1台は正面パネルの開閉をiBeaconを通じてiPod Touchに通知するほか、左右のオレンジ色のパネルを取り外し、ちょっとした工具などを入れられる小物入れに改造した。もう1台は外付けの液晶画面にステータスが表示され、正面パネルを開けると回転灯が回転するなどの機能が追加されている。
小物入れとiBeaconを使ったカスタマイズに関しては、Githubの「IAMAS/monoFab」ディレクトリに資料が公開されている。小林教授はアイデアソンの運営経験が豊富で、今回も参加者からアイデアをスムーズに引き出し、整理するさまざまな手法が使われていた。
たとえばSRM-20でなにかを作るといっても、これでどんなことができるかという方向からは考えない。まずターゲットとして、「どんなユーザー」の「どんなとき」のためのものを作るかを考える。そのために「だれ」と「いつ」をできる限りたくさん挙げていき、その組み合わせから面白そうなターゲットをディスカッションで選んでアイデアスケッチを描くという手順がとられた。
「だれ」と「いつ」のマトリクスを作り、その中からターゲットを選ぶ
進行の工夫として設けられるちょっとしたルールが、アイデアの出しやすさや検討しやすさを加速する。たとえば「だれ」と「いつ」を挙げるのに使う付せんは色を分けて、2つを区別しやすくしていた。アイデアスケッチを描く際にも輪郭線を太くしたり、ポイントとなる場所を青く塗ったりするなどのちょっとしたアドバイスがされていた。加えて、これらの作業やディスカッションにはすべて細かく時間制限が設けられており、短い時間でどんどん結論を出していくことになる。参加者にはこれが適度な制約となり、密度の高い時間が流れていた。
最終的に挙げられたターゲットは、「つき合い始めのカップルが初めて事故にあったとき」「単身赴任のお父さんがキッチンで料理中に」「お年寄りが初めてSRM-20に触ったとき」「結婚したい人が人生に迷ったとき」といったもの。3つに分けられたグループごとに数十枚のアイデアスケッチが集まったところで初日を終えた。
アイデアスケッチを貼り出して、どれを製作するかディスカッション
2日目は、初日に集まったアイデアスケッチの中から実現するアイデアを選ぶ。そして午前10時から午後4時まで、途中食事の休憩を挟んで製作を進めていった。
3つのグループで4つのアイデアが製作に入り、いずれも一定の成果発表ができるところまで仕上がった。
たとえば「結婚したい人が人生に迷ったとき」のためのアイデアとして製作されたのは、手のひらに手相でいう「結婚線」を引く「手相プリンター」。まず正面パネル上にあるつまみで希望の婚期を年齢で指定し、左手をSRM-20のテーブル上に置く。そしてレーザーカッターで「運命を変える」と刻印されたボタンを押すと、切削用ビットの代わりにヘッドに取り付けられた筆ペンが移動していき、手のひらの指定の場所にすっと結婚線を引く。
もともとは手相をスキャンして占うアイデアだったが、限られた時間内で実装する作業量を考慮し、このような成果となった。
「手相プリンター」は手のひらの指定の場所に筆ペンで結婚線を書き込む
このほか、タッチパネルに描いた図形をそのまま板チョコに切削する「Chocofab」、ヘッドを手で移動させる3軸のインターフェース「ぐるぐる46」、手に持ったペンの動きを画像認識で読み取って切削する「やよいちゃんごめんね」などが披露された。
「Chocofab」は板チョコ上に同じ図形をくり返し切削することもできる
「ぐるぐる46」の回転するインターフェース部はローランド ディー.ジー.の大型切削機「MDX-540」で削り出された
「やよいちゃんごめんね」のペン先の読み取りにはArduino用の色認識カメラ「Pixy」を使った
参加者からの感想として挙がったのは、「アイデア出しの段階ではどうなるかと思ったが、ここまでできて感動した」「3軸の動きを活かせば、切削を行わなくても有効な使い道があるとわかった」「monoFabに装着したArduino向けのシールドが出てきてもよい」「きれいなコードでなくても限られた時間内に完成させることが大切」といったものだった。
これらを引き取って、小林教授は「メーカーがユーザーのアイデアだけもらって新機種はまた買ってね、というのではダメで、メーカーとユーザーのお互いがいいものを受け取れるようにすることが大切。このコミュニティをさらに盛り上げていきたい」と2日間のアイデアソンをしめくくった。
編集部から:上は小林教授が作成し、アイデアソンミーティング当日に使用されたプレゼンテーション資料です