Electronics

2016.03.04

Raspberry Pi 3登場:Wi-FiとBluetooth LE搭載の64ビットPi

Text by Alasdair Allan
Translated by kanai

今日はRaspberry Piの4回目の誕生日だが(編注:元記事は2/28に公開)、お誕生日の祈りが通じて、新しいボードが生まれた。Raspberry Pi 2が発売されてからほぼ1年。新しいRaspberry Pi 3 Model Bの登場だ。これは64ビット版の高速なRaspberry Piであり、Wi-FiとBluetoothも内蔵している。

仕様
・クアッドコア 64ビット ARM Cortex A53、クロック周波数1.2 GHz
・Raspberry Pi 2よりおよそ50%高速
・802.11n 無線 LAN
・Bluetooth 4.1(Bluetooth Low Energyを含む)
・400MHz VideoCore IV マルチメディア
・1GB LPDDR2-900 SDRAM(つまり900MHz)
・価格35ドル

デスクトップ型パソコンに置き換わるものというだけでなく、組み込みプロジェクトにも使えるように、Pi 3はRaspberry Piプラットフォームの改革というよりも、進化型という形になっている。それには納得の理由がある。

RaspPi3-1

現在までに800万台以上のRaspberry Piが販売されているため、下位互換性はRaspberry Pi財団にとって重要な問題だ。大変に多くのユーザーや教育のための素材がある。実際に、Raspberry Pi財団の創設者であるEben Uptonに今日のランチで会い、直接話を聞いたときに彼も下位互換性を強調していた。そして、このボードのための多くのデザイン上の決定を行う際の大きな要因になっているという。

新しいPiは速い

表面上は、Pi 2とそう変わりがない。しかし、同じ35ドルという価格を維持しながら、その中身は大きく変わっている。Pi 2のARM v7アーキテクチャを捨てて、クアッドコア64ビット、ARM Cortex A53、クロック周波数1.2GHzという高速な64ビットRaspberry Piとなったのだ。

Board Dhrystone (MIPS) Whetstone (MWIPS) Sysbench CPU (sec)
Model B+ 847.11 232.558 510.81
Model A+ 863.17 236.858 502.42
Zero 1237.29 340.498 349.43
Pi 2 Single-threaded 1671.58 437.212 293.08
Multi-threaded 76.28
Pi 3 Single-threaded 2458.1 711.363 182.225
Multi-threaded 49.02
Raspberry Piのベンチマークテストの結果 提供:MagPi Magazine

これにより、新しいBCM2837は、Raspberry Pi 2の50パーセントも速くなったことになる。オリジナルのModel Bと比較すればほぼ10倍だ。その性能には代償が伴う。新しいRaspberry Pi 3はRaspberry Pi 2の1.5倍の電力を使う。

Model B+ Model A+ Zero Pi 2 Pi 3
Idle (Amps) 0.25 0.11 0.1 0.26 0.31
Loaded (Amps) 0.31 0.17 0.25 0.42 0.58
Raspberry Piの電力消費量 提供:MagPi Magazine

だが、Raspberry Pi 3は性能の限界を超えたように見える。Raspberry Pi 2に搭載されていた1GBのRAMはそのままだが、3では、デスクトップPCに置き換えたとき、ほとんどの人がほとんどの場合に十分だと感じる量となっているようだ。

RaspPi3-9

Pi 3に搭載されたBCM2837は、Pi 2に使われているBCM2836と、オリジナルとRaspberry Pi Zeroに使われているBCM2835の直系の進化型だ。

「64ビットコアだが、単に速い32ビットコアとして使うことができる」 — Eben Upton

各ボード間の下位互換性は、Raspberry Pi財団にとって重要な問題なのだ。

今度のPiはつながる

おそらく、今回のもっとも大きな変化は、Wi-FiとBluetooth 4.1の両方を搭載している点だろう。つまり、Bluetooth「クラシック」とより便利なBluetooth LEが使えるということだ。これにより、Pi 3は、単にデスクトップPCに置き換わるだけのものではなく、モノのインターネット(IoT)の完璧なハブになれるということだ。

これまでも、PiにはWi-FiとBluetooth USBのドングルが追加できたが、ボードに内蔵されるとあらゆる面でシンプル化される。以前は、サードパーティーのWi-FiやBluetooth USBのドングルを載せようとすれば、20ドルの追加コストがかかった。今度はそれが内蔵されているので、追加コストはかからない。しかも、ハードウェアやドライバーの互換性の問題もない。

当然と言えば当然だが、Raspberry Pi 3の噂は発表前に広がっていた。最初は、今日の発表の2週間ほど前だった。現代の技術系製品がみなそうであるように、FCC(米連邦通信委員会)の登録が必要になるわけだが、そこから秘密が漏れた。Raspberry Pi財団が、発表以前の注文が来ることになってしまった原因である米商業政策委員会を許すかどうか、私にはわからない。

「Make:」には、2週間ほど前からRaspberry Pi 3があり、いろいろいじってきた。そして、それが非常に安定していて高速であることを確かめた。とは言え、テスト中はまだWi-FiとBluetoothの対応はまだ開発中で、Bluetoothのハードウェアは発表の日まで使えなかった。だがすぐに使えるようになるはずだ。

また、オンボードのWi-Fi機能についてひとつ問題を発見した。それはヘッドレスモードで走らせたときにだけ発生する。原因は、接続チップの省電力モードであることがわかった。そのため、Pi 3はWi-Fiだけを使ってネットワークに接続しているとき、ヘッドレスモードではつながらなくなることがある。

「いずれ、省電力モードを無効にできるパッチを発表します」 — Eben Upton

それまでは、この問題を避けるために、ヘッドレスモードで使うときは、sshクライアントの「keep-alive」を有効にしておくといいだろう。

ハードウェアを見る

LEDの位置と、ディスプレイコネクターとGPIOヘッダーの間に配置された新しい無線チップとアンテナを除けば、外観はRaspberry Pi 2とそう変わりない。だが、注目すべき面白い点が、ちょっと見ただけではわからないところにあるので、それを解説していこう。

RaspPi3-13

RaspPi3-14

メーカーの多くは、既製のモジュールを追加することで無線機能を有効にしているが、それはつまり、ボードを販売する際に、そのモジュールの認証に依存することになる。一方、Raspberry Pi 3の場合は無線チップがボードに直接ハンダ付けされている。なのでボード全体がFCCの認証を必要とする。これは大きな先行投資だが、大量に生産する場合、長い目で見ればこのほうがずっと安く、全体をシンプルにできる。そこでRaspberry Pi財団は、有意義な選択をしたと思えるだけのRaspberry Pi 3を生産するものと考えられる。

カメラに弱いRaspberry Pi 2には、スイッチ・モード・パワー・サプライ(SMPS)チップに問題があり、光に弱いことがわかった。カメラのフラッシュのような強い光をあびると、電源チップの中で変動が起こり、ボードがリセットされてしまうのだ。ピカピカのBCM43438無線チップにはカバーがついていない。もしかすると同じようなトラブルが起きるかもしれない。しかし、SMPSチップのほうには、安全のためのカバーがかけられている。

RaspPi3-15

もうひとつ、裏面に面白いものがある。無線チップのすぐとなりに、J13と書かれた、なにも接続されていないUFLアンテナのパッドのようなものがある。写真を見ればわかるとおり、このちょうど真裏には、アンテナがある。

RaspPi3-10

これはRaspberry Pi財団が認めたことでもないし、FCCの承認を文書化するという条件を破ることになるのだが、私は誰かにカンテナを取り付けてほしいと思っている。オンボードのアンテナを外すか、使われていないアンテナパッドを使うかしてハックしてほしいのだ。安くて遠くまで届くWi-Fiは、すぐにでもできる。

面白いことに、Pi 3にWi-FiとBluetoothの機能を提供しているBCM43438には、FM受信機能もある。ハード的に切り離されているか、ソフトウェアがサポートしていなだけなのかはわからないが、それを発見したときはうれしかった。Raspberry Piで FMラジオが簡単に作れるようになる。

おわりに

当然のことながら、Raspberry Pi財団の新型ボードの発表に関しては、多くの苦情があるだろう。メモリーを1GBに留められたこと、オンボードのEthernetがUSBコントローラーに縛られたままであること、Wi-Fiがシングルバンドしかないこと、などだ。そうした人たちには私は言いたい。財団にとって、みんなの要望を受け入れるよりは、下位互換性のほうが重要なのだと。

800万台ものボードを普及させ、教育的な使命も帯びた財団は、オリジナルのRaspberry Piのコードやバイナリーブロブが、4年後に生まれたRaspberry Pi 3でも走ることを大変に重視している。Raspberry Piの教育的使命は、Makerコミュニティでは軽視されがちだが、それはこの新しいボードを生み出した原動力にもなっている。

今回の発表に先立って、我々はRaspberry Pi財団の創設者であるEben Uptonに話を聞くことができた。新しいボードのこと、この4年間に成長してきたコミュニティのことについてだ。

新型Raspberry Piは35ドルだ。

原文