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2020.01.17

Mini MakerCon Tokyo 2019セッション(1)「未来のメイカーを育てるために」|“面白い” が持つラディカルな価値

Text by Junko Kuboki

Mini MakerCon Tokyo 2019(2019年11月2日開催)では2つのセッションが開催された。セッション(1)は「未来のメイカーを育てるために」と題し、コミュニティを発展させていくために不可欠な、新しいメンバーの育成についてのディスカッションがなされた。未来のメイカーが継続して参加するための方策や工夫、方法について議論は広がった。

このセッションに登壇したのは、Maker Faire Tokyoの名物イベント「ヘボコン」を主催する石川大樹さん(デイリーポータルZ)、「乙女電芸部」で活躍しながら山口情報芸術センター[YCAM]で教育事業やコミュニティ形成の活動を行う今野恵菜さん(山口情報芸術センター[YCAM]/乙女電芸部)、「中学校技術科」として、Maker Faire Tokyoに出展を続ける新村彰英さん(中学校技術科担当教諭)、阿部和広さん(青山学院大学大学院)、久保田晃弘さん(多摩美術大学情報デザイン学科)、城一裕さん(九州大学大学院芸術工学研究院/山口情報芸術センター[YCAM])の6名。まずは、石川さん、今野さん、新村さんの3名からそれぞれのユニークな活動についてのプレゼンテーションがあり、その後、阿部さん、久保田さん、城さんも加わり、Young Maker(学生メイカー)をはじめとするあらゆる年代がメイカーとしてのスキルを身に付けるための方法(主に教育)と、メイカーコミュニティが新しい参加者に開かれたコミュニティであり続けるために必要なことが、さまざまな角度から議論されていった。

小学校の授業になったヘボコン

「デイリーポータルZ」は、Maker Faire Tokyoに2009年から参加している(当時は、Make: Tokyo Meeting)。技術力の低い人が作ったロボットを無理やり戦わせるイベント「ヘボコン」が始まったのが2014年。以来、毎年多くの参加者と観戦者を集める人気の出展となっている。そのヘボコンが小学校のプログラミングの授業になったということで、Maker Faire Tokyo2019の当日にはMake: Classroomにおいて「ヘボコンが小学校の授業になりました」という石川大樹さん(デイリーポータルZ)のプレゼンテーションも実施された。そうした経験から今回、石川さんは実際の活動や子どもたちの反応の実際について発表した。(プレゼンに使用したスライド[PDFPPT])

まず、石川さんは、ヘボコンのポイントは「無理やり戦わせる」ところだと説明。技術力が低い人が作ったロボットはちゃんと動かないので、勝手に転んだり、どこかへ行ったりしてしまう。そもそも動かないことすらある。そんなうまくいかなさを「愛でる」のがヘボコンで、そんなコンセプトはあらゆるコンテストで唯一無二でもある。

ヘボコンにはいくつかルールがあるが、特有のルールとしては「ハイテクノロジーペナルティ」があり、高度な技術を使用するとペナルティを受けてしまうことで、技術力の低さを担保している。このハイテクノロジーを排除する姿勢は、年齢の差、技術力の差、言語能力の差をなくし、参加者の参入障壁を低めている。よってヘボコンは、みんなで楽しめる平和なコンテストになってもいる。

現在、ヘボコンは世界的に開催されていて、25か国で200イベント以上が行われているという。2016年には、東京で「ワールドチャンピオンシップ」も開催された。このように世界各地でヘボコンが熱心に取り組まれている現状と要因について、石川さんは以下の3つのポイントをあげた。

1)メイカーカルチャー:物作りの入り口としてのヘボコン/ローカルメイカーコミュニティの活性化。各地のラボや市民工房といったコミュニティが、イベントとして開催しているという。

2)STEM教育:子どもでも参加可能なエンジニアリングとして採用/科学への興味の入り口。石川さん自身は「おもしろイベントとしてやっているだけ」と語るが、実はここがいちばん需要が大きく、また広がりも出てきているそうだ。

3)ゲームカルチャー、オタクカルチャー:海外のゲーム系イベント・オタク系イベントでの開催。日本発の風変わりなイベントとして、ゲームやオタク関連イベントで開催されていることも多い。

STEM教育に関連して、スペインのある州では14歳の子どもが全員ヘボコンに参加しているそうで、相当に大規模な大会が開かれているとか。そんなヘボコンは、日本の小学校の授業にも取り入れられつつある(これは、本カンファレンスの登壇者でもある阿部和広さんとのコラボレーションプロジェクトでもある)。後半のプレゼンでは、その授業の様子が紹介された。

ヘボコンはふつう、市販のラジコンやタミヤのキットを改造して使うことが多い。学校の授業はプログラミング教育の一環となるため、micro:bitを使用する。micro:bitとサーボモーターを組み合わせて武器(回転したりする攻撃部)を作り、足回り(駆動部)には100円ショップで入手できる電車のおもちゃを使う。これは限られた時間で作るために部品点数を削減するための工夫で、「ヘボコンらしさ、児童の個性を生かすために機体の形や見た目をとにかく作り込んでいけ」という方針にしているという。

授業の構成としては3コマで、1コマ目に阿部先生のmicro:bitとScratchの授業。2コマ目でヘボコンを作り、3コマ目で戦って賞が決まるということになる。1回目に実施した学校では、1コマ目と2コマ目の間に1週間の空きがあり、そのためか待ちかねた一部の子どもは自ら設計図を作りはじめ、中にはできあがりつつあるロボットもあった。そして、そのロボットはmicro:bitを積んでいなかった! 石川さんは部品の使い方の作例を見せつつ製作を指導、micro:bitを積んでいないものはバラして再度組み上げとなった。

およそ1時間くらいで5体のロボットが完成。触手みたいな動きをするもの、ビー玉をばらまくもの……そんなユニークなロボットがいざ対戦すると、正面衝突してスタック。今度は子どもたちがみんなで床を叩き、ヘボコンはトントン相撲のようになってしまった。結果、優勝したロボットは、micro:bitを後付けしたロボットだったのだが、実はそのロボットはタテに大きすぎて自重が重く、一回戦の途中で動作がにぶいのがわかっていた。それで子どもたちは上半分(micro:bitとサーボモーターがある)をもぎ取って捨て去り、決勝で快勝! 「プログラミング教育としては少々困りましたが、これも子どもたちが夢中になって楽しんでやった結果」ということだった。

「SFPC Summer 2019 in Yamaguchi」から得た気づき

山口にある総合文化施設、YCAMには制作チームの「YCAMインターラボ」があり、各ジャンルのアーティスト、研究者、テクノロジストを招聘して一緒にアイデアを練り、制作して作品を公開、世界各地を巡回していくという、作品のサイクルを実現している。今野恵菜(山口情報芸術センター[YCAM]/乙女電芸部)さんも、インターラボの一員。インターラボは、作品づくりと同様に教育事業、コミュニティ形成にも力を入れていて、アートセンターならではの学びの場の作り方に取り組んでいる。それは、作品制作を通じてつちかった技術をワークショップ形式でシェアしたり、知識を共有する中で生まれるハッキング的な授業や物作りコミュニティ形成の授業を実施したりといったことだ。今野さんはそれら活動の一環として、今年9月に行われたワークショップ「SFPC Summer 2019 in Yamaguchi」を紹介した。(プレゼンに使用したスライド

SFPCは「School for Poetic Computation(詩的なコンピュテーションの学校)」といい、ニューヨークにあるアート表現のためのオルタナティブスクール。一見奇妙な名称だけれど、テクノロジーを利便性や効率優先ではなく、いかに一人ひとりの自己表現のツールとしてポエティックに使いこなすかを追求、教え広めることを目標としている。ワークショップでは、創立者のひとりのチェ・テユンさんほか5名の講師を招いた。その中での授業が具体的に解説された。

1)Handmade Computer:実際に手を動かすことを通じてコンピューターの仕組みを学ぶ。電流、トランジスタ、CPUの順に勉強していき、最終的にはペーパーサーキットでNAND回路を作る流れ。

2)Playing The World:ゲームデザインの基礎を学びながら、ルールの持つ身の回りの社会を見つめる力について考える。実際に簡単なゲームをやり、その結果がどのくらい複雑になるかを体験。

このように授業は、テクノロジーのプリミティブなところを各人が五感を通じて腑に落ちるまで理解する。そのことによってテクノロジーが真に自分のツールとなる、ということだ(ワークショップの詳しい内容はmakezine.jpにレポート記事#1#2がある)。

このワークショップ、これまでの今野さんのYCAMでの体験から、今野さんの考える「未来のメイカーを育てるために」必要な論点が3つ、提案された。

次のあるコミュニティのあり方:SFPCは、入学者の選考基準に「この人は誰かの教育者になりうるか」という項目がある。それは公的な資格などの問題ではなく、その人自身に得た知識や経験をシェアするモチベーションがあるかどうか、そんなシェアができるコミュニティの近くにいるかどうかが判断基準になるという。実際彼らはこの視点で先生の育成を続け、講師やTAもほぼ卒業生。「どんどん裾野を広げながら本体にも新しい視点を取り込んでいくというサイクルを作ることは、コミュニティを継続、拡大していくためには重要なことだと思います」と今野さん。

責任と責任がもたらす自由:SFPCの活動を語るうえで、大切なのが「責任と責任がもたらす自由」。まず彼らは必ず、授業を始める前に「Code of Conduct(ルール・オブ・コンダクト)」を共有する。これは日本語では「行動規範」になるのだが、「場が心許せるところになるためには特に重要なことだ」として例を紹介してくれた。

・All abilities, backgrounds are not questioned.(いかなる能力もバックグラウンドも条件に入っていない)
・Speak my mind, honest.(素直に自分の気持ちを話せる)
・No sexism, racism, ableism.(性差別、人種差別、障害者差別は禁止)
・Physically and emotionally safe.(肉体的にも精神的にも安全)
・Appreciating diversity and ESL (English as Second Language).(多様性と第二言語としての英語を歓迎する)

今野さんは、「とても常識的なことばかり。けれど、言葉にすることでこのようなマインドセットが生徒側も主催者側も改めて実感できます。例えば、技術的な知識の差、言語の知識量の差といった些細なことから壁は簡単に生まれるものです。違いを見つめて尊重し合うことは本来とても難しいんですね。だからこそ共有して努力することが必要なのだと思います」と解説した。

ダイバーシティ:今回のワークショップへの参加者は20名ほどだった。SFPCとYCAMは、可能なかぎり性別や職業、国籍といったバックグラウンドが偏らないように参加者を選考したという。「厳しい基準を設けることで、広く多様な人にチャンスが行き渡るようにしているんです。それを目の当たりにした今回、平均化してしまうような選考は、今の時代にはナンセンスなのではないか、と感じました」。人的な裾野の広げ方、ルールの作り方、チャンスを広げるダイバーシティな選考の3点が、今野さんからの提案だった。

若いメイカーを育てたい教育現場から

「中学校技術科」という出展者名で、Maker Faire Tokyoに出展を続けている新村彰英さん(中学校技術科)は、長年にわたって公立中学で技術科を担当してきた。技術科は現在、家庭科といっしょにまとめられ「技術・家庭」という義務教育の必修科目になっている。しかしこの科目は、文科省の学習指導要領改訂のたびに削減され、技術科の授業数は中学1・2年で週に1コマ、中学3年で2週に1コマだ(昭和には週3コマ以上あった)。小学校では「工作」、高校では「情報」の科目になり、「技術」は中学校にしかない。また、技術科は専任教員も減るばかり。「物作り教育への理解のなさに閉塞感を抱くばかりだった」と語る新村さん。(プレゼンに使用したスライド

新村さんがMaker Faire Tokyoに出展するきっかけは、2010年だった(当時は、Make: Tokyo Meeting)。会場を訪れたところ、メイカーたちの熱気と会場の活気に驚き、「こんな世界があったのか」と思う。そして、「教育者だけで交流していてはいけない、直接社会と繋がることが大切なんだ。自分たちも物作りをする人間の端くれとして、Maker Faire Tokyoに参加して、自分たちの物作りを一般の人にアピールしていきたい、交流していきたい」と考えた。そんな新村さんの実際の体験から、「学校教育とものづくり」について次のような発表がされた。

1)広がるものづくりのネットワーク:Maker Faire Tokyo2012から「中学校技術科」で自分のものづくりを紹介するようになった。仲間の先生方の自作教材も紹介するようにした。当時新村さんは「ロボコン部」の顧問もやっていたので、生徒たちを引率、生徒の製作物や作品を紹介しながら、見学者に説明をしたり、希望者にハンズオンで体験してもらうようにもなった。部活動のロボコンにはロボコンの大会があり、地域での活動などもあるが、「中学生がMaker Faireに参加することの教育的価値は、社会的な認知を受けることが最大だ」と新村さんは言う。「自分の作品を一般の人に説明するために、呼び込むわけですね。中学生が知らない人に声をかけて話をして体験してもらうというのは、けっこうなハードルです。しかし、その活動を通じて自分たちの物作りにも勇気をもらえます。また、興味のあるブースをまわって質問をしたり、メイカーの心意気やアイデアに触れて刺激をもらえたり。次の自己実現としての物作りにプラスになっていきます」

2)中学校での物作り:中学校の技術科は現在、「材料と加工」「生物育成」「エネルギー変換」「情報」の4分野で構成されている。ここで作るモノについては、多くの先生方が教材業者が提供する教材キットを使っている。「指導時間が短いため、どうしてもプラモデル的なキットを使っての授業になってしまう」という。新村さんの授業では、「材料と加工」では立体パズル、「エネルギー変換」と「情報」では自動お掃除ロボットといった材料から作っていくオリジナルの教材を使う。新村さんはここで、教材と授業時間数の問題よりも、人材の問題に言及していった。「実は、免許外教科担任(免外)制度があり、技術科の免許を持っていなくても他教科の先生が教えることができるんです。全国で22パーセント学校に技術科専任の先生がおらず、体育や数学や理科の先生が教えているという実態があります。また、技術科の教員免許を取得できる大学も少なくなっていて、なり手がいなくなっているのも現状。東京都だけは免外が認められていなくて専任だけなのですが、それでも時間講師で補うケースが増えています」

3)物作りの環境:いま子どもたちに新製品を見せると、経済的な価値観を重視して「いくらなの?」と聞いてくるのが一般的だという。新村さんは、「どう使うの?」「どんな仕組みなの?」という質問するような生徒を育てていきたいと考えている。「技術的なモノの価値観を高めていくには、やはり作るしかない。作ることに限定しないで、モノを配置する/整理するということも物作りの範疇に入れてもよいのではないか。かつて技術科の中でもプログラムは物作りなのかという議論もありました。僕は、配列や順番を整理するのも物作りだと思う。ただし、工具が使えた方が物作りはより高められます。すぐにいじれる、分解できる環境が身近なところにあるのが理想です」。ほかに、本やネットの情報、Maker Faireのようなイベントやコミュニティなどのいろいろな人と交流しながら作る環境も次世代メイカーを育てるために重要だと、新村さんは語った。

最後に新村さんは、学校での物作りを下支えしてもらうため、人的・モノ的なヒントを提示した。人的には、外部の方の参入が必要で求められている。管理職や担当教諭の了解があれば教室に入れ、部活動の指導員としても参加できる。研修会なども開催されているという。モノ的には、教材作成にメイカーたちの協力があるとよいということだ。一般的な市販教材は1個2,500円ほどで、必要としている生徒は全国に300万人いる。「アイデアや企画を出し合えるプレゼンやコンペがMaker Faireでできたらいい」という提案もあった。

Maker Faire Tokyoの出展者でありながら、それぞれの立場でコミュニティ形成と未来メイカー育成に携わる3名のプレゼンテーションを受けて、阿部さん、久保田さん、城さんが、個々の意見を述べながらテーマをさらに深めていった。

社会的意義よりも純粋な「楽しさ」を広げたい

3者のプレゼンテーションを受けて、阿部和広さん(青山学院大学大学院)が語った。「先ほどのプレゼン3つの共通点は、『楽しい』ということだと思います。子どもたちは小さなころ、純粋に物作りが楽しいと思うもの。積み木を前に遊ばない子どもはいません。必ず何かを作ろうとします。学齢に達するとだんだんと目的が出てきて、例えば自由研究でもそこには枷(かせ)があります。これは決して批判ではないのですが、最近はコンテストがよく開催されていますね。ただ、コンテストとなると、賞を得るための必勝法のようなものが出てきてしまう。野球の甲子園のようなモチベーションが必要になってきて、どんどん自由はなくなっていきます。どういう意味があるのか、どういう理由があるのか、どんな社会的な意義があるのか、そういうことがどんどん問われるようになっていってしまうんですね」

「Maker Faireの参加者には、『社会的意義は~』などと言う人はあまりいないように感じています。自分が『楽しいから』参加するんですよね。私は、その『楽しいから』を広げていきたいと考えます。その際に必要なのは、新村さんが言うように、学校まかせではなく外部の人材を取り込むこと。また、そうなると先生方が取り残されていく危惧も出てきます。現在、プログラミング教育をきっかけに、小学校を学級担任制から教科担任制に変えるべきだという論議も出てきています。そうした現場の話では、石川さんプレゼンのヘボコン授業はその後、先生方にもヘボコンをやってもらう試みをしています。実際にヘボコンを作って戦ってみると、先生方もすごく楽しい。その研修では、『実際にやってみたらこうした授業の必要性がよくわかった』という感想をもらえました。こんな意識改革が必要なんだと思います。『子どもにやらせる』『子どもを育てる』ではなく、自分たち自身も境目のないところで一緒にやっていく必要があると思っています」

メイカーのルール・オブ・コンダクトの必要性

阿部さんの発言を受けて、久保田晃弘さん(多摩美術大学 情報デザイン学科)はこう語る。「このセッションは、未来のメイカーを育てるための議論をすることなのですが、もちろんそこには学校や教育も含まれます。しかし、それではいかにも範囲が広いようです。Maker Faireの根本にあるメイカー、『メイカーとは何か』を考える必要があるように私は思えてきました。メイカー=作る人ではあるのですが、『作る人』だけではない、言外の意味が重要なのではないでしょうか。そのアマチュアリズムについて、もう一度考えてみる必要があると思います。また、冒頭の主催者側の話にあった個人であることの意味、裾野を広げることの意味、そこを考える出発点のひとつには、メイカーとは何であるのかを考えることがあるようです。そのうえで、どう価値を転換していくのか、つまりマジョリティの価値をどう変えていくのかを考えなければならないでしょう」

「ヘボコンが面白いのは、戦いなのに戦いではないところなんですね。資本主義で市場主義である現在の社会は、闘争や勝ち負けを重視します。戦いのメタファーとしては合理性や有用性があるのですが、そこに依拠しない場を社会にどう作っていくのかということと、メイカーを育てるということは密接に結び付いているようです。あえて今日の話につなげるなら、それをマジョリティのためのシステムである学校ができるかどうかということです。不可避である成績や点数を付けるシステムからいかに飛び出すかは、非常に大きな問題です」

「プロなアマチュアもいるわけで、アマチュアリズムの反対側にあるのがプロフェッショナルでもないことも強調したいですね。アマチュアであることをベースに育てるシステムや教育はどうあるべきなのでしょうか。大事なことは、『できないことができるようになる』のは人間にとっての根源的な喜びであることです。ただし、現在の多くの技術は『できることをやらなくてすむ』ことを推奨しています。できないことができるようになる素朴な喜びを、どこかでどうにか担保していく必要があるようです。スポーツのようにルールを決めてその中で優劣を競うのは、もちろん違うでしょう。また、micro:bitを取ってしまったからといってルール違反にはならないというように、やりながらルールを変えたり作ったりする場は案外少ないのではないでしょうか」

「SFPCのCode of Conduct(ルール・オブ・コンダクト)は、行動規範として重要だと思います。こうしたものをさらに拡張する必要があるのかもしれません。僕は、メイカーというものをよりクリアに、社会の中で浮かび上がらせていくためのルール・オブ・コンダクトをぜひ決めていきたい。学校というのは、自分が得たものを伝えていく場ではなく、自分が学んでいる姿を人に見せていく場だと僕は思っています。技術がありがたいのは、常に進化していくために常に学ばないといけないところですし、人に力を与えてくれるのは社会に認めてもらうことです。Maker Faireはお祭りでハレの場であって、ハレとケの両方の場を作っていくことも必要になるでしょう。その際、お互いに情報共有することも大切で、そうしたメイカーの姿を行動規範としてまとめていけないかと思っています」

Makeに内在するラディカルさ

最後に語ったのは、城一裕さん(九州大学大学院芸術工学研究院/山口情報芸術センター[YCAM])。「阿部さんのいう『楽しさ』にはとても共感しています。楽しさにもいろいろありますが、そのうちでもMakeからの楽しさ、教育からの楽しさ、これはとてもラディカルなのではないでしょうか。それは、『勝ち負けではない価値観』などと言葉でさらりと表現できるのかもしれません。しかし、われわれがいま生きている世の中はそうではないことがほとんどです。教育現場、私が所属している大学でも勝ち負けや数値に紐付くものがよいとされる方向にあります。先のプレゼンは、全然違う立場の方がそれぞれにある種の価値観があり、ラディカルさが共通していること、そこにとても興味を感じました」

「もともとMakeは、歴史的な文脈があるからすごい、こういう積み上げがあるからすごい、というような価値判断からは離れているんですよね。『昔すごかったかもしれないけれど、面白くないよね』となったモノはまったくダメで、面白いモノが愛でられます。以前、Maker Faireを見学した友人の作曲家が、『こういう価値判断が一般的になってしまったら僕らの仕事はお手上げだ』と言っていたのを思い出しました。アカデミックなところから見ればMakeの価値観がマジョリティになったら大学の価値なども凋落するわけで、Makeには価値観を根本から変革するようなラディカルさがあるのだと思います」

未来のメイカーを育てていく事例から見えてきたのは、Makeの行為そのものに内在する「楽しさ」であり、それはラディカルなものではないか、ということだった。また、その内在する魅力やコンセプトを明確にするためには、メイカーの行動規範のようなものを明らかにしていく必要があるかもしれない。このセッション(1)の議論や提言は、ライトニングトークを挟んで、セッション(2)で拡張され、さらに深められていった。