Electronics

2017.12.19

Scratchと現実世界を音でつなぐ「いぬボード」は現在の日本の学校でも導入が容易な入出力拡張ボード

Text by Noriko Matsushita

STEM教育では、プログラミングとハードウェアを組み合わせた、フィジカルコンピューティングの中で学ぶことが提唱されている。いぬボードは、子ども向けプログラミング環境Scratchでフィジカルコンピューティングを行うための入出力拡張ボードだ。NHKのEテレで放送中の「Why!?プログラミング」に登場した「ワンだふぉー」というハードウェアの製品版で、価格は1,944円。ほかにUSBケーブルとオーディオケーブル×2がセットになった「いぬボードキット」(2,700円)、ケーブル類とミニブレッドボード、LED×2、ジャンパーケーブル×2付きの「いぬボードをはじめようキット」(3,200円)の3製品がスイッチサイエンスより発売中だ。

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「いぬボードをはじめようキット」は、NHK「Why!?プログラミング」で紹介された、暗くなるとLEDが点灯するプログラムで使うパーツ一式がセットになっている

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番組で紹介された「ワンだふぉーの頭の中」のプログラム

学校の教室事情に合わせた、導入しやすい設計

Scratch 2.0用の拡張ボードとしては、Arduino互換ボードのPicoBoardnecoboard2があるが、いずれもセンサーの値をScratchへ送る入力用ボードで、出力には対応していない。ScratchでコントロールできるレゴWeDo 1.0/2.0は使いやすいが、約3万円と高価だ。ちっちゃいものくらぶが販売する「なのぼ~ど AG」や海外製品で安価なものもあるが、複数のファイルをインストールするといった準備が必要で、動作にもくせがあるため、時間やPC環境の制約がある授業への導入はハードルが高かった。いぬボードは、学校の授業での限られた時間や古いPC環境でも使えることを前提に開発されており、機能拡張の追加なしに、いぬボードとPCのヘッドホンとマイク端子をPCとケーブルでつなぐだけですぐに使えるのが特徴だ。

いぬボードには、明るさセンサーとアナログ入力端子、アナログ出力端子が搭載されており、PCの音声信号とアナログ入出力信号とを変換してScratchとやりとりをする。

マイクロUSBコネクタを搭載しているが、こちらは電源供給用で、Scratchとのやりとりには音声入出力を使う。教室のPCにUSBポートがなければ、スマホ用の電源アダプタなどを使えばOKだ。また、Scratchのオフラインエディタを使えば、インターネット環境のない教室でも使用可能だ。

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基板にはヘッドホンとマイクのアイコンがプリントされており、わかりやすい

音の大きさでコントロール

もともとScratchには、音の入出力を扱うブロックがあり、PCのマイクが受信した音の大きさは、Scratchの「調べる」カテゴリにある「音量」ブロックで取得し、音声の出力は、「音」ブロックを使う。いぬボードでは、これらのブロックで入出力端子をコントロールするので拡張機能なしにプログラミングできるのだ。PCから出力される音のボリュームが大小すると、アナログ信号の出力も大小する。例えば、出力端子にLEDをつなぎ、Scratchで音を再生するとLEDが点灯、音を停止すると消灯し、音のボリュームによって、LEDの明るさが変化する。また、明るさセンサーからマイク端子が受け取る値を変数として、さまざまな動きを制御できる。

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「いぬボードをはじめようキット」で、明るさに応じたLEDの点灯/点滅を試せる。

なお、一般的なアナログ出力ポートは数十から数百mAの電流が流せるので、LEDを安全に点灯させるには抵抗が必要だ。初めて使う小学生が誤ってLEDを壊さないように、あらかじめ基板には330Ωの抵抗が組み込まれている。そのため、抵抗を使わず、直接、出力端子にLEDをつないで点灯実験ができる。

なお、サーボモーターなどを動かすには出力が足りないが、基板のSJ2をショートさせれば抵抗を解除できる。また、明るさセンサー以外にも温度センサーなどを入力端子に接続して使うことも可能だ。

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出力端子側のSJ2をハンダでショートさせると、抵抗が無効になる

現実世界のものが動くのは、楽しい

筆者は、12月の頭に長野県富士見町の「森のオフィス」で、小学生を対象とした、光るクリスマスツリーの工作ワークショップを開催した。普段はScratchプログラミングに親しんでいる子どもたちだが、電子工作は初めての体験だ。電池やスイッチ、抵抗をつなぐだけのささやかな内容だが、LEDが点灯した瞬間、歓声が上がった。さらに、完成したツリーのLEDにいぬボードをつなぎ、Scratchで明るさによる点灯/消灯、音の出力による点滅させるデモをしたところ、いぬボードへの質問が殺到した。普段、PCの中で遊んでいるScratchで、現実にモノが動かせることに、強い興味が沸いたようだ。

小学生向けのSTEM教材としては、micro:bitという選択肢もあるが、すでにScratchコミュニティで世界の仲間とプロジェクトを共有しているならPicoBoardやnekoboard2などのセンサーボードと、いぬボードを使って、手軽にフィジカルコンピューティングをはじめてみてはいかがだろうか。

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電子工作とクラフト、Scratchを組み合わせたLEDミニツリー