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2017.11.01

ニューヨーク教育事情#2 大学内のメイカースペースの現状、そしてEdtechビジネスに感じた違和感

Text by Toshinao Ruike

今回はニューヨークのメイカースペースを設けている大学、教育プログラムを行っているメイカースペース、教育系テクノロジー関係者が集まったパーティーをそれぞれ訪れた際の様子をレポートしたい。

前回に引き続きNerdy DerbyのTakに紹介してもらったニューヨークのクリエイティブ系教育関係者を訪れた。広いニューヨークでマンハッタンを中心に北に南にと移動してかなりの数の場所を訪れたが、これでも全部見て回ることはできなかった。

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Parsonsは美術やデザインを専門とした大学で、有名デザイナーなどをこれまで輩出している。あらゆるものづくりが可能な限り網羅されていて、大型のニッティングマシンを備えた服飾部門から陶芸(左上)、印刷(左下はさまざまな色の塗料が集められたコーナー、右下はスクリーンプリント・エッチング・リソグラフィーなど技巧を凝らして作成されたロゴ)など何でもある。ポートフォリオを作るため写真専攻以外の学生も撮影をする必要があるので、かなりの数のカメラとレンズが揃えられていた(右上)

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もちろんデジタル・アナログ問わず各種マシンも取り揃えられていて、上の木工用のマシンが集まった部屋の入り口には「ちゃんと事前にオリエンテーションはした?」「ゴーグルは付けた?」などスペースに立ち入る前の安全に関する注意のメッセージが掲示されていた。

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木材やフィラメントなど作品制作に必要な材料などを売っている売店が校内にある。その一角には昆虫食の研究のため、生きた芋虫がケースに入れて売られていた。

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劇場が集まるブロードウェイにあるニューヨーク大学の芸術系の学科が集まるTisch School of the Artsの中にあるITP。そこではArduinoの共同創業者の一人でもあるTom Igoeが准教授を務めている。

ITPは芸術にテクノロジーをどのように活用するかという研究を行う学科(日本の修士課程に当たる)だが、工学のバックグラウンドを持たずに学び始める学生も多く、ここではさまざまな技術を学んで何をしたいのか学生がアイデンティティを形成することをまず考えるとTomは語る。劇場とも近く同じ建物には踊りや音楽や舞台演出などを学ぶ学科があり、ITPで開発した衣装や舞台装置を舞台で試す機会もあったり、テクノロジーを使うとしても表現者を養成する方向に寄っている学科であることがわかる。Tomによると内外では常に何らかのコラボレーションが行われているが、非公式な形での交流がよく行われているという。公式な形でのコミュニケーションを経るよりも、非公式な形の方が結果的に実りがあることが多いのだそうだ。

上の作品はITPの学生、Shir Davidによる作品「Light Scapes」で今回のMaker Faire New Yorkに出展されていた。3Dプリンターで出力した日常的な風景のミニチュア作品。Raspberry Piによってスーパーマリオがディスプレイに映し出されていたり、深夜に冷蔵庫の扉を開けるとそこに明かりがついているといった日常における微妙に寂しさを感じるような瞬間を切り出している。技術を生かすというより、日常のリアリティを出すために3Dプリンターや明かりが効果的に表現の手段として用いられていると言った方がいいかもしれない。

帰る前にトイレを借りると、中ではイスラエルから来たという学生2人組が小便器にプロジェクションしていた。課題のためにトイレで用を足しながら遊べるインベーダーゲームを開発しようと試行錯誤していた。Kinectで首の動きを検出する仕組み。

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MAGNETはICTと同じくニューヨーク大学の一部だが、メディアやゲームデザインについて研究している学科で、ゲームやメディアを専攻している学生も含めて授業を受けることができる。同じフロアにはゲーム制作を専門に研究しているGame Centerも併設されている。通路には古いアーケードゲームが置かれていて、学生が遊んでいた。

ニューヨーク大学は世界大学ランキングにも入る有名な総合大学だが、既にデジタルメディア(MAGNET)やゲーム(Game Center)、コミュニケーション工学(ITP)にそれぞれ特化させて学科を設けている点は興味深い。

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Takが講師を務めるデザイン学校、SVAにはVisible Futures Labというメイカースペースの他、学生が作品制作を行うスペースにキッチンがあり(下)、夜遅くまで作業を行われていることを伺わせる。雲型の照明は電気を点けると稲光とともに雷音が聞こえる(上)

ボルダリングのホールドの難易度をLEDの色で分けて伝える装置。最初からホールドに色を付けなくても、レベルに応じて登るルートを変えることができる。

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Beam Centerはブルックリンの倉庫やスタジオが立ち並ぶ地区にあるメイカースペースだが、ニューヨークの各地区の中高の公立学校で教育プログラムを行っていて、この日もその打ち合わせを行っていた。講師を派遣するのではなく、各学校の教員に講習を行ってコラボレーターとして授業を行えるようにサポートする。以前からものづくりワークショップを行なう子ども向けのサマーキャンプをBeam Centerは行っていて、そこから学校での教育プログラムにつながったという。

ニューヨーク全体でもかなりの数の数の学校があるが、ブルックリン・マンハッタン・クイーンズ・ブロンクス各地域には低所得者が集まる地域もあり、さまざまな社会状況や問題を抱えている。そこで例えば犯罪に巻き込まれていく可能性を考えると「家にいるよりも学校にいさせたほうがいいんだ」と代表のBrianは説明した。そのため学校は単に教育を行なう役割だけでなく、子どもを引きつけるためのさまざまなプログラムを行う場として機能することで社会的にもメリットがある。

この日も学校が終わった後にこのメイカースペースをアフリカ系アメリカ人の女子学生が訪れていて、ニューヨークは多様性を持った都市でさまざまな層と関わる場面が必ずある、彼女はまさしくその一例だよと代表のBrianは熱く語っていた。

前回、幼児教育から高校の教育まで行っている私立の女子校を取り上げたが、あの学校だけでなくマンハッタンの私立校の学費は近年高騰していて、年間3~4万ドル以上と大学の授業料とあまり変わらない。選択肢としてお金がかかってもよい教育を子どもに受けさせる機会があることは悪いことではないが、ニューヨークという都市では貧困や犯罪といったネガティブな要素から子どもたちを遠ざける意味でも、さまざまな生徒が通う無料の公立学校を取り巻く環境を整えることが重要なのだ。

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今回、Nerdy Derbyの2人に教育関係者を中心にニューヨークのメイカーたちを紹介してもらったが、日中アカデミックな方面の人々を取材した後、違うタイプの人々とも知り合いたいと思い、ニューヨーク発祥のウェブサービスMeetupで地元の催しを検索した。ニューヨーク発のサービスだけあって平日の夜でも多くのテクノロジー系のイベントがあったが、運良くEdtech(教育系テクノロジー)コミュニティの月例ミーティングがあったので参加してみた。

ユニオン・スクエア近くのEdtechに特化したコワーキングスペースが会場で、入場料は5ドルほど。安物ではないワインやビール、チーズやハム、フルーツなどが用意され、随分羽振りがいいと少々驚いたが、Edtechに関わる人たちがお互いを紹介したり、ビジネス上のネットワーキングのための場になっていた。

教育系の事業を始めた人やIT系のスキルを持った人が主に集まり、ビジネスパートナーを探している人が多く、「Make:」の取材で日本から来たんですよと声をかけても、驚くほど反応が薄い。「今週末はMaker Faireがありますので、そちらに出展します」と皆に自己紹介する人も何人かいたが、自分のプロジェクトを紹介したいとかメディアで取り上げられたいという目的で来ているわけではないので、ビジネスの機会には直接繋がりそうにない日本から来たジャーナリストには興味をほとんど持たれなかった。

今回、Maker Faireの取材で、まずビジネスとして教育に関わりたい、そしてテクノロジーを活用したいという人々にも多く出会った。他の都市と比べてニューヨークのMaker Faireは教育関係の企業による出展の割合が他の都市のMaker Faireと比べ明らかに多く、教育産業が盛んな地域なことはよくわかった。しかし「最近のニューヨークのMaker Faireは(サンフランシスコの)ベイエリアのように奇妙な乗り物を走行させたりするような自由な雰囲気もないし、会社の販促ばかりで面白くないので今年の出展はとりあえず見送った」という声も地元のメイカー数人から聞かれた。教育を行なう上で教育産業が果たす役割も大きいが、メイカーのためのイベントを行なう上でビジネスに興味が薄い層との折り合いをどうやって付けていくのかという課題も見えた。純粋な趣味のためか売るためかではなく、それらがうまく混ざり合う状態が理想だとは思うのだが。