Crafts

2016.03.02

Nathan Vincentの等身大手編みアーミーマンで戦争ごっこ

Text by kanai

ファイバーアートならNathan Vincentと言っておけば面倒がない。いや、彼自身、面倒なことをしているのだが、それはしっかりとした方法でだ。彼は毛糸でものすごい作品を作っている。それは、その素材からは想像もつかないものだ。見た目も、私たちの期待を裏切ってくれる。彼はそれを、いろいろな手法と題材を狡猾に取り混ぜて実現させている。彼が用いている方法は伝統的に女性のやることと思われている、編み物、かぎ針編み、縫い物、刺繍といったものだ。そして彼が選ぶ題材は、伝統的に男性的と思われている、パチンコ、ビデオゲームのコントローラー、スーパーヒーローのマントなどだ。この身近な素材で意外なものを作るやりかたが、Vincentの作品を衝撃的なものにしている。

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昨年、Vincentは、驚くべきかぎ針編みの作品群を展示した。よく目にするアーミーマンだ。しかし彼はそれを等身大で作った。作品のタイトルは「Let’s Play War!」(戦争ごっこしよう!)だ。展示会は、ワシントン州のベルビュー美術館からニューヨークのエマニュエル・フレミン・ギャラリーまで、アメリカ大陸を横断した。彼の作品が印象的なわけには、その手編みの技術の高さを示しているからというばかりでなく、小さいころから創造的に考える遊ぶ方法を習ってきた私たちの一般的な期待と性差からくる影響に対する、強力な主張が込められているからだ。

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Vincentは現在、アメリカ中でいくつもの作品を展示している。私は彼に連絡を取り、何年もかけてこれほど素晴らしい作品を生み出せる秘密を探ってみた。さらに、将来の計画についても聞いてみた。いつも楽しくやるというのは難しいと、Vincentは最近の作品についてそう語る。しかし結果には苦しんだだけの価値が見て取れる。

Andrew Salomone: そもそもなぜ繊維を使うようになったのですか。そして、毛糸でこのような意欲的な作品を作るようになったきっかけは?

Nathan Vincent: 大学の最後の年に繊維を使うようになりました。絵画を勉強していたとき、絵の一部に装飾と色彩を加えるために刺繍を使いました。そして、その研究をしていたときに、いろいろな繊維アーティストを知ったのです。それが私に新しい世界を開いてくれました。そして、絵画には油絵の具、デッサンには木炭、彫刻には大理石といった伝統的な組み合わせでアート作品を作らなければならないことはないと教えてくれました。かぎ針編みで丸くセーターを編んでいる友人を訪ねたとき、かぎ針編み(私は子どものころからやり方を知っていました)も、平らな編み物の端を縫い合わせれば立体になることを知り、衝撃を受けました。そこで光が射しました。あとはご承知のとおりです。大きな作品は、環境や場所を表現したいという私の欲求から生まれました。個々の作品を作っているうちに、空間を作りたくなったのです。というか、心の赴くままに空間を私の作品に置き換えたいと思ったのです。毛糸の力は、人間の形を超えて発展したときに、強くなっていきました。それも私の興味を惹いたことです。

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AS: オモチャのほかにも、いろいろな遊びの要素がありますね。どのように実験を重ねて作品につながるのですか?

NV: 最初は単なる遊びでした。「非伝統的」な題材という考えは面白くて珍しいものでした。だからといって、同じことを過去にした人がいなかったというわけではありません。もっともっと冒険できる部分があると私は感じていたのです。私のアートに関する考え方は、いつも真面目である必要はないというものです。アート作品に強い意味が込められていれば、そしてその意味が真剣にアカデミックに表現できていれば、私は大賛成です。とは言え、私はユーモアを失いたくないと思っています。ユーモアもまたパワフルで表現力の強いものです。この数年間で、人を驚かせるもの、笑わせるもの、普通じゃないものは、人々をより惹きつけ、作者のコンセプトに近づけてくれるものだとわかりました。そうならなかったら? それでも、少なくともある程度は考えてもらえます。そうした底辺のレベルで人と関われることでも、多くの普通のアート作品よりもよいと思います。

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AS: あなたの作品は、デザインが大変に難しいように見えます。平らな部品を三次元の形に縫い合わせていくと考えると、3Dプリンターで使用するベクターグラフィックのようなものですよね。平らな部品を立体に組み合わせるときに、困難だったことはありますか? もしあれば、どうやって乗り越えましたか?

NV: そう言ってくれるとうれしいのですが、それほどのことではありません。平らな素材はあまり使わないのです。平らな部品を作って縫い合わせる場合もときにはありますが、ほとんどの場合、最初から立体で編んでいきます。なので、平らなものから立体面を作るという考え方をしていないのです。最初から3Dで考えています。中空に作ってあとから詰め物をする作品もあれば、骨組みを最初に作ってからその周囲に鍵編みしていく作品もあります。それは、どんな作品を作るか、表面をどんな感触にしたいかによって変わります。シームレスにしたいときは、すべてを一体で編み上げます。すでに作ったことのある作品からスタートします。私が棒編みではなくかぎ針編みを多く使うのは、そのほうが立体を編む場合に都合がいいからです。色の違う部分を作りたいときは(アーミーマンを参考にしてください)、部品ごとに作って、あとからその形にかぎ針または通常の針を使って縫い合わせます。

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AS: これまでにいちばん難しかった作品はなんですか? それは、今の作品になにか影響を与えていますか?

NV: その質問への答は、いつも決まっています。最後の作品がいちばん難しかった。それは、私のチャレンジ精神から来ているのだと思います。アーミーマンは信じられないほど難しかった。とくに顔や体の細部です。毛糸を骨組みに沿って凹ませたりしなければならなかったからです。解決策は単純なことでした。しかし、永遠に解決できないのではないかと思ったほどです。今、その問題を克服した私は、あらゆる作品にその技術が応用できます(あなたの次の質問、わかりますよ。「その解決策とは?」ですよね。でも秘密です)。

AS: 今は何を作っているのですか?

NV: 「戦争ごっこしよう!」インスタレーションを作り終えたばかりで、今は自分の芸術活動を振り返り、評価しているところです。そして、ちょっと時間をかけて実験をしています。声を出したり、スタイルを示したり、美的なものを追求して10年以上たったら、自分へ挑戦して、自分のいつものパターンの外で活動することが大切になると思います。今はそれをしているのです。それがどんな結果につながるかは、もう少し待たなければわかりません。新しい素材として、毛糸を固くする方法を試しています。そのほか新しいテクニックも。それについては、まだ何もお話できるものはありません。言えるのは、とてもエキサイティングで同時に怖いということだけです。

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2016年5月22日まで、ニューヨークの子ども美術館に立ち寄ると、Vincentの作品、“Sew What?”が見られる。また、2月20日まで、アイダホ州のサンバレーセンター・オブ・アートでは“Role Play が見られる。3月13日まではメリーランド美術大学で“Queer Threads”が見られる。

原文