シンガポールからアメリカ、そしてヨーロッパ全体に向けて、Edible Innovations(食べられるイノベーション)は、生産から流通から販売までのあらゆるステージで世界の食料システムを改善しようと考えるFood Makerたちを紹介しています。私たちといっしょに、この産業の大きな流れを、Makerの視点で探ってみませんか。優れた教育的な核を持ち、未来への偉大なる挑戦のための主要なツールとしてフードイノベーションを推進するFood Innovation ProgramのChiara Cecchiniが、世界のFood Makerたちの顔、話、体験を紹介します。
ゴミと思われるものも、Dan KurzockとJordan Schwartzには好機に見える。Bay Area醸造所を支援して、巨大食品産業に挑戦する好機だ。彼らが開発したものは、ビール党の注目を集めるものだ。Regrained: Eat Beer(@ReGrained)という名前の健康的なグラノーラバーだ。大学の自家醸造装置で使用した穀物のかすをアップサイクルして作られた。
地ビールの醸造所を見学したことがあれば、または自宅でビール醸造に挑戦したことがあれば、ガブ飲みできるほどのおいしいビールを作るには、大量の材料が必要であることを知っているだろう。大麦、水、ホップ、イーストを混ぜ、散布し、煮て、冷まして、糖分がアルコールに変化するまで発酵させる。その最終段階で炭酸が発生し、そこで瓶や樽や缶に詰められる。
これで、(うまくすれば)おいしいビールができる。おまけに、使用した穀物には、香りと栄養が含まれ、(ここが大切なのだが)糖分が抜かれている。「使用した」ということは、この穀物はもう醸造所では使われない。しかし、KurzockとSchwartzの会社、ReGrainedでは、使ったものに大きな可能性を見出している。彼らはこれに、キヌア、カラスムギ、アーモンドを混ぜ、甘くておいしいグラノーラバーを作っているのだ。
さて、この起業家精神に富むMakerたちは、どんな人物なのか。彼らはどうやってビジネスマンになったのか。
Dan Kurzockは、自分のことを「ミスター・アウトサイド」と呼んでいる。セールス、提携、そして穀物の発芽のカリスマだ。彼は嬉々としてReGrainedのクリエイティブな製品をクライアントに売り込み、熱烈に提携関係を結んでいく。ビールへの情熱が、甘くておいしいお菓子ビジネスとして開花するずっと以前、彼は起業家として成功していた。それは彼が高校生だったころに始まっている。彼はニッチで奇抜な商品を開発して、学校の友だちに売っていたのだ。そのころから、彼はコミュニケーションと、商品化と、セールスに情熱を持つようになった。UCLAで経済学の学位を取ると、Presidio Graduate Schoolへ進み、持続可能なビジネスの修士号を取得すると同時に、ビールの自家醸造の腕を磨いた。彼のセールスに燃える性格は、ReGrainedの外回り担当にピッタリとはまった。彼は、Jordan Schwartzとバランスのとれた最高のパートナーとなったのだ。
UCLAで、Danと同じようなビジネス経済の学位を取ったSchwartzは、豊富な経験と情熱をReGrainedに注いだ。彼は「ミスター・インサイド」として、持続可能な食品産業での経験をもとに、スーパーフードの世界に革命を起こそうと考えた。売り上げがどんどん伸びる中、生産を増やすためには、それに見合った材料の調達も重要になる。彼は、研究開発と経営を一人で引き受けた。彼の出発点は、いくつものレストランや食料品店を経営するサンフランシスコの食品グループだった。そこで彼は、アップサイクルの師としての経歴を築き、地元産の持続可能なブランドをいくつも立ち上げた。好きなことをやって成功したいという彼の思いは、バックエンドのための新しいレシピを開発する仕事の中で開花した。
お気づきのように、ReGrainedとそのMakerたちは、並みのスーパーフード製造業者とは違う。彼らは、できる限り、廃棄物をゼロに近づける、閉じたビール醸造システムのループを作り上げたのだ。それは、私たちの食品とその出所への考え方を、「アップサイクル」という考え方を通して大きく変革するものだ。アップサイクルとは、昔からあるリサイクルとは少し違う。元の製品を壊して原料にするのではなく、廃棄物を完全に転用することだからだ。
通常、リサイクルされた製品は、元の製品よりも質が劣る。アップサイクルでは失われるものがない。反対に、手元にある材料から、より質の高い新しいものへ作り直されるのだ。ビール造りの後に残ったものをコンポストに放り込む(ひどいときは埋め立てる)のではなく、彼らはそれを丸々利用している。地元のビール醸造所から出た廃棄物を集めて、水分を抜き、おいしいものに作り変える。その結果として作られているのがChocolate Coffee Stoutバーのような製品だ。ビールの香りを残した、グルメも立ち止まる健康食品だ。
グラノーラバーにならなかった材料は、轢いて粉にされて、社内で使われる。サンフランシスコ湾岸地域の小さなクラフトビール醸造所は、ほとんどがReGrainedと同じ考え方を持っており、同じように彼らの独自の閉じたループを作りたいと思っている。ReGrained のモデルを真似することで、どんどん閉じたループに近づいてゆくだろう。
大手のビール工場では使った穀物をどうしているか、気になるところだろう。ReGrainedのような企業が近くにない地ビールの醸造所もそうだ。かつて、ビール醸造所は都市部を離れた農村地帯にあった。材料は農場から来るのだから、それは納得がいく。その古いタイプの醸造所では、使用した穀物を家畜の餌として農家に提供するという閉じたループができていた。ところが、ここ10年の間に、お洒落な醸造所が都会の真ん中に増えてきた。
そのために、醸造所は倉庫は離れ、レストランやバーに近づいてきた。客は、自分が座っている場所から目と鼻の先で醸造された冷たいビールを飲みたいと望む。今では、サンフランシスコの街を歩けば、街角ごとにクラフトビールの醸造所がある。ビール好きは、新しい味を求めて、また新しい持続可能な材料を使用する、そうした醸造所の前に群がる。これより、自家醸造は普及し、クラフトビールの市場は広がり、古いシステムから廃棄される使用済みの穀物の量は減った。
醸造所と農家のつながりは減少し、それに伴って、醸造所は使用済みの穀物をコンポストに廃棄したり、他のゴミといっしょに埋め立てるようになっていった。醸造所は使ったあとの穀物に対する持続可能な処理に興味がないので、それも仕方がない。それを輸送するコストと、環境へのインパクトを減らすコストは、通常の廃棄物の場合に比べてお金がかかる。そこでKurzockとSchwartzは、安く使用済み穀物を処分したい都市の醸造所に資本を投下し、それらを買い取ることにしたのだ。
ビール愛好家、グルメの人たちも、品質や味をひとつも犠牲にしないで作られた、この持続可能な製品を支持している。もちろん、これをいくら食べても酔っ払うことはない。
この2人の若者は、自分たちのビールを造りたいと考えているかもしれないが、彼らはもっと大きな社会的問題に取り組んでいる。食品の無駄や都市の持続可能性の問題だ。彼らのグラノーラバーは、いろいろな醸造所から材料が集められているため(オーガニックではないところもある)、オーガニック食品とは認定されていない。現在彼らは、オーガニックと認定されている醸造所との提携を進めている。その他、そこに混ぜられる材料には、地元産のオーガニックなものを使っている。KurzockとSchwartzは、ビジネスと製品の両方のレベルを高めている。
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